ダンシンインザダーク
私の誕生日パーティーは盛大に行われた。
お祭りの締めということで所狭しと屋台が並び、広場はダンス会場となって領民はセレストエイム音頭を踊っている。
広場の中央には盛大に篝火が焚かれており、闇を柔らかく照らす幻想的な炎が気分を盛り上げている。
私の所には色んな人が挨拶に来たけど、申し訳ないが誰が誰だかあまり覚えてない。
私の胸中は、今夜やることを思って緊張と不安が渦巻いている。
しかし元々無口で表情に乏しかった私である。その点は特に誰も気にしなかった。
「お嬢様……準備は万端です」
ドレスを着て主賓席に座る私にエステレアが囁く、4人には準備をしてもらっている。
彼女達は私について行くと言ってくれた。
その私がセレストエイムに残るなら自分達も残るというだけだったので、計画にも喜んで賛成してくれたのである。お父様達になんて言われたか知らないが学園を退学なんて好き好んでしたいわけがない。
アイナには言ってない。言う機会がなかった。
ヨシュアと来る予定なので待っているのだが……。
「トモシビお嬢様ー!」
来た。
「ヨシュア」
「ああ、近くで見ると本当に……き、き、綺麗だ……」
ヨシュアは視線を逸らしながら言った。目のやり場がないといった感じである。
露出度が高いわけではないのだが、まともに見る事が出来ないのも無理もない。ドレス姿の私は美しすぎる。
今日のドレスは黒の中にクリムゾンレッドをあしらったスカートで私の希望通りのお気に入りだ。
あの和風ドレスをモデルにしたせいか、少し東方風味になっている。
ただでさえ細い腰はコルセットで強調されて私のスレンダーボディもかなりメリハリがあるように見える。
お祝いの席で着るには些かダークすぎるが、クロエ曰く『吸血姫からレベルアップしたリトル魔王』のごときオーラを放っている私に意見できる者はいなかったようだ。
「アイナは?」
「ええと……」
ヨシュアの背後にお下げ髪がチラチラ見える。
私は背後を覗き込んだ。
「アイナ?」
「うわあ!」
「?」
「あああああ……! あぁ……あぁ……」
アイナは真っ赤な顔を両手で覆い隠して喚いている。
たぶんヨシュアと同じく照れてるんだと思うんだけど、反応が過剰すぎて嫌われてるのかと思うくらいだ。
とりあえず、アイナはそっとしておこう。
「ヨシュア……」
私はほんの少しだけ右手を持ち上げると、手の甲を差し出すようにしてアピールした。
「ど、どうしたの?」
彼は全く理解していない。頭があまり働いてないようだ。もしくは経験がないのか。
例えば、これがアスラームなら一瞬で理解してるだろう。
私は彼の手を左手で持って、私の右手の上に置いた。
彼は驚愕で口を開けた。ようやく分かったらしい。
「まさか……僕と踊ってくれるの?」
「踊りながら、お喋りしよ」
「よ、喜んで!」
普通、男性から誘うんだけど……仕方がない。
私の手を、ヨシュアはまるで繊細なガラス細工を扱うみたいに慎重に握った。
そして手を取ったまま、歩幅を合わせてゆっくり広場に進んでいく。
当然のように私達に注目が集まる。
視線と篝火の熱の中で影絵のように踊り始める私達。
昔は見られるのが嫌でたまらなかった。外面は今と変わらないだろうけど。
「腰持って」
「う、うん」
「ん……引き寄せて」
「こう……?」
ぎこちない。
触れるか触れないかみたいな手付きで、やたらビクビクしてる。
これでは私がリードしてるみたいだ。
ちなみに私は体力のわりに踊れる方だ。
昔からエステレアと2人で何度も何度も練習していたからである。おかげで私は男女両方のパートが踊れるようになった。
「ああ、夢みたいだ……足元がフワフワしてるよ」
「そのまま聞いて、大事な話」
「え……! まさか、そんな……」
なんか勘違いしてそうな彼に顔を近付けて囁く。
彼はそれだけで爆発しそうなほど顔を赤くしている。
「今日の夜、私の部屋に来て」
「え? ええええええええ!?」
彼はさらに勘違いを深めたようだった。
頭が沸騰しそうになってるヨシュアに私は踊りながら頑張って計画を話した。
彼の協力が必要なのである。
うちは言うまでもなく領主だ。このセレストエイムから出る馬車は逐一把握している。
私が馬車を手配したらすぐにわかってしまうだろう。
そこでヨシュアの馬車に乗せてもらおうと言うのである。貿易商である彼の家の荷物に紛れ込めば、なんとか出られると思うのだ。
ゴールドマンセレクトのお姉さんからの情報によると彼と祖父は明日出立して、そのまま西に行くという。ここから西にずっと行けばレプタットだ。都合が良い。
そこでフェリスの実家に寄ってから王都に帰るのだ。
「なんだ、そういうことか……まあそうだよね……」
「協力して、くれる?」
「も、もちろん!でも本当にいいの?」
「うん」
もう決めた事だ。
とりあえず学園に戻る。お屋敷に閉じ込められたら学園と連絡も取れなくなるだろう。
学園だって私をやめさせたくはないと思う。なんと言っても私は委員長だし、親善試合の要……だと思う。
学費は私が自分で出す。それになにも両親と今生の別れというわけではない。
手紙も出すし、卒業したら帰って来れば良い。虫の良い話かもしれないが、あの両親なら決定的な拒絶をされる事はないと踏んでいる。
とにかく私の決意を見せつけてやるのだ。そうすればそのうち諦めるかもしれない。
私達は戻って少し休憩することにした。
「参ったなあ……旅の話をしようと思ってたんだけど全然そんな感じじゃなくなったね」
「聞きたい」
「え、そう? その、あんまり大した話じゃないよ。君と比べたらすごく平凡だよ」
「それでいい、お話しして」
「じゃあ……ウガヤフキアエズ国の話から……」
昔を思い出す。
あの時、彼の語った旅の話は今の私に強い影響を及ぼしている。
彼の物語には夢がある。
今の私にはそれが心地よかった。
次に私はアイナと踊る事にした。彼女にも伝えておかなければ。
持久力を強化すれば私でも二曲くらいは踊れるのだ。
「私踊ったことなんてないんだ……」
「私に、身をまかせて」
「ああ……い、いい匂い……」
きつい。ただでさえ男性パートはきついのに操り人形みたいにアイナを操作しなきゃいけないのだ。
「近い!近い近い近い!」
「アイナ……私、今日、家出するから」
「あああああ……あ?」
「だからこれで……お別れ」
「え、なんで……!ああああ顔、顔!近い!あああああ……」
私の話を聞いて一瞬アイナは泣きそうな顔になった。
が、すぐに顔を真っ赤にして横を向いてしまった。
身に覚えのない親友だったが、今では私も昔からの親友のような気がしているのでこんな形で別れるのはやっぱりちょっと辛い。
横を向いたままアイナが口を開く。
「なあ親友……私はやっぱり親父さん達にちゃんと話すべきだと思う……」
「でも」
「こ……コソコソ夜中に逃げ出すなんて、それでいいのか?お前はそんなんじゃないだろ」
「そう……かな」
「そうだよ!正々堂々と説得して、盛大に見送られながら行くんだ!それがお前だろ!」
その光景はありありと思い浮かんだ。
そう……かもしれない。
……私は、コソコソ逃げ出してるのかな。
言われてみるとだんだんそんな気がしてきた。
バチッと篝火が弾けた。
そうか。
ハッとした。
私は両親を説得できないと諦めて挑むのをやめている。
私は両親に勝てない。
勝てないと思い込んでいるのだ。
私はまたむくれて、甘えて、暴れているだけだ。
彼女のイメージする私は、理想の私だ。彼女の言うことは正しい。
両親を納得させて円満に解決する。それが最上ではないか。
「……そうだった、ありがと」
「ひゃぁ!?」
私は彼女を引き寄せて抱きしめた。
「お父様のとこ、行ってくる」
「いきなりそういうことするなよ……頭がクラクラするんだよ……」
喘いでるアイナを離して、私はまず給仕をしているエステレアの元へ向かった。
計画は中止……と言いたいが少し違う。もう準備してしまった。明日、ヨシュアの馬車に乗せてもらうのは確定だ。
「みんなを呼んで」
「お嬢様……そのお顔はもしや」
「うん」
単純なことだ。
私を心配するのは私が頼りないからだと思うのだ。
ならば私の実力を示す。私は大丈夫だって信用させる。
ここで分からず屋のお父様に分からせて、明日の朝堂々と出て行くのだ。
銀髪ドレスの吸血姫系美少女が男性パート踊ってたらものすごく見栄えしそうですね。
でも女性パートも見栄えしそうです。どっちも好きです。




