1話
拙者は東京都内名門校に通う3年生、斎藤秀樹でござる。
肩に掛かる位の長さな黒髪で細身で長身、やや細めのフレームである黒ぶち眼鏡を掛ける勉強好き。
これが女学生であればクラス、否! 学年中で取り合いが発生する程の美女であろうぞ!
しかし、しかしっ! 拙者は男子であるっ! 悲しきかな、拙者に見向く女子等片手で数えるほどしかおらぬ。
ふはははは、良いのだ! それで良いのだッ! 拙者には東京大学なる日本最高の大学への進学が待っているのである!
拙者を悪く言う輩とは後数カ月の辛抱であるが故何と言われても気にしないのである!
「おはよう。秀樹君? 何にやけ顔しているのよ?」
学校へ続く裏路地を歩いている所で、栗原美晴殿の声が聞える。
彼女は拙者の同級生で拙者に見向く数少ない女子でござる。
鎖骨位まで伸びた黒髪が特徴的で見た目は清楚な美人でござる。
男子生徒からの人気も高く、恐らく学年中で取り合いが発生しているであろう。
唯一の弱点とすれば、少々発育が悪い所でござろうか。
なぁに、触らねば関係無い故拙者に取っては全く問題ない要素でござる。
「おはよう。なぁに、昨日プレイしたギャルゲーが素晴らしかった故にござる」
「はぁ、秀樹君? その口調なんとかならないの? それと、可愛い女の子の前でギャルゲーなんて言葉をためらいなく言えるの君だけだよ?」
「個性でござる。丁寧語しか言わない男子などつまらなかろうぞ」
「それで? 君の評判、女の子達から物凄く悪いのよ?」
「ぬはははは! 案ずるでない、例え女学生からの評判が悪かろう共、拙者には大切なモノがあるでござる!」
むむむ? 美晴殿? 拙者をじっと見詰めて何事であろうか?
「ふーん? 他の女の子よりも大切なモノね? 私気になるかも」
そうであるか、拙者を見詰めたくなるほど気になるか、ならば教えてやるしかなかろう!
「聞いて驚いてはならぬ、拙者には東大合格と言う素晴らしいモノがあるでござる!」
拙者が得意気に言うも、美晴殿は片手で頭を抱え深いため息をついてる。
む? 美晴殿? 東大は日本一でござるが、そこまで驚く事であろうか?
「秀樹君のバカッ! 期待した私が馬鹿みたいじゃない!」
「むっ? 何に期待したでござるか?」
率直な疑問でござるが、おや? 美晴殿? 顔を真っ赤にして視線を逸らしたでござる。
さては、風邪を引いていたでござるか? 真面目な姿は関心出来るでござるが、病に伏した身であるならばその身を治癒する方が先決でござろう。
「ばっ、な、なんでもないわよ!」
「左様でござるか? 美晴殿、顔が赤いでござる、今日は熱が出ているなら無理せず休むのがよかろうぞ」
「知らない、秀樹君なんか私知らないから!」
拙者が美晴殿の身を案じたが、何故か美晴殿は怒りだしてしまった。
「よく分からないでござる」
拙者が呟くと、何やら左舷より気配を探知する。
視線を其方に向けると、十字路の左側から推定50km程の速度で走っているトラックの姿が目に映る。
裏路地を走るにしては少々速度が出ている気がする。
む、進路が可笑しいでござる!
このままでは拙者と美晴殿がトラックに引かれてしまうでござる!
「美晴殿!」
拙者は叫び、人差し指で左側を指差す。
が、美晴殿はキョトンとした表情を浮かべ立ち止まってしまう。
このままではマズイ! 拙者は美晴殿を歩道側へ大きく突き飛ばし、拙者はその反動を生かし車道側へ退避を試みる。
ガッシャーーーン。
トラックが拙者と美晴殿の間を通過し歩道を乗り上げ、先にある建物にぶつかり派手な音を立てる。
と、同時に足元からカチッと音が聞こえる。
拙者の超能力とも言える未知の感覚が危険を察知、とっさに身を屈め地面を転がる。
拙者の頭上には何故か8方向から1本ずつ矢が飛んで来た。
ここは現代日本であり、その様な罠が仕掛けられる事に対する疑問を抱くよりも先に手を使い跳ね上がろうとする。
だがしかし、現在拙者がいる場所は舗装された歩道である。
つまり、手で押さえれば硬い感触を覚えるハズ。
ふにゃっ。
何故か柔らかい感触が伝わり嫌な予感がすると脳が命令。
足と腰の力を使いその場で立ち上がる。
その際、横目で柔らかな感触が伝わった地面を見るとぽっかりと穴が開いている。
落とし穴か? 一体誰が仕掛けたのだろうか? いや、この様な舗装された歩道に落とし穴を仕掛けるなど誰かに気付かれ不可能である。
随分と気になる事であるが、それよりも今しがた目の前で事故が発生した故警察に通報せねばならぬ。
拙者は警察に通報する為携帯を取り出す。
ここで、上空より何やら音がするが、それが何なのか思い当たる節が無く空を見上げる事無く110と携帯に打ち込んだところで、
ゴーーーーーーン!
何かがぶつかる音が聞こえる。
が、それは拙者の頭に何かが当たった感覚と同時であった。
つまり、拙者の頭に何かが当ったという事であるが、頭部に対し大ダメージを受けてしまった拙者の意識はここで途切れる事となってしまった。