女神フォルトゥナ
――『ファンタジア』――
優斗は、黒曜石と大理石の柱で支えられた城の中にいた。そこには、宝石化した耳の長いエルフらしきものや、小さな人形のようなドワーフたちなど、いろんな種族の者たちがいた。
「悪趣味だ……」
彼にとって、見たことのない様々なものが目の前に広がっていた。また、名前を言わずとも、すぐ側にいる髪の長い女性が、女神フォルトゥナであることも、すぐに理解した。
同時に、七色の鉱石で出来た玉座に座る、人間とは異なった彼女の美しさに少年は思わず息をのむ。人智を超えた者への恐怖心も抱きながら。
「女神フォルトゥナ様。異界の門から私たちの言葉が通じる者を連れて参りましたが、この者が本当に救世主になりうるのでしょうか」
「大丈夫。私の祈りが導いたのです。この世で最も強い心の力を持つ、ハートナイトになるでしょう」
エルフィンと女神のやりとりを聞いているうちに、彼は元の世界のことを思い出した。こんなことしている場合じゃない。早く戻って、勝也の理解者になる方法を考えなければ。
そのことを言うと、エルフィンは、「一方的な暴力を受ける世界に戻ってあなたは何ができるの」と尋ねた。その問いに、優斗は胸に手を当てて答えた。
「……知ってるんだ、僕。勝也がああなってしまった理由を。だから救ってあげたい」
「殴られることが、救ってあげること?」
エルフィンの問いは続く。まるで尋問かのように。端から見れば馬鹿ないじめられっ子だが、彼には彼なりの想いがあるようだ。たとえそれが優斗にとって不利益を被ることでも、彼は勝也の理解者になれると信じている。
「必ず分かり合えるんだ。僕たちは」
「……成程。変わった心のフォルスを持った少年を連れてきましたね。エルフィン。おそらくこのような心を持っているのは、この少年だけ。これほどに純粋で穢れを知らない者なら、ハートナイトの力を悪用することは無いでしょう」
「その……ハートナイトって何ですか」
女神フォルトゥナは長い髪をなびかせ説明し始めた。
ファンタジアが存在する力の源。それは心のフォルス。簡単に言ってしまえば、気持ち。想い。感情といった、全ての種族に存在する心の力である。
その力は、魔物には見えない剣や盾、弓、魔法などを出現させることが出来る。それを操る戦士のことを、ハートナイトと言うのだと。
心のフォルスが完全に無くなると、宝石化してしまう奇病がファンタジアで流行っているということも。
「どうかこの世界を奇病と魔物から救っていただけませんか」
「僕には、できないです。どれだけ素敵な武器があっても、それは武器です。何かを殺したり、殺されたり、そんなのおかしいよ。僕にはそんな力は使えません」
「では、このままファンタジアを見殺しにできますか」
「それは……」
優斗は困ってしまった。無理やり妖精に誘われた城の中で、女神から必要とされている。しかしそれは、ハートナイトという心の戦士となって魔物たちと戦う事。
平和主義者の彼は、簡単に首を縦に振れなかった。
「そもそも、どうして心のフォルスが無くなると宝石化してしまうのですか。その原因もわからないのに、僕にどうしろというのです?」
「わかっていることは、ファンタジアの生命は、この私フォルトゥナが生み出し支えているということ。そしてその力は聖なる泉を通じて平等に供給しているということです――ある日から突然、泉のフォルスが消えてしまいました。何か関係があるかもしれません」
「では、その原因を探ることが出来れば、戻してもらえませんか。あっちの世界に」
「ええ。ですが……」
女神フォルトゥナは、心配そうに彼のことを見た。丸腰で行かせるわけにはいかない。彼女は、何かを唱えた。すると、緑色のオーラが優斗の周囲に現れて数秒で消えた。
彼は、力がみなぎるのを感じた。
「想い、念じれば。あなたはどんな武器でも扱える。一時の付与ですが、ハートナイトとしての力を使ってみてください……そして、エルフィン。戻りなさい」
「え、この子。消えちゃうんですか」
「ええ。私の分身のようなものなので」
優斗は、女神フォルトゥナにそれはおかしいと言った。どんな理由があるにせよ、生まれ出でた生命は、一つの生命。誰かの意思で無くなって良いわけがない。
熱く語る彼の姿を見て、女神フォルトゥナは、優斗の言葉の意図が全くわからなかったが、心の奥底で何かが弾むのを感じた。
「いいでしょう。エルフィン。彼を正しき道に導きなさい」
「はい、女神フォルトゥナ様」
こうして、優斗は元の世界に未練を持ちつつも、フォルスを失ってしまったファンタジアの聖なる泉の調査をすることになった。早く帰りたい。そう想いながら。




