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共感する二人

 飛んできた矢に射抜かれたように、しつこい男は目を見開く。美羽も閉じていた目を大きく開いていた。

 美羽は、透き通ったこげ茶色の瞳の奥をじっと見つめていた。

 やっぱり、今の私ではまだ何を考えているのかわからない。

 だけど、この船に乗ってくれたことだけは確かだ。


 しつこい男は息をしていないんじゃないかと思うほど微動だにせず、しばらく佇んでいたが、それから数分後。

 諦めたのか怜と美羽に背中を向けて無言で立ち去っていった。


 その背中を美羽は見送りながら、心底胸を撫で下ろす。その場に座り込みたくなるほどに力が抜けていきそうだった。

 完全にしつこい男の背中が消えたところで、未だに隣の男の腕に自分の腕を絡めていたことに気づき、美羽は慌てて身を離した。


 相変わらず、怜の視線はこちらではなく真っすぐ前のままで、無表情。

 美羽は、その横顔に頭を下げた。

 この場を切り抜けられたのは、この人のお陰以外何物でもない。


「話を合わせてくれて、助かりました。

ホントにありがとう」

「ああ」

 抑揚のない声に顔を上げると、顔は正面を向けたまま、瞳だけがこちらに移動して、美羽の顔を映し出していた。

 やっぱりきれいな瞳をしてるな。と美羽は改めて思う。

 不思議な色をしている。

 こげ茶色のガラス玉みたい。

 晴れた青空に呼応するように透明度が増しているような気がして美羽はその瞳に目を奪われていた。


「いつもなのか?」

「え?」

「ああいう状況」

 短い言葉をぶっきらぼうに投げかけられて、一瞬何を言っているのかわからず、美羽は頭で咀嚼する。

 ああいう状況……とは、言い寄られたりするという意味だろうか?ずいぶん言葉足らずな人だなぁと思いながらそれに答える。


「あの人は初めてです。

 だけど……この種類の遭遇率はかなり高いかもしれません。正直、本当に困ってます」

「……俺もだ」

 ボソリと美羽に同意する怜に、そういえば私が押し問答しているとき、すぐ近くでこの人も同じような状況だったのを目の端に入っていたのを思い出した。


「お付き合いしないんですか?」

 その質問に怜の顔が静かに美羽に向けられた。

 美羽の目に不思議そうな顔……を僅かにしているよう映る。

 先程までは余裕がなくて上手くいっていなかったけれど、本来の美羽の能力が少しずつ発揮できるようになっているようだった。

 美羽は、無言の質問に笑いながら答える。


「あなた、カッコいいし。

さっきの人だって、物凄い美人だったし。

告白されて、お付き合いするのもいいんじゃないかと」

「俺は、面倒なことが嫌いだ。

だから、誰とも付き合わない」

「……なるほど。じゃあ、私と同じですね」


 怜の瞳がピクリと動いて、どういうことだ?と目の奥で美羽に問い返してくる。

 美羽は、難なくそれを読み取ることに成功し、我ながらの適応能力の高さに感服しながら、得意げにニコリと笑った。

「私は、あなたとは違う理由ですけど、誰とも付き合わないと決めているんです。

これからもずっと」

 怜の透き通った瞳の奥でまた、なぜだ?と問い返してくる。だけど、美羽はそれには気付かないふりをしていた。

 これまで、誰にも話すことのなかったその理由を、恩人とは言えど今しがた偶然会った人に話せるほどお人好しじゃない。

 それに、実際声に出して聞かれたわけでもないわけだし。と、美羽もまた無言で話さない理由をつけていた。


 そんなことを美羽は考えていたら、美羽の脳内に閃光が走るようにある作戦が閃いた。

 それとほぼ同時に、美羽の顔は満面の笑みに満たされ、その作戦をそのままに口にしていた。


「……あの。

よかったら、私と付き合ってくれませんか?」


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