もしそれを知ることで君と対等じゃなくなってしまうのなら。 君の一切を、僕は知りたくなかった。
冬の木漏れ日は、なぜこんなにも綺麗なんだろう。
そう、僕は白い息を吐きながら公園のベンチに腰掛けながら考えていた。
君を重ねるからかもしれない、とその理由に思い至る。
ぼんやりと眺めていると暖かそうなのに、その場所に行っても相変わらず寒いままなのが分かっているから。
触れられない幻のような君が、満面の笑顔で手を振りながらこちらに来るのを僕はジッと待っていた。
とても綺麗だと、いつもみたいに思った。
真っ白なセーターと茶色のコート。
艶やかに黒い髪と、陶器のような肌と華奢な体。
ーーー噂を聞いたんだ。
いつもテンションの高い級友に囲まれて、いつもはにかむように微笑んでいる君の噂を。
今見せるような満面の笑顔を、僕は、僕だけの物だと思っていた。
だって、そんな君しか僕は知らなかったから。
僕以外の誰かにその笑顔を見せている君を知らなかったから。
でも知ってしまった。
知ったら、確かめずにはいられなかった。
一度知ったら、全てを知りたくなってしまって、僕は、絶望した。
その笑顔で、誰かと食事をするんだろ?
お金を貰って。
その笑顔で、誰かとキスをするんだろ?
お金をもらって。
その笑顔を歪めて、誰かと寝るんだろ?
ーーー体を、売っているんだろ?
自分の大学の学費を稼ぐために。
妹弟の高校の学費を稼ぐために。
両親を亡くして。
遺産では足りなかったんだろうか。
バイトじゃ賄えないもんな。
でも他に、方法はなかったのかな。
君は綺麗だ。
でもその化粧は。
疲れた顔を隠すための仮面なんじゃないのか。
僕は、近づいてくる君を見て立ち上がる。
ーーーそして、いつものように、笑顔を浮かべた。
君はいつか。
もし僕と結婚することになったら、それを自分から話してくれるだろうか。
今の僕では、君を救えない。
でも、君と対等でいたかったから。
君が隠す限り、僕も嘘をつくことに決めたんだ。
話してくれた時、僕と君は対等でいられるだろうか。
話してくれなかった時、僕と君は対等でいられるだろうか。
もしそれを知ることで君と対等じゃなくなってしまうのなら。
ーーー君の一切を、僕は知りたくなかった。