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これから毎日チアをやらない

※1月23日誤字修正。ご報告ありがとうございました!



「うーん……表情がイマイチって感じっすねー」



カメラを手にプラチナが指示を出す。私は口の端を持ち上げてみた。



「こう?」

「なんでドヤ顔になるんすか?」



失礼な。

戦に挑む不敵な笑みだ。

私の見つめる先にはオークの巣を駆除しているクラスメイトがいる。

彼らはもうオーク程度ではピンチにもならない。

私は刀を取り出してポーズをとってみせた。

ワーワー戦っている彼らを率いる私カッコいい、そんな感じの写真を撮るのである。



「なんすかその刀?」

「すごい、でしょ」



刀に魔力をこめる。刀身が赤く光った。この刀は魔力を込めると赤く光るのだ。

セレストエイムのゴールドマン系列のお店にあったヒヒイロカネの刀である。

王都のお店に搬入されていたので、ヨシュアとアイナに価格交渉したら半額で譲ってくれたのだ。

私の戦闘スタイルでは全然使い道がないけど、やっぱり珍しい武器というのは良いものである。

……それに光るし。



「もうちょっと平和的な感じの方が良くないすか?」



言われてみるとそうかもしれない。

あのエルフの暴露やお昼の放送で私の知名度は一気に上がった。良い噂も悪い噂も合わせて巷では私の話題が多い。

そんな中で、私は新聞社から取材の申し込みを受けたのである。

それでそれに使う写真を撮影しているところなのだが……。



「このくらいならいいんじゃない? テスタロッサちゃんらしいじゃん」



演出はリノ先輩だ。

彼女は部活メンバーではないのだが新聞社にコネがあるらしく、良い写真が取れたら使ってもらえるという約束を取り付けてきたんだそうだ。

やっぱり将来はこういう仕事がしたいのだろうか。



「そうっす……そうですかね」

「もー、普通の喋り方しなよ。そっちの方が可愛いよ」

「可愛い、すか?」

「うんうん、自信持ちなよ」

「いやでもトモシビ様見てると自信なくすっす」



それ普通の口調なんだろうか。

プラチナは美人だ。でもその口調と敬語とどっちが可愛いかは微妙である。男には敬語の方がウケるまであるかもしれない。

ただとっつきやすくなるとは思う。



「お嬢様がなぜ美しいか分かりますか?」

「な、なぜっすか?」

「はい、元々美しいからです!」

「その通りですクロエ」

「くっ……!」



エステレアとクロエがわざわざ煽るようなことを言う。

たしかに私は世界一美しくて可憐で高貴で才色兼備だが、それを笠に来て威張り散らしていては友達をなくしそうである。

と、カメラが光った。



「やったっす!憂いを帯びた表情ゲットっす!」

「わかってきたね! これは今年のパーソンオブザイヤー頂きかな!」



ハイタッチする2人。

プラチナもなかなか切り替えが早い。

先輩は私をアイドルにしてプロデュースする夢を諦めてないらしい。私も望むところだけど。



「よし、次はあれっすね」

「あれね。行こっかテスタロッサちゃん」



あれか……。

あまり気が進まない。

私は戦っている彼らの下に向かった。







「がんばれ、がんばれ」

「お……おお!」



ポンポンを振って応援する私。

近くにいたグレンの動きが目に見えて良くなった。

他の皆も喜んでいる、気がする。

最初から押していたのもあり、オークはすぐに全滅させられてしまった。



「そこにあったのは恐ろしい魔王ではなく懸命に仲間を励ます彼女の姿であった、と」

「いいっすねえ、アスラーム様もご満悦っすよ」



チアリーディングなんてしたことないので適当である。

一応私のイメージアップを考えてくれているらしいのだが、それにかこつけて余計なことさせられてる気がする。

人気が出るのは良い。

でも私としては戦えないのは不満だ。やっぱり私は自分が戦いたいのだ。

最強を目指す私が応援しかさせて貰えないのは甚だ不本意である。


ちなみにオークは豚の魔物だ。

生命力が高く、なかなか力強いのでゴブリンよりは数段上の強敵であると言えるだろう。

そんなのを相手にしても最近は皆余裕なのでついでに撮影しているわけだが……なんだか最近魔物を舐めすぎていて不安になる。

そのうち足元をすくわれるかもしれない。

冒険者のおじさんの受け売りだけど、私が注意していなくてはならない。



「いやあ、良かったよ。君はチアもうまいんだね」

「まるで百合の花が舞っているかと思いました」

「これから毎日チアをやろうぜ」



このやる気のカケラもないチアが上手く見えるわけがない。

アスラーム達の私に対する評価はいつも皮肉と勘違いしそうなくらいに激甘だ。

そうやって調子に乗せたら喜んでやると思ったら大間違いである。

私は彼らにポンポンを突きつけた。



「次からは、私もたたかう」

「でもほら、君は切り札だからなるべく後方にいてほしいんだ。危ないことは僕らに任せて」

「お前がでかいやつをやれるのは分かったが、雑魚に消耗してりゃ世話ねえだろ」



最近、こういう大人数の時は戦わせてくれないのだ。

たしかに彼らの言うことも一理ある。魔物を倒して消耗した直後にいきなり巨大ミミズが出ることもあり得なくはないのだ。

そういう時のために私の魔力は残しておくべきである。

ぼーっとしててオークに殴られたらそれだけで死ぬのが私だ。奥に引っ込んで大人しくしているのが合理的な運用と言える。

……そうすると、ひょっとして戦いを舐めているのは私の方なのだろうか?



「今度はチアの衣装も着てみたらどうかな?」

「もうやらない」

「きっと似合うよ。ファンも増えるんじゃないかな」

「…………」



似合う、だろうけど……。

ちょっと揺らいでしまった。



「彼らを応援する必要はございませんが、お嬢様が安全な場所におられるのはよろしいかと」

「トモシビちゃんは無茶しない方がいいよ」

「ま、お嬢はお守りみたいなもんだな」



どうやら、わざわざ私を戦わせたい人と思ってる人は私だけのようだ。

私の安全的にも戦術的にも後方で待機しているのが正解らしい。

少人数のチームならともかく、こういった大人数の戦いでは大怪獣と遭遇しない限り出番がない。

ひょっとすると親善試合でもそうなるのだろうか?

不安である。







次の日、私は取材を受けることになった。

カメラがパシャッと光る。

あれだけ撮ったのにまだ撮らなきゃいけないらしい。私はろくろを回すようなポーズを取らされた。



「まずレメディオス大使の発言について、どのように思われているか聞いても良いですか?」



あの人間ではないという発言の事だ。



「正直、困惑しています。全く身に覚えのない事ですから。そもそもエルフやリザードマンといった我々にとって未知の種族を抱える彼女らの言う人間というのがいかなるカテゴリの範疇を示しているのか疑問です」

「そ、そうですか、つまり……認識に齟齬があったと」

「あくまでその発言が事実であるならという仮定の話です。どういったエビデンスを基にしているのか分かりませんから。一番自然な解釈は国王陛下の言う通り私の特異な外見を見て勘違いしたというものでしょう。私もそちらが有力であると考えます」

「はあ、なるほど」



記者は戸惑った様子で書き留めた。

猫のぬいぐるみを抱える私から大人びた言葉が発せられたからだ。

アンバランスなのは自分でも分かっている。



「随分と、その、イメージが違いますね」

「そんなこと、ない」

「……?」



辿々しい喋り方になった私を見て、記者の顔に疑問符が浮かんだ。



「あー……では、次の質問に移ります」

「わかった」

「貴女は若干13歳にしてクラスをまとめ上げ、学園を代表する才女と聞いています。しかし魔物を使役するなど個性的な思想の持ち主であるとも指摘されております。このような特殊性と関連付けて考える動きもあるようですが」

「どんな動き?」

「つまり、かつてグランドリア全土を震撼させた魔王と呼ばれる存在との関連性です」



やっぱり言ってきた。ここが正念場だ。しっかり反論しておかねばならない。

スライムが。

私はぬいぐるみをお腹に抱えて合図を送る。するとスライムは私の声色で喋り始めた。



「根も葉もない噂としか言いようがありません。私は人を害する数多くの魔物を倒し、王都の安定に貢献してきました。魔物を飼育しているのは事実ですがそれは研究目的です。誰よりも人類の役に立とうとするトモシビがなぜそのような悪評を立てられなければならないのでしょうか? とても残念です」

「ん?」

「え?」

「と、トモシビ様、一人称が」

「……お嬢様はいつもはご自分の事を名前で呼ばれるのです。慣れないインタビューですので」

「そういうことですか。分かりますよ。うちの娘もそうでした」

「……と、トモシビ、お喋り苦手、だから」



記者は微笑ましいものを見るように目を細めた。苦しい言い訳だが通じたようだ。

内容自体は概ね私が考えたものだ。練習する時間がなかったのでスライムに代わりに喋ってもらっている。

歯痒いけど仕方ないのだ。



「では最後に、貴女は我が国の代表としてアルグレオとの一戦に挑むわけですが、それにかける思いがあれば聞かせてください」

「…………」



その質問は考えてなかった。

直近のアルグレオ行きの話をされると思ったが、まだ先の事である親善試合について聞かれるとは思わなかった。

……自分で答えるしかない。

私は力強く頷いた。



「大丈夫、まかせて」

「……あ、それだけですか?」

「…………がんばる」

「あ、あの、トモシビちゃん、いつもはもう寝る時間なんです」

「お嬢様ったら、興奮してお昼寝もできなかったのですよ」

「ああなるほど」



私にお昼寝は必要ない。たまにフェリスにつられて寝ているだけである。



「では貴重なお時間をありがとうございました。たっぷりお休みになってください」

「ありがと」



礼儀正しい記者だった。あの人なら私のことを悪くは書かなそうだ。

とにかくグランドリアのために健気に頑張っている女の子という演出が重要なのである。

かける思いなど聞かれても、名声が欲しいなどと言うわけにもいかないのだ。



「危なかったですね」

「申し訳ありません、つい熱が入ってしまいました」



ぬいぐるみからスライムが這い出してきた。

彼はこう見えて感情豊かなのである。

スライムはよくやってくれた。私が話していればまともなインタビューにならなかっただろう。

スライムを撫でるとぽよぽよ動いた。



「さあ、明日からはまた旅です。準備をしませんと」

「どんなところなんだろうね、アルグレオって」

「すっごく文明が発達してそうですね」



明日から使者として南の大陸へ出発するのだ。

一応言われたものは揃えた。服は薄着で日差しを防ぐもの推奨、あと汗を拭くタオル……私は体拭き用になるけどよほど暑いらしい。

ジェノバまでまた1日かかるし、さらに10日間あっちで過ごすことになる。

旅支度もそうだが、大変なのは勉強の遅れだ。適度に自習しておかなければならない。学園は休んでくれないのである。

おまけに敵の本拠地ともなれば何が起きるか分からない。

それでも私にとっては楽しみな旅行だ。

あとは帰ってきた頃に私の変な悪評がなくなっていることを祈るばかりである。



チアリーディングってものすごいアクロバットなのがあったりしますけど、トモシビちゃんのやったのは無表情にポンポンを振るだけです。


※次回更新は25日土曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] トモシビちゃん、男子ばかり餌をあげてる 裏ではあのトモシビって子、また男子にやる気のない色目使ってる…ヒソヒソ…になってそう
[一言] もっと萌えるがいいや!
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