【エピローグ】そうしてふたりは
「……同い年の、幼馴染みになる筈だったんじゃないのかよ」
幼い少年が不貞腐れる。
話している内容と不似合いなどこか舌っ足らずな声に、傍にいた少女が、少年の艶やかな髪を撫でた。
「わーらーうーなーっ! くそっ」
カンカンになって怒ってみせる少年は、けれども決して少女の手を払おうとはしなかった。
それをいいことに、いつまでも笑って撫でている少女は、少年に比べて少し……いや、かなり歳上だ。十は違うだろう。
なだめるように少年を諭した。
「悠久の時を生きる女神さまにとっては、きっと、十一年くらいは誤差の範囲なのよ」
そう笑う少女の髪は、豪奢な黄金色の髪ではない。
平凡なブルネット。濃い焦げ茶の髪だ。魔法も使えない。
けれど、誰よりも幸せそうに笑っていた。
「いいじゃない。六十、七十超えたらさ、きっと誤差の範囲だよ」
少年には前世の記憶があり、最後を迎えたのは齢五十八であった。
それよりも長く、ずっと傍にいられるなら、大した問題ではない気もする。
よし、と気合を入れて、少年がそれを宣言した。
「六十、か。いいね。僕、その歳になっても、ずっと一緒にいたいな」
それを聞いていた少女が少し笑って、少年の顔を覗き込んだ。
「……居てくれないかもしれないの?」
「ずっと一緒! 絶対の約束だ」
「お花も。見に連れて行ってくれるんでしょう?」
「あぁ! 同じ花はないかもしれないけれど、その代わりいろんな花を探しに行こう。一緒に旅もしてみたかったんだ。いろんな処へ、一緒に行こう」
六十近くまで生きた記憶を持っている割に、その誓いの言葉は幼かった。
けれどもそこに籠められた誓いは本物だ。
勿論、その約束は守られた。
ふたりはその生涯を、最後の一瞬まで、ずっと仲良く暮らし続けた。




