7.『本来の主人公登場』
今更ですが、この小説はストーリーを進めるときはレイチェル視点、劇中劇を進めるときは3人称で進んでいきます。
分かりにくかったらすみません。
レイアークが正面を見据えると、周りの人々もゆっくりと動き始め、ざわめきも少しずつ大きくなってきた。
近づいてきていた虚ろな目をした兵士の手をバシンッとはね除け、レイアークは不適な笑みを浮かべる。取り囲んでいる兵士の数はザッと五人。魔法が使えるとはいえ、か弱い娘を捕らえるだけならば、十分な人数だ。そんな人数はレイアークの敵ではないが、今は主役たちを連れてくることが先決だ。先程話した通り、レナード王子にかかっている洗脳さえ解くことが出来れば、この状況は逆転できる。本来の物語通りに進むだろう。
チラッとホールの入り口の方を見る。この茶番を遠巻きに見ている人は多いが、幸い野次馬に囲われている訳ではないから、兵士さえ退ければ、突破は容易だろう。
レイアークはクルリと踵を返し、真っ直ぐ入り口に向かって駆け出した。
「あっ、待ちなさい!兵士さん、さっさとあの娘を捕まえなさいよ!!」
「なんで、アンタが命令してんのよ……」
レイアークが思わずツッコミを入れると、金髪の少女は目を見開き、うそ……と呟いた。実はレイアーク達が干渉した時点でレイチェルにかかっていた声の出なくなる魔法は打ち消されていたのだった。
少女の命令通り立ちふさがろうと兵士たちが集まるが、レイアークは目の前に来た兵士のみぞおちに膝蹴りを一発かまし、倒れ込んできた所をドレスの裾を邪魔にならないように摘まみながら、頭の後ろに飛びながら回し蹴りを当てた。他の兵士たちには走りにくいヒールを脱ぎ顔めがけて投げつけ、その隙に脇を抜け、ホールから無事に脱出することができた。レイアークはなにもない空間からお札を取りだし、扉の入り口に張り付けた。
これは、ローレから支給されたもので一時的に扉を封印するためのものである。(非常時用)
《す、凄いです!!レイアークさん、カッコいい!》
突然聞こえてきたレイチェルの声に驚くことなく、胸を張り歩を進める。
「ふふん、トーゼンだわ!アタシはね、肉弾戦なら得意なんだから!っと、話し声が聞こえるわ。彼らは此方にいるのね」
レイアークは廊下に飾ってある観葉植物の影に隠れて声が聞こえてきた方の様子を伺うと、五人の男性の言い争う声が聞こえてきた。
「なんで折角の卒業パーティやのに、俺らだけ先生に呼び出されなアカンの!?おかしいやろ!」
「そーだそーだ!大体俺達は卒業生だぞ!!俺達もパーティの主役なのに雑用とかふざけてんのか!?」
赤茶の髪をした少年は駄々をこねるように先生に抗議し、それに同調するように金髪の髪に一房紅色が混じっている少年が吠える。長い黒髪に紅い瞳の教師の方を見てみるとやはり目が濁っていた。
「って言うかさぁ。もうとっくにパーティ始まってるじゃん。僕たち遅刻じゃない?」
「あーあ、出てくる料理楽しみにしてたんだけどな。」
紺の髪をした眼鏡の少年がぼやき、深緑の髪の少年もため息をつく。その様子を見て、レイアークはレイチェルにこっそり教える。
「ターゲット発見、緑の方が主人公のアレンで、紺の方が光魔法が得意な幼馴染のユーグよ。見覚えある?」
《えーと、金髪の方は知り合いです。レナード様の貴族側のお友達で私の従兄のフェイン様です。赤茶の方はあるような無いような?あと、黒髪の方は確か平民特殊クラスで魔術を教えているヴェンパー先生ですね》
「赤茶の髪は留学生だね。カイトだったかな。知り合いはフェインだけね、了解。とにかく彼らと接触します。フェイン様!その教師は魅了魔法で操られていますよ!」
「お、レイチェルじゃん。え、マジ!?じゃあぶん殴っても問題ねぇな!」
「ちょいマテや。俺にもやらせろ!」
「ちょっとちょっと!ストップ!さすがに先生を殴るのはダメだから!魅了魔法ならユーグが魔法で治せるだろ!?」
「え?光魔法使えば殴っていいってこと?」
「そういうことじゃねぇよ!」
《何でこの世界の人はこんなに血の気盛んなのよ……》
《いやぁ、彼らの場合は多分他にもいろいろあるんですよ。ええ、多分》
必死に止めるアレンを無視して容赦のない一撃を教師にぶつける3人。突然の攻撃にあっさり気絶したヴェンパー先生だが、ユーグが回復魔法を使うとすぐに目を覚ます。目は一切の曇りがない桃色だった。
「いててて、お前たち、もう少し手加減というものをだな」
「魔術の先生のくせに、魅了魔法にかかってるのがいけないんすよ」
「せやせや、俺たちの楽しい卒業パーティを邪魔したんや。これくらいやられても罰当たらんやろ」
「おぉ、凄いです!この調子でレナード様も元に戻してくださいませ!」
レイアークの言葉にヴェンパー先生はギョッとするが、他の四人は顔を見合わせてうなずいた。どうやら魔法にかかっていたことは知っていたらしい。
「……殿下も魅了魔法にかかってるんだったな。実はその件で殿下が魔法を解くために何回か俺たちの部屋に来てたんだよ」
「僕たちのそばにいると何故か、魔法の効力が弱まるらしくてさ。でも治しても治しても魔法にすぐかけられちゃうみたいで」
「犯人は分かっとるんやけどなぁ。アンナっちゅう平民クラスの子。なんでも噂ではこの卒業パーティでレナード殿下を誑かして婚約破棄をみんなの前で宣言させるつもりらしいて聞いたわ」
「だからもういっそのこと、その女の前で魔法を解いてやろうって話してて、ホールに向かう途中に先生に捕まったってわけだ」
「では、レナード様は……」
「本人の口から聞いた方がいいと思うけど、ずっとレイチェルさんのことを想ってるよ」
レイアークの問いかけにアレンが微笑んで答える。だとすれば、やはりレナード王子の魅了魔法を解けばこの問題は解決するはずだ。その後に出てくる黒幕を倒すか、この世界から追い出すことができればとりあえずはミッションコンプリートである。レイアークは嬉し気に心の中でレイチェルに語り掛ける。
「聞いた?レイチェルさん!王子の魔法が解ければハッピーエンドですよ!」
《そうですねぇ。でも、私の愛は冷めているので正直どうでもいいです》
《ああ、身も蓋もねぇ》
「やだ、この子冷めすぎぃ」
隣で頭を抱えているオトメに申し訳なく思うが、3年間の浮気現場は多少残っていたレイチェルの乙女心を粉砕し完全に冒険者として生きる希望に代えてしまったのである。たとえ、外からの接触による影響だとしても、元々持っていた性質はすぐには変えられないらしい。
「レイチェルさん?どうしたの?」
ハッとし覗き込んでくるユーグを見返し、レイアークは慌てたように何でもないと返す。
「い、今は皆様だけが頼りなのです!どうかレナード様を救ってくださいませ」
「「「「任せろ!」」」」
力強くうなずいてくれた4人と多少置き去りにされているヴェンパー先生を引き連れ、レイアークはホールへ向かうべくの扉の封印を解いた。
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