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敵も味方も大体癒しを求める

※三人称視点になります。



「レメディオス……?」

「ああ、そうだ」

「……?」

「連れてきたガキは最終的にはあいつの研究所に渡ってるはずだ」

「……?」

「と、トモシビ様、あのエルフですよ。全権大使の」



彼女はそう言われてハッとしたような顔をした。

思い出したようだ。

どうもこの主人は人の名前を覚えるのが苦手らしい。


ジグはだんだん怖くなってきていた。

先ほど見せ付けられた拷問のショックだ。



(俺のせいか……?)



ジグはこの数日毎日足置きになったり跪いてお仕置きを乞うたりしていた。この幼い主人の才能を開花させるためだ。

その甲斐もあって、彼女はジグに足を乗せるくらいならさして抵抗がなくなってきたようだった。

しかし、まさかこの短時間であそこまでノリノリで股間を踏みつけるようになるとは思わなかった。

一体将来どうなってしまうのか。

彼にとっては恐ろしくもあり楽しみでもある。



「じゃあ貴方達、皇帝と繋がってるって事じゃない」

「そういうわけじゃねえ」

「なんで? 大使でしょ?」

「レメディオスは皇帝に黙って色んなことしてんのさ。その一つがこれだ」



奴隷は誰でも良いわけじゃないらしい。レメディオスが集めていたのはグランドリアのヒューマンの子供だと言う。

しかも魔力の高い子を選別させられていたそうだ。

不気味な話である。

あの女なら体を切り刻んで人体改造するくらいのことはやるだろう。と、ジグは身震いした。



「あのー……もう深入りはやめませんか? 今は助け出すのは無理ですよ」



そんな残酷な話はこの幼い主人達に聞かせたくなかった。もし踏み込んで現場に出くわしたら心にどんな傷を負うか分からない。



「研究所って、どこ?」

「知らん……い、いや知りません。俺たちは仲介業者に売ってるだけなんで……でも皇帝の目の届くとこにはねえと思います」

「ほら、もう無理ですよ。情報を入手しただけで儲けもんです」

「そうですね、私達も追われてる身ですし」

「明日には私達帰らなきゃいけないもんね」

「……わかった」



彼女は渋々諦めた。

ただでさえ地下に逃げ込んでいる身で、そんな事が出来ようはずがない。



「ではお嬢様、おみ足を洗浄いたしましょう」

「そうね、あんなとこ触っちゃったんだから」

「次からはせめて何か道具をお使いに……いえ、もうこのような事は……」

「お、おい、俺たちはこのままなのか?」



縛られたままのギャングの男が哀れな声をあげた。



「ドM、適当に放り出しておきなさい」

「いやギャングですよ? 自由にしたら報復で何をするかわかりませんよ。せめてここを発つまで縛っておいては?」

「何もやらねえよ。き、気持ちよかったし……」



ギャングの男は気持ち悪い顔で主人を見た。いかつい男が小さな少女に媚びるような目を向けているのだ。



(堕ちてやがる……)



ジグはこのキモい顔の男に少し嫉妬した。







「お嬢様、もう男性の股間を踏んではいけません。穢れてしまいます」

「そうですよ、ばっちいです」



主人の足を丹念に洗うメイド。

男は病原菌みたいな扱いだ。しかし美少女同士、百合の花園みたいな生活をしている彼女らからするとそんなものなのかもしれない。

ジグはなるべく気配を消して空気になる事にした。空気になるスキルはジグがこの一週間で最も多用したものだ。



「ねえトモシビ様、ちょっと私も……」

「どうしました?」

「……な、なんでもない」



騎士見習いの少女、エクレアは拷問を見てからソワソワしっぱなしだ。手で顔を扇いだり、足をもじもじさせたり……隠してるつもりのようだがジグから見ると丸わかりである。



「エクレア」



そんな彼女に主人が手を広げた。

身長差的に抱っこをせがむ子供みたいだが、そうではないのをジグは知っている。

エクレアは少しだけ躊躇いながら彼女の薄い胸に顔を埋めた。

その頭を抱え込むように撫でるロリロリしい主人。



「トモシビ様ぁ……」

「なでなで、してあげる」

「うん……」



大人っぽいエクレアが甘える様子はどこか倒錯的である。

孤児院出身だという彼女にも色々あるのだろう。

それにしてもこの慈母のような甘々っぷりはどうだ。13歳の少女とは思えない。


この主人は鏡のようなものだ、とジグは思った。

個人の欲望を的確に読む。そしてそれぞれに対応した方法で墜としていくのだ。

神様なのに悪魔のごとき手腕。

いやこの場合はどちらかというと……。



(魔王か……)



一つだけ確かだと思えるのは、彼女についていけば幸せになれそうだという事だった。







一方、トモシビに追跡の手を悉くかわされたレメディオスは落胆していた。

彼女は自他共に認める天才だ。魔導具学、魔法生物学などに精通し、魔導具開発だけでなく魔法の影響を受けた生物を作り出すことさえできた。

グランドリアでは神への挑戦などと言われかねない彼女の研究もこのアルグレオでは受け入れられている。倫理も法も皇帝が決めるものだからだ。

そのプライドの高い天才が頭脳戦で敗れた。

トモシビの名声を貶めようとして失敗し、魔封器とやらを手に入れようとして失敗し、この度のトモシビ追跡も失敗した。

皇帝からは『使えないやつ』とまで言われてしまった。その事実が彼女のプライドを傷つけていた。



「あの、教授さん、ご飯できました」

「ご苦労様」



食事を作っているのは奴隷として買い取った子供だ。



「ふぅ、やっぱりおいしいですね」

「ありがとうございます」

「……ちょっとこっちへ来なさい」

「え? はい……うわっ」



レメディオスは奴隷に力いっぱい抱きついた。



「あ、あの……」

「ジッとしてなさい」



子供は良い。

心が落ち着く。ストレスが消えていくようだ。いや消えはしないのだが、前向きな気持ちになる。

たしかに虫は役に立たなかった。しかしそれが何だというのか。

要は逃さなければ良いのだ。

まだ手はある。


実のところ、彼女が集めた奴隷は研究所で何不自由ない生活を送っている。

やることと言えば、少し実験に協力するだけだ。


グランドリア人はアルグレオ人に比べて魔法の才能があるものが非常に多い。

魔力が高い者、魔力を操る才能がある者、霊術の素質がある者、そういった魔法使いの卵たる子供達がお金や機会に恵まれないせいで才に気付かず一生を終えるのだ。

彼女は奴隷の中からそんな子供を選別し、買い取って能力開発しているのである。



「ううー……一匹しかいない岩侵虫やられちゃったよぅ……」

「はあ」

「……言われた通りにやりなさい」

「あ、た、大変でしたね。よちよち」



奴隷が頭を撫でた。

ちなみにこの奴隷は料理がうまいので住み込みで料理をさせている。

それでたまにこうしてリラックスするのに使うのだ。



「ちょっと教授、ベル鳴らしてるんだけど」



奴隷に慰めてもらっていると声がした。

エルフの少女ディラである。

いつのまにか部屋にディラがいたのだ。



「朝早く遺跡行くんでしょ? もう準備に取り掛からないと」

「そんな時間ですか……ふぅ、もういいですよ」



皇帝にグチグチ嫌味を言われて沈んでいた気分は落ち着いた。

彼は無能ではないがわがままだ。気に食わないことがあるとすぐに側の者に当たる。

研究はトライアンドエラーが基本である。試作品に最初から完璧を求められても困る。

壊れたらまた作れば良いのだ。

彼女の中でモヤモヤの落とし所が決まった。

天才だって完璧ではない。間違う事もある。しかし一度きりのまぐれではなく何度でも成果を出すから天才なのだ。

トモシビ・セレストエイムの事も甘く見すぎた。

彼女もまた天才なのだろう。

レメディオスは相手を認める事にした。



「トモシビ・セレストエイムもこちらへ来ればたっぷり可愛がってあげるんですけどね、ふふふ……」

「いちいち悪そうな顔するのやめなさいよ……」

「そんな顔していますか?」

「本当に可愛がりたいならそういう顔した方がいいと思うわ、陛下もだけど」



レメディオスは意外と子供好きであり、子供に癒されるのも大好きだった。

奴隷は命令すればやってくれるが、好きでやっているわけではない。



(もっと慈愛に満ちた子供が欲しいですね)



例えば自分からハグしてくれてなでなでしてくれて甘い囁きと良い匂いで慰めてくれるような……。

レメディオスは、件の少女がまさにそれを同時刻にやっているなど思いもしなかった。







次の日、遺跡の魔法陣の部屋でレメディオス達はトモシビ達が来るのを待っていた。



「……ふー」

「……」

「ふぁーあ……」



会話はない。

朝から張り込んでいるのだ。

話題などとっくに尽きた。

レメディオスはおやつのパンケーキを齧った。

奴隷に作らせたものである。

グランドリアに行って以来、レメディオスはすっかりあちらのスイーツの虜になっていた。


辺りに芳しい香りが漂う。

それを横目で見ていた兵士の一人がつまらなそうにポイっと小石を投げる。

その石が転げる音が止まり、静寂が訪れた。

その時である。

階段からコツコツという足音が微かに聞こえてきた。

一人ではない。

それを聞いて、遺跡の中でレメディオスはいつものように歪んだ笑みを浮かべた。



「来ましたね」

「はぁ……やっとね。何時間待たされたことやら」

「どうせ彼女はここに来るしかないのです。ここにネズミ捕りを仕掛ければ終わりです」



相手がどんなに慎重でも関係ない。トモシビ達は今日ここに来なければならないのだから、最初から詰んでるのだ。

何度も煮え湯を飲まされたがもうおしまいだ。そう思うとレメディオスは笑みがこぼれて仕方ないのであった。



「でもさあ、こんな真似ばかりしてあの子恨んだりしないの?」

「何もしていないのに逃げるのがおかしいのです。国賓を丁重に扱ったら逃亡したので連れ戻した。それだけです」

「物は言いようね」



たしかに他の者と合わせないようにはした。だが、それだけだ。

外に出たがらないトモシビを気遣って休ませた、と言えばそれまでである。

虫による監視も施錠も必要だからしているまでだ。国家機密に触れられては困るのである。

自分達があちらへ行った時も監視の目はそこら中にあったのだから責められる筋合いはない。

むしろ虫を破壊した賠償請求をしたいくらいだ。

と、レメディオスはいつものように大袈裟な身振り手振りで語った。



「そんなにうるさくしたら聞こえちゃうんじゃない?」

「聞こえても問題ありませんよ」

「何を仕掛けたの? 昨日から準備してたけど」



仕掛けたのはレメディオスが何日も残業して拵えた装置だ。膨大な魔力が必要なのでキリン体……正式名称セルの心臓部をいくつも繋いで階段のところに設置したのである。



「ループ空間です。内部から破るのは物理的に不可能です」

「あの子でも?」

「空間歪曲を戻さなければ何をやっても自分に返るだけです。そして内部から装置に手出しすることはできません」



完璧な布陣である。

今度こそこちらの勝利だ。レメディオスは確信していた。



「あ、使者の人」

「と……トモシビ・セレストエイム!」



暗闇でも一目でわかる、銀髪に赤の髪先が目立つ少女が現れるまでは。



エルフは基本ツンデレです。上から目線で悪そうな顔してますがそこまで悪い事はしない感じですね。戦争行為とかはしますけど。


※次回更新は2月13日木曜日になります。

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