オープニング
「エルフィン。頼みましたよ」
その声はとても穏やかで、威厳のあるものであった。声の持ち主が、自身の長い黄金色の髪の毛を一つまみして、水晶のナイフで切ると、そこから一匹の妖精が生まれた。
「はい。わかりました」
妖精は自身のことをエルフィンと名乗り、目の前の者の周囲を飛び交った。あたりには虹色の粉のようなものが散布されている。
それを見て微笑む長い髪の女性。いや、女性と呼ぶにはあまりにも神秘的で、不可思議な存在だった。在るようで無いような、説明しがたい存在。
「今、ファンタジアでは奇病が流行っています。泉のフォルスが失われてからというもの、魔界からの住人がこの世界に出入りするようになってしまいました。エルフィン。あなたに使命を授けます。異界から心の強い者を導いてきなさい」
女性の近くには、宝石と化した人間とは異なる様々な種族が転がっている。ファンタジアで流行っている奇病。それは、フォルスという心の力を失った者が宝石化するというものであった。
それは魔物たちにとって絶好の食料であり、強大な力を手にする手段でもあったのだ。
「ファンタジアがデーモンに取り込まれる前に、救世主を。わかりましたね。エルフィン」
「はい。女神フォルトゥナ様」
「それでは、異界への門を開きます。あなたにはファンタジアへ帰るための鍵を渡します。決してなくさぬように」
「わかりました」
フォルトゥナと呼ばれた女性は、その長い金髪をなびかせ、何かを唱えて空間の中に穴を開けた。少し怖気づいている妖精に女神は、「これは、あなただけにしかできないことなのです」と言って微笑んだ。
そして、黄金のかんざしをそっとエルフィンに射すフォルトゥナ。これが、異界を繋ぐ鍵であることを説明する。
気に入ったのか、エルフィンは頬を赤らめると、黒々とした異界への狭間へと恐る恐る飛び込んでいった。
異界への門がフォルトゥナによって閉じられる。一息つくと、彼女の遥か遠くで、何かがパリパリと宝石化していく音がした。
時間が無い。
女神にできることは、残ったフォルスを使い、生命を生み出すこと。しかし、どれだけ生み出しても、奇病によって宝石化して魔物たちに喰われてしまう。
このままだと彼女の力が、敵対するデーモンのもとへと吸収されていくようなものだ。
「心の強い戦士を。エルフィン。どうか……」
次第に暗くなっていく空を見上げながらフォルトゥナは、宝石化したファンタジアの住人の復活を祈り続けた。それらは淡く輝きを放ったが、ピクリとも動かない。
「あぁ。ファンタジアに幸あれ」
女神は祈り続けた。勇敢な異界の救世主が現れることを――