6話
―栗原美晴―
1塁ベースを踏み忘れたせいで、悲しくもカブトムシの姿となりこの世界に転移してしまった本作ヒロインの栗原美晴。
現在彼女は体長30cm程の大型カブトムシとなっており、恐らく攻撃力を残してくれたのか美晴が女性であるにもかかわらず角が付いている。
で、角にはこのカブトムシと適正な大きさとなっている15cm程の長さに縮んだハリセンが括り付けられていた。
彼女はこの世界に転移して早々、冒険者達に追い回され逃げまわった結果、現在は草原エリアから森の入り口付近に到達していた。
何組目か分からない冒険者から逃げ切ってすぐ、英雄に一か八か適当に思いついた念話を試み彼に救難を求めた後すぐさま別の冒険者グループに見付かり追い回せレ邸るのであった。
「待ちやがれ! お前は冒険者ギルドで高値で売れるんだ!」
男冒険者一人が叫ぶ。
皮製の鎧を身にまとい、腰に剣を携えている事からファイターであろう。
「そうだ! 珍しい小型魔物は俺達弱小冒険者の収入源なんだ! 大人しくつかまれ!」
同じく皮製であるが急所だけを守り軽量化させた鎧を身にまとい腰に短剣を携える男レンジャーが叫ぶ。
カブトムシとなった美晴に対し、初めてではなく珍しいと言った手前同様のカブトムシがこの世界に舞い込んでいる事が伺える。
もしかしなくても、彼女の様に着ぐるみ天使を外野席までかっ飛ばし、1塁ベースを踏み忘れた結果カブトムシの姿となり転生した人間が何人もいるのだろう。
「そうよそうよ! 私達の生活を楽にさせなさいよ!」
杖を持ち、魔術士のローブを身にまとう女魔術士が炎の初級魔法を美晴向け放つ。
周囲に樹々が群生しているにもかかわらず、自分が放つ魔法のせいで火事になる可能性を考える事無く随分と自分勝手な攻撃を仕掛ける。
彼女の放った魔法は美晴を捕えたかと思ったが、角に括り付けているハリセンが彼女の身を守り彼女は無傷で済んだ。
自分の身が無事だったことに対し安堵した美晴は森の奥へ逃げようとする。
が、それを見た男戦士が進路を塞ぐ様に回り込む。
美晴は一旦後方へ下がろうとするが、それを見越し男盗賊が待ち構えていた。
ならば上空へと飛翔を試みるが、女ウィザードがそれを阻止せんと炎の魔法を連射。
ハリセンのお陰で直撃は免れるが、熱い事に変わりは無く失速し高度を落とす。
「はっはっは、よくやった女ウィザード、後は俺達に任せろ」
男ファイターと男レンジャーが美晴の落下点目掛け腕を伸ばす。
このままでは美晴が捕獲されてしまう、そう思った刹那、美晴の近くに蒼い光が集まりだす。
その1秒後、転移魔法を使いこの場に到達した英雄が現れた。
だが……。
ドカッ! バキッ!
カブトムシとなった美晴を捕まえようとし伸ばした男戦士と男盗賊の拳を左頬と右頬に対しモロに受けてしまう。
「あんだ、てめぇ! 俺達の邪増すんじゃねぇ!!!」
突然の事故と言えばそうなるのであるが、英雄の頬を殴った事実があるにも関わらず暴言を吐く男ファイター。
お世辞にも性格が良いとは言えない。
「このメガネ弱そうじゃん? けっけっけ、こいつの持ち物奪っちゃおうぜ?」
男レンジャーの言葉は、冒険者でなくシーフと思われても違いない。
「あはっ☆ さんせー。こんな弱そうな奴魔物に殺されたって事にしちゃえばいいよね☆」
女ウィザードは彼等の犯罪行為を止める気配を見せる事無く意気揚々と賛成する。
「むむっ、殺生は良くないでござる」
弱々しく抗議をする英雄である。
これでは、彼等に追撃してくれと言わんばかりであるが。
『ちょっと! 英雄君!?』
『美晴殿? どこにいるでござる?』
英雄の念話に対し、美晴は英雄の周りをクルクルと飛びアピールした。
『まさか! 美晴殿はカブトムシになったでござるか!?』
『そうよ、そんな事より英雄君大丈夫なの?』
『心配無用でござる、拙者は昔から変わらないでござる』
『そうね、英雄君は昔からって、体術だけじゃ武器を持つ相手と戦うのは無理よ!』
美晴の言う通り、弱々しい外見とは裏腹に英雄は体術を会得している。
彼の体術により返り討ちになった人間は、実は多い。
『心配無用でござる。不意に美晴殿その姿で魔法は使えるでござるか?』
『分からない、試してみる』
美晴は、英雄に対しプロテクションを唱えると、薄い緑色の光が英雄の身体を包み込んだ。
英雄が予想通り、美晴はこの姿でも魔法を扱える様だ。
「おー? この魔物魔法も使えるじゃん? すっげー高値になるぜ?」
「だな。 よし、とっととこのひょろい奴を始末しようぜ!」
「イイネイイネ、あたしが魔法唱え終わるまでの時間稼いでね♪」
ファイターとレンジャーが、まずは素手で英雄に殴りかかる。
散々いたぶってからトドメを刺す肝だろう。
「うわあああああ!!!!」
だが、英雄は避ける素振りすら見せず彼等に殴られ、吹っ飛ばされる。