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蜃気楼の街

※1月25日26日誤字修正。重ね重ねありがとうございます!



私達は今、ジェノバ近傍の遺跡に来ていた。

南の大陸に赴くためである。

集まったのはアルグレオ使節団に、いつもの私チームに、アスラームと執事。それに騎士団が数人、政府の人が数人。

結構な人数だ。



「この人数が一度に転移できるのか?」

「問題ないかと。この遺跡はそれ自体が魔導具です。部屋に収まりさえすれば全員転移できます」

「妻も連れて来れば良かったかな」

「……ご心配なく、ハニートラップなどありませんよ」

「すまない、そういう意味ではなかった」



大人達の会話を聞きながら、私は彼らの最後尾について進んで行く。

迷宮をぐるぐる回り、部屋に着くと、魔法陣を起動させるべく騎士団の一人が魔力を込め始める。


……前に私が来た時に破壊した壁がそのままになってる。遺跡全部が魔導具なら、あの壁もその一部ということになる。大丈夫かな。

私のそんな心配をよそに、魔法陣は光を放ち始めた。



「準備は良いですか?」

「OKだ」

「では行きます」



空間に魔力が満ちていく。

崩れた壁の穴が不気味な渦を描き、一瞬後戻った。

転移完了である。



「変化ないですね」

「部屋ごとリンクさせているようですね。この距離を跳ぶには通常の転移では難しいのでしょう」



部屋の外に出てみると、すぐに階段があった。あちらとは構造が違うらしい。

階段を登るごとに、むわっと南国特有の熱い空気が頬をくすぐる。

やがて光が差し、外が見えた。

外から乾いた黄土色の砂が吹き込んでいる。



「わ、なにこれ、海岸?」



そこは見渡す限り砂しかなかった。

つまり、砂漠だ。

ギラギラとした光が瞳を直撃する。目を開けていられない。



「まぶしい」

「お嬢様、日差しが」



私はすぐに日除け″窓″を出した。もう全身日除けで守らないとまずい。肌もチリチリする。

一応日傘も用意しておいたが、これはエステレア達で使ってもらおう。



「便利なものだな。それがトモシビ嬢の魔法か」

「彼女の魔法はあんな程度ではありませんよ」

「ふん、軟弱ね」



グランドリア大使の言葉に、エル子は面白くなさそうである。



「トモシビちゃんはお日様に弱いだけだよ」

「暑いのも、にがて」

「ここは砂漠だから昼間は特別暑いですよ」



と、ヒュム男。彼はこちらに敵意を持っていないようだ。



「この暑さはトモシビ嬢でなくても堪えるぞ。ここから歩くのかな? レメディオス殿」

「今少しの辛抱です。すぐに迎えが来るはずになっておりますので」

「それは有り難い」

「トモシビちゃん、ちょっとだけ探検しよ〜」

「うん」



遺跡に引っ込んでしまう彼らとは逆に、私達は外に出て行く。

暑くても好奇心の方が優先だ。

砂浜みたいで足が沈み込んで歩きにくい。

少し進んで振り向くと砂漠の真ん中にポツンと石造りの遺跡が顔を出している。最初に渡った人はここから歩いたのだろうか?

あまり離れると分からなくなりそうだ。



「トモシビさん、危ないよ」

「大丈夫よ。砂漠は魔物も少ないの」

「あっちに何かあるよ〜」



ちょっと盛り上がった砂丘の上に立ったフェリスが私たちの後ろを指差す。

遺跡の入り口の後ろに細長いものが見える。

塔だ。

とんでもなく高い塔が蜃気楼みたいに立ってる。

上の方が雲の上にある。1万メートルくらいありそうだ。そしてその根元にも大小様々な塔が見える。

ひょっとしてあれが街なのかな。



「たっか……なにあれ?」

「すごいでしょう? アルグレオ帝国の首都ですよ」

「倒れたりしないんですか?」

「しないと思いますよ」

「まあ、あなた達には分からない技術レベルでしょうね」

「腹立つわー」



やたら上から目線のエル子。でも少し親しくなって来たと思うのは気のせいだろうか。

勝手に歩き回る私達の後を律儀に付いてくるし。


砂交じりの風が吹き付ける。

日差しだけ防いでも厳しい環境に変わりはない。

ザクザク砂を踏みしめる足がすぐにだるくなってきた。

……ダメだ、暑い。



「はぁ……はぁ……」



好奇心どころではなくなってきた。頭がぼーっとする。

これはもうやめた方が良いかもしれない。



「トモシビちゃん、大丈夫?」

「だめかも……」

「戻りましょう、お嬢様には暑すぎます」

「わ、私、冷やしタオル作ってきます!」

「え……ちょっとあんた、病気なの? 大丈夫?」

「お嬢様の体質なのです」



エル子は見下すどころか哀れんできた。ちょっと悔しい。

遺跡の中に避難して首筋や脇などを冷やす。気持ち良い。

気まずそうに目をそらすヒュム男とアスラーム達。

体温を下げる工夫でもしながらじゃないとまともに外出できなさそうだ。


そうして休んでいると、やがて外から砂を突き刺すような不穏な音が聞こえて来た。



「来たようですね」



全員が外に出る。



「ッ……」



思わず身を引いてしまう。

虫がいたからだ。

巨大な蟻が何匹も並び、その上に馬車のようなものが乗せられている。

車輪はない。蟻だけだ。

その虫車とも言うべきものが何台も連なってやって来たのである。

御者もいない。どうやら自動運転らしい。



「5人乗りです。別れてお乗り下さい」



蟻は大人しくしている。

私は思い切って、ステップに足をかけてみた。

蟻がこちらを向いてそのグロテスクな顎をカチカチ鳴らした。



「エス……」

「ふふふ、大丈夫ですわお嬢様。私の手をお取りください」

「今度は何よ? 顔色悪いわよ」

「トモシビちゃん虫が苦手なんだよ」

「は? なにそれ? どこのお嬢様よ」

「セレストエイムのお嬢様です」



普通の蟻くらいは平気だが、大きいのはきつい。主に顔が。

というか、これ魔物では……?

あの魔力を充電してたキリン体といい、アルグレオは魔物を使役する術を持っているのだろうか。

私はエステレアにぴったりくっついて座席に座った。

この床の下に蟻がいるのだ。板一枚隔てた下は奈落である。



「しっかりしてよ。私のライバルなんだからね」

「虫はきらい」



エル子とヒュム男が私達の虫車に乗り込んできた。どうやら子供なら少し多めに乗れるらしい。

ひょっとして私を心配してるのかもしれない。

私の苦手なものばかりなのが悪いのだ。

エル子は私をライバル認定しているようだが、こういう所で戦う事になるのは勘弁してもらいたい。

あの塔の街が涼しくて虫のいない環境なら良いのだが。






残念ながら街は暑くて虫だらけだった。

私の頭をエステレアが良い笑顔で撫でる。



「ご……ごき!」

「お嬢様ご安心ください。あれは家に出るやつではありません」

「うわ〜……あれも使役してるの?」

「ええ、ジャイアントローチです」



大きなゴキブリが荷物を乗せて運んでいる。

あまりにグロテスクな光景だ。堪え難い。

上を見れば大きなヘビトンボが荷物を運搬している。

虫達は脇目も振らずに一心不乱に仕事に励んでいる。

気持ち悪いけど機能的なのかもしれない。


どうやらここは砂漠に作られた街のようだ。

塔以外にも粗末な家がパラパラと建っている。

道端には物乞いや布を貼っただけの露店が点在している。

私達の虫車は、生気のない目で見てくる彼らの中を潜り抜け、最も高い塔の近くで止まった。

エステレアの手を借りて恐る恐る降りる私。

つるっとした壁が音も立てずにスライドして開いた。これが入り口だったらしい。継ぎ目がなくて壁とドアの区別がつかない。


塔の中は見た目より広い。空間拡張をしているのだろう。これはそんなに珍しくはない。そして中央にエレベーターのような部屋がある。



「最上階にて皇帝陛下がお待ちです、こちらへどうぞ」



私たちもよく知る転送機と原理は同じだ。最上階まで跳ぶとなると桁違いの魔力が必要になると思うが、どこから集めてるのだろうか。

転送機で一瞬にして上層に跳び、私たちはついにアルグレオの支配者と謁見する事になった。







「皇帝陛下の永遠の治世をお祈りいたします」



代表の人が挨拶をする。なんかこういう決まり文句があるんだそうだ。

私達は全員立礼で通している。あちらもそうしてきたのだから、こちらもそう返すのが筋というものだろう。

ちなみに以前渡った使者は跪いて謁見したと言っていた。



「よくぞ来た、北の使者達よ」



皇帝は輝く金色の髪と尖った耳を持つ男性……要するにエルフだ。

彼は一段高い王座で私たちを見下ろしながら、無表情にこちらの代表の口上を聞いている。

無遠慮なその目線が私の目と合った。


目を逸らさない。

私も逸らさない。

彼は私の名誉毀損と人身売買を指示した可能性がある容疑者である。胆力で負けるわけにはいかない。

そのまま数秒間見つめ合って、皇帝は少しだけ口元を綻ばせると、まだ喋っている代表に目を向けた。



「またこの度の技術提携においても……」

「もうよい」

「…………左様ですか」

「それよりも疲れたであろう。部屋を用意した。今日はゆっくり休むがよかろう」

「ご配慮感謝いたします」



口上を途中で遮られたにも関わらず、代表は不満をおくびにも出さない。少しくらい怒っていいと思うのだが。

踵を返す私を薄っすら笑いながら見つめる皇帝。

嫌な予感がする。

その予感はすぐに的中する事となった。







「トモシビ・セレストエイム様はこちらへどうぞ」



なぜか私だけ別の階に案内しようとする案内役。

他は全員同じ階の部屋なのに。



「なぜトモシビさんだけ? 何かあるのですか?」

「皇帝陛下からの特別のお達しです」

「お待ちください。私はお嬢様のメイドです。離れていてはお世話ができません」

「そういうことでしたら侍従の方もこちらへどうぞ」

「あ、わ、私も〜」



4人とも来ることになった。どう考えても怪しいので助かる。

客室へ向かう使節団を見送って、私たちは何度も扉を乗り越えた先に通される。

おそらく全部特殊な魔導錠がかけられている。えらく厳重だ。

そして通された部屋は……。



「……ベッドやけに大きくない?」

「キングサイズより大きいですね」

「きっとみんなで寝られるようにしてくれたんだよ〜」



そうだろうか?

ちなみに4人にはそれぞれ別の部屋があてがわれている。私だけ豪華だ。

部屋は大きなベッドがあってなお広くて余裕がある。

窓は雲の上。眺めは格別だ。

しかも香が焚かれているらしい。良い匂いがする。飲み物も用意されていた。

ベッドに座ってみる。

体がズブズブと沈み込む。

……これは良い部屋だ。


しばらくベッドで遊んでいるとノックもなく扉が開いた。



「寛いでいるようだな」



入って来たのは皇帝その人だった。



大きな虫は大体魔物ですが、実は普通の虫もいたりします。


※次回更新は27日月曜日になります。

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