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私は拷問に向いてない



私は鏡が好きだ。

というか自分の顔や体を見るのが好きだ。

陶器のように滑らかな肌も長い睫毛も瑞々しいピンク色をした唇も化粧の必要がないほど可愛い。

私は元々自分が可愛いと思っていた口だが、あの日″俺″の記憶が蘇ったことで私はより一層自分の体が好きになった。



「今日はどんな髪型にいたしましょう?」



エステレアが私の髪の毛を梳きながら尋ねる。

どうしたものか。

ここは暑い。

我慢はできるくらいになったものの、地下でもまだ暑いのだ。

こんな時はアップにしたりすると涼しい……が、そんな事はしない。



「ストレートでいい」

「お嬢様の美髪を存分にアピールするのですね」



私が自分を見る目は、″俺″の目でもある。男性の視線と女性の視線は違う。

私がやたらと男性を惹きつけるのは服装や髪型に″俺″の目が入るせいでもあると思う。

しかしそれはそれで楽しい。

今日は男性ウケも考えておめかしする必要があるのだ。

なぜなら、これから放送を行う予定だからである。メッセージを伝えるためだ。



「下着はこれでよろしいのですか?」



白ベースに黒の刺繍が入った大人っぽくて可愛いやつだ。上下セットになっている。

胸のサイズが合ってないけど気に入ったので買ってしまった。まあ、パッドを入れれば問題ない。

いつもよりちょっとだけ胸が大きくなった。

こういうのもたまには悪くない。

もちろん下着を見せる予定などないが気分の問題だ。エロ可愛い下着を身につければエロ可愛い気分になるものである。


さて……行こう。

ちゃんとした形でのトモシビ・チャンネル、記念すべき第一回だ。







放送は出来なかった。

地下からカメラで撮ってみたのだが、モニターに映らないのだ。

地下にモニターはないが遺跡の入り口にあるレストランには設置されている。

そこのリザードマンに感想を聞いてみたところ、そんな放送はされてなかったと言う。

無駄骨だ。がっかりである。



「前のやつは映ったぞ。皇帝のアホーってな。気持ちよかったぜ」

「やっぱ私のも街中に流れたのね……」

「何言ってんだ。あれを見たからスラムに入れてやったんだ」



スラムはよそ者には厳しい所だ。見知らぬ者は入れないし、入ったらすぐに分かるそうだ。でもそのおかげで私を匿うことができるのである。



「でもなんで映らなくなったの?」

「なんででしょうね? ここで試してみますか?」

「ここに長居するのは危険ですよ」

「天脈に繋がってねえからだよ」



客の一人が言った。

ハーフリザードマンだ。



「お前さんたち、タブロバニーにいたんだろう? ああ、皇帝の住んでるアレのことだ」

「うん」

「あそこなら天脈の魔力を自由に使えるのさ。そうやって自分達以外の魔力を制限してるんだ」

「……天脈って?」

「おいおい物を知らねえ神様だな。魔力はどこから来てる?」

「地脈?」

「違う、天からだ。天から降る魔力が地上を巡る。それが地脈。だがその前に天蓋を巡る流れがある。それが天脈だ」



……すごい事を聞いてしまった気がする。グランドリアでは知られてない事だ。

カルチャーショックである。

つまり、魔力はこの星で作られるものではないのか。

とすると、魔力が回復しないのはその天脈に繋がってない、とか?



「なんだ、その顔は。大したことじゃねえぞ」

「すごい」

「お嬢様のお目々がキラキラですわ」

「初めて知ったよ〜」

「つまりトモシビ様がここで放送するにはもっと魔力がいるってことか?」

「そうだな、範囲次第だが」



スライムの魔力を全部使えば一回くらいはできるだろうか?

でもどの程度届いているか確かめる方法がないし、スライムはいざという時のためにとっておきたい。

メッセージは諦めるべきか。



「とりあえず戻りませんか? 地上にいるといつ追っ手が来るか分かりません」

「……うん」

「今日は仕事もないからゆっくりしようよトモシビちゃん」

「あ、じゃあ、お医者さんごっこをしましょう。俺が患者をやります」

「さすがに引くわ……」



ドMが欲望に忠実すぎる提案をした。

家にいるのも良いが、せっかく涼しい地下なのでもっと有意義に使いたい。

この大陸に来てから本当はずっとやりたかった事。

即ち、探検だ。







「ここは?」

「民家ですね」

「……あそこは?」

「民家ですね」

「隠し部屋とかないのかな〜」

「大体掘りつくしてるからね」



なにしろ遺跡を改造して街にしているのだ。当然どこもかしこも拡張され、掘り進められている。



「お嬢様のために隠し部屋の一つも用意しておかないとは……それでもお嬢様のしもべですか」

「えっ!? す、すみません!」



エステレアはドMに対して厳しい。というか理不尽である。

そうやって歩いてるとガラの悪そうなのがたむろしている現場に出くわした。

通れない。

完全に通路を塞いでいる。

彼らはこちらに気づくと無言で睨んできた。



「やばいですね、向こう行きましょう」



回れ右して元来た道を戻る。

背後に視線を感じる。



「な、なんなの? あいつら」

「あいつらは関わらない方が良いですよ。ギャングみたいなもんです」

「そういうのはどこにでもいるんだね」

「ポーションの密売から人攫いまでなんでもやる連中です」

「人さらい……?」

「奴隷の売買ですね。ヒューマンは高く売れますので気をつけてください」



……ん?

私はエステレアと思わず目を合わせた。



「……彼らがグランドリアで奴隷を集めている可能性はありますか?」

「どうでしょう? 行き来する手段がないですからね」

「あなたはどうやって来たのよ?」

「セルっていう改造された魔物を使ったんだ。魔力を溜めて魔導具なんかを動かすことができる」



あのキリン体のことか。

彼によるとキリン体は例の大使のエルフが開発したものだそうだ。

使い捨てで、たっぷり魔力を溜め込んだ心臓部を外して持ち運ぶという。

残酷な話だ。

と、すると、皇帝の指示で彼らが奴隷を集めている可能性がある……のかな。



「あの人達、皇帝の手下だったり、する?」

「いえ……彼らも反皇帝ですから想像し難いですね」



人身売買に関しては、スパイであったドMも心当たりはないと言う。

それなら皇帝とは関係なく、彼らが単独で人身売買をしている可能性がある。

なんらかの方法でキリン体を入手したなら可能だろう。

これは……少し調査が必要ではないだろうか?

ならば私の出番かもしれない。



「……お嬢様、お願いですから潜入調査はもうおやめください」

「そ、そうだよ。危ないよ」

「あっちはあれでもお金持ち向けの品の良い組織だったんでしょ? ギャングなんて、何されるか……」

「ん? トモシビ様が潜入捜査しようとしてるんですか?」



私が何か言う前に却下されてしまった。

ドMはまだ私の心を察するスキルがないらしい。話についていけていない。



「普通に聞けば良いんじゃないですか?」

「それも危ないよ」

「こっちの人って魔術使わないみたいだし大丈夫じゃない?」

「でもギャングだよ〜?」

「捕まえて拷問いたしましょう。メイさんに少々手ほどきを受けました」

「い、いや、容疑があるってだけでそこまでやる必要は……」



ドMは狼狽えた。

たしかに集団で通路を塞いでるだけの人達を拷問にかけるのは心が痛む。

むしろ私達がギャングと変わらない。

だが、彼らが本当に人身売買をしているなら見過ごすわけにもいかない。

大陸はそう簡単に行き来できないのだ。

ここで逃せば解決不可能になるかもしれない。

ならば……こうしよう。







「あの……」

「……」



一人で来た私を見て、ヒューマンっぽい人が無言で前に出た。

あ、怖い。

私の倍くらいの背丈がある。



「おじさん、えと……奴隷のこと、しってる?」

「……」



返事すらしない。

怖い。

男二人は私を無視して話し始めた。



「おい、こいつ例の神様だよな?」

「ああ、北の大陸から来たっていう……なるほどな」



私を無視していた男達がこちらに向き直った。

魔物と同じ雰囲気を感じる。

暴力を振るうことに躊躇ない者特有の……獲物を見る目だ。

男が私に手を伸ばす。

私は怯えたように身を縮こませた。



「やめて……」

「大人しくすれば何もしねえよ」

「奴隷のこと、教えてほしいだけ」

「そうかい、実体験で教えてやるから安心し……なっ!?」



その瞬間、二人はドサリと倒れた。

エクレアの姿が現れる。

彼女がイカクラゲの皮で透明化して二人の脳神経に電撃を叩き込んだのだ。

どの辺に電流を流せば意識が飛ぶかはスライムに聞いた。



「や、やっちゃいましたね」

「正当防衛かと」

「大丈夫、予定通り」

「緊張するね……」



素直に答えればそれで良し、私に何か危害を加えるようならば気絶させて無理矢理聞き出す。

そういう作戦だ。

どうせすぐグランドリアに帰る身である。ここのギャングに睨まれても大して怖くない。ドMによるとギャングの構成員は私達魔法戦クラスの相手にならない程度の強さだという。

なのでちょっと強引だが、こういうやり方をしてみたのだ。

ちなみにドMも地上にいくつか隠れ家を持ってるらしいので、もしギャングに狙われるようなことになっても心配はいらないそうだ。



「急いで運ぼ」

「そうだね」

「袋も用意OKです」



私たちは手早く男を袋に詰めて、イカクラゲの皮を被せ、家に運び込む。

それこそ人攫いと見間違うような素晴らしい手際である。

いつも魔物の死体やら何やらを運んでいるので慣れたものだ。


家にたどり着くと、男の一人を物置に放り込み、もう一人を床に転がした。

頑丈な縄で縛り付けてある。拘束の仕方は授業で習った。

用意は万全だ。

さて……ここからはさらに覚悟がいる。

拷問をする覚悟だ。







「拷問する間、素数を数えて」

「な、なんでだ」

「いいから、やって」



正気を失わせないため、それを確認するため。たしかそんな感じだった気がする。

前世の漫画で見た知識を思い出したのだ。

ちなみに、男は鼻に唐辛子を差し込むとすぐに起きた。

状況を説明すると暴れたが、無駄だと悟ったらしい。

今は大人しくしている。

大人しいは大人しいのだが何にも答えないし、奴隷について聞いてもせせら笑うだけだ。

もう、やるしかない。



「爪剥ぐから……きをつけて」

「何をだよ……0、1」

「2から」

「素数ってなんだよ……」



いきなり間違えてる。

彼の言葉を訂正しながら爪を剥ぐ機器をセットする。

私自らだ。私の意思で拷問にかけるのだ。私がやらなくてはならない。

ちなみにこれはエステレアが持っていたものだ。

こんな事もあろうかとメイに渡されていたらしい。メイドってすごい。



「15……でいいのか?」

「17」

「次は?」

「19……自分で、考えて」

「頭使うの苦手なんだよ……で、それやらねえのか?」

「……」



爪剥ぎ装置は思いっきりレバーを叩けばバリッと爪が剥がれる仕組みになっている。

バリッ、と。

…………バリッ……と。



「トモシビちゃん……」

「お嬢様……」



私は震えてきた手を下ろした。

無理だ。

想像するだけで痛い。



「これはやめる……」

「ふぅ、助かったぜ」

「数えて」

「どこからだ」

「……それもやめ」



なんか……私は拷問に向いてない気がする。

残酷なのは苦手だ。

他の皆も嫌そうな顔をしている。

でも彼には知ってることを喋ってもらわないと困る。

潜入捜査で出会った子達を思い出す。

彼らがこんな虫だらけの砂漠に連れてこられて奴隷にされたとしたら……やりきれない。

目の前に事件解決のヒントがあって、スルーする選択肢があるだろうか?

ない。

ならば頑張って拷問して言う事を聞いてもらわなきゃいけないのだ。


思うに……痛いのがダメなのかな。

もっとこう、私の得意分野を活かすべきか。



「おいお前、トモシビってのか?」

「……トモシビ、様」

「お前何がしてえんだ?」

「さ、ま」



私は彼の股間に足を乗せた。



「お、おい」

「トモシビ様、はい」

「ふざけ、っあ、おま、あああああ!!」



乗せた足を高速で振動させる。電気アンマという絶技である。

私は男性の股間なんて見たくも触りたくもないが、布越しに踏むくらいならさほど抵抗はない。これも前世のおかげだろう。



「クロエ、神術、かけて」

「は、はい……」



クロエの神術による快感で体を敏感にするのだ。

ギャングの体が仰け反った。



「うああああ! と、トモシビ! 様!やめってっ!」

「やめてください」

「てめっ! あっ! あああああくだっ! くだざい!」

「だぁーめ」

「あひぃっ!」



グリッと踏む。

情けない声……ギャングとは思えない。

私は一層力を込めて激しく足を動かした。悲鳴がだんだん甲高くなってきた。



「女の子みたいな声、だしてる」

「ひああああ!!!やめっ、やめ!!」

「すげえ……羨ましい……」

「おじさんが、素直になるまで、やってあげる」

「な、なんっ!?」

「これからは……私なしじゃ、生きていけなく、なるから」

「トモシビ様……」



エクレアとドMの目線が熱い。

さらに激しくピストン。もうギャングの顔はヨダレと涙で酷いことになってる。

楽しくなってきた。

力加減もツボも手に取るように分かる。

私、これ、向いてるのかな……。



快感を与える拷問ってあるんでしょうか?

夜のお店ではやってそうですけど、ギャングとかはやらなそうですね。

ちなみにポーションはこの世界では麻薬みたいな扱いです。ハイポーションはよりハイになります。


※次回更新は2月10日月曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どこでこんな技練習していたんだ… 女の子にも通用しそうな技ですね 誰も彼も素直にできる
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