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ツインテールは無敵だ

※6月1日誤字修正。ご報告ありがとうございます!



私、トモシビ・セレストエイムの朝はスムージーで始まる。

色んな野菜と果物を切り刻んでミキサーでドロドロにしたものだが、これが体に良いらしい。少食の私が元気に過ごせるのは毎日エステレアが作ってくれるこの飲み物のおかげであろう。

味も甘くてなかなか美味しい。



「けぷ」

「飲まれましたらこちらへ」



身支度を整える。

前世(?)の記憶があるだけで私とて女子の端くれであるので、色々と支度をしていればそれなりの時間は経ってしまうのだ。



「はい、できました」



一番時間がかかるのは髪の毛だ。前にショートカットにしようとしたらエステレアに止められた事がある。髪を切るならまず自分の首を切れと口から泡を飛ばして迫ってきた。普通に怖かったのでそれ以来髪の毛の手入れは全面的にエステレアに任せている。



「ご希望通りツインテールにしてみました。如何ですか?」

「いい感じ」



かわいい。

控えめに言っても傾国の美少女だと思う。この私の可憐さをここまで引き出すエステレアも並ではない。鏡で色んな角度から見ているとつい口元が綻んでしまった。



「仕上げにキスマークをつけてもよろしいでしょうか?」



エステレアが私の首筋を見つめながら、笑顔で頭のおかしい事を言い始めた。



「ダメ」

「あらあら、お嬢様ったら」



困ったような顔をするエステレア。なぜ私がわがままを言ったかのような感じになっているのだろうか。

もうラウンジに行こう。

寮は各部屋にキッチンがあるのだが、自分で作る人は少ない。朝と夜はラウンジに行けば食事が出るのである。昼は休日のみだ。ちなみに私の部屋にはキッチンはない。エステレアの部屋に直通で繋がっているのでそれで良いのだ。

ラウンジに行くとフェリスがソファでカツサンドを食べていた。朝から健啖で大変良いことである。



「おはよ〜」

「おはよ」

「おはようございます」



フェリスのいるテーブルを囲んで三人で食事する。

私の食事はない。スムージーだけでお腹いっぱいである。べつにダイエットをしてるわけではないが仕方ない。

その代わり紅茶を飲む。エステレアがいつも私に淹れるものを、せっかくなのでラウンジにいる人数分振る舞うことにした。

これがなかなか高評価を得た。



「いい匂いがするね」

「フレーバーティーです。グランドリアではこれが定番だそうです」



柑橘の香りがする。これはミルクを入れない方が良いだろう。

こうして優雅なひと時を過ごしてから登校するのが私のスタイルに合ってる。

寮は学校の隣なのでギリギリまで寛いでいられるのだ。







「遅いぞ!何をしておった!」



寛いでいたら普通に遅刻した。朝のホームルームの真っ最中に三人で飛び込んでいく。



「トモシビちゃん達がゆっくりしてたから余裕あるのかと思ったよう」

「何か言うことはあるか?」

「この経験をいかし……再発の防止につとめていきたい」

「パーフェクトですわお嬢様」

「お主らワシを本当に舐めておるな……」



ヤコ先生はそれ以上拘泥せず着席を促す。

何だかんだで寛容な先生だ。

クラスメイトの視線は不思議とそんなに気にならなかった。昨日やらかしすぎたせいだろうか?


ホームルームが終わって、もはやグループとなりつつある6人で話す。



「あらかわいい。今日はツインテールですのね」



と言いながら私のツインテールを弄びはじめるアナスタシア。

エステレアはドヤ顔をしている。



「トモシビちゃん、制服もアレンジしてるしお洒落だよね」

「それ私も気になってた。そのベルトどこで買ったの?」

「東方系商人の露店」

「王都の商店街には東方系はないなあ」

「セレストエイムにはよくあるのですよ」

「ジューンのリボンもかわいい」

「商店街に制服専門の店があるんだよ」

「おい」

「行ってみたいですわね」

「いってみたい」

「じゃあ今日皆で行こうよ」


「おい!」



この場に似つかわしくない野太い声。このデリカシーのなさそうな声は紛れもなくグレンだ。

露骨に嫌な顔をし始めるアナスタシア。



「なんですの小児性愛者」

「小児……? いやお前らあいつは仲間に入れないのか?」



そう言ってグレンが顎で指し示した先には寝たふりをしているクロエ。



「誘っても来ないんだよ」

「なんで貴方が気にするのかしら?」

「お前らがイジメとかしてねえかと思ってな」



意外な言葉が出た。私達は思わず顔を見合わせてしまう。話した事もないであろうクラスメイトの心配をするとは。番長してただけあって器は大きいらしい。



「なんだよ。クラスの頭なら当然だろうが」

「ちょっと見直したよ」

「ちょっとだけですけれど……クラスの頭、は一先ず置いておいて、私達も気にかけてるのですわ」



グレンにこれまで誘ってみてダメだった事を説明する。グレンは腕組みして考えていたが一つため息をついて言った。



「しょうがねえ、機会作ってやるから入れてやれ」

「どうするつもりですの?」



アナスタシアの問いには答えず立ち去ろうとするグレン。しかし最後に顔だけで振り向くと私に向けて言った。



「その髪型、似合ってるぞ」



そして今度こそ立ち去っていった。



「気持ち悪いやつだね」

「やっぱり恋をされているのでしょう」

「悍ましい……」



私も正直ちょっと気持ち悪かったが、褒められたのは素直に嬉しい。複雑な気分でツインテールを弄る。



「お嬢様、あの男にはくれぐれもご注意を」

「大丈夫」

「何かされそうになったら私に言うんですのよ」

「姫様、それでは昨日のグレンと同じです」

「なっ……」



そういえばアナスタシアもよくそんなことを言っている。

実は似た者同士、なのだろうか?

アナスタシアは否定するだろうかもしれないがどちらも面倒見が良い。

グレンのことは少し見直したとはいえ、私が靡くなんてありえない事であるし、何かされそうになったらやつの局部で白子焼きを作る覚悟がある。

というか、元々全員倒すつもりだったのだ。せっかく皆と色々考えて戦ったのに、こんな妙な漢気を見せられてはなし崩し的にグレンがクラスの番長的存在になりそうである。

まあせっかく上がった株も気持ち悪い捨て台詞のせいで暴落したわけだが、そのせいで彼がクロエに何をするつもりなのかは皆の頭から消えてしまい、それきり誰も話題にする事はなかったのであった。







さて、今日からは授業が始まる。

一限目は魔法学基礎。初めての授業とはいえ皆魔法が使えるからここにいるわけで、私達にしてみればその内容は決して難しいものではない。



「一口に魔法と言っても色々じゃ。一般的には発動法によって大きく四つに分類されることが多い。……ではバルザック、その四つを答えてみよ」

「知るわけねえだろ」

「なんじゃ、予習せよと言ったはずじゃぞ!」



たぶん言ってない。ヤコ先生は歩き回りながら授業をする。その足がフェリスの横で止まった。



「ではフェリスはどうじゃ?」

「えっと、霊術、魔術、精霊術、神術です」

「ほう!正解じゃ!」



昨日私と予習したところだ。嬉しそうにこちらに笑いかけるフェリスに頷いて返す。



「お主達が主に勉強するのは魔術じゃ。魔法陣を使って発動するのが特徴じゃな。魔法陣なしで発動できるのが霊術。精霊術は精霊の力を借りるもの。神に祈るのが神術じゃ。魔法使いであっても魔術以外は誰でも使えるわけではない。ただし、例外がある」



喋りながら再びバルザックの横に移動するヤコ先生。



「バルザック、立て」

「また俺かよ!」

「名誉挽回のチャンスをやろうというのじゃ。お主身体強化は得意じゃろ。それでこのコインを曲げてみよ」

「ホラよ」



先生の差し出したコインをバルザックは事もなさげに曲げて見せた。



「見たか? バルザックは今身体強化の霊術を使っておった。これが例外じゃ。霊術の中で身体強化だけはお主らの誰でも使える。魔法使いなら誰でもじゃ、わかるか?

この身体強化こそが魔法使いの最大の強みなのじゃ」



獣人は身体強化が得意だ。バルザックを指名したのはこのためだろう。私ももちろん使える。体に魔力を通すだけの技術であり、あらゆる魔法の基礎とされるものなのである。獣人で魔法の才がある子供はこの魔法を勝手に使い始めることが多いらしい。普通の数倍の力を出したり、目が良かったり、鼻が良かったりするのだ。



「さて、今からやるのは身体強化の練習じゃ! さあ全員起立じゃ!」



先生は持ってきた教材用の箱の中から器具を取り出して机に並べ始めた。



「いかに筋力を強化しても元が弱ければコインも曲げられん。まあ、それはこれから鍛えてもらうとして、そんな軟弱者のために握力計を持ってきた。これで強化が成功しているか確かめるのじゃ」



生徒達は思い思いに握力計を手に取り計測し始めた。私も早速通常状態の握力を計ってみよう。



「むぅぅぅ」

「15キロですわお嬢様」



弱すぎる……同年代と比べても弱いのではないだろうか。生徒を見回っていたヤコ先生に声をかけられた。



「お主はもっと食って力をつけよ」

「食べられない」

「そうか。まあ昨日でお主のことはわかった。その細っこい体が筋骨隆々になれば鬼に金棒じゃろうにのう」



たしかに、少しは力をつけたいな。これじゃ殴り合いもできやしない。



「鍛えようかな」



″俺″の記憶が言わせた言葉だったが、それを聞いてエステレアが血相を変えた。



「お嬢様は今のままが一番です!」

「お主もメイドなら主人のやりたいようにさせてやれ」

「お、お嬢様は醜い筋肉ダルマになりたいのですか? あの男達のような……」



酷い言われようだ。

男のような筋肉と聞いて″俺″の体になった自分を想像してみる。

気持ち悪い。

やっぱり私の可愛さが損なわれるのは避けたい。



「かわいくないからやめる」

「仰る通りですわ! お嬢様はやっぱりちっちゃくて折れそうで……プニプニスベスベでないと」

「……ほどほどにのう」



授業そっちのけでイチャイチャし始めたエステレアにヤコ先生は引いてしまったようだ。ちなみにエステレアの握力は素で35キロある。14歳の女子としては強い方であろう。

先生が去って代わりに近づいてきたのはフェリスだ。



「私もトモシビちゃんはちっちゃいままの方がいいな〜」

「さすがはフェリスさん。私達は同好の士かもしれませんね」

「えっ、そ、そうかな……」



あ、やっぱりエステレアって一般的にはまずいようなことしてるんだ。

同類扱いされたフェリスがドン引きしている。

昨夜の勉強中も耳を甘噛みしたり体を触ったりしてエステレアは肉欲の限りを尽くしていた。私ももう最後はされるがままだったが、フェリスは顔を赤くしていた気がする。

私は悲しいことに、前世も含めて普通の女の子同士の関係なんて詳しく知らないのでボディタッチくらいは普通だと思っていた。

そんな私でもエステレアはやりすぎだろうと思うくらいなのだ。



「エステレアって変なの?」

「そんな事ありません!」

「で、でも女の子同士であんなのおかしいよ」

「可愛いものを見たら撫でたり抱きしめたくなるのは本能です! 子猫や子犬にもそう感じるでしょう? ましてやお嬢様となれば我慢できなくなるのは当然。 お嬢様が可愛すぎるのがいけないのです」



なるほど。言われてみると私も動物好きなので分からなくもない。フェリスの耳や尻尾も触ってみたいし。



「……そうなのかも」

「トモシビちゃん?!チョロすぎるよ!」



でもエステレアも私が本当に嫌がることはしないし、なんだかんだで悪い気がしないのは″俺″という男の記憶のせいなのだろうか。



「貴方達そろそろ真面目にやりなさい」



と、委員長のごとく注意するのはアナスタシア。

授業と関係ないことで話しすぎたのを見かねたのだろう。

私達はもう身体強化が使えるから気を抜いているが、騒いでは他の人の邪魔になる、との事らしい。もっともだ。



「でも他はもっとうるさいよ?」



フェリスに言われて見回してみる。

私達とは比較にならない騒ぎが起こっていた。

握力を見せ合って騒いでるくらいのはまだ良い方だ。

身体強化して腕相撲をしている連中、机に突っ伏して寝ている者。

喧嘩してる者までいる。

って、あれはグレンとバルザックだ。



「またですの?!懲りないですわね……」



だが流石に授業中にこれは許されなかった。

ヤコ先生が二人の間に素早く滑りこむ。

そのまま流れるような動きで二人の拳を両手で受け止め……。



「ぶげっ」



受け止めきれずに両頬に突き刺さった。

崩れ落ちる先生。

たぶん格好良く仲裁しようとしたんだろうけど、体格的に無理があったみたいだ。なにしろこいつらの筋肉と上背ときたら成人男性顔負けである。



「きさまら……」

「いや違う……違うぞ。俺たちは挨拶しようとしただけなんだ、なぁ?」

「あ、ああ。そうだぜ。それを先生が勘違いして」



見苦しい言い訳をし始める二人。この二人、意外と息ピッタリだ。

アナスタシアが顔色を変えて駆けよる。



「先生! 貴方達なんてことを……教師にまで暴力を振るうなんて」

「おい、見てわかるだろ。わざとじゃねえ」

「あーうぜえ。いるよなこういうとき良い子ぶるブス。頭に巻きグソつけやがって」

「巻き……!? ゆ、許せませんわ!」



巻き……たぶんアナスタシアの巻いた髪のことだろう。倒れた教師そっちのけで言い合いを始める三人。

それを尻目にメイがヤコ先生を介抱する。



「大丈夫ですか? 保健室に行かれますか?」

「くっ……いらん!ワシにこんなもの効くはずなかろう……ノーダメージじゃ」



強がっているが声に力がない。誰が見ても効いている。足元もフラついている。

これ誰が収拾つけるのだろう。



「お嬢様。学級崩壊してしまいましたわ」



優雅に微笑むエステレア。

フェリスはオロオロしている。他の生徒も概ねそんな感じだ。

先生がやられた今、あの三人の喧嘩を止められるものなど……いる。

私だ。

私ならできるはずだ。



「耳塞いで」



昨日、使った爆竹魔法だ。今回はちゃんと魔法陣を描く必要がある。

音というのはあまりにも強いと、それがどんな音かすら分からなくなるものらしい。

爆竹魔法を目一杯強力にして放ったそれはパァン!ではなくバン!でもなく、何とも表現できない凄まじい音を立てて、キン……という余韻だけを残した。


全ての人間が動きを止めて私を見た。

私はヤコ先生に向かって片手を広げ、発言を促す。



「はい」

「お、おお……こほん。耳は大丈夫か? ……えー、授業中に喧嘩はやめよ。授業妨害は最悪退学じゃ」

「そんなこと言ってもなぁ。昨日の決着もついてねえしこっちはストレス溜まってんだよ」

「全く……血の気の多いのは嫌いではないが、ここまで問題児揃いは初めてじゃ」



さすがのヤコ先生も困っているらしい。



「それについては提案がある。今日の帰りのホームルームで発表する故楽しみにしておれ。それと当然じゃがタイマンゲームもバトルロイヤルも禁止じゃぞ。校長がうるさいでな」

「ちっ……」

「バルザックとグレンは席を目一杯離した方が良さそうじゃな。それからトモシビよ」

「?」

「今回は助かったぞ」



気にしないでほしいと頷いて伝える。昨日はえらく迷惑をかけてしまったので今日は先生を立ててみたのだがうまくいったらしい。


一件落着だ。一息つくとともに周囲の視線に気づく、私はツインテールを優雅にさらりと払ってみた。視線が熱くなった、気がする。

見ていた男子の1人は私と目が合うと慌ててそらす。

不思議な感覚だった。

私は人見知りであがり症である。そのくせ人前に出ると無駄に視線を集めるものだから精一杯虚勢を張ってきた。そんな私が今、精神的に余裕を持って彼らを視線を受け止めている。

むしろ楽しんですらいる。


……私はもうあっち側じゃないのか。

私は舞台に上がってしまったのだ。

昨日は色々とやらかしたけど、少なくとも最後まで自分の意思を示すことができた。

私は目立っても失敗しても生きたいように生きると決めた。どう思われようが関係ないのだ。

もう彼らの目は怖くなかった。



初日からやらかしたけど少し精神が成長したトモシビちゃん。

そういうこともありますよね。

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