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スラムを火の海にしました

※1月30日、2月10日誤字修正。ありがとうございます!!



手紙で指定された場所はレストランだった。

塔の一階にあった先ほどのカフェとは違い、古いレンガ作りの年代物の店だ。

建築年数1000年くらい経ってそうである。

入るとリザードマンが出てきてちょっとびっくりした。



「……奥の席だ」

「こっち、こっちです、トモシビ様」

「ドM」



ドMだ。

奥から顔を出しているのは紛れもなくドMだった。



「あ、私の村にいたトモシビちゃんの……」

「奴隷だよ」

「それはやめなさい」



なぜここに?

何が何だか分からない。

混乱する私に彼は説明を始めた。

それによると、彼はこちらの大陸の人間だったそうだ。

スパイとして潜入していたところ、偶然私と出会ってファンになったらしい。レプタット村で言ってた難しい仕事ってスパイのことかな。

それで、こちらに戻ってきたところを私の放送を聞いて駆けつけてくれたという。

スパイだけど敵ではないということか。



「帝国に不満を抱いてる者は沢山いますから、そういう者達が助けになるかと。主にスラムの連中ですけどね」

「あんたもその口なの?」

「そうさ、俺はスラム出身にしては出世した方だ。使い捨てのスパイでもね」

「うわー、私グランドリアで良かったわ」

「大変なんですね」



孤児院出身のエクレアとしては人ごとではないのだろう。

とにかくそのスラムに潜んでおけば大丈夫だという。

でもスラムってなんか虫が多そうなイメージがある。そう思うのは偏見かな。



「虫は大丈夫?」

「もちろん対策してますよ。そこに気がつくとはさすがですね」

「それで、そのスラムはどこにあるのですか?」

「ああ、それは……」



ドMは地面を指差した。







飲食店の地下、そこにあったのはグランドリアにあるのとよく似た作りの地下遺跡だった。

迷宮を進み、さらに階段を降りる。

そこには驚くべき光景が広がっていた。


元はジェノバ遺跡のような感じだったのだろう。しかし拡張され、無数の部屋と通路を備えたそれは、もはや迷宮都市とでもいうべき巨大な地下都市を形成していた。

あの塔の街の地下はこうなっていたのか。グランドリアの王都にも地下迷宮があるし、何か関係あるのかな。



「……リザードマンばかりですね」

「リザードマンは下層民だからね」



迷宮都市には至る所に人がいる。

通路に座り込んでいる者、歩いてる者、その辺はまあ王都の貧民街と同じなのだが、そのほとんどがリザードマンだった。

ヒューマンのように見える者もトカゲの尻尾が生えてたり腕に鱗があったりする。混血なのだろう。


私達は蟻の巣のようにいくつも枝分かれした通路を通り抜け、一つのドアを開けた。

そこは部屋になっていた。



「ここが俺の実家です。汚い所ですが自分の家だと……というか、俺はトモシビ様の所有物なのでここもトモシビ様の別荘です」

「あり……」



お礼を言いかけてドMの期待に満ちた目に気がついた。

違う。

こうじゃない。

気持ちを切り替えないと。



「この大陸の、私の所有地、第一号にしてあげる」

「ありがとうございます!」

「それで……これは、なに?」



私は冷たい声色で封筒をテーブルに置いた。中身の紙幣がはみ出る。



「これは……その、不自由がないように……」

「私の命令なしに、送りつけたの?」

「す、すみません」

「罰として、受け取ってあげない」

「そんな!」

「それ罰なんだ……」



私は体も声も小さいがプライドだけは高い。

この家も小さくて、物が少ない。いかにもスラムといった家だ。

そんな生活してる人のお金を受け取ることができるわけがない。



「その代わり、命令」

「は……はい」



ドMは何も言ってないのに跪いた。訓練されすぎている。



「冒険者みたいな仕事、探して」

「冒険者……ですか」

「私にできる仕事」



とにかくお金が必要だ。

向こうのお金は使えないし両替もできない。一応、使節団から少しだけ渡されてはいるがお小遣い程度である。

いきなり5人も押し掛けたのだから彼も大変だ。自分達の食い扶持くらいは自分が稼ぎたい。

……あとできれば皆で贅沢できるくらいあれば良いのだが。







「子供じゃねえか」

「いや、腕は確かなんだ」

「馬鹿言うな」



とまあ、こんな感じで断られた。

仕事を探してみた結果だ。

私としては普段からやってる魔物退治が向いてると思うのだが、そう上手くはいかない。

人間見た目で判断されるものである。

どうしたものか。

私はその斡旋所を見回した。



「……」

「あの……気を落とさないでください。俺がなんとか」

「みてて」



私の右腕が燃え上がった。聖炎だ。

周りで見ていたリザードマン達が驚いて後退りした。

腕を振る。

業火が宙を走った。

それは壁に止まっていたコガネムシに直撃し、瞬時に灰に変えた。



「な、何者だ?」

「……北の大陸から来られたお方だ」

「彼の地では神とも魔王とも言われ、恐れられております」



間違いではない。

あと百合園の女王とかファッションリーダーとか言われている。たぶん。



「北の大陸? なんだそりゃ?」

「知らないの? 最近国交開いて使者が行き来してるでしょ?」

「ここの連中はモニターがないんで放送見られないんですよ」

「ちっ、馬鹿にしやがって」



受付のリザードマンは一枚の紙を渡した。



「拡張区で鉱夫の護衛だ。時給の他に成果報酬も出る」

「拡張区ってなぁに?」

「地下を掘って街を拡張してるのさ。その掘削してる所だよ」

「ストーンイーターが出る。でかい魔物は燃やせるか?」

「この部屋10個分くらいなら余裕です」

「よゆう」

「痺れるぜトモシビ様」

「ハッタリじゃなきゃ楽勝だな」



あのミミズより小さい虫なら聖炎でなんとかなる。虫じゃなくても大抵の魔物はレーヴァテインでやれるだろう。

早速仕事といこう。

あと一週間ここで暮らさなくてはならないのだ。







あまり好きではない仕事だった。

ツルハシで掘ってる人を眺めているだけなのだが、蜘蛛など気持ち悪い虫がでるのである。

拡張区はちょっとした鉱山のような雰囲気だった。むき出しの岩石や鉱石みたいなのを掘っている場所だ。砂漠の下は岩場だったらしい。

その岩を掘っていると稀に大きな虫が飛び出してくるんだそうだ。

それがストーンイーターだ、と説明された。

嫌な予感しかしない。


そのまま数時間。

さすがにだれてきた頃、声が上がった。



「出たぞ!!」



出た。

岩の隙間から、何かがトコロテンみたいに飛び出してきた。細長い形状の……足がいっぱい……。

これ、ゲジゲジ……。

あまりの気持ち悪さに硬直してしまう。

向かってくる。

とんでもなく早い。



「ッ!?」



エステレアと叫ぶのは思いとどまった。

フェリスとエクレアが鎌みたいな大アゴを止めた。



「トモシビちゃん!」

「げ……」



気持ち悪い。

でも、とにかく聖炎だ。

私の中の太陽が膨張し始める。

ワサワサ動く足。ムカデより細長い。

見てるだけで怖気が走る。太陽が私の心に呼応してどんどん大きくなる。



「げじげじ!」



爆発的に膨張した炎が私の全身を包んだ。

いや私の体だけではない。

私から吹き上げる炎がプロミネンスのように周囲に飛び散り、床を伝って瞬時に区域全体に広がった。



「と、トモシビちゃん!? 」

「こっちくるぞ!?」

「うわっ……うわああああ!!」



気がついた時には、全員火達磨になっていた。



「……あ?」



鉱夫達は熱くない炎を見て首を傾げている。

ゲジゲジはいつのまにかいなくなっている。灰になったのだろう。



「はぁー? なんだ? 燃えてねえぞ」

「と……トモシビ様のお力です。悪しきものだけを焼き尽くすのです」

「ま、まじか? いやまじすか……?」



ドMは蒙を啓かれたように呆然と私を見た。

辺り一面を真っ赤に染めた幻想的な炎はやがて何事もなかったかのように消えていく。

鉱夫達も私をぼんやりと見ている。



「……お嬢様に見惚れるのもほどほどに」

「そ、そうだな。続けるか」

「ああ……あれ?」

「どうした?」

「ツルハシも燃えてる」



ツルハシの金属部分が消失して、ただの棒になっている。

……ひょっとしてあれは金属ではなく虫から取れた素材だったのだろうか?



「そのツルハシ、もしかして魔物の?」

「ああ、やつらの牙だ」

「それなら燃えるのも無理はありませんね」

「区別、できないから」

「いや予備を取ってくるからいいよ。ありがとな」

「岩もちょっと消えてねえか?」



虫の多い地方だからこその問題か。

色んなものに虫を使ってるのかもしれない。

食器とかに使ってたりして……。

嫌な想像をしてしまった。ちゃんと調べよう。







結局、魔物が出たのはその一回だけだった。

どうやら私の炎は岩の中にいる虫まで殺し尽くしてしまったらしい。掘っていたら灰が出てきて鉱夫が困惑していた。

成果報酬としては一体分しかもらえないので割りに合わないと思ったのだが、それがそうでもなかった。



「これも食うか? 串焼きだ」

「たべる」

「飲み物はどうだ?」

「ありがと、おじ……さん?」



鉱夫の人が次々と飲食物を私に差し出してくる。リザードマンは年齢が全くわからないがおじさんであってたらしい。



「これはどうだ?」

「待って! これなに?」

「地蜘蛛の蒸し焼きだが」

「ひっ」

「と、トモシビちゃんに虫はダメ」

「じゃあやっぱりこっちだな、羊肉だ」



スパイシーで美味しい。なんとなく東方と似てる味付けである。そして飲み物はヨーグルトっぽい飲料だ。とても酸っぱい。


ここは地下のレストランだ。

仕事の後、私は鉱夫達に連れ出され餌付けされることとなった。

クロエやドMが神だ魔王だと騒ぐから信じ込んでしまったらしい。

次から次へと差し出してくる料理に私のお腹はもう限界だ。



「……けぷ」

「しかし北の国の神様ってのはずいぶん可愛いもんなんだな」

「トモシビ様だけだと思いますよ」

「うちの自称神の子と取り替えてほしいね。それなら喜んで忠誠を誓うってもんだ」

「俺はもう鞍替えしたぜ」

「トモシビ様の一番のしもべは俺だぞ!」



ドMはガタッと椅子から立ち上がった。



「俺は一目で分かったんだ! この人は俺の女神だってな!」

「お、落ち着けよ」

「なんか悪化してない……?」

「お酒飲んだみたいですね」

「ドM、これあげる」

「ご褒美ですか!?」

「串焼き……もう食べられないから」

「おおおおお!?」

「そっ、それだけは!お嬢様!」



私の持つ串焼きをくわえようとするドMの顎門から、間一髪でエステレアが掠め取った。

そのままもしゃもしゃ食べ始める。



「あぁ……」

「お嬢様の食べかけなど絶対に許しません……絶対にです」



ドMは捨てられた犬のようにしょんぼりした。そして長い舌をチロチロ出す。

……長い舌?

もしかして混血なのかな。見た目ほぼヒューマンだから分からなかった。


リザードマンって使節団のせいで高圧的なイメージがあったけど、この調子なら上手くやれそうだ。

地下は涼しいし、日差しもない。虫も対策したって言ってたから住居も大丈夫だろう。

ここで一週間、皇帝の魔の手をやり過ごして合流しよう。

公式訪問のはずが、思わぬ冒険になったものである。

まあ私にとってはその方が楽しいのだが。



リザードマンも人間なので、ヒューマンやエルフと子供を作ることができます。

皇帝は自称神の子ですがリザードマン的にはそう思ってなさそうですね。


※次回更新は2月3日月曜日になります。

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[良い点] お金がたりない? また王様にマッサージしておねだりしたら沢山もらえるんじゃないかな アナスタシア王女には内緒に…
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