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そんなことよりカレーが食べたい。  作者: すけさん
第二章 黒×赤 / ブラックペッパー&レッドペッパー
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 スパイス解説:赤唐辛子/レッドペッパー

皆さんは、トウガラシという辛味の王様のようなスパイスが、実はここ4、500年の間に急速に広まった新種のスパイスであることをどれだけ認識できているろうか。

例えば中国に唐辛子が広まったのは17世紀ごろと言われているし、インドに唐辛子がやってきたのも16世紀ごろ、ヨーロッパだって一度はコロンブスが1490年に持ち込んでいるのに流行らなくて、その後ポルトガル人が再発見して16世紀に流行ったのだ。

だから我々が盲目的に「カレーは辛い」だとか「四川料理は辛い」だとか言っているのは実はほんの数百年の最近の流行りなのである。


スパイス料理の主役みたいなえらそうな味をしていながら、奴らは料理界の新参者に過ぎないのである。


では唐辛子以前の世界では、何をもって辛味を演出していたのだろうか?

そこで私は、大量のブラックペッパーだけを使ってカレーの辛味にしてみたことがある。

唐辛子のカプサイシンに対し、黒コショウのピペリンは成分としては別物なのだが、同じように痛覚に反応する成分なので不思議と似たような「辛味」を感じることが出来る。

ブラックペッパーカレーはちゃんと辛かったですよ!


インドに関する研究資料を確認する限り、レッドペッパー以前のインド料理は実際にブラックペッパーで辛味を演出していたようである。

もともとコショウはインド原産なので、インド料理はドバドバとコショウをぶち込んですごく辛い味付けにしていたそうだ。

なので、作中で佳奈ちゃんが食べていたブラックペッパーカレーは、唐辛子伝播以前のインドでは標準の味だったと考えられる。

唐辛子ではなく黒胡椒でもからーい料理は作れるのである。


とは言えカプサイシンに比べてピペリンは加熱処理に弱いように感じた。

煮込み過ぎるとあっという間に辛味が飛んでしまうのだ。だから料理の始めにテンパリング(最初に敷いた油にスパイスを加え、辛味を移す作業)をしてしまうと、完成したころにはあのピリピリした辛味はどっかへ消えてしまうのである。

だから黒故障で辛味を残そうと思ったら、ガラムマサラ的に最後にパラパラっと大量に振りかけるような使い方が合っているように思える。

(そもそも500年前のインドのガラムマサラは黒胡椒がベースだったのではないだろうかとも思いますが、すみません詳しく調べてないので分からないです)。

他にも加熱料理に使える辛み成分って他になく、例えばマスタードやショウガなどは黒コショウ以上にあっという間に加熱で辛味が飛んでしまう。


もちろんレッドペッパーのカプサイシンも加熱しすぎると最終的には辛味が消えてしまうのだが、それでもアツアツグラグラに煮詰めたカレーが、食べるとちゃんと「辛い!」となるのは唐辛子のすごさだと思う。最初に入れて最後まで辛い、むろん途中で追加してさらに辛くすることもできる、これぞレッドペッパーの優れた特徴なのだ。


この、「熱に強い辛味」というのがレッドペッパーを世界に流行らせた最大の強みなんだろうと私は考えている。

アツアツの辛味料理には不思議な魔力と中毒性があり、ひとたびこれにハマってしまうと、それしか食べられなくなる人間が続出するのである。

だからこそ、もともと胡椒が原産で大量に使えるだけの立場にあったインドにおいても、あっという間に唐辛子がその地位を奪っていったのだろう。

たった500年で世界の香辛料事情を大幅に塗り替えた悪魔のスパイス、それが唐辛子なのだ。


異世界においてもひとたび唐辛子が流通してしまえば、全世界で大々的に流行りまくると思う。それで土着の料理が全部唐辛子にまみれて全然違う味へと強制的につくり変えられてしまうと思う。

韓国や中国、タイなどのアジア各国、ハリッサがもてはやされる中東地域、あるいは唐辛子の本場であるメキシコやチリなどの中南米各国など、奴らに文化汚染された被害者は枚挙にいとまもない。あの辛さにやられて各地の郷土料理の本質そのものが別のものへと変容してしまう。こいつのせいであらゆる料理が辛味一辺倒の下品な味に強制転化させられる。

ある意味スパイス界の特定外来種とも言える存在。


当然異世界においても、ひとたび流行ればあっという間に世界の料理事情を塗り替える事になるでしょう。


本作品はエルフが長く独占していたのはむしろ世界にとっては幸せな事だったかもしれない。物語の進行上、浩二が世に解き放ってしまったので、恐らく本世界では100年もしないうちに世界中がレッドペッパーに汚染されてしまうものと推測されます。



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