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私の中のやばいやつ

※12月16日誤字修正。ご報告ありがとうです!



私の腕に赤い線が引かれた。

魔物の爪が掠めたのである。



「トモシビちゃん!」



掠めるだけで済んだのは訓練の賜物だ。

まさかフェリスの耳にもかからず来るとは思わなかったが、なんとか避けられた。



「これ、マンティコアですよね?」

「そうね。レプタットって魔王軍多いの?」

「ええっ、見たことないよ」



強さは前に戦ったケルベロスと同じくらい……だと思う。

エクレアとフェリスが前に出る。お父様と訓練したこの2人なら特に問題なく倒せそうだ。

だがマンティコアはクルリと後ろを向いて走り去った。



「そこで逃げるの!?」



形成不利と見たのだろう。思い切った判断だ。

正面から戦わない厄介な魔物だ。

さっきの調子で奇襲を繰り返されたらかなり危険な相手だと言える。

でも問題ない。



「大丈夫、見て」



マップを広げて見せる。青い点がマンティコアだ。

やつは私に触れた。

こんなこともあろうかとフレンド登録しておいたのだ。



「一目散に逃げてますね……私達は諦めたんでしょうか?」

「村に行ったら大変だよ!」

「追いかけて、倒して来る」



取り出した琥珀のような魔導具に魔力を込める。

私の体がフワリと浮かんだ。

この魔導具はスカイドライブ。

スカイサーペントの尾びれにあった浮遊機関を取り出したものである。

一匹目の尾びれだけは無事だったのだ。


燃費が良く、まるでプラチナの精霊術のようにフワフワ飛べるので使い勝手が良い。

ブースターと併用すれば速度も出せる。



「あっお嬢様!」



ちょっと試したいことがあるのだ。

前にスライムがやった、相手の体内に直接叩き込む魔術。

座標取得と複雑な演算さえできれば私でもできるはずだ。


座標取得はこのマップに使っている式があれば可能だ。

離れれば離れるほど魔力消費が上がるので付かず離れずくらいが望ましい。また、こちらが動くと自分中心の座標系が動いてしまうので演算できなくなる。

なので自分は停止して、相手もある程度止まっている状況がベストだ。

マップを見ながら私は一人マンティコアを追う。


……いた。

誰かに攻撃を仕掛けようとしている。

急がなければ。

私は空中で静止すると、演算用の式を組み込んだ無数の″窓″を出現させた。

″窓″が開いて、座標を取得し、演算し、次の″窓″へ送る。

これらは一つ一つが関数のようなものだ。

もっとコンパクトにまとめることもできると思うが、失敗した時どこが悪いのか調べるにはこの方が楽なのである。


マンティコアが1人目をなぎ払った。

今なら……いける。

続いて2人目を攻撃したところで私は魔術を発動した。







座標指定エクスプロージョンによってマンティコアを爆散させた私は、見たことある顔を見つけてその側に降り立った。


たぶん……自信ないけどプールのあの人だ。

あの時と同じ事を聞いてみる。



「この服、かわいい?」

「か、可愛い……です。トモシビ・セレストエイム……様」



私の名前を知ってる。確定だ。

間違いなくあの人だ。



「ドM」

「……」



口をついて出てしまった。失礼だったか、と思ったけど彼は怒ってない。なんか恍惚としている。

嬉しいのだろうか。

近くには会長とメガネ2が倒れている。

あと知らない女の人も。

彼女も魔物にやられたのだろう。皆息はあるようだが、危ないかもしれない。クロエが必要だ。



「神術使いがいるから、安心して」

「あ……そこで倒れてる女、犯罪者っす。気をつけて」

「犯罪者?」

「よっ……と」



ドMは足に力を入れて立ち上がった。彼は大した怪我はないようだ。

そして犯罪者と言った女性の体をゴソゴソ調べ始めた。

まるで彼の方が犯罪者みたいだけど、どうやら武装解除しているらしい。

短剣や怪しげな小瓶など、彼女の持ち物を地面に並べていくドM。



「トモシビちゃ〜ん」

「またお嬢様ったらお一人で……あら?」



皆が来た。彼女達は血肉に塗れた地面とメガネ達を見て状況を悟ったようだ。

すぐに治療を開始するクロエ。気絶してるので彼らのあまり聞きたくない喘ぎ声はなかった。



「骨にヒビ入ってますから、もう彼らは棄権ですね」

「トモシビ様なんて骨折しても戦い続けたのに、だらしないファンクラブだわ」

「トモシビちゃん、この魔物いっぱいいるみたいだよ。バルザック探した方がいいよ」



たしかに、マンティコアはほとんど音を出さないので彼の鼻が必要だ。合流すべきかもしれない。

このマンティコアが魔王軍だとするならもうお祭りとか言ってる場合ではない。


4人はここに来るまでに一匹倒して来たらしい。

ほとんど時間経ってないので秒殺したのだろう。

もしかして私を守る必要がない方が動きやすいのかもしれない。



「あ、じゃあトモシビ様、この3人は俺がなんとかするんでどうぞ」

「貴方はたしかプールでお嬢様に……」

「ジグだ。トモシビ……様のファン、かな」

「ほんと?」



やっぱりファンだ。

ついに私にまともなファンが出来た。



「嬉しそうなお顔、複雑ですわ……」

「ああそれでその……助けて貰って図々しいんですが、お願いがあって」

「言ってみて」



気分が良い。変なことじゃなければなんでも聞いてあげようと思う。



「あの、ちょっと……難しい仕事しようと思ってるんです。それで、勇気をくれたらなって……」

「……分かった」



どうすればいいかな?

私は彼の手を取って励まそうとした。アイドルの握手会みたいなのを想像したのだ。



「あ、違うんです。命令……命令してほしいんです」

「…………跪いて」



ドMは全く躊躇することなく地面に跪いた。

本当にドMだ。

一瞬まともなファンだと思ったけど、やっぱり変態か……。



「誰に向かって、指図してる……の?」

「え……す、すみません……!」

「ジグは……小さな女の子に、服従したい……変態な人なの? 恥ずかしい……ね」

「うう……あぁ……」

「トモシビ様……」



ドMの息が荒くなってきた。



「罰として、何もしてあげない」

「そんな! 命令……命令を……!」

「だぁーめ」

「ああっ……!」



楽しくなってきた。

だって私の言葉一つで屈強な男が右往左往しているのだ。

男だった前世でこんなことできただろうか?

できるわけがない。

前世の記憶のないままのただの少女だったら?

年齢的にそれも難しいだろう。

両方揃った私だからこそできるのだ。たぶん。


それから私はしゃがみこみ、彼の目線に合わせて目一杯優しい声で言う。



「ちゃんと、お仕事してから……ご褒美に、命令してあげる」

「あ……ありがとうございます!」

「顔上げて」



ドMは歓喜している。涙すら滲んでる。

そこまで喜ばれると私もやり甲斐がある。私の罵倒スキルもだんだん上がってきた気がする。

何の仕事か知らないが、尻込みしてたら何もできない。こんなのでやる気が出るなら安いものである。


最後に私は左手の甲を差し出した。

右手はエクレアと間接キスさせてるみたいで嫌なのだ。

彼は荒い息を吐きながら、恭しくその手を取った。



「忠誠を誓って」

「俺は……生涯トモシビ様の性奴隷です!」

「よくで……え?」

「と、トモシビちゃん……?」

「ちがう」



私は首をブンブン振った。そんなもの求めてない。



「……お嬢様、ただの部下ということで如何ですか?」

「じゃ、それで」

「ああ、幸せだ……」

「トモシビ様の、性……奴……」

「ちがう」



エクレアが妙に艶かしい目でこちらを見てきた。

そんな生々しいのは嫌だ。

もう行こう。

夢見てるようにぼんやりしてる彼を放って歩き出す。



「ああ……お嬢様の小悪魔ちゃんが成長しすぎて心配でたまりません」



エステレアがボヤいた。

……調子に乗りすぎていただろうか?

彼の方から求めてきたとはいえ、先ほどの私は小悪魔というより女王様だった気がする。


成長しているのだろうか?

私の中の小悪魔部分が。

エクレアを跪かせたとき、オタを魔導具委員にしたとき、テントでグレンを引っ叩いたとき、そしてこのドMを相手にするとき、私はずっと体の奥に密かな熱を感じていた。

それは……悪い事なのかな。

分からない。ドMは喜んでる。

まあ、いいか。ただの遊びだ。私は望むものを提供してあげているだけなのだ。







私達はマップを見ながらバルザックのいる所に向かう。

途中で何人か負傷者と魔物の死体に遭遇した。

どうやらこの騒ぎは終焉に向かっているようだ。



「よ、お前ら」

「バルザック……?」



バルザックの姿を見て私達は驚いた。

彼の周りに4匹のマンティコアがいたからだ。

なぜか大人しく座っている。

……従えてる、ということだろうか?

あとついでに牛男が倒れてる。



「見ろ、こいつらは俺の仲間だ。俺の意のままに動くんだぜ」

「え、じゃあこの魔物は狼男のペットってこと?」



……そうなる。

まさかバルザックに魔物を操る力があるなんて思わなかったが、現実に目の前でやっている以上認めないわけにはいかない。



「ちょうど良かったぜ。ちびっ子、お前には借りがあったよなあ?」

「返さなくていい」

「ノブレスオブリージュですわ」

「まだ根に持ってるの? 小さい男だわ」

「ごちゃごちゃうるせえな女は!行くぞお前ら!」



バルザックの命令を受けたマンティコアが一斉にこちらを向く。

そして身を沈め……伏せをした。



「……ああ?」

「……来ないですね」

「ご覧下さいお嬢様、ついに魔物すらお嬢様にひれ伏しましたわ」

「ワタシの後輩ですね」

「え? ほんとに? 狼男のペットじゃないの?」

「……おすわり」



マンティコア達はおすわりの体勢で固まった。

半信半疑で言ってみたけど、どうやら本当に私に服従してるらしい。

なぜ?

今度は魔物まで奴隷志願だろうか?

意味がわからないけど現実にそうなってる以上やはり認めないわけにはいかない。

バルザックは不貞腐れて座り込んだ。



「なんだそりゃ……どうなってんだチビっ子」

「お嬢様は全世界の支配者と申し上げたはずですが」

「バルザックだけ、お手」

「調子のんなクソガキ」

「でもバルザックとトモシビちゃんなら普通トモシビちゃんにつくよね」

「けっ、そうかよ……んじゃ、もう消えろ。そいつら連れて行ったら優勝だろ」



しっしっとハエを追い払うように手を振るバルザック。完全にやる気無くしたらしい。

一方的に喧嘩を売っておいて、これである。私達は顔を見合わせた。

彼の言う通りもう帰ろう。

私が歩くと、マンティコアは立ち上がついてきた。普通に怖いので前を歩かせる。

去り際にバルザックが声を上げた。



「フェリス」

「え?」

「オルクスは俺がまたぶちのめしといたから安心しろ」

「あ……うん」



彼なりにフェリスの事を気遣ってる……のだろうか。

もっとも、フェリスはオルクスの求婚など歯牙にもかけてなかったけど。

まあ、不器用な狼人である。






村に戻ると村人が悲鳴を上げて逃げた。

誰がどう見ても生かして村に入れてはいけない風体の魔物、マンティコアのせいだ。

どうしようこれ、本当に。



「よっ親友!すごい獲物だな!」

「へーこれ魔物だよね? 食べられるの?」



アイナとヨシュアが能天気な感想を述べた。

ゴールドマングループお店は全て大繁盛のようだった。

どうやら売り子のアイナの物怖じしない性格も客商売に向いてるらしい。同じ引きこもりだったのに私とはえらい違いだ。


食べると言われてマンティコアを見る。マンティコア達は凶悪な面相をしょんぼりさせて俯いた。

……ダメだ。

このネコ科っぽい顔でこんな動作されたらもう屠るのは無理だ。

私達が経緯を説明してると、奥からエプロンを付けたチョンマゲが出てきた。



「マンティコアですかい、なるほど」

「なるほどって?」

「いやね、こいつらって獅子の魔物でしょう? 獅子はハーレムを作るって話ご存知ですかい?」

「聞いたことありますね」



獅子……ライオンは雌が雄をリーダーとした群れを作るのである。雄は他の雄と戦って一番強いことを示さなくてはならない。

そのハーレムみたいな群れの事をプライドと言うらしい。

前世から猫が好きだったので、その辺は私も知ってるのだ。



「だから本能で一番強いやつに従ってるんじゃねえですか?」

「えっ……親友、お前男だったのか?」

「ちがう」



私は首をぶんぶん振った。

違うはずだ。少なくとも体は。

心の方は……知らないが。



「お嬢様は断じて雄ではありません!」

「魔物ですからなあ、人間の雌雄なんて分からないんでしょう」

「トモシビちゃんたまに男の子っぽいもんね」

「トモシビ様が雄……なら……」

「ちがう」



ゴクリと唾を飲み込むエクレア。

それにしても魔物に雌雄とかあるのだろうか?

ゴブリンだって全部同じような見た目だし、マンティコアも全部鬣のないメスに見える。

個体が変異して魔物になるんだから雄が変異したら雄だけになるし、雌が変異したら雌だけになるのではないだろうか?

謎である。







「では優勝したバルザックさん、2連覇となりますが」

「……そうだな」

「何か一言」

「ねえよ、そこのちびっ子に聞いとけ」



結局、優勝はバルザックとなった。

私の倒したマンティコアは爆散、エステレア達は一体倒したが放置。

マンティコア2体と他の獲物も獲っていたバルザックに軍配が上がった。

ちなみに他の参加者は死屍累々……いや死んではいないが負傷者続出で、大半は棄権してしまったらしい。

そのため拍手はまばらだ。一般人もマンティコアを見て逃げた。


このマンティコア達はオルクスが余興として連れてきたそうだ。

一応彼のコントロール下にあったらしいが馬鹿な真似をしたものである。



「盛り上げ上手のお嬢様、こちら逞しいペットですね?」

「俺はペットでなく奴隷だ」

「は……ええと?」

「黙りなさい、マンティコアの餌にしますよ」

「あらまあ、まるでもう魔王様のようですね……トモシビ・セレストエイム様?」

「え?」



耳元で囁かれた名前にギョッとしてしまう。

私の名前をこの司会に名乗ったことはないはずだ。

というか、普通に言えばいいのに耳元で囁くという動作がいかにも思わせぶりである。

自称奴隷を魔物の餌にするとかいう邪悪極まりない発言に全く動じないあたり只者ではない。

彼女はそれきり離れていったが、妙に記憶に残った。



ジグさんはだいぶアレな人ですが誰でも良いわけではないんだと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どえむさん、主人を見つけてよかったんですね 幸せそう トモシビちゃん、今回の可愛さは年収の40%くらい貢いでもいいくらいの可愛さ!
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