5話
―斎藤英雄―
無事、異世界であるドニフランソワ―ルドのアンドリアン大陸に転移した斎藤英雄である。
上下共に青紫色で一般的なウィザードの服装に黒色のマントを身にまとい、転移前の要望通り黒紫色の瞳と髪を手に入れた彼は、周囲に草木が広がる草原に降り立っていた。
「ふむ、青い空に白い雲でござるか、地球と大差は無さそうでござる」
太陽の位置から今は大体午前10時位でござろうか? 地球と同じ時間軸である保証はないでござるが。
この辺りはモンゴル平原みたいな感じでござるか?
この世界全般の発展度は分からないでござるが、異世界転移であるならば、拙者が良く見ていた小説家になろうに出てくるナーロッパ辺りを想定して問題無さそうで御座る。
次いで、この世界がどの様に平和を乱されているのか分からないでござる。
有り得るならば、魔王による侵略が本線でござるが、人間同士の争いの可能性もあるでござるが、某ギャグマンガ見たく宇宙人から侵略されている可能性も無きにしも非ずでござろう。
高い確率で、拙者の目的は魔王か宇宙人、どちらかによる侵略を阻止すればよいでござろう。
どちらにせよ、この世界の情報が欲しい故、人が集まる場所に向かうでござる。
「この指輪の効果は何でござろうか?」
最低限の方針が決まったところで、拙者は天使殿より頂いた蒼く輝く指輪を左手人差し指に嵌めた。
『この指輪には様々な便利な機能があるぞ』
指輪を嵌めると拙者の脳に直接男声が聞こえて来た。
『便利な機能でござるか?』
『そうだ、便利な機能だ。主に(作者が)困った時に力を貸してくれるぞ』
『左様でござるか! しからば(拙者が)困った時は頼むでござる』
心強き装備品を得た。
次は拙者の力を試す必要があるでござるが、魔法の使い方など拙者は分からぬ。
む、指輪の輝きが増したでござる。
成る程、魔法の使い方はこうこうこうで、そうすればいいでござるか!
拙者は、草原で放っても問題が無いと考えられる氷属性の魔法を試し撃ちした。
選んだ氷魔法は、この世界の初歩で威力も範囲も極小さい物で、駆け出しの魔術士が使っても最弱の魔物を1体ずつ1撃で倒せる位の性能でござる。
「なんと!」
拙者は驚きのあまり声を上げてしまった。
説明とは裏腹に、拙者の手の平から出現した氷の塊は大雑把に一般的な1階建て1軒家程の大きさとなり放たれ、1km程先の地点で落下したのである。
つまりは、アークウィザードの魔力により魔法の威力が跳ねあがっている訳でござる。
この世界の一般的な威力を遥かに超えてしまう手前、大魔法を扱う際は慎重になる必要があるでござろう。
氷魔法の試し撃ちを終えた拙者は、自分が扱える魔法を調べてみた。
大雑把に調べたところ、治療系を携わる神聖魔法は殆ど扱えなく、召喚魔法に至っては全く扱えない。
反面、地水火風等一般的な属性と闇属性はすべて扱え、また魔法の力により剣等の近接武器を生み出す事も可能でござった。
また、拙者以外で最強のウィザードの魔力では先の氷魔法で大体車1台分の大きさの氷を放てる様であり、近接戦闘に於いてもアークプリーストの支援魔法を受ける事で拙者に適う者がいなくなりこの世界における拙者の実力はチートに属している様に思えるでござる。
「アークプリーストでござるか?」
拙者と同じく職業名にアークと名が付く以上、拙者と同じく日本から転移して来た者であろう。
説明に拙者と協力と書かれていた事を考えると、既に転移して来たか或いは拙者と同時期に転移して来た者でござろう。
現在の状況と今後の方針について大体まとまったところで再度念話が聞こえて来た。
『英雄君! 居る? 居るなら返事して! と言うか助けて!!!!』
『聞き覚えのある声でござるが、どうしたでござるか?』
『私よ私、美晴、冒険者達に追われてるのよ!』
『美晴殿? 追われてる? 何故でござる?』
いや、盗賊団がはびこる世界であるならばお世辞抜きに美人に属される美晴殿が狙われる可能性はあり得る。
この世界、少々治安が悪いのでござろう。
『分からないわよ! 彼等の言ってる事だと私は珍しいから高く売れるって!』
『人身売買でござるか! 待っておれ、今拙者が参る!』
『ちょっと違うかもしれないけどお願い!』
とは言って見たものの場所が分からぬ、逆探知みたいな機能があれば良いでござるが。
拙者が左手人差し指に付ける指輪を親指でこすりながら思案していると、まるで自分の考えが伝わったかの様に美晴殿が居ると思われる場所の様子と座標が自分の目の前にビジョンとして映し出された。
拙者は、転移魔法を発動させ、美晴殿が居る場所へと転移したのであった。