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スカイサーペント2



星送りの夜の夕暮れ。

街灯が全て消えた街はそれでもまだ活気を保っていた。

私は校舎の屋根の上でそれを見下ろす。

人々は簡易的な灯火を手に持って、お祭りを楽しんでいる。

綺麗だ。

商店街はまるで光の洪水のようだった。


今からここを空飛ぶ大怪獣が襲う。街を蹂躙し、雷を降らして、全ての命を吹き消していく。

あの巨体なら体当たりしただけで校舎は崩れるだろう。

一般人はゴミのように死ぬ。

絶対に止める。

しかしまずは避難してもらわなくては。

私は2つの通信機を取り出して語りかけた。



「グレン、アスラーム、聞こえる?」

『……おお、なんだ? お前が連絡なんて』

『トモシビさん、無事かい? 大変な事になってるようだね』

『なんだ?あの野郎もいるのか?』

「スカイサーペントが来る。避難して。それに避難を、よびかけて」

『なに? スカイサーペントってなんだ?』

「空飛ぶ怪獣、早く逃げて」

『トモシビさん、君はどこにいる?まさか』



答えてる暇はない。

もう来る。

黄昏の空にウナギが舞っている。

だんだん大きくなる巨大な影。もう私たちのすぐ上にいる。

全員に暗視力強化に身体強化。

準備は万端だ。


まずはこちらに注意を引きつける。

レーヴァテイン。

極太のビームを巨体に照射する。

……焦げ跡くらいは付いただろうか? やはり効かないか。これ以上は私の手が焼ける。

やつの目がギョロリと私達を捉えた。動きが変わる。捕食の動きだ。


大きな体を旋回させて、私達に頭を向け……突っ込んでくる。

まだだ、まだ避けない。

引きつける。

……もっと引きつける。

……今だ。

私は手に持った魔導具をやつの口に投げいれた。



「散開」



ブースターで四方に散る。頭から突っ込んでくるスカイサーペント。

全員避けた。

少し遅れた私を抱えるようにしてエステレアが支える。

よし、ここまでは計画通りだ。

投げ入れたのは魔導人形だ。

すぐにやつの口から煙が上がった。



「急降下します!」

「ッ!」



私達のいた位置をのたうつウナギの体が通り過ぎていく。

当たったら、死ぬ。

2人分のブースターで辛うじて避けている。

私の放った魔導人形は3体。奥に進みながら魔力が尽きるまで暴れるはずだ。

とにかく動きを鈍らせなきゃ話にならない。

2度、3度、エステレアの力を借りてやつの体を避ける。

他の皆も無事だ。心臓に悪い。

避けられないようなスピードではない。しかしミスればそこで終わりなのだ。考えると震えが止まらなくなる。

……そろそろ頃合いか。魔導人形は十分に奥まで進んだはずだ。もう一つの魔導具を携えて。


魔導具アースブレイカー起動。

あの巨大ミミズの歯のような部分を加工したものだ。

ミミズの体は灰になったが、私のエクスプロージョンで吹き飛んだ顔面の破片が残っていた。それを密かに回収していたオタが私にくれたのである。

その能力は……大量の土の吸収と吐き出し。



「効いてる!」

「行くよ〜!」



やつのスピードが鈍った。体内に土が詰まっているのだ。

高度も下がっている。

いける。

エクレアとフェリスが猛禽みたいな動きでやつに接近する。

うるさそうに体を捻る巨大ウナギ。

だが、2人はブースターの噴射口と体幹の操作で簡単に避ける。上手い。嬉しくなるほどに巧みだ。


でもまだ油断はしない。アレがある。絶対にやってくる。

それしかないはずだ。

私は瞬きもせずに注視する。

ウナギの体に魔法陣が浮かんだ。

今だ。



「スライム!」



障壁で迎撃する。

しょせん魚だ。魔法陣を描く速度はさっきの巨大スライムよりはるかに遅い。

私の胸元に入れた小さなスライム。

そこから大量の魔力が送られてくるのがわかる。それを使えば私の障壁で防げるはずだ。

やつの落雷は、腹部のあたりを包み込んだ障壁の内側で、プラズマボールのように発散して消えた。



「パーフェクトですわお嬢様!」



スライムは魔力タンクだ。私に同調するよう調節して魔力を送ってくれる。なんて役に立つ子だろう。

私達がこんなに長く飛べるのもスライムの魔力のおかげだ。


フェリスとエクレアが再び近づいていく。臆することなくスレスレの位置を並走し、至近距離から槍を打ち込んだ。

Bクラスの教室から拝借したものである。

狙いは左右のヒレの付け根。

正確だ。

そして急速に離脱する。皆、本当に頼りになる。

次は私だ。

リンカー1、リンカー2、起動。


槍が爆発し、肉飛沫を吹き上げた。

……効いた。

やはり傷口から爆破すればいける。

これは槍にエンチャントしたエクスプロージョンにリンカーの式を埋め込んだ魔術だ。

魔法陣を保持したまま離れ、対応するリンカーの式を手元で励起させることで発動する。

つまり魔術の遠隔起動ができるのだ。意識を分散させなければいけないので他の事が疎かになるのが欠点だが、そこはエステレアに補ってもらう。


スカイサーペントはさらに高度を下げ、校庭に不時着した。

そこにクロエが3本目の槍を打ち込む。

リンカー3起動。

背ビレの一部が弾け飛んだ。

巨体がガリガリと地面を削って、校舎にぶち当たる。校舎が崩れた。

ついでに校庭も一部崩壊した。なにしろ地下が空洞なのだ。

キョウカ先生によると飛ぶ魚は大抵ヒレに魔法の発動体があると言う。この神話生物も例外ではなかったようだ。



「順調ですね」

「うん」



校舎は壊れたが、人はいないはずだ。あの魔法理論クラスの棟はいつも薄暗くて人気がない。

ましてや、このお祭りの夜に……。


だが、その予想は裏切られた。

崩れた校舎の中から人影が走って出てきたのである。

アスカ……アスカだ。

なんで?

アスカは逃げない。校舎に刺さったスカイサーペントを見ている。

助けるしかない。

彼女の元へ急ぐ私。

アスカはスカイサーペントに石を投げた。

何やってるのアスカ。



「早くにげて!」

「うわっ、あんた何やってんの!?」



こっちの台詞である。スカイサーペントはニョロニョロ動いて校舎から脱出しはじめた。

ズリズリと地面を擦って、校舎の瓦礫の中から深海魚みたいな顔がこちらを向く。

まずい。

そのまま、のたうって這い出してきた。

まずいまずい。



「はしって!」



地面を削りながら凄い勢いで私達に向かって襲いかかってくる巨大ウナギ。

必死で逃げる。

人一人抱えてはうまく飛べない。

エステレアと目を合わせる。

よし、ホップステップジャンプだ。

2人でアスカを持ってタイミングを合わせて離陸しよう。


その時、背後にチリチリとしたものを感じた。魔力の動きだ。背後を振り向くと、やつの口元に魔法陣が浮かんでいた。

またか。

今のやつの体は地面に接しているが、あの落雷なら地面を伝って私達に届くかもしれない。



「なんかやばいよ!」



後ろを見てアスカが叫ぶ。

ミニスライムの魔力残量は不安だが

障壁を使うしかない。


魔法陣を描きながら……違和感に気付いた。

違う、落雷じゃない。

障壁は相手の魔術に合わせる必要がある。これではダメだ。

魚の口からエクスプロージョンが放たれた。

学習したのか? 前に私の使ったものを。

やばい。早く離陸しないと。

爆発が……。


私の背後で爆音が轟いた。



「……あれ?」



なんともない。

そのまま飛び上がる。



「間に合ったか!」



グレンだ。下にグレンがいる。それにあの狼頭はバルザックだ。

今のはグレンの障壁か。

助かった。

スカイサーペントは標的を変え、2人に襲いかかる。

彼らは素早くサイドステップで躱した、

すごい。見かけによらず華麗だ。マタドールみたい。

体育館の上に着地する私達。とりあえずここにアスカを避難させよう。



「ここにいて」

「待って、生物室を壊さないで。あの子達が死んじゃう」



そうか。

アスカはあの面白生物達を心配していたのだ。だから自分に注意を向けようとして……。

私はアスカの目を見て頷いた。



「トモシビちゃ〜ん!」

「大丈夫ですか?」



攻撃を終えた3人が私の元へ集まってきた。



「大丈夫、剣かして」



全員の剣にエンチャントエクスプロージョン。

景気良く武器を爆破しているが、どうせ学園の支給品だ。構うことはない。

次は頭を徹底的に破壊する。

魚ならそれで死ぬはずだ。

ミミズみたいな謎生物とは違うのだ。


再び飛び立つ私達。

グレンとバルザックはよく戦っているがいかんせん武器がない。

素手であの巨大生物を倒すのは無理がある。

と、暴れまわるウナギの動きが止まった。

何事かと思うも、次の瞬間、口から大量の土を吐き出した。教室が2つ埋まるくらいはある。よくこんなに詰め込んだものだ。


フェリスとエクレアはその隙を逃さない。両側からエラの中に剣を突き入れた。

よし、リンカー起動。

側頭部が吹き飛ぶ。

続いてクロエが後頭部に剣を刺す。

後頭部が全部弾けて頭骨が見えた。


次は私とエステレアだ。

狙いは……頭骨の隙間。

ここだ。

露わになった頭骨と背骨の接続部の辺りに剣を刺し、素早く爆破。

さらに寸分違わず同じ場所にエステレアが剣を差し込む。

ボン、と篭った音。今までとは違う手応えがあった。

頭蓋の中が破壊されたらしい。

スカイサーペントは少し体をくねらせると、そのまま動きを止めた。


…………。

……動かない。

死んだ?

私達を3度も震え上がらせたこの化け物が?



「やりましたね、お嬢様」

「……」



やつの目がぎょろりとこちらを向いた。

何かする気だ。直感的に分かる。

どうする? 槍はもうない、剣も。

……あった。

私は太もものガーターから投げナイフを取り出すと、パックリ口を開けた後頭部、その中のシェイクされた脳みそにナイフを投げ込んだ。

やつの魔力が動くのを感じる。


私とスカイサーペントが同時に同じ魔法陣を描く。

閃光が走った。



「おじょっ……!」



サンダーウールの導線に沿って稲光りが迸り、火花が散る。

私の方が早い。

落雷の魔術。

あれだけ何度も見れば覚える。

今までのお返しだ……自分の技を食らえ。


ウナギの目玉がドロリと飛び出し、黒焦げの脳みそから煙が上がった。

やつの魔力が散っていくのがわかる。

もはやピクリともしない。今度こそ完全に動きが止まった。


地面に降りるとフェリスが抱きついてきた。



「すごい!トモシビちゃん!すごいよ!」

「や……やりましたよね?」

「本当に勝ったの? 伝説の化け物なんでしょ?」



訝しむエクレア。

私もまた動き出しそうな気がして怖い。



「死んでるぜ。臭いが違う」

「なんでお前らがこんなのと戦ってる? 騎士団は何やってんだ」



バルザックとグレンも来た。

騎士団は寝てる。

スライムがやったことだが、元はと言えば私の教育のせいでもある。しかし責任は取ったのだから許されて良いと思う。

当のスライムが木陰から出てきた。

1メートルくらいの球体になっている。

私達が持っていたのは分体であり、本体は隠れていてもらったのである。



「トモシビ、貴女は本当に強い……。認めます。貴女が支配者に相応しい」

「……私は力で従わせない」



強いから支配者なんて私の理想とは違う。

私は力で従わせるのは反対だ。

最初からそういうスタンスだ。

だって、私はまだクラスで2番目に弱いのだから。


辺りはもうすっかり暗くなった。

人の灯が消えている。

避難したのだろう。

街は暗闇に閉ざされている。



「と、トモシビちゃん……」



フェリスが怯えている。耳を伏せ、尻尾を股に挟んでいる。

嫌な予感がした。

ゴロゴロと雷鳴が聞こえる。

……近い。

フェリスの指差す先には月がある。


月の中に、空を舞うウナギのような影が見えた。



スカイサーペントはウナギっぽいですがウナギ似の深海魚みたいなイメージです。ウナギより若干凶悪な顔してます。

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