それは地雷です
※12月5日、誤字修正しました。ご報告ありがとうございます!
セレストエイムに戻ったらやりたかった事の一つに、東方由来の物品の探索がある。
今、私達が歩いている中心街はセレストエイムで最も発展している部分だ。あらゆるお店が立ち並び、道には露店も多くある。少し路地裏へ入ると怪しげなお店もある。
ちなみに私達には用のないところだが、ちょっとした歓楽街も隣接している。
私たちが見ているのは主に露店である。私が制服に合わせていたベルトはここらへんの露店で買ったものだ。
「面白いものばかり売ってますね」
「怖っ!なにそれ?!」
クロエが手に取って眺めてるのは干し首というやつだ。
露店の店主によるとどうやら本物らしい。
怖すぎる。気持ち悪すぎる。
一応、人間にも魔力がある。霊術を使える者を加工すれば理論上は魔導具になるのである。あまりに非人道的なのでグランドリアでそんな事をする人はいないが、昔どこかでそういう風習があったと聞いた事がある。
たぶんこの干し首はその当時の物なのだろう。
「同族を加工するのはやはりNGなのですね、トモシビ」
「たぶんゴブリンの首でも嫌だわ」
スライムからすると共感しにくい感覚なのかな。
興味深そうに眺めるクロエを無理やり引き剥がして他へ行く。
しかし露店にはそんなに珍しいものはないようだ。
エステレア達はスパイスや発酵調味料を買ったが、私のお目当は和風なものだ。
着物とかないかな、と思ったのだが……。
「お嬢様、このお店はどうでしょう? 」
なんだろう、見た事ないお店だ。新しいのかな?
私が最後に中心街に来たのが一年くらい前だから、たぶんその後にできたものだと思う。
中は小綺麗で世界各地の商品が並んでいるようだ。
看板には『ゴールドマンセレクト』と書いてある。
「ゴールドマンって、あのヨシュアっていう子の家?」
「いえ、ここはゴールドマングループのショップの一つですよ」
エクレアの問いに答えたのはのは、このお店のスタッフと思われる妙齢の女性だった。
キャリアウーマンのようなきっちりした服装とメガネがいかにもやり手な感じだ。
彼女は私を見るとにんまり笑った。
「いらっしゃいませ、トモシビお嬢様。何かお探しですか?」
「東方のもの、ある?」
「もちろんございますよ、こちらへどうぞ」
揉み手してる彼女に店の一角に案内される。
「ゴールドマングループは会長自らが世界中を巡って入荷した品物をこういった各地のショップで販売しているのです。ヨシュアさんは会長のお孫さんですよ」
「へ〜そんなすごい人だったんだね」
なにしろ領主である私のお父様が会食に招待するような商人だ。並の商人ではないとは思っていた。
しかしヨシュア本人は全然偉ぶったところのない普通の子である。
私は案内された東方コーナーを一目見てここを贔屓にすることに決めた。
着物がある。扇子がある。味噌や醤油がある。極め付けは刀だ。
手に取って抜いてみる。
……なんだろうこれ。
アルミみたいに軽い。それに刀身が赤い。
「変わった刀身ですね。ミスリルではないようですが」
「ヒヒイロカネ、という金属で作られているそうです。ウガヤフキアエズ国から入手した刀でございますね」
この辺の和風コーナーはそのウガヤ……国のものらしい。名前は聞きなれないが私が探し求めていたのはそれだ。
軽くて頑丈。私に丁度良いんじゃないかな。重い方が破壊力は出るだろうけど私の腕力では子供用のミニサイズでもキツイのである。
決めた。これ買おう。
値段は……80万?
……やめた。値段を見て急速に頭が冷えた。
私の表情の変化を見て取ったらしい店主は、目を細めて笑った。
「少しであれば値引きさせて頂くことも、可能でございますが?」
「……やめとく」
冷静になるとますますこれは買えない。私はいざとなればエンチャントエクスプロージョンで武器を爆破するかもしれない。べつに剣でなくても良いのだが、支給品ならタダで爆破し放題だ。わざわざこの刀を使う必要はないのである。
その代わり、服を買う事にした。和服とゴスドレスの中間のようなすごいのを見つけたのだ。
すごく可愛い。いったい誰が作ってるのだろう?
これだけそのウガヤ国の商品があるということはヨシュアもそこに行ったのだろうか?
彼の話を聞くのがちょっと楽しみになってきた。
家に帰った私はさっそく和風ドレスを着てみた。
「はぁ……美しすぎます……」
クロエが鼻血でも吹きそうな顔で私の髪を梳かす。
いつもより短いスカート部分に編み上げのニーソックスで自慢の脚を強調する。
ちょっとエロい感じだ。
「かわいい? エステレア」
「トモシビ様は何でもお似合いになりますね、エステレアさん」
誕生日パーティーのドレスはこんな感じで作ってもらおう。もうちょっとエレガントなデザインにすればいけそうだ。
リビングにいる皆に早く見せよう。感想を聞かなくては。
「エステレアさん?」
「ッ!!」
「むが」
エステレアは無言で私に飛びかかってきた。
「お嬢様はどうしていつもいつも!太ももを!」
「エステレアさん!?皆さんにお見せするんじゃ……!?」
「するものですか!私のお嬢様です!私の……!」
私をベッドに押し倒してのしかかるエステレア。
溢れんばかりのリビドーを容赦なく私に叩きつけてくる。むしろ溢れてしまったのだろうか。
「お嬢様、私のお嬢様……!」
「くるしい」
「こうやって……私を誘惑するために太ももを強調したのですね、さすがはお嬢様……!」
のしかかられて太ももに抱きついて頬擦りしてくる。エステレアは太ももが好きだったのか。
クロエがソッと出て行ったのが見えた。
なぜ? と思ったらドアの隙間を開けて覗き見している。
「ああ……お嬢様可愛すぎて食べたいです……どうやったらもっと満足できるのでしょう……」
エステレアはもぞもぞと移動して私の首筋を舐めはじめた。
「お嬢様は……ご自分が、どれだけ人の欲望を掻き立てるかご存知ないのです」
「んっ……」
鎖骨の辺りを舐められて声が出てしまった。エステレアの目が輝いた。
「あら……? 新しいお嬢様スイッチを見つけてしまいましたわ」
「ひぅ……」
「本当にお嬢様は全身お嬢様なんですから……ふふふ」
正直、気持ち良いのは良いのだが、せっかくの服がめちゃくちゃになってしまう。
クロエが扉の前に陣取ってる以上助けは期待できない。
私がやるしかない。
「エステレア、だめっ」
唇にキス。チュッという擬音がつきそうだ。
エステレアはこれで止まるはずだ。
思った通り、エステレアは目を見開いて硬直してしまった。その顔が赤く染まっていく。
「服を直して、エステレア」
「お嬢、様……」
「ええええ!? 可愛い!」
クロエだ。
エステレアは大人しくなったが代わりにクロエが部屋に入ってきて騒ぎはじめた。
「何ですかその可愛い反撃!しかもそれでエステレアさんがこんなになっちゃうなんて!」
「く、クロエ……?」
「んもー、エステレアさん全然ウブなんじゃないですかぁ。私てっきり……」
「ウブ……? どういうことです?」
エステレアは呆然としている。
クロエは、いやだわーもうとか言ってるおばさんみたいなジェスチャーをしながら続けた。
「いえ、もっと……えーと、そういうとことかにゃんにゃんしてるものとばかり」
「く、狂ってる……」
「えっ!?」
「お嬢様、クロエは色情魔です。お逃げください」
どの口で言っているのだろうか。クロエもエステレアだけには言われたくないだろう。
「はやく二人で服と髪、直して……」
「は、はい」
「申し訳ありません……」
私が悲しそうに言ったら流石に聞いてくれた。
エステレアはクロエを警戒しつつ、まだ私の太ももをチラチラ見ている。
そういえば、今考えるとプールのドMの人もメガネ2も私の太ももに注目してた気がする。
どうやら私の太ももはかなり魅力的らしい。覚えておこう。
「エステレアさん……今度教育用の本あげますね」
「い、いりません……」
クロエの言葉に引いてるエステレア。
エステレアはひょっとして思春期なのだろうか。今までやりたい放題やってて変な話だが14歳なら普通思春期真っ盛りである。何か色々拗らせてこうなってしまったのかもしれない。
セレストエイムに帰省してから4日目、私は近くの幼学校にやってきた。
講演などという以前の私からは考えもつかないような仕事をするためだ。
体育館のステージに立って見回すと、子供達だけでなく大勢の大人が椅子に座っているのが見える。
最前列には、お父様にお母様、エステレアフェリスクロエエクレア……さらに我が家の使用人達。
それに大臣、官僚、騎士団の人達。
多すぎる。
皆暇なのかな……。
「二人で気持ち良い事してる人だー!」
「こ、こら」
母親に連れられた小さな子供が声を上げた。どうも聞くところによると、私の手紙はお母様が止めるまでの間、少しだけ掲示板に貼られていたらしい。それを読んだのだろう。止めてくれて本当に良かった。
私は大きく息を吸った。
「こ……こんにちは」
フェリスが尻尾をフリフリして応援している。少し緊張が解れた。
話す事はもう決めてある。紙に書いて、昨日一日中、何回も練習した。
いきなり講演してくれなんてお母様に言われた時は驚いた。反射的に断ろうと思ったが……なんとか思い直した。
私はこういう事も慣れておくべきだ。見事な講演をして聴衆を感動させ、拍手喝采で終える。それが理想だ。
講演王に私はなる。
「わ……わた、し……わた」
なれなかった。
うまく言葉が出てこない。人数が、多い。
「私……は、王都のグランドリア魔法学園で……クラス委員長を……してます」
そこまで言って、私は息を吸った。
それで……それで……なんだっけ?
なんで私が講演なんかするのか……それはつまりセレストエイムからもっと魔法学園に行って欲しいからだ。優秀な人はどんどん送り出してさらに優秀になって帰ってきてもらい、セレストエイムの要職に就く。
そこで魔法学園に入学した私の体験談で興味を持ってもらおうというのだ。
それなら……。
「私みたいに……なる方法を教えてあげる」
もう本能のまま自慢してやることにした。
私は不良を倒して委員長になった。魔物を倒して知る人ぞ知る英雄になった。
変態ばかりだが、一応ファンだっているのだ。
私はもう深窓の令嬢などではない。
人見知りで弱くて神秘的なイメージに隠れてたお嬢様ではない。
これが私のセレストエイムでの初舞台だ。
今のこの私というものを存分に見てもらうのだ。
練習のおかげか、大体無事に喋ることができた。
それから入学試験の攻略法も語っておく。攻略法と言っても、魔術をぶっ放しただけなのだが。
「はい」
最後の質疑応答で女の子が手を挙げた。
挑戦的な目をしてる。
幼学校卒業は14歳なので、私より年上かもしれない。そう思うとなんか変な感じだ。
「トモシビ様の魔術を見せて欲しいです。どんなレベルなのか知りたりたいですし、試験のさ」
「こんなレベル」
「ひっ」
突然目の前に現れた私に彼女は悲鳴を上げた。
転移魔術を連続で使って移動しただけだ。
予め計算しておいた相対座標にしか転移できないし大量の魔力を消費するという欠点はあるものの、攻守に使える強力なスキルなので転送魔導具を調べて習得したのである。
おおー、という感嘆の声が巻き起こった。
すごく気分が良い。
生身の魔力で転移する人など私の他にはいないと思う。私ってすごい。
だが彼女はめげなかった。
「い、今のレベルは分かりましたけど、でも私が知りたいのは入学前の話です。試験で使った魔術を見せて欲しいです」
「……わかった、外に出て」
彼女の言うことも一理ある。どんな事をすれば合格できるのかはっきり示すべきだ。
私が校庭に出ると、聴衆もゾロゾロとついて来た。
……スライムなしでレイジングスターを使ったらどのくらいになるだろう?
私としても一度試してみたい。
私の足元に魔法陣が浮かび上がる。
魔術をよく知る人から驚きの声が漏れた。
地面に描く魔法陣というのは基本的に大規模な儀式魔術などでよく使われる手法だ。
魔物の血で魔法陣を描き、それを媒介にして魔力を通すことで魔術を発動させるのが一般的だ。
魔力だけで直接地面に描くのは、体から離れた場所で魔力を保持する必要があるので、なかなか難しいのである。
「レイジングスター!」
前方の地面から光が吹き上がった。
暖かい風が私達の髪を靡かせる。
やっぱりあの時みたいにはいかないか。
空に向かって吹き上げる光柱の太さはあの時の半分以下、長さは比較にもならない。
だが、それでも彼女には十分だったようだ。口を半開きにして言葉を忘れている。
なんといっても我が家の最強魔術をさらに進化させたものなのだ。
聴衆も何かが昇天したかのような幻想的な光景に見入っている。お父様達はドヤってる。
「すごかったです」
少女は今度こそ素直に私を称賛した。
「私でも使えるようになるでしょうか? このレイ……なんでしたっけ」
「レイジング、スター」
「レイジン、スター? 何がスターなんですか?」
「……」
なんか恥ずかしくなってきた。ノリノリでつけた名前だけど、冷静に言われるとすごく恥ずかしい。私は自分の美的感覚には過剰なまでに自信を持っているけど、ネーミングセンスだけはあまり自信がない。
顔が熱い。
さっきは格好良いと思ってついレイジングスターとか叫んでしまった。
「……地雷でいい」
「え? レイジンじゃなくてですか?」
「地雷の魔術」
「あっ……レイジン、格好良いと思いますよ。ちょっと意味わかんなかっただけでべつに……」
「地雷だし……」
ご先祖様は地雷と言っていたのだ。地雷でも間違いじゃない。
こうして私の講演会は私の胸に小さな傷を残しながら成功に終わったのであった。
干し首って見たことあるでしょうか。日本にも博物館にあるそうですが私はあまり見たくないです。
※やけに伸びてると思ったら、またネット小説を紹介する某ブログ様で紹介されてました!
紹介してくれた方、なんかもう、本当にありがとうございます!




