クソザコお嬢様はまだ天を目指す
「つまりそのカサンドラに渡されたってことだね?」
「うん……はい」
私はラナさんの質問に答えた。
ここは取調室。
私は今、取り調べを受けているのだ。
先日ジェノバから帰還した私は、その場であえなく御用となった。
捕まったは良いが……いや良くないが、今度は思い当たる節が全くない。
まさかクルルスを倒したせいで観光名所が消えて……その件?
それとも皇帝から損害賠償請求が来た?
レプタットの領主の家を恐喝した件だろうか?
まさか王様にマッサージしたのは賄賂にはなるまい。
あれ? けっこう思い当たる節がある。
そんな事を考えながら呑気に尻尾をフリフリ連行されたのだが……。
「カサンドラによってレプタット村の魔封器が奪われ、トモシビ嬢に渡された。そしてそれを何も知らず使ってしまった……と」
「罪にはならないですよね? 使おうと思って使えるものじゃないですから」
「そうだな。しかし問題は使えてしまったことだ」
「問題なの?」
「よく聞いてねトモシビちゃん、そのもふもふ尻尾は魔王のものなの。その卵……魔封器には魔王の力が入ってたんだよ」
魔王のもふもふ尻尾。
なんだそのパワーワードは。
私はこの謎の尻尾を体の前に持ってきて撫でてみた。
魔王の尻尾にしては可愛すぎる。
「トモシビ嬢に馴染む形になっているのだろう。それは君が本当に魔王になりつつあるという証左だ」
「すごい」
「すごいけど大変なんだよ? 退治されちゃうかもしれないよ?」
「こわい」
「うん、怖いよね。だから処遇が決まるまで少し不自由すると思うけど我慢してね」
夏休み前にロリコンおじさんの取り調べをする側になった私が、今度はまた取り調べを受ける側だ。
因果は回るということか。
次はきっと私を担当したラナさんか隊長が投獄……されるわけがない。
私だけが数奇な運命を一人で回している。
理不尽だ。
とにかく何やら大事になってしまったらしい。
私はめすいぬことカサンドラに騙されたのだろうか?
それにしては神妙な顔をしていたように思う。
それに、あの卵が私のピンチを救ってくれたのは事実なのだ。
というか退治って、一体誰が退治するんだろう?
少なくとも治安部隊は私の味方らしい。
せっかく私の評判も上がってきたのに、これではまた魔王呼ばわりされてしまう。しかも今度は濡れ衣ではない。
文字通り、ついに尻尾を出したかなどと言われかねない。
まあ、尻尾が生えたから魔王っぽいなんて結びつける人、早々いないと思うけど。
取調室から出るとすぐにエステレアが駆け寄ってきた。
「お嬢様! ああ可哀想なお嬢様、そのように尻尾をしんなりさせて……! 私、笑みを堪えきれません」
「涙とかじゃなくて?」
エクレアが呆れている。
「その尻尾は後日詳しく検査するから、また今度魔導院でね」
「うん」
「お世話になります」
「気にしないでね。私トモシビちゃん担当だから、困ったことがあったらなんでも言ってね」
「ありがと」
ついに私担当までできてしまった。
元々ラナさんは学園担当だったので学園で問題起こすのがほぼ私であることを考えるとあまり役割は変わらないのだろう。
帰り際に、あんまり尻尾は見せびらかさない方が良いと言われた。
何か対策を考えるべきかもしれない。
次の日、私は普通に尻尾を見せびらかして学園に登校した。
「うわ! 尻尾生えとるやん!」
「おいおい……何があったんだよお嬢」
そして普通に騒がれた。
10日間くらい外国へ行っていた私が尻尾を付けて帰ってきたのだ。
まあ外国帰りの人が変化するのは良くあることである。これもその一つにしてしまおうと思ったのだ。
「これは、アクセサリー」
「は?」
「私はファッションリーダー、ちがう?」
「いや違うやろ」
「独自性強すぎてな……」
「この尻尾動いてるぞ」
納得してもらえなかった。
腰に巻きつけて隠すとかそういう方法も考えたのだが、せっかく可愛い尻尾がついたので見せびらかしたい。
アクセサリーで通すしかないと思ったのだ。
「あ、うちで買った尻尾、改造したんだねw」
「え?」
「……ええ、その通りです。よりお嬢様に合うようにと」
「すごく可愛いよw」
「へえ、今時の魔導具ってすごい精巧なんだな」
あ……そういえば以前、エステレアは商店街の魔導具屋に尻尾型魔導具を注文していた。先日、私が一人でお使いに行った時に受け取ったのがそれである。
結局一度も使わないまま本物がくっついてしまった。
なんかせっかく作ってくれたのに悪い気がする。尻尾が取れたら使ってあげよう。
「おかえりなさいトモシビ」
「アナスタシア」
「うわ、今度は尻尾? また新しいファッションしてるねトモシビ」
「可愛らしいですね。イカの足みたいです」
以前猫耳をつけたりしてたせいか、アナスタシア達も疑う事なくアクセサリーと勘違いしてくれた。
どうやらクラスメイトはスカートの下から伸びてる尻尾がどこに接続されているのかなどあまり疑問に思うことはないらしい。
この3人には後で本当の事を話しておこう。どうせ一緒に着替えたりしたらバレる。
「ホームルームじゃ!席につけウジ虫ども!」
ヤコ先生がドアを蹴飛ばしながら入ってきた。先生の罵声も久しぶりだ。
「……で、トモシビ。お主今度はワシから尻尾キャラまで奪うつもりか?」
「お嬢様にとって先生は路傍の石ころ同然。意識するはずがございません」
「そこまでいうことないじゃろ。ともかくお主らには聞きたいことが山ほどある。後で職員室に来い」
「私もある、奇遇」
なぜ魔王の力が先生と同じなのか。
なぜ尻尾のモフモフ具合が似ているのか。
なんで魔王に詳しいのか。
怪しい、というかどうみても関係者だ。
聞いておかねばならない。
「飛んで帰ってきたじゃとぉ?」
「うん」
「頭おかしいじゃろ」
先生に言われたくないけど今考えるとそうかもしれない。
頭に血が上っていたのだ。
あんな未知の怪物だらけの空と海を横断するなど正気の沙汰ではない。
尻尾がなければ死んでいた。
「でも置いてかれて、大変だった」
「言っておくが使節団はまだ帰ってきておらんぞ。それはおそらく相手の嘘じゃな」
「ええ〜なんで? 10日間って言ってたよ?」
「もうトモシビは国の重要人物なんじゃぞ。置いては帰れん」
いっぱい食わされたということか。
でもそんなつまらない嘘で転送遺跡やタブロバニーの触覚を壊されたんだからあのエルフも泣くに泣けないだろう。
自業自得である。
「先生」
「なんじゃ?」
「先生は、なんで魔王と同じなの?」
私は聞きたかったことを聞いてみた。
「ふぅむ、ワシの霊術が魔王と同じだと?」
「うん」
「ワシが一体何者か、気になって仕方ないんじゃな?」
「勿体つける必要ないですよね」
「どうせ先生のものも魔封器によるもの、みたいな理由なのでしょう?」
「ワシが魔王かもしれんぞ?」
「それはちょっとガッカリなので」
「……ふん、答えは教えん。ワシは秘密を纏う良い女じゃからな。じゃが忠告しておくぞ」
先生は結局答えなかった。
私も面倒臭いのでそれ以上聞かなかった。
先生の忠告は二つあった。
一つはみだりにその力を使わないこと。
もう一つは、特にアスラーム達バルカ家の者の前では使わない事。
バルカ家というのは魔王退治の一族らしい。
まあ、あのクルルスみたいなのが出ない限りは使うことなんてないだろう。
使わなければそのうちまた封印するはず、だそうだ。
一先ずは安心である。
「おっ嬢様、おっ嬢様、お尻がプニプニお嬢様……」
エステレアが調子外れの鼻歌を歌いながら私の尻尾をブラッシングしている。
エステレアの機嫌は最高潮だ。
私も心地良い。
ブラシは尻尾の根元から先端へ優しく動いて私の艶やかな尻尾を梳いていく。
ふと、そのブラシが尻尾の付け根を擦り始めた。
「ふあ……」
「あら? どうなされたのですか?」
電流が走ったような衝撃。エステレアはそのままクリクリとブラシで刺激する。下半身に痺れが広がっていく。
「こんな所が敏感だなんて……お嬢様は猫ちゃんになってしまわれたのですか?」
これは耳より刺激が強いかも知れない。この甘い痺れは冗談にならない。
散々フェリスにやってきた私がやられる側。これも因果応報か。
「こんなに尻尾をピンと立てて……ああもう……! 我慢できません!」
ブラシを投げ捨てて私を抱きしめるエステレア。
「おはようございます……あれ?」
クロエが入ってきた。投げ捨てられたブラシを見て不満の声をあげる。
「ずるいですエステレアさん! 私の担当のはずなのに!」
「寝坊するのが悪いのです」
「ちゃんと5分前じゃないですか!」
「5分前とはお嬢様が起きる5分前の事です。やはりクロエはまだまだですね」
すごいブラックな職場である。
先日生えたばかりの私の尻尾は大人気だ。
ローテーションで当番を決めて手入れする事にしたらしい。私のあずかり知らぬ所で勝手にそうなってしまった。
ますます小動物じみてきている私の扱いにも特に文句はない。
やっと日常に戻ってきたという感じがする。
自由を求めて親の腕の中から飛び出し、皇帝の手の平から抜け出して大冒険した末にたどり着いたのはいつもの日常だった。
皮肉なものである。
「トモシビちゃん、耳は生やさないの?」
「付け耳でいいんじゃないですか?」
「え〜本物の方が良いよ。きっと頑張ったら生えるよ」
「じゃ、がんばる。んー…………」
″俺″はずっとその他大勢の一人だった。
特別なものになりたかった。
私もそうだ。
私は最強で最かわでオンリーワンのナンバーワンになりたいと思ってる。
そして今の私は紛れもなく特別な存在だ。
グランドリアもアルグレオも魔王の配下も皆私を求めてる。
私だって馬鹿ではない。そのくらい分かる。
私には価値がある。
ただでさえ可愛いのに、太古の昔からそそり立っていた魔神みたいなのを倒したのだ。もう途方も無い価値があるはずだ。
でも……まだまだだ。
私の理想には届かない。
「生えた」
「えっ、すごい。なんで生えるのトモシビちゃん?」
「いえ……これは聖炎ですね。耳の形になってるだけです」
「尻尾の力のおかげ」
「それはみだりに使わないようにと……」
「ルールを決めるのはお嬢様。何度も教えたはずですよスライム」
私はまだ価値を決める側になってない。
私はまだオークションにかけられた時のままだ。
値踏みされ、束縛され、それを破ってきただけに過ぎない。
私が自由に生きようと限りそれは続くだろう。
ルールを敷き、価値を決める側にならなくてはならないのだ。
天上人のように。
まあ、でもとりあえず……今は目先の学園生活を楽しむ事が私の自由の証だ。
そのためには時間にも縛られよう。
そうして、私はまた遅刻ギリギリで登校したのであった。
ここまで見てくれてありがとうございました!!
キリの悪い話数になってしまいましたが、とりあえず第3章はここまでです。
次回更新は一週間後くらいになると思います。年度末ですが暇過ぎて寝るしかない時にでもまた見て頂けると嬉しいです!




