表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/199

トモシビの炎

※2月20日誤字修正しました。ご報告ありがとうです!



光が消えた。



「……あれ?」



しかし何も起こらなかった。

なんだったの?

いやなんか、お尻がムズムズするような。

正確にはお尻の上らへんが……。

この巨大生物は残念ながらそんな私の事情をなんら考慮してくれなかった。

触手が迫る。



「正面!」

「ぶつかります!」



スレスレを触手が通り過ぎる。また気流が乱れて、通り過ぎた跡に吸い込まれそうになる。

何かがバタバタと足に触れている。

変な感触だ。

顔を向けると見慣れぬ白い尻尾がなびいていた。



「お嬢様……は、生えてるのですか?」



エステレアが尻尾を引っ張った。

痛い。くっついてる。

私に生えている。

尻尾は白い……銀色かな? それで先端が赤くなってる。

このカラーリング、どう見ても私の尻尾だ。

私は尻尾を動かしてみた。尻尾はフェリスのそれのようにフリフリ動いた。



「わあ、お揃いだねトモシビちゃん」

「え、え、なに? 卵のせい? 意味わかんない」



私も分からない。

ん、いや……あれ? なんか分かる。

私の中に何か新しい力の感覚がある。

腕を振るように、力を振るえる気がする。

私はこれを知っている。

一度だけ……入学式の日、あの体育館で私はこの力を体で味わった。



「トモシビ!」



内観に浸る私にスライムが警告の声をかける。

クルルスの触手の先端、その一つ一つに巨大な魔法陣が現れた。

これは……たぶんレーヴァテインだ。

私の知っているのとはちょっと違うけど概ね同じだ。ビームの魔術だ。

一体どこで学んだのか。

実はこいつがオリジナルを作ったのだとしても驚かない。

私のものとは比べ物にならない魔力が込められている。

無数の触手が銃口を向けるようにゆっくりとこちらを向いた。

逃げ場はない。



「お嬢様……一緒ですから」



エステレアがギュッと私を胸に抱いた。私が怖くないように。

エステレアはこんな時、いつもこうやって私を支えてくれていた。

それは彼女が飛ぶのが上手いというだけの理由ではない。

彼女は置いていかれるのが……残されるのが嫌なのだ。

一緒に死ねるならそれで良い。そう思っているのだ、健気にも。

……死ぬ。

本来なら。



「エステレア、みてて」



私の魔力を空間に広げていく。

天脈からスライム、そして私へ受け渡された魔力がまた空間に散っていく。

それは私色の魔力だ。

全て私の意思で動かせる。

その魔力が触手の魔法陣を書き換えていく。



「私が全部、なんとかするから」



地鳴りのような重低音を轟かせて触手が破裂した。

次々に千切れ、ゆっくりと落ちていく。

今のは私の魔力の性質を変化させ、相手の魔力と同一化して上書きしたのだ。

離れた場所の魔力を感じ取るのは障壁の練習で散々やってきた。



「トモシビ……今なにを?」

「頭の上にいこ」

「の、乗るの? 大丈夫?」



やれる、今なら。

倒し方が思い浮かんだ。

触手をやられたクルルスは顔を背けて痛がっている。

案外敏感らしい。人間みたいな動きだ。

私たちはその島にしか見えない頭に降り立った。

ヌルヌルして滑る。

苔だかカビだか分からないものが生える頭に私は手をついた。

ぬるっとした。気持ち悪い。


スライムから次々と送られて来る魔力を浸透させていく。

この宇宙怪獣みたいなのを破壊するには中からやるしかない。

こいつの体内の魔力を直接操作してやる。

あの時、先生がやったように。

一度この体で受けた魔法だ。忘れることはない。

精神を集中させる。

私の尻尾がピンと張った。これも新しい感覚だ。



「トモシビちゃん!」



左右から山のような手が迫る。

私の魔力支配で魔力を封じられ、触手を破壊されたクルルスは手で直接潰す事にしたらしい。

うるさい蚊を叩き潰すように。



「大丈夫」



ボワっと衝撃波のような炎が私から発せられた。

それは4人を素通りして、瞬間的にクルルスの手まで走る。

やつの手の平は私達に到達する直前でボロボロと崩れて消えていく。

続いて指が、手首が、灰になっていく。


聖炎の効果だ。

聖炎は本来虫にしか効かない。それはたぶん私の意向が関係しているのだろうが、私の意思ではどうにもできない。

しかし魔力支配によってその性質を書き換えることは可能だ。

私の意思で燃やしたいものだけを燃やす炎。

こいつの体内に漲る魔力をその特殊な炎に変換しているのである。



「これ、持ってて」

「スカイドライブですか?」

「足場、なくなるから」



こいつの魔力を全部変換して自滅させてやる。

いつものように太陽のイメージ。

ただし、私の中ではない。

この魔神の中に太陽を作るのだ。

私の心が炎のように燃え上がる。

いや、炎が私の心から漏れ出している。

気分が高揚する。


私の全身を炎が包んだ。いつものような赤ではない。青白い炎だ。

ゲジゲジの時のように燃え広がることはない。

私の制御の下で静かに燃えている。

クルルスの中の魔力を私の魔力が侵食していく。

全てを炎に変えていくのが分かる。



「トモシビ様……」



地響きのような音が聞こえる。

鳴き声だ。

魔神が鳴いている。

フワリと、足場ごと落下する感覚。

こいつの体が灰になって崩れているのだ。

地割れのように足元が割れた。

その下から光が溢れる。

全てが白い灰になっていく。

その中心に巨大な太陽のごとき炎の塊がある。


この太陽は私の中の破壊衝動そのものだ。

思えばいつも私の中で燻っていた衝動。

あの強そうな男子達に勝ちたい。戦いたい。力一杯殴りたい。勝利して跪かせたい。

全てを焼き尽くしたい。

私が炎を使う時、いつもそんな衝動を解放するカタルシスがある。

エステレアは私を天使と言うけれど、そんな天使がいるものか。


私は落下していく。

呆気なく灰燼と化したクルルスの残骸が一緒に落ちる。

スカイドライブを起動したエステレアに支えられてフワリと浮いた。

みんな無事だ。



「お嬢様……流石はお嬢様です」

「トモシビ、もう本当に魔王を名乗って良いかと」

「ば、馬鹿なこと言わないでください」



そんなもの名乗りたくない。

人気者になりたいのに疎まれたら本末転倒だ。

私は天使ではないけど魔王などでもない。

私の心の片隅には暴力的な思いがあるものの、それを抑える理性だって当然ある。

それは何も特別なことではない。人間が普遍的に持っているものだ。

私は前世からずっと普通の人間だ。だから普通じゃない人生に憧れるのだ。



「ねえ、結局こいつは何だったの? 尻尾とか卵は? さっきから混乱しっぱなしなんだけど……」

「何が何だか分からないうちにトモシビちゃんがやっつけちゃったね……」

「お嬢様が行く手を遮る邪魔者を排除しただけですわ」



クルルスの体の中心が消滅して四肢が海に落ちて行き、その四肢も途中で燃え尽きて灰になった。

その灰も上空の強い風に煽られて綺麗さっぱり消え去っていく。

もうあのビーチリゾートから気味の悪いオブジェが見えることはない。

私の作った太陽も薄れていく。



「あ、そうだ。あの卵はオルクスの家にあった家宝のやつだよ」

「……獣人の家宝だから、尻尾が出てきたのかも」

「そんなことあるの?」



分からない。

そもそもこの力は私のものという感じがしない。

突然与えられた力なんて、突然なくなるかもしれない。得体が知れないドーピングである。


でもこの尻尾……。

私はお尻の上の部分に力を入れて尻尾を振ってみた。

フェリスのより太くて毛が多い。

もふもふで可愛い。さすが私の尻尾だ。

この尻尾は気に入った。

これそのうち取れるのかな?

もしドーピングが抜けても、これだけは残しておきたい。



「ともあれ、お嬢様はしばしお休みください。あとは私達がジェノバまで飛びます」

「エステレアはトモシビの尻尾が気になるようですね」



変な感触があると思ったら、エステレアが私の尻尾を撫で回している。

不思議な感覚だ。

尻尾撫でられるってこういう感覚なのか。フェリスの気持ちがわかった。



「おねがい」

「お嬢様尻尾可愛い……フカフカでモフモフでサラサラです」

「あ、ほんと、すごい手触り」

「う……なんか嫉妬しちゃうなあ」

「フェリスさんのはトモシビ様専用みたいなところありますからね」



私の尻尾だけあってフェリスに勝るとも劣らない毛並みだ。

まあ、とにかく細かいことは後で考えよう。

もうジェノバは目と鼻の先だ。

薄っすらと陸地が見える。

私は新しく生えてきた尻尾を4人に撫で回されながらしばしの休憩に入ったのであった。







それから少しして私たちはついに懐かしいジェノバの上空に到達した。

陸地に向けて高度を下げていく。

天脈からの魔力供給が途切れる。

気流が唸る中を卵みたいな風圧シールドで突き進む。

建物が大きくなっていく。

豆粒からミニチュア模型へ、そして原寸大の建物に見えるように変化していく。

外にはパラパラと人がいる。


ジェノバはちょっとした騒ぎが起こっているようだ。

あの巨大物体が動き、しかも突然消えたのである。何が起こったか気にしないものはいないだろう。

しかし不幸中の幸いというべきか、どうやら津波の心配はないらしい。海は穏やかなものだ。


ビーチで騒いでる人々は空までは注目していない。

私達が目指すのは以前泊まったホテル、グランリッジだ。

今日はここで一泊して、馬車を手配してもらう。

それからまた一日かけてグランドリアに帰るのである。

5人と1匹はホテルの裏に降下し……着地した。



「わ」

「トモシビちゃん」



足元がふらついて転びかける私をフェリスが支える。

長い間飛んでいた弊害かな。



「きっと尻尾があるからバランスが違うんだよ」



なるほど、そういうこともあるかもしれない。



「お嬢様、あまり尻尾を立てられてはスカートが捲れてしまいます」

「ぶらぶらして、歩きにくい」

「ちょっとだけ浮かせるんだよ」

「……こう?」

「うん、歩くのに合わせて少し振るといいよ」



尻尾を不器用に振ってみた。

やっぱり生まれた時から付いてるフェリスとは違って尻尾筋が発達してないみたいだ。



「あぁん可愛い……一日中お手入れして差し上げますからね」

「後で尻尾のこといっぱい教えてあげるね」

「うん」



フェリスの尻尾が私の尻尾に伸びて、スリスリしてきた。私も頑張って尻尾を操ろうとする。

ぎこちなく尻尾同士が触れ合って巻きついた。



「ああ、尊い……尊くないですか? 尻尾同士あんなに擦り合わせて」

「そう……ね。なんか別のもの連想してない?」



フェリスと尻尾を繋いでホテルに入ると受付が驚いた顔で出迎えた。

私達のことを覚えていてくれたらしい。

本当なら予約しないと泊めてくれないそうなのだが、アナスタシアの友達ということで特別に許してくれた。

コネというものは良いものだ。

部屋に入ると私はすぐにベッドにダイブした。


これでやっとグランドリアに戻ってきた実感が起きた。

皇帝に閉じ込められてスラムに逃げ込み、遺跡を破壊し、皇帝をぶん殴り、タブロバニー虫の触覚をへし折って、何十時間も空を飛んで外洋を渡った。

最後のは人類史に残る快挙だと思う。


その上、謎の像と思われていた巨大生物を破壊して……なんか尻尾が生えた。

大冒険だった。

帰ったらアナスタシア達に話そう。きっとみんな驚く。

あと私達を置いて帰ったアスラームは……しばらく喋るたびに舌打ちしてやる。

地味に傷付きそうだ。

……可哀想だから、謝ったら許してあげようかな。



ちなみにトモシビちゃんの尻尾は猫なのか何なのか不明です。毛並みはとても良いです。マフラーにすると暖かいと思います。


※次回更新は2月24日月曜日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] ぞ…属性が…トモシビの属性が増えていく…! 尻尾だけで耳は人間イヤーのままなのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ