あと、ファッションリーダーだし
パーティーはまだ続いている。
今はほぼ大人達による酒宴会場となっており、お父様もその中にいた。
テンション高いおじさん達の中にいてお父様は無口で目立っている。
そのくせ放置されるわけでもなく、程よく絡みがあるのはやっぱり人徳みたいなのがあるんだろうか。
私が近付くと皆が歓談をやめて注目した。
「お父様」
「どうした? 眠いならもう寝なさい」
「お父様に、決闘を申し込む」
「なん……だと?」
私はおもむろに左手の手袋を外し……お父様に向かってぶん投げた。
手袋は隣のおじさんの顔に張り付いた。
「私達が勝ったら学園に戻る」
「負けたら?」
「……なんでもいうこと、聞いてあげる」
「乗ったぞ!久方ぶりに共に入浴しようではないか!」
「あなた、それは都会では犯罪よ」
お母様だ。騒ぎを聞きつけてきたらしい。
お父様は唸った。
「トモシビ、もう危ないことはやめなさい。貴女は戦う必要なんてないの」
「でも私は最強になるから」
「ああトモシビ……いつから戦闘民族になったの?」
「お父様は最強だって、みんな言ってる。私がそれを倒したら、危ないことなんて、ないはず」
「何を言ってるの。そんな単純な話じゃないのよ」
「……私に似たのだな。同じ時代に最強が二人並ぶ事はない。今決着をつけるとしよう」
「はぁ……じゃああなたがさっさと消えなさい」
ため息をついて引き下がるお母様。許可は下りた。
「みんな、来て」
私は4人に合図を送った。
「私達全員でやる」
「……よかろう、来い」
この流れで今更ダメなんて言えないだろう。
私は弱いけど、私達なら神話の魔物だって倒せるのだ。
私はお父様の力を知らないが、向こうも私達の力は知らない。
ちゃんと作戦を練れば勝ち目はあるはずだ。
思い知らせてやる。私の成長を。
広場の真ん中は即席の闘技場となった。周囲には帰ったはずの子供達までが集まって来ている。
私はドレスのままで動き辛い事この上ないのだが、私自身は大して動かないので問題ない。むしろ見栄えがして良いかもしれない。
私は群衆を見回して、髪をサラリと払った。歓声が上がった。
良い調子だ。
お父様は剣を正眼に構えた。
さて……作戦は示し合わせた通りだ。
試合開始の合図が鳴り響く。
その瞬間、お父様は眼前にいた。
剣を振り上げている。
はや……。
ガキッと音がした。その剣をエクレアが受け止めたのだ。
彼女は受け流してそのまま華麗に剣を払う。
が……避けられた?
横から肉薄したフェリスがボディーブローを打ち込む。
当たっ……てない?
攻防が早い。よく分からない。
私は置いてけぼりである。
遅れてエステレアとクロエが動く。
私も慌ててパイルバンカーをいくつか飛ばした。
ここからだ。
フワフワと放物線を描いて逃げ場を邪魔するように。
お父様は中央の一つを剣で切り捨てる。
その瞬間、耳をつんざく爆音と目を焼く閃光が襲いかかった。
さすがの達人も堪らず両腕で目を覆う。
かかった。
偽装した閃光弾に爆竹をプラスしたものだ。それを障壁で囲めば、指向性のスタングレネードとなる。
こちらに効果を及ぼすことなく無力化することが可能な凶悪兵器だ。
閃光弾や爆竹の体系は私が作ったものである。初見でこれを見破る事ができた人は私の経験では皆無だ。
対人兵器としてこんなに強力なものはないと思う。読まれなければの話だが。
すかさずフェリスとエクレアが襲いかかる。
フェリスは正面、エクレア上から。
勝利条件は一撃入れること。何かする前に畳み掛けて決めれば良い。
バックステップをするお父様。そう来ると思った。私はクロエの背中に手を当てた。
「クロエ」
「はい!」
お父様の背後からクロエが剣を振るった。転移で送り込んだのだ。
背後からクロエ、正面からフェリス、上からエクレア。
目と耳をやられたお父様に避ける術はない。
だが次の瞬間、3人は吹き飛ばされた。
一瞬の間をおいて突風が私の髪をなびかせる。
観客から歓声が上がった。
「私にこれを使わせたか」
全方位に突風……みたいな魔術だろうか。
フェリスの体で魔法陣が見えなかったが、魔力の感じからしてたぶんそうだ。
そんなものを隠し持ってたなんて。
「エステレアも行って」
「御意」
この分だと、目が回復したら瞬く間に3人はやられそうだ。
回復する前に全員でやる。
3人は吹き飛ばされたけど、吹き飛ばしただけじゃ一撃入れられたことにはならないだろう。
それがありならそよ風に当たっただけでアウトである。
とにかく私がならないと言い張ればならない事になると思う。
3人はすぐに立ち直り、再度包囲にかかる。
私は爆弾を4つ、ミサイルのように飛ばす。お父様の逃げ場を塞ぐためだ。
人間なんだから、とにかく八方を塞げば何かが当たるはずだ。
お父様は目線を動かした。視力が回復してきているらしい。次で決めなければまずい。
上空からはエクレア、周りには爆弾とフェリス、クロエ、さらにエステレア。
包囲完成だ。
手を出したクロエとフェリスがカウンターで瞬く間に斬られた。
本気を出してきたのだろうか?
さっきとは比べ物にならないくらい早い。
でもそこまでだ。剣じゃ間に合わないはずだ。
さらに流れるように魔法陣を描く。
突風だ。
それはもう見た。
障壁を発動する。
球体の壁がお父様を包んで、一瞬で消えた。完璧なタイミング。
その顔に初めて焦りが浮かんだ。
やった……?
「驚いたぞ」
その声は背後から聞こえた。
転移魔術。
魔導具ではない。一瞬魔法陣を描いたのが見えた。お父様はさらなる奥の手を持っていたのである。私以外に生身で転移できる魔力の持ち主がいたとは。
しかもあの一瞬の間に剣を振るい突風を発動し、破られたと見るや転移に切り替えた。とんでもない早業である。
鏡のように反射率を上げた″窓″で背後を見る。
私の背後に回ったお父様はゆっくりと手を伸ばした。
でも私がピクリとでも動けばその前にやられるだろう。
広場は静まり返っている。
お父様は満足感と喜びと少しの寂しさが混じった穏やかな表情をしている。
それは私の成長を目の当たりにした表情だ。
私は……奥の奥の手まで使わせて、お父様に一泡吹かせられただろうか。
……いや。
「まだ」
ショートカットから転移を発動。
お父様の手が宙を撫でた。
いざという時に備えて転移をセットしておいたのだ。緊急回避バージョン2といったところか。
さらに全リンカー起動。
「これは」
周囲360°の地面から無数の爆弾が襲いかかる。
試合中仕掛けておいたのである。私がいた位置に向かって攻撃するように。
それが私が動かなかった理由だ。
お父様は素早く周囲を見渡す。
パァンと音が鳴り、その瞬間囲んだ爆弾が消えた。
今……斬った?
剣の軌道どころか動作が見えないほど早い。
上から私の剣が迫る。
お父様はその超音速で動く剣をまた動かし……途中で私を見てピタリと止めた。
私の剣がお父様の頭を撃った。
「むう、やられた」
お父様はわざとらしく痛がって頭を押さえている。
……またか。
「トモシビは強いな、父は負けてしまったぞ」
「……」
だがその対策もバッチリだ。同じことにはさせるものか。
「スライム」
「はい」
「な、んっ……!」
お父様の足元からスライムが放った小さな爆弾が股間に炸裂した。隠しておいた奥の奥の手だ。
最後に手加減されたのは気になるが、これで帳消しである。
完全勝利だ。
「申し訳ありません、トモシビの命令ですので」
「う、く……かまわん」
「私の勝ち」
その痛みは私も知っている。どんな屈強な男でもここは急所だ。私にないはずの器官が疼く気がする。
ゾクゾクする。
私は股間を押さえるお父様に勝ち誇った顔を向けた。
「お嬢様ったら……また小悪魔ちゃんのお顔を」
「な、なるほど、小悪魔とはこの顔か」
「お屋形様が負けた……?」
「いや最後に手を止めなければ勝ってた。ブライト様が負けるわけがない」
辺りが騒ぎ始めている。
セレストエイム騎士団の人達だ。
お父様は結構人気があるらしい。
さっき手袋を貼り付けてしまったおじさんが重々しく口を開いた。
「騒ぐな。下らぬ言い訳でお屋形様に恥をかかせる気か」
「しかし……」
「わざと負けたわけではない。あのタイミングではお嬢様が怪我をされてしまう。それを危惧されたのだ」
お父様は言い訳しなかった。
公衆の面前で股間を押さえて悶える以上の恥なのだろうか。
「……作戦では完全に負けていた。転移まで読まれるとは思わなかったぞ」
「認めてくれる?」
「良かろう、約束だ」
「いいわけないでしょう……」
お母様だ。まだ納得してない。
ならば言葉を尽くして説得しなくてはいけない。
「……私はもっと強くなる。あと、可愛くもなる」
「トモシビ……」
「さらに可愛くなるというのか!」
「あなたは黙ってて」
「このご時世どこも危険、だから……仲間がいて、もっと、強くなれる方が安全、逆に」
「お友達は残ってくれるのよ?」
「王都には、もっとたくさん、仲間がいる。私は委員長だし……あと、ファッションリーダーだし」
「あらま……王都ではトモシビのファッションが流行ってるのね」
「え……」
流行ってない。
おかしい。みんな私を褒めてくれるのに誰も真似してない。
いや、それは今は良い。
「とにかく、私がいないとみんな困る」
「……」
「私はあっちで……勇気を、見つけた」
「……」
「これからも、もっともっと、素晴らしいものを見つける」
お母様は溜めていた息を吐き出した。
「……学園には抗議の手紙を送りますからね。人の子供をなんだと思ってるのかしら」
「じゃあ」
「その代わり怪我しない事、いいわね」
「わぁい!良かったねトモシビちゃん!」
「大丈夫です。私達が盾になってトモシビ様を守りますから」
「貴女達もよ。もうここの子も同然なんだから」
エクレアは盾になると張り切っているが、私を庇って怪我などもう勘弁してほしい。
私の前に出たい病はだいぶ大人しくなったが、それでも人を盾にして平気でいられるほどではない。
とにかく、私は学園へ戻る権利を勝ち取った。夜逃げなんてしなくて良かった。
アイナに諭されるとは思わなかったけど自称親友は伊達ではなかったようだ。
私は群衆を見渡してアイナを見つけると手を振った。
その辺りから歓声が上がったが、当のアイナは顔を赤くしてどこかへ行ってしまった。
父親はスライムちゃんの存在を忘れていたので、たぶん手加減なしでもトモシビちゃん達が勝っていたと思います。




