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私の弾丸は有象無象の区別をつける

※3月9日、誤字修正。



「お待ちかねの武器が届いたぞ」

「おー!」



ホームルームの時間、ヤコ先生が告げた言葉に教室は沸いた。

クラスメイト各々の特性に合わせた武器である。

私が以前から申請していたものだ。

Bクラスが槍や盾を使っていたのを見て先生に相談してみたところ、申請すれば剣以外も支給してもらえるとの事なのでやってもらったのである。



「うおおお大剣かっけー!」

「教室で振り回すでない!」



支給品は剣と盾、メイス、槍、両手剣などである。

学園で支給される武器は騎士団で使われているのと同じ量産品だ。

量産品と言うと私は前世の漫画やゲームのせいかなんとなく弱そうな気がするのだが、実際のところ軍の正式採用品というのは高品質が保証されているということだ。最強クラスの装備である。


武器というのはどうにも男のロマンを掻き立てるものであるらしい。

男子のテンションは上がりに上がっている。

私も前世の名残なのかやはり銃や刀に惹かれたりはする。

しかし、こと実戦での使用に関して私にこの手の武器はあまり重要ではない。

重要なのは私でなくエステレアだ。



「エステレアさんは盾なのですね」

「これで今までより確実にお嬢様をお守りできますわ」



彼女には中型の盾を支給してもらった。

ジェノバ遺跡で私を庇って傷付いた時から考えていたのだ。

最近まともな戦いができなくて基本戦術は崩れがちなのだが、人間や小型の素早い敵が相手なら遺憾ながら私の守りは必須である。

ミスリル製なのである程度は魔法も防げるのだ。



「クロエちゃんも盾なんだね」

「私もこれでトモシビ様をお守りしますからね」



クロエは腕に取り付ける事もできる小型の盾だ。バックラーというやつである。

フェリスはいつもの装備のまま。

彼女も剣は持っているのだが大体いつもガントレットで殴っている。そっちの方が強いのだ。



「男は黙ってでかい剣だよなグレン!」

「俺は盾だ」

「あん? てめえが盾なんていらねえだろ」



グレンとツリ目の会話にバルザックが割り込んだ。言葉は乱暴だが喧嘩してるわけではないらしい。

模擬戦でいつも戦ってるので仲良くなったのだろう。



「俺様の拳に恐れをなしたか?」

「俺には必要ないが他のやつを守るには都合がいいだろ」

「他のやつだあ?」

「……」

「なんでちょっと照れてんだよ! きめえな!」



クラスメイトは各々新しい武器を構えたり少し振ってみたりしている。

試したくてウズウズしているのだ。

そんな教室を見渡して先生は声を張り上げた。



「お主らのことじゃ、大人しくしろと言ってもせんじゃろう。今からそれを使って模擬戦をする。そこで存分に確かめるといい」

「これ真剣だぜ?」

「ちゃんと刃引きしたのも用意してあるわい。重量のある武器を使うなら相手の武器を弾き飛ばすくらいにしておくんじゃぞ」



もうクラスメイト達は武器に当たってダウンしたりすることはそんなにない。

防御技術もさることながら、寸止めや手加減など攻撃の技術も上達してきたためだ。

不慣れな武器とはいえ刃引きしてあるなら大丈夫だろう。







さて、そんなわけで演習場に出てきた私達。

今日は手始めにフェリスと勝負だ。

フェリスはほとんど素手みたいなものなので私に怪我をさせる心配がない。



「トモシビちゃん、武器はそれでいいの?」

「うん」



私の持っているのは銃。

アルグレオ出発前に魔導院に出してさらに改造してもらったのである。

見た目は変わっていない。

私好みの純白で綺麗なマスケット銃だ。火薬を使ってないのであまり汚れたりもしないと思う。



「みてて」



私は銃身の上部をパカっと開くと、太もものホルスターから弾丸を取り出して装填して見せた。

以前は魔法で弾丸を生成して打ち出すものだったのだが、この改造によって予め作っておいた弾を込められるようにしたのだ。

これで色んな弾を使い分ける事が出来るようになった。

もちろん従来通り生成することもできる。

今回は訓練用のゴム弾である。



「じゃあ……撃つよ」

「うん!」

「……撃つよ」

「いつでもいいよ!」



魔力充填。

この銃は込める魔力の量と弾丸で威力を調節することが可能だ。

今回はエアガンくらいの強さにしておこう。

照準でフェリスを狙って……引き金に指をかける。

……人を、それも友達を撃つというのはなんだか怖い。

もちろんフェリスにはこんなもの効かないだろう。

それは分かってる。

しかし、万が一……目に入ったりしたら危ないのではないか。



「トモシビちゃん?」

「撃つから、よけてね」

「う、うん」

「3、2、1……」



パンと軽い音を立てて弾丸が発射された。

その瞬間、フェリスの体が視界から消えた。

照準から目を離す。



「捕まえた〜」



背後から抱きつかれた。

これは……私の負けである。



「もうこれ試合じゃないよ、試し打ちだよ」

「負けは負け」

「トモシビちゃん優しすぎるんだよ……ほんとはすごいのに」



フェリスの尻尾が私の尻尾に絡みつく。

私の髪の毛やうなじに顔を擦り付けてゴロゴロ喉を鳴らし始める。

私に尻尾が生えてからフェリスは前よりもっとスキンシップを激しくするようになった。

特に尻尾と尻尾を絡ませるのは1日1回はやらないと気が済まないらしい。



「これずっと生えてれば良いのにね」



尻尾で尻尾を器用にスリスリしてくる。

やっぱりフェリスは撃てない。

エステレアもクロエも撃てない。

私は身内には攻撃できないのだ。


もし……仮に私の尻尾のことがバレて、アスラームやプラチナが襲いかかって来たら、その時私はどうするんだろう?

……いや、アスラームにはある程度なら攻撃できる気がする。

ひょっとして私は女の子に攻撃できないのだろうか?

男だった前世の潜在意識みたいなのが作用してるのかな。



「お嬢様、次は私と……」



隣でクロエとの試合を終えたエステレアが駆け寄って来る。

しかし同時に逆方向から声がかかった。



「メスガキ!分からせの時間だ!」



メガネ2だ。

彼を修羅の形相で睨むエステレア。



「毎度毎度……」

「ひっ」

「クロエ、望み通り立場を分からせてあげなさい」

「私がですか!?」

「い、いや俺はメスガ……お嬢と」



……ちょうど良かった。

遠慮なく試し撃ちできる相手が来た。



「その勝負、うけてあげる」

「お嬢様……」

「その次は、エステレアだから」



私は快く彼との試合を受けることにしたのだった。







私の前にメガネ2が立つ。

彼の武器はオーソドックスな剣のままだ。

その剣を格好つけて肩に担いで……その目は私の太ももくらいに釘付けになっている。



「い、色仕掛けのつもりか?」

「?」



メガネ2に指摘されて気づいた。

私は無意識のうちに尻尾を持ち上げて揺らしていたらしい。

それでスカートの裾も持ち上がって揺れているのだ。



「誰彼構わず誘って来やがって、このメスガキが」

「さそってない」

「お前の知らないとこでどれだけの男が苦労してるか分かるか?」

「……?」

「知らなくていいけどな!」



ブースターで突っ込んで来た。

私はすぐに銃を構えて、狙いもつけずに三連射した。

やろうと思えば連射も可能だ。



「無駄ァ!」



カキンと剣で弾かれる。

やっぱりまともに使っても効かないか。

彼に効かないならクラスの誰にも効かないだろう。

予想通りではある。

私も撃ちながら後ろに飛ぶ。

飛びながらもはや基本技となりつつある爆弾をばら撒く。

この魔術は当たっても痛いだけで大怪我しないから便利なのだ。

それでもフェリスなんかに使うのは抵抗があるので、思いっきり手加減してしまうのだが。


メガネ2はそれを避け、あるいは相殺しつつ私に迫る。

彼の基本戦術は一応魔術主体であるはずなのだが、私とやる時は接近戦を挑もうとする。

それは当然、彼以上に私が接近戦を苦手としているからだ。


弾幕を張る私、追いかける相手。

要は鬼ごっこだ。捕まれば私の負け。

しかし火力の出せない試合で弾幕を張ってもほとんど意味がない。

避けられるか叩き落とされて終わりだ。

ならばどうするか?

罠を張るしかない。

リンカー起動。


爆風に紛れて地面から爆弾が発射された。



「またそれかよ!」



死角からミサイルのように飛来する3発の爆弾を華麗な空中機動で避けるメガネ2。

やる。

上に移動して私に視線を引きつけておいたのに。

やはり一度使った技は通用しないか。


彼がお返しとばかりにファイアボールを放って来た。

この程度なら私の対魔力だけで完全に防げるのだが試合である以上当たれば負けだ。

でも避ければ追いつかれる。

私もファイアボールを撃って相殺する。

派手な爆発が空中を彩った。


一瞬両者の姿が見えなくなる。

次の瞬間、爆発の裏から彼が猛スピードで突っ込んで来た。

決めに来たのだ。

その剣を振りかぶり私に叩きつけんとして……できなかった。

私の姿が消失していたからだ。


転移発動。

背後に転移した私は素早く弾丸を込めて……撃った。



「くっ……!?」



だが、驚くべきことに彼はそれすら避けた。

威力のなさそうな弾がヘロヘロ飛んで行く。

彼はニヤリと笑った。



「もう逃げないのか?」

「うん」

「俺も強くなったもんだぜ。実戦で鍛えられたからな」

「私も」



彼の後頭部に爆弾の魔術が炸裂した。



「な……」



弾にリンカー爆弾を乗せて撃ったのだ。

通り過すぎた後に背後から襲うように。

勝利を確信して油断したせいか無防備で食らってくれた。


メガネ2はバランスを崩して地面に墜落して行く。

……やっぱりあまり罪悪感がない。

私は彼の前に降り立って勝ち誇った顔を向ける。



「私の勝ち」

「さすがはお嬢様!」

「くそ……いつも卑怯な手ばかりしやがって……」



何が卑怯なものか。

戦いで重要なのは相手の意表を突く事だ。

私はマスケット銃をくるりと回してみせた。

リンカーを付ければ弾丸で貫いてから内部で爆破する事もできるし、電撃を浴びせる事もできる。

こうすれば時間をかけてじっくり座標指定して撃ち込まなくても良い。魔力も節約できて便利だ。



「形になって来たのう」

「うん」



試合を見ていたヤコ先生が声をかけてきた。



「このご時世に銃を使う者などお主くらいじゃろう。アルグレオでも期待できそうじゃな」

「思う存分、期待して」

「じゃがあまり切り札を見せるなよ?気付いておらんかもしれんが見られておる」

「だれに?」

「色んな奴らにじゃ。お主はもう注目の的なんじゃぞ」



クラスメイトが見てるのは承知の上だけど……他にも偵察されてるという事だろうか?

アルグレオのスパイとかに?

たしかに戦う相手を調べるのは基本中の基本だ。

一応、私も切り札には気を使っているので問題はない。模擬戦では見られても良いようなものしか使ってないのだ。



「お嬢様は最初から注目の的ですわ」

「なれてるから、大丈夫」

「わ、ワシだって慣れとるし」

「先生がお嬢様に対抗するなど100年お早いかと」

「ワシがいくつ年長じゃと思っとる! とにかく、覚えておくようにな」



そういえばアルグレオはスパイがいるらしいけど、魔王軍のスパイとかもいるんだろうか?

いてもおかしくはないかもしれない。

先生も言ってることだし一応覚えておこう。



マスケット銃ってカッコいいですよね。

種類はよくわからないのですがライフルみたいな細長いやつが好きです。

トモシビちゃんが使ってるのもそのタイプですね。


※次回更新は3月12日木曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎日尻尾同士に絡みつくとかどういうことなの… その内二人でしっぽ同士でハート型作って街中歩けそう… メガネ2はえ?誰?…て感じですね 全く思い出せないです。 無視してイカクラゲごっこと…
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