屑勇者を片付けるお仕事。マリリアは今日も忙しい。
「待てよ。」
「嫌っ。離してくださいっ。」
「いいじゃねぇか。俺は勇者だ。勇者アイイールに抱かれるなんて、なんてお前は幸せなんだ。だから、俺に抱かれろ。」
口説かれていた女性は勇者の整ったその顔を思いっきり拳で殴りつけた。
真正面から、拳を受けた勇者は顔面から血を流し、吹っ飛んでいく。
どべしゃっ。
地に顔から激突すれども、さすが勇者、鼻血を出しながらも身を起こして。
「勇者たる俺様を殴りつけるとは、お前、どの面下げてっ。許せん許せん許せん。ぶっ殺してくれるわ。」
「炎の精霊たちよ。我が手に集い、その力を貸してっ。業火―。」
その女性の手から、灼熱の炎が噴き出した。
勇者を火だるまにする。
「ふぎゃー――――ttylelroeっ」
チリチリ頭になりながらも、やけど一つないのはさすが勇者。
しかしそのままぱたっと地に倒れ伏した。
それにしても、何故、私が女神様の後始末をせにゃあかんのだ?
地に倒れている勇者を特殊な縄で縛りあげて、牢獄へ放り込む。
女神様は魔王の脅威に対して、勇者という対抗馬を用意した。
しかし、女神様は用心深かった。聖剣を増産し、勇者も大勢の人を任命し、人ならぬ力を与えた。勇者のうちの一人でも、いや、なんだったら協力して、巨大な魔王を倒してほしかったのだ。
女神様は各国の教会にお告げをした。
勇者が現れて必ず魔王を倒すでしょう。
女神様は自分がやみくもに選んだ男たちにお告げをした。
貴方たちは勇者なのです。魔王を倒しましょう。
男達は、物語に聞く絶大なる力を持つ勇者は自分だと、岩に刺さった聖剣を各々が抜き、
魔王討伐…には向かわず、皆が皆、自分の村にいる女達に襲い掛かり、気に入った女を自分の女にし、ハーレムパーティなるものを、皆が皆、作った。
王国から出た魔王討伐の援助金を使って、女たちと共に豪遊し、ちっとも魔王討伐へ行かなかった。
女神様の勇者を選ぶ選択が間違っていたのか。
女好きの屑勇者ばかりが大勢現れて、魔物よりも、各町で悪事を働き、勇者といれば、悪名の方が有名になった。
牢へ入れた屑勇者を開放してほしいと、ハーレムパーティの女たちが苦情に訪れる。
「アイイール様は勇者なのです。勇者を牢から出して頂戴。」
そう言うのは屑勇者と共にいる聖女だ。胸ばかりが大きい。
「そうですう。私の好きな勇者様を牢から出してぇ。」
悪魔的な可愛さを持つ少女は魔法使い。
「勇者を出さなければ、お前を叩き切る。」
ムキムキで逞しい(男)は戦士である。あれ?何故に男が?
勇者は皆、ハーレムパーティを組む時、周りは褥の相手をする女性達しか選ばない。
しかし、逞しいその男はまじな顔で。
「勇者殿を牢から出してほしい。それがしは勇者殿の事を。ぽっ。」
ここに変態いたっー――。いや、普通にナシでしょ。ナシ。
戦士である男は、ぼそっと耳元でささやいてくる。
「実は私は辺境騎士団所属のゴリアスという者でござる。騎士団長の命で、見目麗しい屑を探して、こうして潜入をっ。」
辺境騎士団もついに、待ちきれずに潜入をするようになったのかと、頭が痛くなる。
辺境騎士団。そこは男性を愛する変態騎士たちの集団の集まりだ。
彼らは屑の高位貴族の男性を好み、彼らを愛をもって更生する為に活動しているとは聞いてはいるが。(あくまでも噂)
普通はざまぁされた王族や高位貴族の屑を引き取り、更生させるはずだが…ついに待ちきれずに潜入を。
話が逸れた。思考が逸れた。
そして自己紹介が遅れた。
私は女神様の後始末を頼まれた女神様の補佐官、マリリア。
こうして屑勇者をとっ捕まえて、牢に入れ、女神様が与えた人ならぬ力と聖剣を回収する仕事をしているのである。
って、女神様っー――。私、とても忙しいんですけどー-。
勇者を開放してほしいと言ってきた3人に向かって、
「一週間後には牢から解放致します。それまでは出すことは出来ません。」
聖女が胸をゆさゆさと揺らして、
「どうしてぇ。どうしてそんな酷いことをっ。」
魔法使いも頬をぷうううううっと膨らませて、
「アイイール様を出してくれなければ、イヤイヤ。」
戦士ゴリアスはぼそっと、
「一週間。その間にもしや…」
マリリアは両腕を組みながら、
「勇者の力を無効化致します。そしたら解放します。」
聖女と魔法使いが真っ青になり、聖女が髪と胸を振り乱し、
「わたくし達はアイイール様と魔王を倒す旅の途中なのです。それなのに。」
魔法使いも、ぷうううっと頬を膨らませて、
「魔王を倒す為には勇者様が必要なのですう。」
マリリアは二人を睨みつけて、
「この場所って、魔王城からかなー-り離れておりますが。この歩みで行きますと、魔王城に着くのは10年後ではないかと。」
聖女がおほほほと胸を揺らしながら笑って、
「それはその…ほら、レベルをあげないと、魔王は倒れないでしょ。」
魔法使いも首をぶんぶんと縦に振って頷いて、
「そうそう、まさにその通りですう。私たちはレベル上げをっ。」
マリリアは勇者アイイールに対する蝙蝠たちに集めさせた報告書を見ながら、
「魔王城に向かっているのではなく、離れていっているみたいですが。」
聖女がマリリアの胸倉を掴んできた。
谷間が…聖女の谷間がっ。悔しい。自分は洗濯板だ。
「ともかく、アイイール様を返して。」
魔法使いも顔を近づけてきた。
くそー。この魔法使い。男受けする小悪魔系の可愛さ。かなりうらやましい。
「そうよ。アイイール様を返しなさいよ。」
しかし、戦士ゴリアスはぼそっと、
「そちらの都合もあるでしょう。よろしい。一週間後に、引き渡していただけるのでしょうな。」
聖女と魔法使いが悲鳴を上げる。
勇者でなくなるアイイール。
戦士ゴリアスはマリリアに小声で。
「私があの二人より先に引き取りに参ります。」
「解りましたわ。では一週間後の朝8時に引き取りを。」
そしてうるさい二人の女達には、
「一週間後の朝10時に開放します。改めてお越しを。」
そう言って二人を追い払った。
どっと疲れた。だが、一週間後の朝8時に元勇者アイイールは辺境騎士団へ連れていかれるだろう。そこで、真の愛の教育を受けること間違いなし。
そこで内股になろうとも、女の子みたいに可愛らしくなろうとも、自分には関係ない。
女神様が増産した屑勇者が減れば自分の任務の一つは完了するのだ。
マリリアは次なる屑勇者の居場所を、探すために水晶を手に仕事に戻るのであった。