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ドラゴンと競争しました



良い天気だ。

気持ち良い風が吹く。

今日は絶好の部活日和だ。

バサバサと音を立てて、青空を巨大な鳥が舞うのが見える。

あれも魔物かな。

魔物だとしても今日の狙いはあの鳥ではない。



「見えてきましたわね」



背の高いアナスタシアが真っ先に見つけた。

平原にキリンの首だけ無くしたような物体が佇んでいる。

毛皮がなく皮膚がむき出しになったエイリアンみたいな細長い4本の脚。

その脚の上に乗っかっている胴体も毛が生えてない。

頭も首も顔もない。

微動だにせずずっと立ってるだけ。



「また変な魔物だね……」

「また、とはワタシもですか?」

「ごめん。でも実際そうだよ」

「あんたみたいな魔物他にいないっしょ」

「そうですか……」

「私も変だから、大丈夫」



変と言われてちょっと傷ついたような声を出したスライムを撫でてあげた。

彼の居場所は私のポケットの中だ。


久方ぶりの部活。

任務はグランドリアの各地で目撃されている奇妙な魔物の調査だ。

チームごとにバラけて各々が四方に調査に向かった。私たちはいつも通りアナスタシアチームと私チームの合同である。


謎の魔物は直立不動を保っている。

遠巻きに見ていても何も変化がない。

ということで変化がない以上、私の出番である。



「じゃ、行ってくる」

「またお嬢様ったら……」

「転移があるのでしょう? 大丈夫ですわよ」



スライムや木人の件もあるので、とりあえず謎の魔物には話しかけることにしているのだ。



「こんにちは」



予想通り反応なし。

脳みそってあるんだろうか?

失礼なことを考えてしまった。

まあスライムみたいな生物もいることはいるけど、これは何か違う気がする。

意思が感じられないのだ。

肉で出来た前衛芸術か何かに見える。

近付いていく私。

油断せず……ゆっくり。

なおかつ静かに、刺激しないように。


これはたぶん新種だと思う、

なら友好的に接するべきだ。

スライムだってもし人間から攻撃をされていたら人間嫌いになっていたかもしれない。

敵を増やすより味方を増やすべし。

退治するのは攻撃されてからで良い。



「私、トモシビ……知ってる? 有名」



シーカーを起動する。

魔力が多い。私と同じくらいある。危険な相手かもしれない。

謎の魔物……キリン体と名付けよう。

私はキリン体の胴体に丸い円盤のようなものがあるのに気付いた。脇腹のあたりだ。強いて言うなら窓みたいな……。

その窓の辺りの魔力が動いた。

光が模様を描く。

やばい。

転移発動。


私のいた場所に火炎放射器のような炎が浴びせかけられた。

皆の悲鳴が聞こえる。



「トモシビちゃん!」

「平気」

「やっぱ敵じゃん! やるよ?」

「ええ、攻撃開始!」



皆が攻撃を始めるのを私は上から見守る。

キリン体は足をズボッと地面から引き抜き、なんとも緩慢な動作で移動を始める。

その足をアナスタシアが両断し、キリン体はグラリと体勢を崩した。

さらに畳みかけられ、瞬く間に足を全て切断されてしまう。

胴体がドサリと横たわった。そこをさらに攻撃される。


あれ? 弱い。

これなら捕獲できそうだ。



「心臓とか……あるんでしょうか?」

「一応それっぽい場所刺したけど、死んだのかどうかも分からないわ」

「まだ生きてる」



魔力はまだ内部に健在だ。

ただ、今はその魔力も動く気配はない。気絶したか、もしくは脳的な部分が損傷したとかかもしれない。



「このまま運ぼ」

「大丈夫ですか? 途中でまた魔術使ったりしたら……」

「大丈夫、これがある」



そう言って私が取り出したのは奴隷の首輪。

これは魔力の操作を阻害する魔導具になっているらしい。

私が以前潜入捜査する時に着けさせられたものだ。

何かに使おうと思って回収しておいたのである。

この首輪をキリン体の足の付け根に巻く……太いけどギリギリいけた。



「そうですわね、せっかくですからそれでいきましょうか」



マンティコアの馬車があるので多少重くても運べるだろう。

私達は肉袋と化したキリン体を馬車に乗せる。

そして、マンティコアに合図をしようとして……異変に気付いた。

誰かがマンティコアを撫でていた。



「くふふ、思った通りのようですねトモシビ様」



それはレプタット村でカサンドラと名乗った女性だった。



「……どなたですか? トモシビ様のお知り合いでしょうか?」

「あ、この人だよ。私の村にいた魔王の配下っていう……」

「司会の人」

「どうやら、只者ではないようですわね」



アナスタシア達が武器を構えた。

最大限の警戒をしている。

何しろ魔王軍だ。グランドリアの宿敵である。

しかし、カサンドラは余裕の表情を崩さない



「私のことはどうぞ、メスイヌとでもお呼び下さいトモシビ様」

「…………めす、いぬ?」

「あぁん!」



自分の体を搔き抱いて悶えてる。

新手の変態だ。



「……何しにきたのかしら?」

「いえ、今あなた方が捕獲された魔物、それを渡して頂きたいのです」

「なんで? 嫌に決まってんじゃん」

「では、情報と引き換えでは如何ですか?」

「何のですか?」

「この魔物について、とか?」



……悪くない気がする。

私達は顔を寄せ合った。



「どう? トモシビ」

「いいと思う……けど、嘘言うかも」

「トモシビ様に嘘など申し上げるはずがございません」

「耳いいねあの人……」

「てかセレストエイム様が言えば何でも答えそうじゃない?」

「先に情報貰ってから考えてみてはどうでしょう? つまらない話なら踏み倒しましょう」

「拷問には心得があります。捕まえてさらに情報を吐かせることも可能です」



エステレアとメイがどちらが魔王の手下か分からないような提案をした。でもまあ、敵に対する態度としては正しいのかもしれない。

情報を貰ってから考えるというのは私も賛成だ。



「先に情報くれたら、かんがえてあげる」

「ああ……なんて傲慢な態度……最後にメスイヌとおつけください」

「…………情報くれたら、かんがえてあげる、めすいぬ」

「あぁん!」



……なぜこの手のM属性のある人は皆私に指図してくるのだろう?

おかしくないだろうか。

一体どちらが上なのかさっぱりわからない。



「気が抜けますわね……」

「それでいいなら早く話してよね」

「良いでしょう、この魔物はあちらの大陸の者の仕業です」

「あちらってアルグレオ?」

「……何のためにですか?」

「ここはどこかご存知でしょうか?」



ここ?

王都の北東だ。何もない場所である。



「ここは地脈の一つが通る場所です」



……そうか。この魔物の形状、地面に突き刺さっていた足。地脈から魔力を吸い上げて溜めていたのか。

ということはつまり、スライムみたいに王都を停電状態に追い込もうとしていた……とか?

口に出した思考ではない。

しかし彼女は私の考えを読んだかのように笑って続ける。



「いいえ、トモシビ様。この程度では地脈は枯れません。彼らはただこの魔物で魔力を集めているのです」

「何のためにですか?」

「さあ……用途は色々でございましょう」



魔力は前世における電力のようなものだ。いや、それよりもっと汎用性が高いとも言える。

魔術で人間が直接使用することもできるのだから。



「なるほどね。で、あんたはそれをどうしようっていうのさ?」

「さあ……用途は色々です」

「そこは言わないってわけ? ふざけてるわね」

「……ちゃんと答えて、めすいぬ」

「あぁっ……!なんて冷たいお声……!」



思いっきり蔑んだように言ってみた。彼女はビクンビクンと震えている。



「で、では、その代わりご忠告を一つ」

「……言ってみて」

「彼の国は魔封器を狙っております。お気をつけください」



その時、私たちの頭上にサッと影がさした。

バサバサとした羽音がぐんぐん大きくなる。

鳥……ではない。



「ど、ドラゴン……」



空飛ぶ恐竜のような姿。紛れもなくドラゴンだ。

伝説にうたわれる存在。神話の魔物の代名詞。

ドラゴンは私たちの前に降り立つと、力を入れて羽ばたいた。

突風が襲いかかる。



「きゃあっ!」

「わぁ」

「お嬢様!」

「くっ……みんな無事?」

「トモシビちゃんが飛んでった!」



ハリケーンのような風の力で私は軽く上空に打ち上げられてしまう。

やばい……追撃が来るかも。

空を舞いながらスカイドライブを取り出す。

私が体勢を立て直したとき、ドラゴンの背には既にカサンドラが乗っていた。

そして、その口には捕まえた魔物がくわえられている。



「またお会いしましょう」

「逃げる気だよ!」

「くっ……」



バサバサとまた羽ばたき始めるドラゴン。

地上に突風が吹き荒れる。

彼女を乗せたドラゴンはその巨体に似合わぬ身軽さで宙に浮き、そのまま猛スピードで去っていく。


……そうはいかない。

足にブースターの魔法陣を10個同時に描く。

私の体はすぐにドラゴンを凌駕する加速で空中を走り始める。

体が縦に圧縮され、凄まじいGが足にかかる。

目の前が暗くなりかけるのを足に力を入れ、歯を食いしばって防ぐ。

スカイドライブがあるなら私の魔力の大半は加速に使えるのだ。

見る見るうちにドラゴンとの距離が縮まっていく。



「ッ……!?」



振り返った彼女の顔から初めて余裕が消えた。







風がすごい。新幹線以上の速度が出てる。髪をまとめてきたら良かった。風圧だけで抜けそうだ。

無茶苦茶な加速をかけた私の体はほどなくドラゴンに追いつき……タッチダウンした。


スッと風が止んだ。

……ドラゴンの周囲に風のシールドみたいなのが貼ってあるのだろうか。

そうか、爆弾の魔術の皮の部分と同じだ。私もそうすれば良かった。

彼女が涼しい顔して乗っていられるのはそういう理由か。

もっとも、その涼しい顔は今は驚愕に彩られているのだが。

私は彼女の後ろに立って話しかけた。



「めすいぬ」

「ッ……もうごっこ遊びは終わりです」

「ごっこ?」

「私は魔王様の僕です。貴女は代用品にすぎません」



魔王の代用品……ということだろうか。

でも、だとしても、なぜ代用品なんか求める必要がある?

それは、つまり……。



「貴女は、満たされてない」

「なに?」

「だから、代用品がいる」



私は左手を差し出した。信じられないような顔をしている。

そんな彼女に優しく優しく私は語りかける。



「私が、満たしてあげる」

「んっ……でも……」

「私は、魔王と同じだから……魔王のこと、もっと教えて」



私の顔と手を交互に見比べるカサンドラ。

どうもこの人は憎めない部分がある。

……いや、なんか、どことなくエステレアに似てるのだ。魔王のメイドなんだろうか?

やがて、彼女は卵のようなものを取り出し、私に差し出した。



「これをお持ちください」

「卵?」

「貴女様がピンチになった時、割ってください。きっと助けになります」

「? わかった」

「私は貴女様とは行けません、それでは」



ドラゴンが急降下した。

立っていた私は、その降下についていけず引き離され……時速数百キロの風圧で吹き飛ばされた。

ドラゴンのシールドの影響下から離れたせいだ。



「スライム……魔力少し、お願い」

「了解です」



すぐに体勢を立て直す私。

そしてマップを見る。

随分皆と離れてしまった。この距離を飛ぶには魔力が心許ない。

結局、魔物は奪われてしまった。

その代わり謎の卵を貰った。ダチョウの卵くらいの大きさがある。ピンチの時に割れと言われても効果が分からなくては困る。


ドラゴンはもう遠くに行ってしまった。

ここからでは追いつけないだろう。

つまり、任務失敗だ。

私は気晴らしに空中散歩を楽しみながら皆の下に戻ったのであった。



章ごとに連続投稿していこうと考えていたのですが止まってしまってすみません。


ここからは週2〜3回ペースで更新しようと思います。

次回更新は16日木曜日を予定してます。

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