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お嬢様会議と空飛ぶファンタジア

※3月12日誤字修正しました。ご報告ありがとうです!



グランドリア王国は王国ではあるものの、国王に権力はそれほどない。

権力を持つ貴族にはそれぞれ派閥があり、彼らはそれなりに対立をしたりしているそうだ。

我が家は好んで辺境に住み着いているような家柄だけに、今までそんな対立は私には全く関係なかった。

そして興味もなかった。

……が、どうやら私はそんな派閥争いに巻き込まれようとしているらしい。



「貴女アスラームの婚約者じゃないの?」



扇子を持った女子が半信半疑みたいな表情で言う。



「ちがう」

「それはデマですわ。パーティーではそれを利用して守って貰いましたけど」

「まあ、姫様が言うならそうなんでしょうね」



髪の毛を巻いた女子が首を傾げながら言う。



「ふん、ちょっと可愛いからって図に乗らないでよね」



サラサラ黒髪の女子が唐突に対抗心をむき出しにする。

ここは学園の一般クラス練にある屋上テラス。

そしてやっている事は貴族女子のお茶会である。

彼女達はいずれも名のある家柄、それもアスラームのバルカ家と対立する家の娘だ。

いずれもよく手入れをされた髪の毛にお洒落な服装、しっかり化粧もしている。



「私かわいい?」

「なんで喜んでんの? こんな尻尾なんか付けちゃって」



サラサラ黒髪が私の尻尾を引っ張った。



「ただでさえ目立つくせに変な服まで着て……!」

「ちょっと、乱暴はやめなさい」

「なにこれ……髪つやっつやじゃないの! しかもなにこのお肌……ほっぺた伸びるし……」

「ひゃめて」



ほっぺを引っ張られてモニュモニュされる。

痛くはない。意外と優しい手つきだ。

彼女はだんだん興奮してきたらしい。口元にエステレアみたいな笑みを浮かべている。

実に楽しそうだ。



「わひゃしはずにほるはへのほとははる」

「あはははは!何言ってるかわかんないわ!」

「アンテ、私にも触らせてよ」

「だめ! この子の媚びっ媚びの性根を叩き直してあげるんだから……!」

「ひょびへはひ」

「おやめなさい。この子のメイドに刺されますわよ」



クールに紅茶を飲むアナスタシア。

アンテと呼ばれた黒髪は鼻息荒く笑顔を浮かべていたが、給仕をするエステレアの野獣のような目を見てようやく離した。

まだ頬が紅潮している。私を虐げるのがよほど楽しかったらしい。

中々サディスティックな性格のようだ。

それにしても、なんかこの子……どっかで見た気がする。



「……私の放送、みにきてくれてた?」

「え……お、覚えて……?」

「へえ、記憶力良いのね。アンテは貴女の大ファンなの」

「ほんと? ありがと」

「べつに、ファンじゃないから」

「いつも齧り付きで見てたじゃない」



あの放送の時、放送室に見物人がたくさん訪れた。

その中にいたのだ。

美人なので覚えている。私は顔を覚えるのはわりと得意だ。



「貴女何か香水つけてる?」

「つけてない」

「トモシビは全部天然ものなの。すごいでしょう?」

「本当、髪すごく綺麗ね……顔も、綺麗……」



ぼーっとした目で私の頭を撫で続ける巻き毛。

私の髪の毛を触ると大抵こうなる。

この子達は一般クラスの4年生だそうだ。

私よりけっこう年上である。


アイナのお店で私を魔王と呼んでいた人というのはこの3人のことだ。

とはいえ本気で私を魔王と信じてるわけではなく、身内にだけ通用する隠語にすぎなかったみたいだ。

バルカ家と仲が良い私が最近やたら持て囃されてることで彼女らは何やら警戒を強めていたらしい。

親の対立が子供にまで及んでいるというのはよくある話である。

このまま学園を私とアスラームが牛耳ったら肩身が狭くなると思ったのだろう。

ちなみに私が魔王だとかなんだとかは親がそう言ってたから真似したとのことだ。


アナスタシアに渡りをつけてもらって実際に会ってみると、3人は私に悪感情を抱いてるわけではなさそうだ。

この私のファンだというアンテは乱暴だが、居心地はそんなに悪くない。

私は本質的に構われるのが好きらしい。

自分からあまりお喋りできない私としては、多少乱暴でもその方がありがたいのである。



「トロメア? 触りすぎじゃない?」

「……そうね。あんまり綺麗だったから」

「そうでしょう? みんなそれにやられるのですわ」

「それでアスラームもやられたってわけ?」

「そういうことですわね」

「お嬢様はあの男に付きまとわれて迷惑しているのです」



お茶を注ぐエステレアは忌々しいと言わんばかりである。

その説得力のある態度に彼女らは疑うのをやめた。

私自身はアスラームのことは嫌いではない。ただ恋愛感情はないし、婚約者と間違われて彼の派閥扱いされても困る。



「……これ、珍しいお茶ね」

「黄金の蜂蜜茶でございます。皆様への贈り物としても用意しております」

「いっぱいあるからあげる」

「あら、気がきくじゃない」



扇子の子が、その優雅な扇子で私を指す。



「いいでしょう。私達は貴女の味方です。学園の代表として存分に励みなさい」



アナスタシアは満足そうに微笑んだ。

全てがうまくいったという顔をしている。

このお茶会は全部彼女がセッティングしてくれたものなのである。

どうも私にはピンと来ないが……この学園と王国でそれなりの権力を持つ派閥のお墨付きをもらった、という事らしい。

こちらとしては魔王呼ばわりさえやめてもらえれば良かったのだが、何にせよ味方は多いに限る。

私はとにかく狙われやすいのだ。

敵を作ろうとしなくても私が私である限り勝手に敵は増えるのである。



「ジュディ、勝手に決めないでくれる?」

「あら、アンテは反対なの? 大ファンのくせに」

「ファンじゃないし……この子見てるとなんか胸のこの辺が締め付けられるだけ」

「もうそれ恋でしょ」

「とにかく私が貴女を認めるには条件がある」

「なに?」

「次に撮影とかあったら教えて」



そんなことか。

また噛り付きで見たいのかな。

やっぱりファンなのかな。嬉しい。



「わかった」

「そ、そう、素直ね。じゃあ……あと一つ」

「なに?」

「立って」

「? はい」

「ちょっとジッとしてて」



アンテノーラしゃがみ込み、私の手を両手で包むように取った。

温かい。

それから覚悟を決めたように顔を見ると、私の背に腕を回して正面から抱きしめた。



「ふむぐ」

「あああああ……柔らかい」



力強くギュウギュウ締め上げてくる。

彼女のそれなりに豊かな胸に私の顔が埋もれる。



「胸がキュってなるの……! 思いっきり抱きしめて、匂いを嗅いで、舐め上げて、もう色んなことしないと治らないの……!」

「アンテ、貴女そういう子だったの?」

「分かりますわ、その気持ち」



エステレアは何かを納得したかのように頷いた。

これがファンサービスというものか。

握手会ではなくハグ会だ。

有名になったらこういう事もしていかないといけないのだろうか。

ともかく私はこうして彼女ら、ステュクス家と繋がりを持ったのであった。







その日の放課後、私は魔導院を訪れた。

今日は研究の話ではない。私に頼みがあるんだそうだ。



「呼び出してすまないね」

「よっ、トモシビ」



申し訳なさそうにするスミスさん。

そしてなぜか先生がいる。



「なぜ先生がおられるのですか?」

「ワシは専門家じゃからな」

「なんの?」

「トモシビ、お主の」



……何を言ってるのだろう?



「ちょっと大きなプロジェクトでね。担任教員のクズノハ先生も交えて話をさせてもらおうと呼んだんだよ」

「お主はワシが育てたようなもんじゃからな」



保護者代わりみたいなものだろうか?

共同研究者の契約の時より重大な内容なのだろう。

いつも私が座っている特等席を先生が占領しているので途方にくれていると、バーノンおじさんが椅子を持ってきてくれた。

お礼を言って座る。



「トモシビ君、君はアルグレオから帰ってきた。彼の国をどう思った?」

「あつかった」

「うん……聞き方が悪かったね。君はあの国の事、信用できるかい?」

「……ううん」



ロクでもない事ばかり企んでるし、信用できるのはドMと地下の鉱夫だけだった。

エル子もフェアプレイ精神はあるんだろうけど、やっぱり敵の仲間である以上信用するのは難しい。



「そうだろうね。でも君達は彼らと親善試合をしなくちゃならない。どうしたらいい? またあちらへ行くかもしれないんだ」

「まだ親善するの?」

「国交断絶したところで奴らはなくならん。戦争にならぬうちは表面上だけでも付き合っていくしかないのじゃよ」



そうなのかな。

私は政治の話は苦手である。

たぶん人間関係を放棄していた前世の業……いや、お父様に似ただけかもしれない。

しかし付き合っていくしかないとは言っても、またノコノコ赴くことなとできない。

飛んで火に入る夏の虫である。



「付き合うメリットもある。主にやつらの技術じゃな。こやつらからするとそれこそスパイを送り込んででも手に入れたいじゃろう」

「否定はしませんよ……で、何をするにもネックになってるのはあの遺跡だ」



お互いを行き来するにはあそこしかない。

私のように帰り道を塞がれたりするとおちおち親善もできやしない。

あちらは大容量の魔力貯蔵技術があるおかげでほいほいスパイを送り込んで来たが、こちらはそういうことができない。

不利である。

そこで私の協力が必要なのだと言う。



「プロジェクトというのは、君の持つ魔導具を使った乗り物の開発だ。君のように空を飛んで大陸を渡るんだよ」



つまり飛行機だ。

いや、飛行船?

私は前世で見たよくあるファンタジーな飛行船を思い浮かべた。

あんなのが作れるのか。



「やる!」

「は、話が早いね」

「ほれ見ろ。心配せんでもこやつはこういう無茶苦茶な事が好きなんじゃ」

「ふふふ……お嬢様、まずは詳しく話をお聞きしましょう」

「うん」



その飛行船を作るためにタブロバニーの触覚とスカイドライブを貸して欲しいのだそうだ。

あの2つは私の持ち物の中でも飛び抜けて価値が高い。特に触覚の方は個人が持っていて良いような代物ではないだろう。

帝国の秘宝である。

それを貸せと言うのだ。

全然構わない。



「やる」

「お嬢様お待ちを……魔導具をお貸しするだけですか?」

「魔導具だけでなくトモシビ君のアドバイスと経験が必要だ。何しろ実際空を渡ったのは君が初めてなんだからね」

「空飛ぶ乗り物が作られたらお主が長みたいなものじゃ。思う存分偉そうにできるぞ」

「長……船長?」

「うむ? まあ、船長じゃな」

「どうだい? 協力してもらえないだろうか? 魔導具は必要な時に借りるだけだ。無理やり接収はしないよ」



もう答えは決まってるのだが一応契約書を見る。

私に支払われる契約金……はともかく魔導具の貸出料が……一回500万?

とんでもない額だけど相場がさっぱりわからない。

まあいいか。



「とにかく、やりたい」

「嬉しいよ。君のクラス全員が乗れるくらいにはするつもりだ。詳しくはまた決まってないけど楽しみにしててくれ」

「良かったですねお嬢様」

「うん、楽しみ」



すごい。

ゆくゆくはこの世界の空に飛行船が行き来するのだ。

それで色んな僻地を冒険したり、空飛ぶ魔物や空の海賊と戦ったりして……なんというファンタジー。

そして私はその飛行船の中心で偉そうに座って号令をかけるのだ。

前進も後退も大砲発射も私の意のままだ。

攻撃能力とかあるのかな?


そんな想像を広げる私の頭をエステレアが撫でたのであった。



この世界はあまり航海しないので、大きな船を作ると言う認識はありません。

なので飛空船もどきの長を船長と呼ぶ風習はないのですが、トモシビちゃんの一言で船長になりました。


※次回更新は3月16日月曜日になります。

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