オークションにかけられました
「まずは名前を教えてもらえるかな?」
「テスタロッサ……」
「じゃあテスタロッサちゃん。テスタロッサちゃんは何歳なのかなあ?」
「12さい……」
「12歳!食べごろだねえ!」
その言葉に客が沸いた。
どう考えても食べごろではないのだが、彼らには独自の見解があるようだ。
理解したくもないけど今はこの連中に合わせなきゃいけない。
「それじゃあ……今までの経験人数は答えられるかな?」
「なんの経験……?」
「聞きましたか皆さん!無垢そのものです!」
騒つく客席。司会のおじさんは満足そうに一層声を張り上げた。
「さあどうですか!この超絶美少女!貴族のご令嬢だったのに!華やかな将来は閉ざされ今や地の底!涙無しでは語れません!」
閉ざした張本人は喜色満面である。
私はステージの上でなるべく怯えて見えるように、クマのぬいぐるみをギュッと抱きしめて見せる。
仮面を付けた客達は、それを見て口元に下卑た笑みを浮かべた。
正直、半分は本当に怖い。
「では……5000万からいきましょうか」
「ほう、5000万」
「高すぎると? これほどの傾国、二度と出会えませんよ?」
「いや逆だ、安すぎる。その子の値段としてはな」
その言葉と同時にドアが開き、そして治安部隊が雪崩れ込んできた。
いつのまにか入り込んでいたナザレ隊長が開けたのである。
「全員床に伏せろ。従わない場合は」
「き、騎士団か!」
司会の隣にいた護衛が何かを取り出そうとした瞬間。隊長の姿がブレた。
「強制的に寝かせることになる」
ドサリと倒れる護衛。
すごい速さで当身を食らわせたのである。
それを見て客達は大人しく床に伏せた。
そんなやけに芝居掛かった制圧劇を見せつけられた私であるが、実は私も制圧した側だったりする。
「スライム」
「はい」
私の持つクマのぬいぐるみ……その中にいるスライムが魔法陣を描く。
奴隷の首輪がガチャリと外れて落ちた。
スッキリした。
重いし蒸れるし何よりデザインが無骨すぎる。
「お疲れ様です」
騎士団の一人がスリッパを持ってきた。奴隷扱いなのでずっと裸足だったのだ。
「ありがと……バーノン、おじさん?」
「名前を……! 光栄です!」
この人は地下迷宮突入前に、前回調査で異常なかったとかなんとか説明してくれた人だ。
あの時の私の功績はそのまま治安部隊の功績みたいになっているらしい。
そのせいか、彼らはどうも私に対して頭が上がらなくなってしまったようで、こんな感じで騎士サーの姫みたいな扱いを受けるようになった。
ちなみに、私がやっていたのはいわゆる潜入捜査というやつだ。
人身売買組織の摘発のために身分を偽って潜り込んだのである。
演技をやめた私を床に伏せた犯罪者達が見ている。
私はステージに設置された椅子から立ち上がると、彼らを見回し、ドヤ顔で髪の毛に魔力を通して見せた。
髪の色が変わる。黒から銀色へ、そして先端だけ赤く。
それを見て、伏せた司会が声を上げる。
「その髪……それに騎士団をアゴで使う……トモシビ・セレストエイムちゃん!?」
「……私のこと、知ってるの?」
「ファンなんだ、ほら!」
「おい!変な動きするな!」
彼は懐中時計を開けてこちらに投げてきた。
……蓋のところに雑誌の切り抜きらしい私の写真が入ってる。
粗いけどカラー写真だ。
本当にファンらしい。
ついに私に一般人のファンができた。本物の犯罪者だけど。
それはともかくロリコンおじさん御用達の雑誌に寄贈した覚えはないので、これは隠し撮りということになる。
この世界において写真はあまり普及してない。カメラは魔導具だが、写真はただの薬物を塗った紙である。しかし魔導具と同じように特許を取り、技術を秘匿しているため非常に高価なのだ。
しかしそれもせいぜい白黒写真のはずである。カラーなど私のスクリーショットくらいしか見たことがない。
最新技術だろうか?
一体誰が?
しかも私の名前まで知ってる。
考えていると、連行されかけてる司会のおじさんが叫んだ。
「最後に頼みがある!」
「なんだ?」
「取り調べ担当はトモシビちゃんにしてくれ!そうしたら何でも喋る!あと膝枕してママみたいによしよししてほしい!」
なんか業の深そうなこと言ってる。
ナザレ隊長が嫌悪感丸出しの顔でこちらを向いた。
「どうする? こちらとしては助かるが無理に付き合う必要はないぞ」
「頼む! お願いします!」
「……わかった」
「ほんと!?」
ロリコンおじさんは幼児みたいに喜んだ。
私としても乗りかかった船である。そのくらい構わない。
「お嬢様!」
「トモシビ様!」
エステレア達がやってきた。私のチームの4人はこの建物の制圧を手伝っていたのだ。
潜入は私だけである。
「ご無事でしたか? ひどい扱いなどは……?」
「したかも」
「トモシビ、世話係の件なら気にすることはありません」
「さすがはお嬢様……ですがどうかこのような事もうこれきりになさって下さい」
「……うん」
そもそもなぜ私がこんな潜入捜査をしているのかというと、それは騎士団の魔導院に来ていた私にナザレ隊長がこの潜入捜査任務を持ちかけて来たことに端を発している。
なんでも最近グランドリアで人身売買が活発になってきたらしい。
騎士団が目を光らせる王都では奴隷所持などしている者は見当たらないが、地方に連れて行かれたら発見しにくくなる。
人の出入りの多くなる夏休み前に摘発しておきたいということで、幼げで無力な少女に扮する事ができる私に白羽の矢が立ったのだ。
奴隷扱いとはいえ高級な商品である以上そう乱暴に扱う事はないだろうし、高額な手当もでるという事だったので私も快くオーケーしたのである。
「あ、テスタロッサ様……だよね?」
子供達が駆け寄ってきた。
私と一緒の部屋にいた被害者だ。エステレア達に助け出されたらしい。
「お前、無事だったのか? なんだその髪?」
「テスタロッサ様にお前って言った!? あんた世話係のおじさんみたいになりたいの!?」
「ご、ごめん……なさい」
「トモシビちゃんほんとに奴隷してたの……?」
子供達は幼学校低学年くらいだ。私の事も同じくらいの歳だと思っていたらしいのだが、色々あってこうなった。
ちなみに髪の色はイカクラゲから抽出した物質を使ったインクで変えていた。魔力を通せば透明になるので、私なら染髪しても簡単に元に戻せるのだ。
「私は、テスタロッサじゃない」
「どういうこと……?」
「この方はあなた達を助けに来たのですよ。そのために潜入していたのです」
「え、すごい、騎士団なの? 」
「いいえ」
クマのぬいぐるみが口を利いた。正確には中のスライムが、である。
「彼女はトモシビ・セレストエイム、世界の真の支配者です」
子供達は素直に驚愕した。
興奮する子供達に纏わり付かれて疲れた。帰ってゆっくり休みたいところだが、どうせなので今日中に取り調べを済ませておくことにした。
取調室にエステレア達は入れないが、ぬいぐるみに入ったスライムがいるので心強い。
スライムはメイド2人の手によってすっかり教化されてしまった。
いつも鞄やぬいぐるみの中に潜んで、今では得意げに私のボディーガードのような事をしている。
「まず、おじさんはもくひけん……がある」
「黙秘権って何なのかな? おじさん分からないなあ」
「黙秘する、権利」
「それは何でも話すっていう約束と矛盾しちゃうねえ? どうしたらいいのかな?」
「……どうしよ」
「トモシビちゃん、戯言に付き合わなくてもいいからね」
「うわあ怖い!大人のお姉さん怖い!喋りたくなくなっちゃう!」
ラナさんが口を開くとこれなので、私が主導して取り調べを進めなければならない。
数ヶ月前は地面に大穴を開けて取り調べを受けていた私が今はする側である。人生何があるか分からないものだ。
私はぬいぐるみの裏に貼ったカンニングペーパーをちらりと見た。
「どこに、連れて行くつもりだったの? 組織の拠点はどこ? うまく甘えながら……背後関係を、聞いてね」
「トモシビ、そこは読まなくても良いところです」
スライムが骨伝導で教えてくれた。
ロリコンおじさんはニヤニヤしている。
犯罪者に甘えるなんて嫌だけど、とにかくやってみよう。
「教えて? お願い、おじさん」
「ふひ、トモシビちゃんのお願いなら断れないなあ」
「じゃあ組織から」
「組織ねえ、おじさんも全容は知らないんだけどね……」
期待はしていなかったがこのおじさんは末端らしい。彼の知っている事は、奴隷の半分は地方に連れていかれるという事、そしてもう半分は南に連れていかれるという事。それくらいだと言う。
「南?」
「ジェノバの方だねえ。頭からフードを被った人達が連れて行くんだよ。いかにも怪しいだろう?」
「怪しいのはおじさんも、だから」
「意外と言うねえトモシビちゃん……おじさんちょっと興奮してきちゃったよ」
「フードの人達の情報は……?」
「うん、実はね、おじさんとっても気になる会話を聞いちゃったんだ」
「それは?」
「それはねぇ……トモシビちゃんがちょっとサービスしてくれたら思い出すかもしれないなあ」
「……あなたね」
ロリコンおじさんはだんだん調子に乗ってきたようだ。
底冷えのする怖い声を出したラナさんを首を振って制して私は続ける。
「膝枕してよしよしって……してほしい?」
「ひひっ、分かってるねえ」
「じゃ、後で耳かき」
「ああ最高だよトモシビちゃん」
おじさんは期待に息が荒くなった。
「彼らはね……アルグレオという町に運ぶそうだよ」
私はラナさんを見た。彼女は厳しい顔で頷いた。
新大陸のアルグレオを知っている人は限られている。いずれも国家の重要人物のはずだ。
その中に関係者がいるのかもしれない。ひょっとするとアルグレオ自体が人身売買に関わっているのかもしれない。
どちらにせよ大変な問題である。
さて、なにやら大事件の予感がしてきたわけだが、私の役割はここまでだ。
今回騎士団に協力したのは特例のアルバイトのようなものだ。
夏休みに入ったのでこういう仕事もできるわけだが、子供である私の本来の仕事は夏休みを満喫することである。
実家のセレストエイムでは私の帰還を首を長くして待ってるはずだ。
取り調べを終えた私は、ロリコンおじさんに耳かき棒を差し入れして帰ることにしたのであった。
ここから第3章です。
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