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少女は我知らず周囲を振り回す

※三人称視点になります。

※2月3日誤字修正、ご報告感謝です!



飼い猫が散歩に出た。

皇帝はその程度の事だと考えていた。

美しく、気品があり、不思議な力のある異国の子猫だ。

膝に乗せて愛でたかったが、どうやらまだあまり自分に懐いていないらしい。

ならば慣れるまで待てば良い。親しさというものは一緒にいる時間に比例して上がるものだ。

人間も子猫も生き物なら大体同じである。

彼はそう経験上知っていた。



「ねえ、あの娘どうやってあの放送したの?」



優雅にコーヒーを飲みながらディラが尋ねた。



「さあな、機材を持っていたのだろう」

「じゃあ今までやらなかったのはなんで? やっと無事を伝えられた、みたいなこと言ってたじゃない。きっとその場で作ったのよ」

「……あるいはそうかもしれんな」



このエルフの少女ディラは彼の親族だ。生まれつき魔力が高く、才能があったせいか、士官学校に入学してすぐに頭角を現した。

親善試合の代表選手に推薦し、あちらの選手を偵察させるために使節団にも入れたのだが、魔術の一つも見てこなかったらしい。



「機会がありながらその力を調べもせぬとはな」

「て、手合わせはしたのよ? でも魔法禁止しないと危ないと思って……」

「見てもいない魔法に怯えるな、馬鹿者」



使えない、と彼は思った。

たしかにグランドリアの雷神落としが彼女であるという報告はある。しかしそれは間違いだったという調査結果が届いた。

すんなり納得した。一個人で雷神をどうにかできるわけがないからだ。

調査によるとどうやら彼女は人気取りのための広告塔のような役割をしているらしい。

戦闘においても攻撃はせず支援などを行なっているとのことである。



(しかも魔導具をその場で作るか)



なにも司令塔が直接戦闘をする必要はない。おそらく彼女はその頭脳と技術でトップに立っているのだろう、と彼は結論付けた。

それはアルグレオ向きの人材である。

彼女の能力が事前に分かっていれば全国ネットでいやらしい顔だのロリコンだの言われることもなかったかもしれない。

一見平気に見える皇帝だが、実はちょっとだけ傷付いていた。



「連れ戻したりしないの? 虫はつけてあるんでしょ?」

「ああ、だが見失ったようだ。おそらくは地下に潜ったのだろう」

「地下? 大丈夫なの?」



地下の迷宮都市は犯罪者が多く、排他的な場所である。

あんな少女などすぐに身ぐるみ剥がされてポイである。

少なくともディラや皇帝の認識ではそういう場所だった。



「行方は地下に放ったスカラベが探しているところだ」



虫はいわば発信機だ。相手を探し、どこまでも追いかける。そしてその居場所を知らせてくれるのである。

スカラベはその新型だ。

スラムのリザードマンは知らないタイプの発信機。

気付かれることはない……はずだった。



「陛下、よろしいですか?」



そう言って返事も待たずに入ってきたのは大使として北の大陸に赴いたエルフ、レメディオスである。



「スカラベが消失しました」

「ほう?」

「彼女を見つけた直後です、おそらく勘付かれたのでしょう」



勘の良い子猫だ。それともあちらもスパイを放っていた? そこから情報が漏れたのか?

色んな可能性が皇帝の頭をよぎる。

何にせよそれはそれで面白い、と彼は思わず笑みを浮かべた。



「あはははは! ほんとやるわね!」

「ますます手に入れたくなるな。お前も近くで切磋琢磨する者がいた方が良いだろう?」

「もちろんだけど、もう逃げられたんじゃない?」



あの迷宮都市はそこかしこに隠し扉や地上への出入り口がある。その全容は政府でも把握していない。

たとえ追っ手を送ろうともすぐに逃げられてしまうだろう。だからこそ脛に傷ある者が集まるスラムとなったのだ。

国としてもそれはそれで利用価値があるので放置している。金で動く犯罪者は使い道も多いのだ。



「ご心配なく、まだ最後の虫が残っております」

「そんなのあるの?」

「地下を調査するために地中に潜む虫を改造したものです。砂を潜り、岩を食い破って必ずや彼女を見つけるでしょう」



そう言って、彼女は試験管を取り出した。中には細長く脚の長い虫が蠢いている。

これこそが、迷宮都市調査のために特別に作り上げた岩蝕虫である。



「あの娘、こういう虫嫌いそうね」

「ほう、虫嫌いか。教育のしがいがあるな」

「やめてあげなさいよ……」



知恵の回る相手のようだが所詮は子供だ。地中に潜む虫をどうして見つけることができるだろう?

先の先まで想定して常にリスク管理は怠らない、それが大人の知恵というものだ。皇帝とレメディオスはほくそ笑んだ。


数時間後、拡張区の岩の隙間に潜んでいた最後の虫が聖炎によって消失した。







『お嬢様ニュースです。先日お嬢様が皇帝により拉致された事件ですが、ただ今お嬢様のご無事が確認されましたわ』



あれはメッセージだ。

アスラームは確信していた。


トモシビと離れ離れになって数日、公式の場に一切出てこない彼女について尋ねると皇帝はこう言った。

トモシビ・セレストエイムには特別な待遇を与えており、部屋から出ないのは彼女の意思である。


そんな馬鹿な、と使節団は憤慨した。

連絡を取ろうにも部屋に案内もしてくれず、メッセージを伝えてもくれない。

大使から正式に抗議したものの、取りつく島もなかった。

彼女の価値を考えると宣戦布告してもおかしくないような事態であるが、大陸を繋ぐ転送魔法陣は何日かに一度、部屋一杯分程度しか人を送り込めない。

武力行使などできはしない。


一先ずこの問題は棚上げにして、予定通りに近隣の町村を視察していると、突然この放送が流れたのだ。



「やはり僕が残っていれば良かったな、判断ミスだ」

「やはりあれは我々に向けたものなのでしょうか」

「外に出て、迎えに来てくれる人を待つつもりだろう」



虫車の都合上、アスラーム達は最終日まで塔の街には帰ることができない。

虫はアスラーム達の命令は聞かないのだ。

こんな国を信じたのがそもそもの間違いだった、と彼は思う。

今の彼には余裕がなかった。将来の伴侶……と信じてる女性が拐われたのだ。



(彼が動いていることを祈るしかないか)



悔しいが彼に任せるしかない。

あのジグという男に。

少し前に出会ったトモシビのしもべだと自称する男だ。

救い出してくれるなら誰でも良い。

信用できようができまいが、今のアスラームは藁にもすがる思いだった。







ジグは幸せを噛み締めていた。

今、彼の家には5人の少女がいる。

こんな生活は初めてだった。

彼が女性と暮らすのは初めてではない。むしろ毎日のように女を引っ掛けては閨を共にするような生活をしてきた。

それが仕事であり、楽しみでもあった。

しかしながら今いるのはそういう女性ではない。



「お嬢様、またドMを足置きにして……!」

「ドMが、やってほしいって」

「すみません、フットチェアがないので俺が」

「黙りなさい」

「はい」

「言ってくだされば私が椅子にも足置きにもなりますのに……!」



主人が足を退かすとジグはフラフラと立ち上がった。主人の小さな足は滑らかで繊細でスラリとしているくせに程よく肉感的でキスしてしまいたくなるほど美しい。

それを乗せられているのは至福の時間だった。


主人である少女は一度立ち上がり、メイドが椅子に座ると、そのメイドの上に改めて座り直した。

そしてメイドの抱擁を受けてリラックスしたように表情を緩めた。


これはこれで眼福だ。

数日とはいえ、同じ家で寝泊まりしてる身である。ジグにも彼女らの距離の近さが分かってきた。

このメイドだけではない。騎士見習いの少女や獣人少女もいつもベッドの上で主人に抱きついて寝ているのを彼は知っている。もう一人のメイドも髪を梳かしながらヨダレを垂らしそうな顔をしているし、このメイドに至っては耳を噛んだり尻を撫で回したりやりたい放題だ。


彼女らは明らかに普通の関係ではない。

先ほどまで足置きになっていた自身を棚に上げて彼は思った。



「いかがですかお嬢様? 私の方がずっと柔らかくて気持ち良い椅子になれるのですよ」

「でもエステレアが、大変」

「まあ! お嬢様ったらそんな所で天使味を出さなくてもよろしいですのに」



ジグはここ数日、ただひたすら彼女らの激しいスキンシップを見せつけられて来た。

生殺しとも言えるが、幸せでもある。



「ねえ、暇なら地上に買い物に行って来てくれない?」



エクレアという少女が、主人をガン見するのに忙しい彼に話しかけてきた。



「何をかな?」

「食材。あのお店お肉ばっかりだから今日は私達が作ろうと思って」

「手料理してくれんの? やったぜ」

「トモシビ様達に野菜を食べさせてあげたいだけよ。勘違いしないでよね」



照れてるような台詞だが、完全に本心なのは目でわかる。ジグの事はペットのマンティコア程度にしか見ていないだろう。



「ドM、ドM」

「なんでしょう?」



支度をして買い物へ行こうとするジグに主人が声をかけた。

振り向くとすぐ後ろに主人がいた。



「カリフラワーは、かわないで」

「使うって言ってましたよ?」

「買い忘れたことにして、おねがい」



上目遣いに見る主人の美しい顔。そして耳をくすぐる心地よい声。

男の本能に訴えかける甘い香り。

ジグの心臓が強制的に高鳴らされる。

主人はまだ子供だ。

それなのに今まで見たどんな女性より欲望を刺激する。



「は、はい、もう忘れました」

「ん」

「トモシビちゃん、イカクラゲごっこしよ〜」

「するー」



立ち去る主人の髪からまた良い香りがした。

まったくもって素晴らしい。

他の少女からの扱いの悪さなど気にならない。

自分こそがこの女神に一番近い男だ、という思いが彼を高揚させる。


暗殺などというふざけたやり口を防いだのは彼の功績だ。レプタット村で出会ったクラスメイトからアスラーム達に連絡を取り、協力を取り付けて彼女に攻撃能力がないように見せることに成功した。

おかげで今度は皇帝に貞操を狙われることになったが、命を狙われるよりはマシである。



(しかしあのガキも皇帝も分かってないな)



誰も彼もが挙って彼女を欲しがる。それだけの価値がある。

しかしこの奔放な主人は他人の下につくような性格ではないとジグは確信していた。

束縛を嫌い、自分の欲望に忠実で、他者を支配する性質を持っている。

彼女を自らのものにしようというのが間違いなのだ。むしろ彼女のものにならなくては。

それがジグの見つけた生きる道であった。



「にゃあ! 食べちゃうよ〜」

「ひゃっ」

「次はトモシビ様がイカクラゲですね」



一方、トモシビは男達が何をしてるかなど一切知らず、今日を楽しむ事に全力を尽くしていたのであった。



イカクラゲごっこはイカクラゲの皮を被って透明になる鬼ごっこみたいなやつです。

どさくさに紛れて舐めたり噛んだりボディタッチできるので人気の遊びです。


※次回更新は6日木曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジグさん…比較的新参の割に、真理に最も近づいておられる そのうち真理極めすぎてTSまでやりかねん
[良い点] イカクラゲごっこ… 揉みくちゃ… キャッキャウフフ… いい… でもトモシビちゃんて貴族の子なんだしいつかは男と結婚しないとダメなんでしょうね。悲しい。
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