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被害者の会

※三人称視点になります。

※12月11日、4月9日誤字修正、ご報告ありがとうございます!



「メスガキに屈服なんて絶対にしたくない!! メスガキに見下されながら無様に腰……!!」



彼は叫びながら目を覚ました。



「……夢か」



メガネ2ことイトゥーは額の汗を拭った。悪夢を見ていたのだ。

悪夢というよりむしろ淫夢だろうか。

彼女に負けたあの日からずっとだ。

彼の脳裏によぎるのはトモシビの勝ち誇った顔である。ざぁーこ、という声が頭の中でリフレインする。

実際のトモシビはそんなことは言っていないが、彼の夢の中では大体そんな感じで攻めてくるのだ。



(メスガキめ……)



生々しい夢のせいで感情の収まりがつかない。

窓を開ける。

遠視力強化。

今日もよく見える。

彼の見つめる先には魔法戦クラスの女子寮がある。

その5階の真ん中の部屋の窓。

そこにチラリと白い影が見えた。

トモシビである。

男子寮の彼の部屋からはかなりの距離があるものの、クラスでも2番目くらいに魔法が得意な彼にしてみれば目と鼻の先だ。


彼女は朝起きるとカーテンを開ける。あれだけの美少女なのに無防備だ。

なんだあの格好は。気だるい表情は。

伸びをした。キャミソールの肩紐がズレた。ガキのくせにいちいち誘惑しやがって。

イトゥーはいつも通り彼女を凝視しながら、いつの日か屈服させるべく妄想を始めた。



「……………………ふぅ」



毎日の寝起き姿だけで負けそうになる。彼がそれに対抗するには尋常ではない精神力が必要だ。

一頻り妄想の中で彼女を懲らしめると彼はスッキリした顔で朝食を食べに向かった。







既にラウンジには殆どの寮生が来ているようだった。

イトゥーが座ったのは友人であるテレンスのテーブルだ。



「また夜更かししたようですね」

「ああ」



彼はここのところ毎日かかさず夜遅くまで修練に励んでいる。必ずやあのメスガキを屈服させてやる。その一念でもって日々のトレーニングをこなしているのだ。



「なんとか夏休み前までには分からせたいな」

「あまり手荒い真似はしないでくださいよ? 彼女の自信が失われては困ります」

「分かってるよ」



彼とて卑屈なトモシビなど見たくはない。あの男を舐めきった生意気な態度だからこそ興奮するのである。

股間に手荒い真似をされるのは彼の方なのだが、今の彼には知る由もなかった。



「夏休みは暇になりますね」

「そうだな……」



夏休みはトモシビも帰省するらしい。良くも悪くも生活の中心である彼女がいなくなるというのは今の彼にとって心に穴が空くようなものだ。



「ま、俺たちも夏休みくらいは田舎で羽伸ばすか」

「そうですね、ここは強い人が多すぎます」



彼らは幼馴染だ。

2人とも故郷の村では持て囃されていたが、この魔法学園では下から数えた方が早かった。バルザックやグレンのようなイキリヤンキーに囲まれて肩身の狭い日々を送っているのである。

そんなストレスもトモシビの事を見ていると忘れられる。

毎朝のトモシビ観察ができなくなるのは彼にとって耐え難いことだ。

しかし故郷に戻ればまた威張り散らせるはずである。彼女がいなくても少しなら我慢できるはずだった。



「帰ったら近くのレプタットに遊びに行きませんか? 狩猟大会があるそうですよ」

「バルザックがいるんじゃないのか? 会いたくないな」

「彼も味方につければ良いのですよ」



レプタットは彼らの故郷であるシルキースの隣村である。

レプタットの獣人達は狩猟生活をしており、農作物などはシルキースから調達している。お互い足りない物を補うことで暮らしているのだ。


大会に出場するのも悪くない。

なんだかんだで自分達も強くなったはずだ。

バルザックはただでさえレプタット出身の狩猟民族のくせに、例の部活をやっているので性格さえどうにかすれば頼りになる。

パシリにされるかもしれないが、そこはテレンスの口の上手さでなんとかなるだろう。


何にせよ、すべては夏休みだ。その前にトモシビにリベンジを果たしてスッキリ帰省しよう。彼は決意も新たにトレーニングに励む事にした。







ジグという男がいる。王都で働く一般人で趣味はナンパ。そういう設定だ。


アルグレオという国は軍事国家である。はるか昔に南の大陸を武力で統一した彼らは今日に至るまで世界進出すべく軍を鍛えてきた。

グランドリアから来たという者達は彼らを驚愕させた。

彼らですら越えられない海を越えてきたのなら、その力はアルグレオを凌駕しているということだ。

混乱の渦に叩き込まれた彼らが服従か交戦かを検討していたところ、グランドリアの使者は馬鹿正直に遺跡の転送魔法陣の存在を語ってしまった。


転送魔法陣は魔力さえあればいくらでも使える。莫大な魔力を溜めるために数ヶ月かかるのがネックなのだが、アルグレオはある方法でそれを解決した。

そうして彼らはひっそりと転移装置を起動し、何人ものスパイを北の大陸に放っていた。

ジグはその一人であった。



「お前ら夏はどうすんの? ジェノバにナンパ行かね?」



と言ったのはバイトリーダーの青年である。

彼らはジグが現地で知り合ったバイト仲間だ。趣味はナンパ。



「貴族相手にか?」

「ジグ、貴族のご令嬢大好きだろ」

「そうだけど」

「いやいやこいつはただのドMだよ。貴族のあの子が忘れられないだけなんだよな?」



ジグは反論しようとしたが、できなかった。その通りだからだ。

彼は女を虜にして情報を得るのが任務だ。

いわば逆ハニートラップ。ロミオ諜報員である。

そのための訓練も積んだプロだ。まさか逆に虜にされる日が来るとは彼は夢にも思っていなかったが。



「悪いけど俺は夏は田舎に帰るよ」

「そういう事はもっと前に言えよ……お前どこ出身なの?」

「あー……レプタット」



無論嘘である。



「レプタットって獣人以外もいるのか?」

「……の隣の村であんまり知られてないとこだよ」

「へー」



危なかった。

レプタットで狩猟大会が開かれると聞いて行くことにしたのだ。

獣人の戦闘力を調べるためだ。彼らは強靭な肉体と感覚を持っている。アルグレオの脅威になるかもしれないと判断したのである。



(そういえば彼女の友達も獣人がいたな)



あれから何度かプールに足を運んでみたが彼女と再会する事はついになかった。

ちょっと調べたところ魔法学園の生徒らしいことは分かった。それなら夏は故郷に帰省しているのかもしれない。

なんなら帰りに彼女の故郷に立ち寄ってみようか。



(セレストエイムはたしか南東だったか)



彼女が名乗ったトモシビ・セレストエイムという名を彼は鮮明に覚えていた。







数日後、ジグはレプタット村に来ていた。

退屈な村だった。何しろ若者がいない。娯楽もない。

獣人の身体能力は悪くないようだが、魔法が使える者はそんなに多くないようだ。それに数が少ない。この程度なら大した脅威にはならないとジグは判断した。


村に珍しい小洒落たレストランを見つけた彼はそこで一服することにした。

風の噂によると今から狩猟祭とかいう祭があるらしい。獣人の強さを見極めるにはうってつけである。それを見てレプタット調査は終了しよう。

そんなことを考えていたその時、聞き捨てならない会話が聞こえて来た。



「おいおいおい、なんでお嬢がいるんだよ。セレストエイムに帰ったんじゃないのか」

「フェリスさんについて来たのでしょうねぇ。もしかしたら狩猟祭にも出るかもしれませんよ」

「ああくそ、メスガキ見たらまた股間が疼いてきやがった」

「そんなこと大声で言わないでください」



セレストエイムのお嬢様。そして獣人と思われる友達について来た。

ひょっとして彼女のことではないか。

ジグはほとんど確信めいた予感を持って彼らに声をかけてみた。



「なあ、それってもしかしてトモシビ・セレストエイム様のこと? いるのか? ここに?」

「ん?」

「……ええ、そうです。お知り合いですか?」

「ああ、ちょっとな」

「どういう関係だおっさん?」



……どういう関係だ?

会って、水着姿を見せつけられて、からかわれて、それで忘れられなくなった。

ジグはその関係をなんと呼べば良いのか分からない。

後からおっさんと呼ばれた事に気付き、彼は少しショックを受けた。



「ああ、分かりますよ。彼女のファンですね?」

「……ファン?」

「ふとした拍子に彼女の事を考えてしまう、そうでしょう?」



その通りだった。ジグはどうしようもなく彼女を求めている。

清楚な容姿を裏切るような、あの蠱惑的で淫靡な微笑を求めている。

どんな女を見ても比べてしまう。

これが恋焦がれるという事なのだろうか? 彼にはそれすらよくわからなかった。



「なんだ、お仲間か」

「お仲間? まさかお前らも?」

「ご明察です、デュフフフ」



つまりその歳でロリコンマゾという事だ。ジグは自分基準で考えた。



(……客観的に見るときめえな)



ジグは自分を棚に上げて、このメガネ二人組とは一緒にされたくないと思った。







オルクスは村では珍しいモダンなレストランから聞こえてくる若い声に眉を顰めた。



(外のやつらか)



内容からすると恋バナでもしているらしい。

気に入らない。

今の彼にとって他人の恋バナほど腹立たしいものはない。

狩猟祭があるので外部から人が大勢来ているのだ。

彼の許嫁とも言える猫人も帰ってきた。

彼女は村一番の美少女だ。

余計なのも数人連れてきたのは誤算だったが、計画は今更変えることはない。

昨日はやつらに聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせられて、呆れて立ち去ってしまった。

逃げたのではない。幼稚な口喧嘩に付き合わなかっただけだ。

そう言い聞かせるとそれはたちまち彼の中で真実になった。

彼は自分のプライドを保つのだけは得意なのだ。


広場に着いたオルクスに黒髪の女性が声をかけた。



「オルクス様、準備整いましてございます」

「あ、ありがとうございます……」



美しい女性である。獣人のオルクスから見ても美しいと思う。

十数日ほど前に彼女に取引を提案された時、オルクスは怪しんだ。


さっさと追い払おうとしたのだが、話しているとだんだん悪くないかもしれないと思うようになっていった。彼女はそれからずっと居座っている。

オルクスはなぜか彼女には逆らう気が起きない。

彼女はオルクスを立てるように慇懃な態度で接してくるのに、彼はそれ以上に低姿勢になってしまうのだ。


その女性……カサンドラは設置された壇上に上がると、広場で集まる民衆に向けて声を張り上げた



「お集まりの皆様!お待たせしました!これより狩猟祭を始めます!」



一応同級生は14歳なのでロリコンではないと思います。

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