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神より大事なことがある

※6月1日文章修正しました。ご指摘ありがとうございます!



聖火教は火を尊ぶ宗教である。

火は光であり、太陽であり、全ての恵みを与え、全てを清める、と考えられている。

彼らの崇める神、聖火神と呼ばれるその神は天の彼方からこの世界にやってきたと言われている。この世に光をもたらし、人々の心に久遠の火を灯していったとかなんとかいう話だ。

で、その神は赤銀二色の美しい髪を持っていたらしい。

セレストエイムでそういう髪の毛を持った子供が生まれ、おまけに優秀な成績でグランドリア魔法学園に入学すると聞いて、急遽クロエが派遣されたそうだ。



「トモシビ様、貴女には特別な力があるはずです。それが何よりの証拠」



……ある。

髪の色もそうだし、天からこの世界にやってきたとか、思い当たる節は多々ある。


じゃあ私の前世である″俺″が聖火神?

そんなはずはない。

偶然、私と似たような誰かがいたのだろうか?


皆沈黙している。

私の反応を待っているようだ。

……答えの出ない事を考えても仕方ない。

ショッピングの時間が減ってしまう。



「そっか。じゃ、行こ」

「淡白すぎるよトモシビちゃん!」

「わ、私の説明に何か至らぬ点が……?」

「大丈夫」



特にない。ただ優先順位というものがあるのだ。



「お嬢様の神性は元より自明です。入学式でも天から舞い降りたと申し上げたはずです」

「で、ではやはり」

「しっ、これ以上は後ほど……」



勝手に話を進めて行く二人。

このままだと私も異教徒扱いされるかもしれない、と思って見回すと皆は生暖かい目をしていた。

エステレアが頭の可哀想なクロエをうまく丸め込んでる、と思っているのだろう。まあ半分はその通りなのだろうが、もう半分は本気だと思う。

ともあれ、話は終わったようなのでもう行くことにしよう。







さて、私達が今いるのは制服専門店『JC & K』。

女子学生の制服ばかりズラリと取り揃えている様は専門店に相応しい。メンズサイズの女子制服という意味の分からないものまである。



「色々ありますわね」

「とりあえず小物見ようよ」



ファッションには一家言あるらしいジューンの導きに従う6人。

アナスタシアとクロエは慣れてないのかキョロキョロしている。


魔法学園の制服は基本的にはブラウスとスカート。その上にブレザー、カーディガンなどを着るようになっているが、魔法戦クラスのみワンピースジャケットが支給される。これは軍服をモチーフとしており、防刃で温度変化にも強く機能的な作りになっている。そのわりには着心地が良く、何よりデザインが優れているため人気が高い。

私達も基本はワンピースジャケットなのだが、ブレザーよりコーディネートが限られてしまうので、タイやベルトなどの小物でお洒落を楽しもうという魂胆である。



「やっぱりまずはタイかなあ」

「いっそ大胆に変えたらどうかな?」

「こっちの色とか」

「トモシビちゃんこれどう?」



フェリスは元気なタイプなので清楚系にしてみようということになった。スカートの裾から覗くペチスカートのレースが良い感じだ。ワンポイントにアクセサリーが欲しいところだが、猫耳尻尾が目立ってるのでこれ以上は余計かもしれない。



「かわいい」

「可愛いですね」

「えへへ、これだけでも可愛くなるね」

「素材が良かった」



次はクロエだ。

彼女は大人しそうなので逆に派手目にしたら面白そうだ。スカートを短くしてリボンを取ってみる。



「セクシー」

「な、なんか恥ずかしいです」

「2人逆の方が良いのではなくて?」

「ギャップ狙いだね。アクセは他の店にも良いのあるよ」



ちなみにメイド二人は何やらマニアックな一角を見ている。



「エステレアさん、メイドエプロンがありますよ」

「私達には嬉しいですね」



制服はそもそもアレンジして良いのか基準は明確にされていないので、どこまで許されるのかも不明だ。まあそれでこそ挑戦しがいがあると言うものである。



「む」



私が手に取ったのはいわゆるゴスロリ的な感じのフリルスカート。ついでにヘッドドレスも合わせてみよう。

もうちょっとだろうか。

リボンも変えて……まだ物足りない。

ブラウスもそれっぽいのに変えてみよう。



「んー……」



ベルトも変えたいけど良いものがない。家にあったやつとかどうだろう……。

とりあえず試着室から出て皆に見てもらう。



「トモシビちゃん似合いすぎ!」

「ふ、ふつくしい……」

「銀髪に黒が合うね。これなんかいいんじゃない?」



ジューンが差し出したのは金の飾り紐。

ピンと来た。

ワンピースジャケットのボタンにつけてみる。



「あ、いい感じ」

「エレガントですわ!」



ちょっとやり過ぎて痛い子になるかと思ったけど杞憂だったようだ。

やっぱり褒められると嬉しくなる。これ一式買って行こう。



「トモシビ様は意外と表情に出るのですね」

「お嬢様は嬉しいのを隠そうとする時が一番お可愛いのです」

「わかります。恥ずかしがるのが良いのですよね。姫様も昔はよく……」



メイド達が主婦みたいな会話をしている。エステレアは制服にまでメイド衣装を取り入れようとしてるようだが、お洒落にはあまり興味ないのだろうか。学校以外はいつもメイド服を着てるし、考えてみると私のファッションにもそこまで興味を示した事はない。髪の毛は弄りたがるけど髪型を考えてるのは大抵私である。



「ちょっとメイ!」



過去を暴露されそうになったアナスタシアが慌てて止める。

私も何となく面白くないので、エステレアに意見を聞いてみることにした。



「どう?」

「可愛すぎて食べてしまいたいです」



いつも通りの笑顔で言うエステレア。



「エステレアはこれ好き?」



と、スカートを摘み上げる。



「お嬢様なら何でも好きですわ」



何か違う。いや、何か物足りない。



「お、恐れながら、トモシビ様。エステレアさんに選ばせられてはどうでしょう」



不満が顔に出たのだろうか、クロエが進言してきた。うん、この物言いはもはや進言と言って差し支えないだろう。

なるほど、選んで貰えばエステレアの好みがわかる。

良い考えだ、と内心頷く。



「じゃあ選んでみて」

「私がですか……困りました」



エステレアは色んなものを手に取り、眺めては戻す。

本気で困っているようだ。



「こういう事には疎いので……お嬢様の美しさを損なってしまいそうです」

「エステレアさんの好きな服でいいんじゃないの?」

「……メイド服、でしょうか? しかしお嬢様にそのような格好をさせるわけには」



そうか、エステレアはメイド服が好きなのだ。私服が無いのではない。メイド服が私服だったのだ。

そうだ、良い事思いついた。



「アクセサリーでいい、交換しよ」



つまりお互いのアクセを選んでプレゼントし合う訳だ。エステレアはまだ困った様子だが、小物なら選びやすいのではないだろうか。

会計を済ませて次の店に向かう一行。

私はエステレアに似合いそうなものをあれこれ考えるのだった。







私が選んだアクセサリーはシンプルなチョーカー。

邪魔にならないし、メイド服にも制服にも合うと思ったのだ。

私が首に付けてあげると、エステレアは大層喜んで息ができないほど私を締め上げた。

すぐ引き離したが、さっきまでもやもやしていた不足感は嘘のように消えていた。

対して、エステレアが選んだものは布と革を組み合わせたベルトのようなものだった。



「それって……」

「ガーターベルトは早すぎると思うよ!」

「これは戦闘用のガーターですね」

「お嬢様の麗しいおみ足に装着して差し上げるのが楽しみですわ」

「ろくなこと考えてないですわね……」



よくあるランジェリーではなく、ナイフなどを保持しておけるホルスターだ。

これ、良いかも。

私にはアイテムボックスがあるが、その容量のほとんどは日用品で埋まっているし、いつ魔物に襲われるかわからない状況ならアイテムボックスを開いて取り出すより早いと思う。

控えめなデザインも良い。



「大事にする」

「うふふ、恐縮です」



そんな言葉だけ見れば簡素なやりとりをした後、私達はまた騒ぎながら色んな服を見たり買ったりしたのであった。







楽しいショッピングが終わり皆それぞれ帰路に就いた。

ついでに夕食も食べてきたので後はお風呂に入って寝るまで魔導書を読んだり魔術の練習をしたりするのが私の日課である。今日からは″窓″の解析をそこに加えようと思っていた。


だが現在、私の部屋にはなぜかクロエがいる。

彼女は当たり前のような顔して付いてきたわけだがエステレアも平然として迎えたのを見て彼女に聞きそびれていたことを思い出した。



「グレンに何されたの?」



今となっては正直どうでも良いのだが、手待ち無沙汰なので一応聞いてみる。



「グレンですか? 何もされていませんよ?」



グレンが何かしたから私達の所に来たのではなかったのだろうか?

私がそう尋ねると彼女は少し思案して言った。



「私はフレデリック、教団が親しくしてるアルラシム家のフレデリックから忠告を受けたのですよ」



フレデリック・アルラシム、聞いたことない名前だがBクラスらしい。驚いたことに聖火教にはこのような隠れた協力者が王都に何人も潜んでいるという。



「なんて?」

「ぼっちは目立つとの事です」

「それはそうですね」



実際目立ってたし。

グレンがフレデリックに命令したという事だろうか?

エステレアが持ってきた紅茶で一息つくと、クロエが姿勢を正して向き直った。



「と、トモシビ様、お願いがございます」

「お願い?」

「はい。聖火神様は人と人との心を繋ぎ、人類を一つにしたと言われております。そのお力をお示し頂きたいのです」

「どうやって?」

「トモシビ様はバトルロイヤルで一瞬にしてチーム全体に魔法をかけておりました。そのお力がきっとそうなのです」



クロエも観戦していたのか。

パーティー機能を使えば簡単にできる。

しかしクロエは本当に私を聖火神の生まれ変わりだと思っているのだろうか?

これを見せたら完全に信じ込むかもしれない。そうしたら教団に来てくれとか色々要求されそうである。



「控えなさい。神を試すなど無礼にもほどがあります」

「も、申し訳ありません!しかしやはりこの目で見なければ……」



エステレアが調子に乗りに乗っている。べつに見せるくらい良いか。どうなってもその時はその時だ。私はもうコソコソ生きるのはやめたのだ。



「分かった」



しかしパーティーはあの時の9人がまだ入ったままだ。

アナスタシアなどは今はお城にいるだろうし、これだけ離れてても魔法効果全体化は有効なのだろうか?ついでに試す価値はある。



「ああ……本物の聖炎がついに……」



クロエが恍惚とした表情で呟いた。

本物の聖炎……?

エステレアも疑問を感じたらしい。



「身体強化ではだめなのですか?」

「聖炎は霊的な炎です。トモシビ様のお力によって私の内なる世界に灯される久遠の光です」



クロエは一体何を言っているのだろう。

エステレアは処置なしというように首を振った。



「具体的に何をすれば」

「そのお力で私と繋げて頂いて、トモシビ様の内なる炎を分け与えるような感じで……あとは流れですかね」



だんだん図々しくなってきたクロエ。

しかし畏まられるよりその方が良い。

できるかどうかわからないが無茶振りに付き合ってあげよう。

別に付き合う必要もないのだが、期待されると応えたくなるものである。


クロエをパーティーに入れ、私の内側に集中する。

内なる炎ってなんだろう?

私の魔力のイメージは赤だ。これが炎なのだろうか?

魔力を身体中に行き渡らせたら身体強化となる。これをパーティーの繋がり、糸のようなイメージを通じて受け渡すとPT全体身体強化となるわけだ。

これではダメだ。

もっと炎らしく……。


魔力を一点に集中する。温度を高めるイメージ。やがて赤い炎から白く輝く太陽のように……。



「お嬢様!これは……」

「え? あっ、熱……くない」



私の髪の毛が燃えている。先端の赤い部分に火が灯っている。不思議と熱くない。なんだこれ。



「あああああああ!!」



クロエが涙を流して叫んでいる。感極まったらしい。申し訳ないけど若干怖いと思ってしまった。

さて、これをどうしよう。

全体化すれば良いのだろうか?



「と、トモシビ様。お祈りを捧げてもよろしいでしょうか?」



聖火教のお祈りだろうか。



「長い?」

「簡易なものですので10分ほどお時間を頂ければ」

「疲れるから、3分なら」

「は、はい」



クロエは両手を広げて何やらブツブツ唱え始めた。私はこの聖炎とやらを保持したまま突っ立っている。

分け与えたら消えるんじゃないかと思って待っているのだ。


この炎は私の魔力が漏れ出てるもの、という解釈がしっくりくる。

体内の白熱する太陽。私のイメージではあるが魔力はイメージで操作するものだ。

炎のようなイメージによって変化した魔力がこういう形態をとったと考えられる。



「もう3分ですが」

「申し訳ありません、今からサビにはいります!」



サビ?

ともかくクロエの祈祷はもう少しかかりそうだ。

漏れ出てるということはそのうち体内の太陽も収まるということじゃないだろうか。

祈祷が終わるまでに消えたら面倒だな、と私は思うのであった。



一行は装備を整えた!

軍用の高級品 → 店売りの安物

防御力が下がった!

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