ニュースグランドリア
スミスさんがカウントを始める。
「3……2……1」
設置された目玉カメラがギョロリとこちらを見た。
「スタート」
「こんにちは、王都の皆様。ニュースグランドリアです」
順調な滑り出しだ。このカメラは生放送専用なので撮り直しなどできない。
「こちらは皆さまに最新のニュースや国からのお知らせをお届けするためのコンテンツとなっております。本日より毎日この時間にお送りいたしますのでぜひご覧下さい」
あの歓迎パーティーで設置された撮影器具一式はそのままグランドリアに譲渡される事になった。
それを使って何かできないか、という話があったので、私がコネでトモシビ・チャンネルの開設を訴えてみたのだが当然のように却下されてしまった。
グランドリア首脳部は、主にニュースや行事の様子などを配信するつもりだそうだ。
「スピーカーは私、報道官ロナルド・パウエル。そしてゲストは魔法学園代表……」
「トモシビ・セレストエイム……だよ」
しかしせめてニュースを伝える役をやりたい。
そう言って、王様にマッサージしてあげながら頼んだら試験的にやらせてもらえることになった。
なんといっても私は国の威信をかけて親善試合に挑む代表の中の代表だ。ゲストに呼ばれる資格は十分にある。
ちなみにカメラは設置式だ。あのヒュム男みたいに操るのは難しいらしい。
「まずは一つ目のニュースです。昨日の昼過ぎ、商店街でアルグレオ使節団が乱闘騒ぎを起こしたとの事です」
「乱闘」
「乱闘だね。幸いにも被害はなし。しかし他国に来て乱闘騒ぎとは中々……あー、満喫してくれているようで何よりですね、トモシビちゃん」
「うん……懲らしめといた」
「え?」
……もうちょっとコメントした方が良いのだろうか?
コメンテーターって大変だ。
でもこういうことをしていれば、私のお喋りも練習できるし、エルフによって傷付けられた私のイメージを払拭してファンも増えると思う。
「あ、そのお店のクレープ……おいしかった。おすすめは、ティラミスのやつ……タピオカのも、食べてみたけど、あんまりよくなかった」
「……そう。どうやらトモシビちゃんも満喫していたようだね。皆さんも是非食べてみてくださいね。では次……」
ニュースを伝えるのは、このロナウドさんの仕事だ。ゲストはそれを受けて視聴者の代わりに質問したり、軽快なトークで場を和ませる役。
「……ロナウドおじさん、立憲君主制ってなに?」
「君主が法によって権力の制限を受ける制度のことさ。グランドリアもそうだ」
「難しいこと、いわないで」
「つまり……」
いや難しくないし、知ってるけどそういう演出なのだ。
なんか教育番組のマスコットキャラになった気分である。
何しろこういった放送自体グランドリアで初めての試みである。
マニュアルも前例もない。
おそらくウケがよければそれが今後の参考にされるのだろう。
「……さて、ニュースは以上になります。ご意見ご感想があればこの魔法学園の放送室までどうぞ」
ニュースを伝え終わったロナウドさんが締めに入る。
ちなみにここは学園だ。映すの自体は目玉カメラがあればどこでも良い。
学生である私がお昼の放送をするのに一番都合の良い場所が学園だったので考慮してくれたのだ。
そのうち放送局をどこかに設置して魔導院やら治安部隊やらと連携して放送を行なっていく予定だそうだ。
「では最後にトモシビちゃん、頼むよ」
「この放送は毎日、この時間にやるから、明日も見てね……お願い」
「はい、OK。二人ともお疲れ様」
「素晴らしいですわお嬢様!」
「これ本当に広場のあれで見られるの〜?」
「そうだよ。小さなやつはお城にある。もう一つくらい欲しいよね」
「家庭に一台欲しいですわよね」
まさにテレビだ。
一応あのホログラムモニターの魔導式は調べてみたのだが、複数の魔導具が複雑に組み合わせてあるらしく、私の″窓″でコピーするのも骨が折れそうだった。
でもカメラの方はそんなに難しくはない。
映像を送るだけだからだ。
そのうちいつでもどこでも私による配信が可能になるかもしれない。
次の日、学園にはいくつかの手紙が寄せられた。
ほとんど私宛てだ。ファンレター……だと思う。
放送室宛てのやつはお店の宣伝をしてくれとか、そういうのだ。私がクレープの話をしたからだろう。
そしてお昼休みとなり、この空き部屋を改造した放送室には結構な見物人が押しかけた。
「王都の皆さん、こんにちは。ニュースグランドリアのお時間です。お伝えするのは私、ロナウド・パウエルと」
「私だよ」
「トモシビ・セレストエイムちゃん、ね」
慣れてきた。
今日はニュースがあまりない。
というかそもそも王都でニュースになるような出来事は普段からそんなにないのだ。万引きとか細かい犯罪は毎日のように起きてるそうだが、そういうのを伝えていたらキリがない。
「さて、ニュースは以上だけど……トモシビちゃんは何をやってるんだい?」
「今日はお手紙、いっぱいきたから、読んであげる」
これでいいか。
適当なものを選んで開いてみる。
読む暇がないのでどれも何が書いてあるのか分からない。
「ペンネーム……なんでもする、さん。トモシビちゃんの推しのクレープ食べました。間接キス、しちゃったね」
なんだこの手紙は。
まあ、たぶんファンなんだと思う。あまり無下に扱う訳にもいかない。
「そのクレープを食べた全員と間接キスしてることになるね」
「……これからも、食べてあげて」
「良い宣伝にはなったと思うよ」
「次、獄中のトムさん。トモシビちゃん、パンツなに履いてるの」
「だ、だれよ……あんなの送ったやつ」
エクレアが小声で怒りの声をあげた。
でもアイドルとはそういう仕事だ。驚きはしない。
私が世界最かわである以上、世界中の男性の性欲を刺激することは避けられない。男性人気と性欲は切っても切り離せないのだ。
「こんなの」
「ちょ……」
私は立ち上がってスカートの裾をめくり上げた。
皆が息を飲んだ。
カメラの位置からチラリと黒いものが少し見えた、と思ったところで戻す。
「見せパン……でした」
模擬戦がある日は見られても良いようにこういうスパッツみたいなのを履いているのだ。
うまく対処したと思ったのだが、見物人の顔がローアングラーみたいになってるのに気が付いた。
「驚かせないでくれトモシビちゃん。私の責任問題になりかねないからね」
……お昼にこれはやりすぎたかもしれない。苦情がくるかも。
「……ファンレターはいいけど、変なのはダメ。私との、約束」
フォローしておいた。こんな感じで良いかな。
「……また明日も、この時間にやるから、見てね、お願い」
「はい、OK」
「お疲れ様ですお嬢様」
「ふぅ、どうなるかと思ったよ」
「いやー良かったわー!」
私と同じ寮のリノ先輩が走り寄る。
彼女はスミスさんからカメラ役を任されることとなったのだ。
国営放送なので色んな偉い人が代わる代わる立ち会うわけだが、彼らとしても別の仕事をやってる身である。ゆくゆくは行政機関として正式に放送局を設けて運営していく方針だそうだ。
このリノ先輩は卒業後そこに就職を狙っているらしい。
強かである。
「グランドリアのトップアイドルを目指そうねテスタロッサちゃん。あだ名も考えなきゃ」
「テスタロッサでいい」
「そかー……」
「ねえ、ああいう変態からの手紙先に仕分けしとかない?」
「そうですね、あんなのトモシビ様に読ませるわけにはいきません」
読んでもいいけどね。ただ、常識というものがあるのだ。国営放送だし。
「あ、じゃあ、有志を集めてそういう仕分けとか雑用やってもらうよー」
「いいの〜?」
「ここで経験積んでおけば放送局に就職できるでしょ? 一般クラスなんかは垂涎ものだよ。どう? ロナウドさん」
「私の口からはなんとも……まあ、就職有利にはなるだろうね」
「よし、任せといて!」
頼りになる先輩である。
この先輩は魔法戦クラスなのに戦うのは好きじゃないらしい。
そのうちプロデューサーか何かになるかもしれない。
放送局には山のような手紙が届いた。
案の定、苦情も来た。
『過激すぎる。子供に何をやらせているのか』
『虐待では?』
『女の子だけずっと映せ』
そんな感じだ。それでも大半は私宛のファンレターである。
セクハラも多いけど私が釘を刺した効果があったのか、半分以上は普通の内容だ。
「すごいわ。お昼の数分しかやってないのに結構見られてるのね」
「トモシビちゃんほんとにトップアイドルになっちゃいそうだね……」
なんだかフェリスは寂しそうだ。
このまま続けていけば、そのうち歩くだけでファンが群がるくらいになるかもしれない。
……嬉しいけどちょっと怖い、かな。
でも私が自分で始めたことだ。今更怖気付くものか。
そう考えていた私だったが、そんな心配も意気込みも突然無駄になった。
「トモシビ君、悪いんだけど、今日の放送は中止だ。いや、無期限停止となった」
放送室に来た私にスミスさんが告げた。
なぜ? 苦情のせい? 昨日のやつがダメだったのだろうか?
報道官のロナウドさんも今日は来ていない。中止を伝えられたからだろう。
「……どうして?」
「そ、そんな悲しそうな顔されても困るよ。あのモニター機材に妙な動作をしている部品が組み込まれていたんだ。調査完了するまで使えない」
「なにそれ? 爆弾でも仕掛けられてたの?」
「あのアルグレオの大使は何と言っているんですか?」
「言ってないよ。もし故意に何か仕掛けたなら聞いても答えるわけないからね」
いきなり放送を止めたらその仕掛けに勘付かれたと判断するだろう。とはいえ、やめないよりはマシである。こちらがどこまで気付いているか教える必要もない。
というのがスミスさんの話だ。
これは構造を解析して国産化できるようになるまでは無理かもしれない。
軌道に乗ってきたと思ったその瞬間に終わるとは思わなかった。
無念である。
放送終了を告げられた私は失意の内にお昼ご飯を食べに向かった。
私は学生であるので、お昼ご飯は当然いつも学園の食堂で食べる。
この食堂はグランドリアの有名シェフがいるらしく味は良い。ただ毎日食べるにはバリエーションが少ないのがたまに傷である。
そんな食堂が珍しくメニューを更新していた。
「このロールキャベツ、酸っぱいね」
「……これはセレストエイム風ですね。酢漬けのキャベツを使うのです」
酸っぱいロールキャベツにサワークリームが添えてある。実家でよく見た料理である。
そして私が食べているのは鶏肉やソーセージを香辛料とトマトソースで煮込んだやつだ。
美味しい。
故郷の味というのは良いものだ。
「へー、セレストエイム様のとこはこういうもの食べてるのね」
「なんか癖になる味ね」
グランドリアはわりとあっさり目なので、酸っぱかったり辛かったりするあちらの料理は新鮮なのだろう。
それにしても、なんでいきなりセレストエイムの料理を?
「ほら、前の放送でトモシビが言ってたじゃない」
「ああ、あっちの料理が食べたくなるって」
「うん、それで食べさせてやってくれって学園の理事会から言われたらしいよ」
「理事会!?」
なんてことだ。私の発言力は知らぬうちにすごいことになっているらしい。
「もう一つのモニターはお城の食堂に設置されていたのですよ。皆様毎日ご覧になられていたそうです」
「皆様って……」
「お父様とか大臣とか官僚、国の首脳部ですわね」
大変なことになっていたらしい。
私は彼らの前で見せパンとはいえ……やってしまったのか。緊張感がないのも困りものだ。
考えてみるとあの人の良さそうなロナウドさんからして報道官だ。つまり政府の高官なのである。
最初の国営放送である以上、注目度は高くて当然だったのだ。
「もうセレストエイム様、国の重鎮じゃん」
「元々、辺境伯の家柄であらせられますから」
「再開されたら今度は正式にお呼びがかかりそうですわね」
辺境伯は危険と隣り合わせなので権限が大きい。伯とつくものの伯爵ではなく公爵相当とされている。
お父様もああ見えてかなりの地位にいる人物なのだ。
まあ、滅多にセレストエイムを離れないので知名度は低いかもしれないが。
最後は残念な結果に終わったとはいえ、国の首脳部に人気が出たのは嬉しい誤算だ。どうやらあの放送はそれなりの成果を上げたらしい。
私の無念はわりとすぐ消えたのであった。
この王都には新聞はありますがテレビはありませんでした。第一号ですね。
ちなみに一応ファッション誌なんかもあります。
※次回更新は23日木曜日になります。




