少年が経験したこと
その後、優斗は様々なものたちと出会うこととなる。暗闇はそのたびに少年の頭の中に直接問いかけた。「醜いことは罪か」と。優斗は戸惑いながらも答えを見つけていき、やがて暗闇の正体を見破る。それは、デーモンそのものであった。
実体のないただの暗闇のように見えるデーモン。実は、女神フォルトゥナから生まれたにもかかわらず、真の名を授かっていない、彼女の醜い心そのものだった。デーモンは暗闇の中で少年に語り掛けた。その声は、優斗にしか聴こえない。
「私はただ、女神フォルトゥナ様に真の名を授かりたかったのだ」
と。
少年は、デーモンの願いを叶えることにした。ハートナイトの力を使い、想い、念じる優斗。エルフィンたちはただただ、彼の行動を見守っていた。やがて暗闇は、水晶玉ほどの大きさの黒い球となって、優斗の両手に包まれた。
その瞬間。ファンタジアは一つに繋がった。同時に魔物たちも消えた。果てしもなく長く続く道を、様々な者たちの力を借りて、高くそびえたつ女神フォルトゥナの城へと球を運ぶ少年たち。
最初は、魔法の力でデーモンを封印しようとした女神フォルトゥナであったが、それを優斗は良しとはしなかった。
「あなたが生んだ“生命”じゃないか!」
少年が初めて声を荒らげた瞬間である。女神フォルトゥナの瞳が球となったデーモンを見ると、やがてそれは一人の人間となった。瞳も口も縫い付けられ、かかしのように立っている。唯一機能していたのは、グルグルと巻いた耳だけだった。
「このような醜い者に真の名など授けられません」
「女神フォルトゥナ様。もうおわかりでしょう。自身で生み出した心の闇を、全てデーモンだけに負わせて、自分だけは綺麗で居ようとする。僕はその心こそ汚れていて、最も醜いことだと思います。僕も……そうだったから」
話し合いはしばらく続いた。長い優斗の説得の末、デーモンに真の名がつくことが決まった――その名は……、
【ガブリエイル】
ガブリエイルの縫い紐がほどけて、口が開いた。彼が最初に見た人物は、優斗であった。泣いていた。とても美しく泣いていた。女神フォルトゥナは少年に、
「自身を受け入れることの強さ。貴方から教わりました。ユウト。貴方は、ファンタジアの救世主ではなく、私を救いに来てくれた救世主です。本当にありがとう」
エルフィンたちが手を振ってお別れを言った。ファンタジアが救われたということは、少年は元の世界に帰らなければいけないということ。優斗は最後にこう言う。
「僕も、僕自身を受け入れて、勝也君を僕の世界に引っ張るよ! 女神フォルトゥナ様がやったようにね! この世の悪を全て背負ったような生き方はしてほしくないから、あっちの世界でも僕は勝也君の救世主になるんだ!」
異界の扉が開く。少年は振り返らずに、鼻歌を鳴らしながら、元の世界へと帰っていった。その後少年がどう過ごしたか。それは、これから先の未来にしか分からない――
END.
考えた末、打ち切りとなりました。込めたいメッセージはこの部分に込めたつもりです。楽しみに待っていてくれた読者さんたちには申し訳ないです。しかし、キリよく終われたと思います。見てくれてありがとうございました!
また次の作品でお会いしましょう!




