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今日、お嬢様が飛んだ

※2月17日誤字修正しました。ご報告ありがとうございます!



「お嬢様、どういたしましょう?」



屋根に降り立つ私達。

屋根とは言っても、巨大な芋虫の頭だ。虫嫌いの私には嫌悪感があるが、その中で寝泊まりしていたことを考えると今更である。

用があるのはこの渦巻く魔力を集めている触覚だ。



「こうする」



私はそれに聖炎をぶつけた。

触覚は中程が灰となり、先端がポキリと折れて落ちた。



「え〜!?」

「トモシビ、良いのですか?」

「良いか悪いか、ルールを決めるのは誰ですか?」

「……トモシビです。なるほど、また一つ賢くなりました」



また一つスライムの常識が壊れた。

私は恐る恐る折れた触覚を拾った。

気持ち悪い。

折ったものの、やっぱり虫の一部を触るのは抵抗がある。

そして胸元からスライムを引っ張り出すと、その触覚をスライムに雑に刺した。



「と、トモシビ……もっと、優しくして……ください」

「魔力変換して、わたして」

「変換……ってまさか」

「飛んで帰るんですか?! 天脈の魔力で?!」

「うん」



この高度を保てば天脈からいくらでも魔力が手に入る。それで飛んで帰るのだ。

風の影響や気温気圧は風圧シールドで防ぐ。

天脈から魔力を使い放題にできるのならいくらでも加速できる。

たぶん人類史上初の空の旅だ。



「しっかり、つかまってて」

「だ、大丈夫なんでしょうか? 海を通るんですよね?」

「途中で落ちたら……」

「お嬢様は落ちません。常に上り続けるのです」



水平飛行だけど。

渦巻く魔力がスライムに集まり、さらに私に流れ込むのを感じる。

スカイドライブ最大出力。ブースターリミッター解除。

そして風圧シールドをより強固に張り直す。

5人と一匹の体は高度一万メートル以上の空を駆けた。







凄い勢いで飛んで行く。

飛行機よりは遅いと思う。でもあのドラゴンよりはずっと早いはずだ。

眼下に見えるのは砂漠に山に森……遠くには海岸線。



「シーカーで、イカクラゲがいないか見てて」

「わかったわ」



透明な魔物は魔力を見ればわかる。そんなの滅多にいないと思うけど、この速度でイカクラゲにぶつかったら即死である。注意が必要だ。



「お嬢様、ブースターと風の膜は私達でも可能です。交代で休みながら行ってはどうでしょう」

「そうする」

「ほ、ほんとに行くんですね……」



何時間かかるだろう?

いや、もしかしたら何日?

今はなんとも言えない。

しかし幸い私は冒険セットを持って来ている。保存食も多少はある。

スライムは睡眠が必要ないし風圧シールドもスカイドライブも交代で使えば問題ない。



「トルテがいたら大騒ぎしてたわ。あの子高い所も苦手だから」

「これは誰でも怖いと思いますよ」

「お嬢様を胸に抱いてる限り怖いものなどございません」



とにかく北の海へ行けば良い。

そこからは方角を修正しつつひたすら海を北上する。

そうしたら、目印が見えてくるはずだ。


そのまま1時間ほどで海の上に出た。ここからは墜落したら即死だ。

飛び続けなければならない。地面があるとないでは心理的に全然違うのだ。

大海原は雄大だが同時にとても恐ろしいものだ。

眺めていると魚が跳ねるのが見えた。

ここから肉眼で見える魚……とんでもないサイズだ。学園の校舎くらいは飲み込むかもしれない。

しがみ付いたフェリスがブルブル震えた。



「トモシビちゃん……」

「大丈夫」



ギュッとフェリスと抱き合う。私の足に尻尾が巻きついた。

相手は魔物である。突然空を飛んで襲いかかって来ても何もおかしくはない。

海はバケモノの巣窟。空にもスカイサーペントより危険なのがいるかもしれない。

安全圏はない。

いや、あまり考えないようにしよう。

この速度に追いつけるようなのはいない、と思う。

いないはずだ。

そう信じたい。



「流石に寒くなってきましたね」

「お嬢様ヒーターがなければ凍死しておりましたわ」



みんな全力で私にしがみついてる。私はそこまで体温は高くない。魔術でシールド内部の気温を上げているだけである。

ただ気持ち的には私としてもしがみつかれてる方が楽だ。

私たちは前人未到の空を生身で横断しているのだ。

あまりに心細い。



「トモシビ様! 前!」

「イカクラゲですか?」

「違うけど見て!」



……なんだ?

透明ではない。肉眼で見える。

何か浮いてる。

それは巨大な純白の花のような物体だった。

光を反射して輝く大理石みたいな花。

花弁も備えているが植物にしては硬質に見える。

内部に魔力はない。

とすると……魔物ではないのかな。



「迂回しよ」

「そ、そうですね。気味が悪いです」



花を避けるように弧を描いて進む。

正体不明だが近寄ったら攻撃してくるかもしれない。

とにかく危険そうなものは避けて行く。

花は特に私達を気にするそぶりもなく、悠然と浮かんで後方へ流れていった。

なんだったのだろう。


それからは他にも様々な未確認飛行物体が現れた。

魔力の反応がある謎の雲、歩いてる人型生物、イカクラゲより大きい透明な魔物などなど得体の知れないものばかりだ。

この世界の空には色々浮かんでいるようだ。

その都度迂回して事なきを得たものの、正体が分からないというのはただの魔物より恐ろしい。







そうして10時間以上が経った。

ウトウトと仮眠を取る私にエステレアが声をかけた。



「お嬢様、お嬢様」

「ん……まだ食べる……」

「違いますわ。見えてきました」

「トモシビちゃん夢の中ではたくさん食べてるんだね」



視界の先に天を衝く巨大な人形が姿を現した。煙った日の山影のように薄っすらと見える。



「クルルスの像……早かったですね」

「あれが……」

「そっか、スライムは見たことないのね」

「あの先に私達のグランドリアがあるんだよね」



そのはずだ。

像に向かって進む。

あそこまでたどり着けばもう陸地が見えるはずだ。

私達が進むにつれて視界の中でクルルスの像がどんどん大きくなっていく。

やがてその姿がハッキリと見えてくる。

いや……像ではない。魔力がある。

あれは魔物だ。

しかも生きてる。

というか……。



「あ……あの、トモシビ様……」

「動いてるよね!? あれ!?」



フェリスが泣きそうな声を上げた。

クルルスの像……クルルスは概ね人間のような姿をしていた。

水死体みたいなプロポーションで頭が大きい。その頭からは無数の触手のようなものが生えている。緑と灰色を混ぜたような気味の悪い色をした肌は海藻や苔が生えているのかもしれない。


それが動いてる。

水面に波を立てて、こっちに歩いて来ている。

私達は震え上がった。

やつの身長なら私達の高度まで余裕で届く。

なんであんな規格外の巨大生物が存在できるのか、といった常識は魔物には通用しない。



「さ、避けられないでしょうか?」

「追って来て上陸したらどうするの!?」

「そんな……だってどんどん近づいてきてますよ!」



クロエが半狂乱で叫ぶ。

山みたいだ。

富士山三個分くらいある狂ったサイズの生き物がこちらへ向かってる。

プールで歩いてる人みたいな姿勢はどこかユーモラスにすら見える……とか思うのは私も混乱しているのかもしれない。

上陸したらグランドリアは滅亡するだろう。

あの巨大ミミズがただのミミズに見えるくらいだ。



「お嬢様……」



ならば倒す?

……あれを?

天脈から魔力はいくらでも手に入る。時間をかけて溜めればレイジングスターでこいつを覆うくらいの出力は出せる……かもしれない。

だがもし仮に出せたとしても私達も余波で死ぬだろう。

核爆発クラス、あるいはその何倍のエネルギーが必要だと思う。

生身の私達が耐えられるわけがない。現実的ではない。


やがてクルルスはもう本当に山にしか見えないくらいまで近づいてきた。

大きすぎて崖が動いてるようにしか見えない。

顔についた学園の運動場みたいな目がこちらを捉える。

私の足に巻きついたフェリスの尻尾が総毛立った。



「し、し、下から、来ます……!」

「みぎによけて!」



ゴウと雲を切り裂いて、下から手が伸びてきた。

全員でブースターを吹かして避ける。この掌だけで全長1kmくらいあると思う。頭がおかしくなりそうだ。



「ブースター遅くして」

「わかりました!」



急所を狙うしかない。

脳に直接エクスプロージョンを叩き込んでやる。

私の周囲に無数の″窓″が出現した。

マンティコアに使った座標指定の式だ。

リミッター解除、ゼロ距離エクスプロージョン。


クルルスは頭足類みたいに目を細めた。

それだけだ。

エクスプロージョンが頭の内部で炸裂した……はずなのに。

魔力も学園の校舎を吹き飛ばすくらいは込めた。



「もう一回」



同じ工程を行う。

何も起こらない。

いや、魔力が動いた?



「……障壁です。私の時のトモシビのように内部に障壁を作っています」

「こ、こいつ魔術まで使うの!?」

「待って! いっぱい来た!」



雲を散らしながら何かが迫って来ていた。

触手だ。

頭の下から生えてる触手を何本も伸ているのだ。

下からうねってきた。ブースターで右に避ける。

さらに横薙ぎの一撃を急降下で、左上から伸びて来たのは猛スピードで振り切る。

一つ一つが直径何百メートルもある。触手が通り過ぎるだけで風圧で吸い込まれそうになる。

これはもう戦いではない。蚊トンボを駆除するようなものだ。

全く勝ち目が見えない。


逃げる場所もない。

どうしよう。

大体……なんでこんなのが今まで寝てた?

ビーチで見て、これが魔物だったら終わりだって思ってたら本当に魔物だった。

なんで突然動きだした?

私のせい? 近くを通ったから?

いくら狙われ体質だからってこんな魔神みたいなのまで私を狙うのだろうか?

魔神……魔王とは違うのかな?

私は魔王とか言われるけど、こいつは次元が違う。

あのめすいぬ……カサンドラの仕える魔王はこれより強いのだろうか。



『貴女様がピンチになった時、割ってください』



……そういえば。

私はアイテムボックスから卵を取り出した。

これのこと忘れてた。しまい込んだまま一回も出してなかった。

卵はもらった時と様子が違っていた。

なんか、温かい。それに何か中で動いてるような……。



「トモシビ様、それ……」

「めすいぬにもらった」

「お嬢様、知らない人から物をもらっては」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」

「それ、オルクスの家で見たことあるよ」



え?

卵にヒビが入った。

……あ。

パリッと割れる。

割らずとも勝手に割れてしまった。

中から魔力が溢れ出す。

八方から触手が伸びてくる中、卵が光を放った。



飛行機に乗った記憶があるトモシビちゃんと4人では空の旅に対する考え方は違いそうですね。


※次回更新は2月20日木曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 寝ながら飛んでる! かわいい! もうクソザコでもないし天そのままになってるんです タイトル変えなきゃ…
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