着地点を探す炎の鳥
「やぁ。僕は深野優斗っていうんだ。君はどこへ向かっているの?」
彼の存在に気づいていないのか、炎の鳥はひたすら前を向きながら、「着地点。着地点」と呟いて同じ空の上を飛び続けていた。果てもなく遠い何処かへ行きたがっているように。
「オレの体は見た者を怖がらせる。ならば、着地点はどこにある……着地点は……」
「僕の声が聴こえるかい、ねぇ!」
優斗の声はいつまでたっても届かない。そのもどかしさに覚えがある――いじめっ子の勝也だ。
思い出す、あの日のことを。
もともと二人は友達だった。中学生までは。
繰り上がりの高校に入学した頃から、なぜか勝也は不良グループとつるむことが多くなった。今ではボスだが、最初はグループの言いなりだった。
その頃から、二人の間に距離ができ始めた。
事件が起きたのは、高校一年生の夏休み明けである。勝也が左の二の腕に悪魔の入れ墨を入れてきたのだ。そのことがバレて、先生たちから問題児扱いを受けた。そして次第に彼らのグループは見て見ぬふりをされていった。
優斗がいじめられ始めたのも、おそらく彼らの仲間にならなかったからである。真実は勝也だけにしかわからないだろうが……。
見た目のせいで、誰からも怖がられて生きている存在。
まるで、この炎の鳥のようだと優斗は感じた。
そして、勝也にかけてあげたかった言葉を、静かに言う。
「君は自分を見失っているんだ。大事なモノはすぐ側にある」
ようやく彼の存在に気づいたのか、炎の鳥はまっすぐに飛びながら尋ねた。炎がちりちりと空気を焼き焦がしていく。
「すぐ側……そこはどこだ」
「自分という心の器さ。君の着地点は君の胸の中にある。自分を許すってことさ。そうすれば、君は休めるはずだよ」
「わからない」
――ピキ……、
炎の鳥の頭が少しだけ宝石化してきている。その面積は次第に広がっていく。氷が砕けるような、大きな音を立てて。それと同時に全身の炎も弱まっているように感じた。また、黒い風が炎の鳥の向かう方向に湧き始めた。
「このままじゃ宝石化しちゃうよ!」
「もう、どうでもいい」
次第に羽ばたくのをやめて、ゆっくりと地面へと落ちていく炎の鳥。それにまとわりつく黒い風。優斗は、必死に声をかけ続けた。しかしその声は届かない。大変だ。このままではいけない。
優斗は、炎の鳥の心に寄り添ってあげたいという気持ちが強くなった。全ての生き物は見た目で判断する。入れ墨の入った勝也のことを怖がってしまったこと。理解者になれなかったこと。
もしかしたら、勝也も、この炎の鳥のように着地点を探しているのかもしれない。そう想うと、心の底から沢山の言葉があふれた。
「もうどうでもいい。どうせ、オレなんて……」
「諦めるな! 着地点へは僕が誘うから!」
「あ、また余計なことを!」
黙って様子を見ていたエルフィンが、彼のポケットからひょっこり顔を出した。その表情は、相変わらずきれいで整っていたが、声色は少し苛立っていた。
「余計なことじゃない。この鳥さんにはわかり合える友達が必要なんだ。心のフォルスは、想いや気持ちなんでしょ。独りを怖がるのは普通のことなんだ。僕がその繋ぎ役をするよ!」
「聖なる泉へはいつ……」
「僕は目の前の鳥さんが宝石化していくのを見過ごせない」
深いため息をついて、再びポケットの中に入り、黙り込むエルフィン。優斗が声をかけても返事をしない。拗ねてしまったのだろうか。
彼は想像した。炎の鳥が休める憩いの地を。炎の鳥が優しい仲間に受け入れてもらえる、そんな場所を。すると、彼のアウラが激しく輝いた。
――と同時に、地面に近づいていたはずの彼らは、その場から瞬時に消える。残ったのは、泡のようなアウラの輝きと煤のような空気の燃えカスだけだった……。




