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レーヴァテイン

※10月14日誤字修正しました!ご報告感謝です!!



翌朝、爽やかな朝を迎えた私たちはいそいそと馬車に乗り込んだ。

また一日かけて馬車の旅が始まる。

その間はゲームやお喋りで暇をつぶすわけだが、私は少し思いついた魔術を試してみることにした。

最初の休憩で外に出て馬に強化をかける。



「持久力強化する」

「持久力強化ですか? 」



御者を務めるエステレアが訝しんだ。

心肺機能が強化できるかやってみたいのである。筋力と同時にできれば私も色々助かる。

他人に強化をかける時は魔法陣がいる。他人の魔力に合わせて変換する必要があるのだ。

魔力を込める。

……馬は何も気付いた様子はない。

しばらく様子を見よう。これで少しは速くなるかもしれない。


結果から言うと、それは成功だった。

昼前にはサウスピーク村が見えてきたのである。予定では昼過ぎだったはずだ。



「様子が変ですね、門が閉まっております」



サウスピーク村は粗末だが柵と堀で囲まれている。橋を通って入るのだが、この橋を上げたらそのまま封鎖できる構造になっている。もちろん私たちも入ることができない。



「向こう側で戦ってる音がするよ」

「村が襲われてるってこと? 敵は?」

「たぶんオーガ……」



フェリスは見たことない顔をしていた。無表情で顔をうつ向けて目に影がかかっている。

ちょっと怖い。



「オーガね……手強いらしいですわね」

「でも迷ってる暇はないわ、トモシビ様」

「うん、行こ」



オーガは巨人のような姿をしている。ゴブリンのように集団で生活しているがゴブリンとは比較にならないくらい強い。大きくて速くて力が強くて、武器を使い、酸を吐く。魔術を使う個体もいるという。

そして人を食べる。やつらは人間が好物らしいのだ。



「フェリス、大丈夫?」

「……大丈夫だよ。急がなきゃ」



……尻尾の毛が逆立ってる。臨戦態勢だ。

どうやらオーガは裏側にいるらしい。私たちは急いで向かうことにした。







見えてきた。

緑色の肌に3メートルほどもある体。そして頭には角。あれがオーガか。

オーガ達は隊列も作戦もなく、村の裏側の柵に群がって破壊しようとしてるらしい。

村の柵の中からは冒険者達が魔導具や弓矢で攻撃しているが、あの巨体には効きにくいようだ。それに数が多い。


そして今まさに、私達の見ている前で柵が破られた。

まずい。



「にゃあ!行くねっ!」

「あっフェリスさん!」



フェリスが飛び出した。

ブースターで飛んでスピードを上げる。いくらフェリスでも一人では無茶だ。



「私たちも行くわ」

「ええ、メイは馬車をお願い」

「かしこまりました」



村になだれ込み、冒険者に棍棒を振り上げるオーガ。

その先頭の一匹にフェリスが流星みたいに突っ込む。

そのまま体重を乗せた蹴りの一撃で頭を粉砕した。

私たちも飛び立ちながらそれを見る。

オーガは即死だろう。

瞬く間に一匹倒したフェリスはさすがだ。


だが次の瞬間驚愕させられた。頭のないオーガが動いたのである。

左手で掴みかかろうとする。スルリと避けるフェリス。

頭のないオーガは右手に持った棍棒を振り上げ……そこでようやく後ろ向きに倒れた。すごい生命力だ。

そうこうしてる内に他のオーガも集まってきてフェリスを囲みにかかる。



「フェリス、飛んで」



図鑑によると、タフな割にオーガの対魔力は低いらしい。たしかに、何匹か焼け焦げて倒れてるのを見ると冒険者のファイアボルトが致命傷になったのかもしれない。

冒険者達の前に降り立つ私。



「め、メスガキか?」

「前にでないで」



前に出たら巻き添えにしてしまう。

フェリスがうまい具合に敵を集めて離脱してくれた。

射線は整った。

あれを試してみよう。

あの悪魔像が使ったビームの魔術だ。よく分からない魔法陣だが覚えた。

なら使える。



「おい!どうする気だ!」

「薙ぎ払う」



私の両手から眩い光が放たれた。

悪魔像の使ったものより倍くらい太い。

それは周囲の牧草を焼き払い、射線上にいたオーガの体を飲み込んだ。群がっている全てを貫通してはるか後方まで光が伸びていく。

すごい。

怖くなるくらいの火力だ。

手が焼けるように熱い。火傷しているかもしれない。

強力なだけあって私の魔力が急速に失われていくのがわかる。

でも……まだまだ。

手を動かすと光の柱もそれに合わせて動く。

走って向かってくる個体、逃げようとする個体、ぼーっとしている個体。

光は扇型の軌跡を描いてそのほぼ全てを焼き尽くした。



「な、なんだこりゃ……」



後には黒焦げの肉塊と焼け野原が残った。

私の作り出した灼熱地獄だ。最初に当たった個体は、焼肉の網の隅っこに残った真っ黒な肉片みたいになっている。

生き残りは……堀にいた数匹がかろうじて残ってるようだ。

恐るべき光景。大気が陽炎で揺らめいてその熱気が伝わってくる。


だが……魔力は全部持っていかれてしまった。私の視界が急速にブラックアウトしていく。

エクスプロージョンでも何でも、通常の魔術には出力に限界がある。魔力を込めようとしても一定以上は込められないのだ。

だが、この魔術は違った。



「すごいわトモシビ様!」

「なんだよ……これ」

「おい、メスガキ!お前何した?!」



驚きを通りこして怯えてすらいる冒険者達。

何って、なんだろう?

名も知らない古代の魔術だ。私が名前を付けていいのかな。

古代の魔術で……炎の剣。

レーヴァテインと名付けよう。

うん、カッコいい。

ゆらりと私の体が平衡感覚を失った。



「トモシビ様!」

「お嬢様!しっかり!」



私はエステレアの暖かい胸に抱かれて意識を失った。







「トモシビちゃん……」

「……フェリス」



目を覚ましたらフェリスの顔があった。

あの食堂だ。私は長椅子に寝かされていたらしい。



「あ、皆さん、トモシビ様が起きましたよ」

「お嬢様、お加減はいかがですか?」

「大丈夫」



もう魔力は大体回復したようだ。我ながら魔力に関する事だけは大したものだと思う。時間は30分ほどしか経ってない。



「いや、ビビったぜ……ワームスレイヤーだけのことはある」

「見た目はメスガキなのになあ」

「またとんでもない魔術覚えましたわねトモシビ」

「トモシビ様、両手が火傷になってましたよ。あれはあまり使わない方がいいです」

「次から、調節する」



うまく絞ればもう少し使いやすくなるだろう。ピンポイントで目を射抜くとかできるかもしれない。



「お嬢ちゃん起きたのかい? 何かいる?全部タダでいいよ」



どうやらここは打ち上げ会場になっているようだ。皆、思い思いにお酒を飲み、料理を食べている。



「今回は本当にありがとうね。あんた達がいなかったら危なかったよ」

「この前は疑って悪かったな嬢ちゃん。俺らも謝る」

「そうだぞ!てめえらメスガキに謝れ!」

「そうだな、それに助けてくれてありがとよ」

「今更手のひら返してんじゃねえ!」

「どうしろってんだよ」



おじさんが一番疑っていたような気がするが、まあいいか。もう済んだことだ。

あの後残ったオーガは軽く一掃したらしい。こちらの被害は牛や鶏が数匹と柵が少し焼失したくらいだそうだ。

フェリスは一対一なら簡単に倒せそうだったし、私が頑張らなくても何とかなったかもしれない。それでも全員無傷なのだから倒れた甲斐はあった。


倒れてまで村を救ったということで皆が私を英雄扱いしてくれて気分が良い。

ただ、その中でフェリスだけが浮かない顔をしていた。



「トモシビちゃん、私が一人で飛び出したせいで倒れちゃったの……?」

「え?」

「私、目の前が真っ赤になっちゃて……」



連携のことなんか考えられなくなってしまったと言う。

……無理もない、妹を食べられてあんな大きな火傷を負わされているのだ。

私はフェリスを正面から抱きしめた。



「フェリスのせいじゃないよ」

「そうかな……」

「フェリスが引きつけてくれたから……誰もやられなかったし、全部倒せた」



フェリスの過去に何があったのかは詳しく知らない。しかし私はフェリスの今の性格は知っている。

フェリスは冒険者達がオーガに襲われそうになって居ても立ってもいられなくなったのだろう。

そんな優しい子をどうして責められるだろうか? フェリスがそう行動をするなら、私は合わせてフォローするだけだ。

フェリスの過去も現在も人柄も私は全部丸ごと受け入れているのだから。



「それに、私も遺跡にみんな連れてきて、怪我させちゃったから……お互い様」

「……うん、わかった」



尻尾が足に絡みつく。やっぱりこの感触がないと。



「そうですわ。わたくしだって、トモシビ達がわたくし達のために死んだと思って懺悔したのよ?」

「スカイサーペントの時だね」

「お、いい雰囲気じゃねえか。そうだぞ、仲間なんて助け合って当然なんだ」

「たまには良い事言うじゃん。おっさんにも仲間いるんだ?」

「……」

「あっ……ごめん」



フェリスが笑顔を見せた。もう大丈夫だ。

私は注文したハンバーグステーキをフェリスと分け合って食べる。

粗挽きだ。肉汁が滲み出てくる。

魚も良いけどやっぱりグランドリア牛も格別に美味しい。



「そうそう、さっきスカイサーペントって言ったか? 詳しく聞かせろ」



食べてるとおじさんがまた絡んできた。そういえばスカイサーペントと初めにあったのは彼といた時だ。

私たちが遺跡の途中で襲われたことを話すと彼は考え込んだ。



「……あんなのと何度も出会うのは異常だぞ、最近何かおかしい」

「何かあったんですか?」

「まずここがオーガに襲われるのもおかしいだろ。魔封器が機能してねえんだ」

「魔封器?」

「そこからかよ、なんで知らねえんだ」



魔封器というのは大きな街に設置されている魔物を寄せ付けないための魔導具だそうだ。

初めて知った。

ジェノバにもあるし、この村にもある。王都には複数あるとの事である。

おじさん達冒険者は魔封器の異常で村が危険に晒されているという依頼を受けてここにいると言う。



「村は騎士団が守ってるって言ってたじゃん」

「今は留守だ。東の方で何かあったらしい。行っちまったよ」

「なんですかね? それも異常ですか?」

「そうだな。ま、そのうち何とかなるだろうが、お前らはマジで気をつけろよ。やべえのと当たりすぎだ」

「そうねえ、ミミズにスカイサーペント2回なんて」

「運が悪いですね」



これからも当たるんだろうか?

私が魔物を引き寄せる匂いでも出しているのかな? いつも真っ先に狙われるし……。

悪魔像から強力な魔術をラーニングできたのは僥倖だった。これがあれば大抵の魔物には負けないだろう。

それでもスカイサーペントに通じるかは疑問だが。


私たちはお腹いっぱい食べて、お土産まで貰って帰路についた。

もうこれで本当にバカンスは終わりだ。思えば戦いも多かったけど、ジェノバ自体は平和で楽しかった。

来年もまた皆で来たいな。



一撃でしたがオーガは結構強い魔物です。

ゴブリンの10倍以上強いですね。

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