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男子学生の日常

※三人称視点になります。

※9月27日文章校正しました。




オタ、ことニコラは歓喜していた。自分の部屋にお嬢様がいる現状にだ。

2人だけだ。お付きのエステレアは別の部屋で待機している。

プレゼントを渡すので2人きりにして欲しいと頼んだのだ。

エステレアはトモシビに言われて渋々従った。


トモシビが自分を信じてくれたというのが彼にとってはさらに嬉しい。何しろこの容姿だ。生まれてこの方、女の子に優しくされた記憶などなかった。

学園でトモシビと出会うまでは。

彼女は輝くように美しかった。髪の毛を払う仕草に見惚れた。高嶺の花すぎて目を合わせる事もできなかった。それなのにニコラに対しても優しかった。

何より幼さの残る可愛いらしい体が最高に彼の好みだった。



「じゃ、じゃあ一つ頼みがあるんだけどw」

「?」



小首を傾げるトモシビにさらに興奮する。

仕草がいちいち彼のツボにはまる。



「あの……ふ、踏んで!足で踏んでください!できれば股間がいいけど顔でもいいです!w」

「やだ……」



彼女は体を掻き抱くようにしてドン引きした。

それは素晴らしい反応だった。



(怯えた顔……たまらんw)



彼は『お嬢様を屈服させる会』会員でもある。プレゼントを一緒に取りに行ったチャーノックに誘われて入ったのだが、どちらかというと屈服したい彼としては趣味が合わなかった。

ただ現状唯一のファンクラブであるし、お嬢様を屈服させたいという人の気持ちも頭ごなしに否定する必要はないと思い、入会した。

方向性は違っても同じお嬢様を愛でたい同士だ。交流して人脈を広げておいても損はない。

彼は14歳にして意識の高い変態なのであった。


しかし、この怯えた顔を見てると彼らの気持ちも分からなくはない。



「お願いします!魔導具もう一個付けるから!お願いしますお願いしますw」



ニコラは土下座した。

トモシビは考え込んだ。

彼女は実のところかなり押しに弱い、とニコラは見抜いている。彼にとって土下座くらいなんでもない。むしろ率先してやりたい。もういっそこのまま踏んでほしい。



「……わかった」



彼女は承諾した。

普通、自分のような豚に土下座されたからといってあっさり承諾するだろうか?

そんなところが最高に可愛いと彼には感じられる。

ニコラは仰向けに寝転がった。

椅子に座る彼女の足元に顔が来るように。

彼女のニーソックスに包まれた足がゆっくりと差し出される。太腿がチラチラ見えるのが素晴らしい。

その足がピタリと止まった。



「どうして、踏んでほしいの?」

「……お、お嬢様のものになりたい!俺を踏みつけて命令してほしい!w」



トモシビはスッと足を引いた。



「起きて」



ニコラはすぐ起きて立ち上がった。彼はトモシビに命令されたら喜んで従う。



「跪いて」



一体何をされるのだろう。ドキドキしてきた。年下の美少女が偉そうに椅子に座り、自分はその前で命令されるがまま立ったり座ったり。

その屈辱のシチュエーションが彼にとってはご褒美である。



「貴方は、魔導具委員になって」

「へ?」

「任命式」



彼女はニコラに右手の甲を向け……なぜか引っ込めて左手の甲を差し出した。

臣下の礼を取れと、そう言っているのである。

それは良いが、踏んでくれないのだろうか? そう思って見上げれば彼女は少し口角を上げていた。



(……これはもしや理想の主では?)



この少女は素質がある。ニコラは直感的に見抜いた。

このまま育てれば喜んで踏んでくれるようになるに違いない。

今は無理でも、そのうち……。

彼はその真っ白で小さくて艶かしい彼女の手を取って接吻したのであった。

ついでにちょっと舐めてみたら早速叩いてもらえた。






ニコラがトモシビにプレゼントを渡してから数日後のことである。

アスラームは自宅のソファで寝転んでいた。普段の彼からは考えられないほどだらしない姿だ。

彼は自身の恋愛について悩んでいた。

彼にとって女性というものは面倒な存在だった。自分がモテるのは知っている。しかし大抵の女は彼に寄りかかろうとするだけだ。彼としても女性に対しては理想的な紳士であるように振舞っているがそれも疲れる。


父からは学園にいるうちに将来の伴侶を決めておけと言われている。

しかし貴族の女性で魔法戦クラスを選ぶものなど稀だ。彼は武門の家柄らしく戦う女性が好きなのである。だが、そのくせあまり男勝りなのも好みではなかった。


虚無感を感じていたところにトモシビが現れた。

彼女は理想的だった。

容姿、家柄は言うまでもなく、戦闘スタイルや考え方、委員長の仕事の役割分担に至るまでとにかく相性が良い。どちらが寄りかかるのでもなく助け合える存在は初めてだった。


彼の気持ちを決定付けたのは巨大ミミズの魔物と戦った時だ。

抱きあげたとき、彼女は嫌がらなかった。目を合わせたとき、心が通じ合った気がした。

最後にお互いの手を合わせたとき、運命を感じた。

心臓が燃え上がるような気がした。

彼女の羽毛のような柔らかい体、サラサラした髪の手触り、甘い香り、自分の腕に抱かれて上気した顔。その全てをアスラームは心に焼き付けられてしまった。

最後のは妄想だが、彼の中ではそういうことになっている。


ただ問題が一つあった。



(百合園の女王ってなんだよ……)



ただのデマかと思えば、どうも本当らしい。Bクラスの女子から聞いた。道理で自分に寄りかかって来ないはずだ。

しかし彼女は年齢以上に幼い。そもそもが恋愛感情というものに目覚めていない可能性もある。彼女を慕う者たちと疑似恋愛を楽しんでいるだけかもしれない。彼はそう自分に都合よく解釈することにした。



(そのくらい、いいさ)



トモシビは領主の一人娘だ。いずれ結婚し子を為さねばならないはずだ。ならばその時に自分が最も相応しい者であれば良い。そう考えれば今の関係は悪いものではない。

彼はもう偽装結婚でも何でも良いのでとにかくトモシビが欲しかった。

悶々としていると、彼の持つ通信機に連絡が入った。アスラーム子飼いの密偵であるシノブからだ。



『アスラーム様、彼女がナンパされました』

「またか……」



トモシビには大体いつも監視をつけている。彼女を他の男から守るためだ。

しかしながら彼女はアスラームの気も知らず屈託無くナンパ男を弄んでいる。

なんという魔性の少女だ。幼さ故のイノセンスだろうか?

アスラームは自分もまたトモシビの毒牙にかかった一人であるとは思ってもいなかった。もっとも、トモシビの方もかけたつもりはないのだが。



「どうせエステレアさん達が追い払うだろう?」

『握手して追い払ったようです』



なんで握手で追い払えるのか疑問に思ったが、とりあえず安心した。

彼女は容姿を褒められるとすぐに舞い上がってしまうようだ。

彼女の取り巻き達がいなければ一瞬で攫われそうな危うさがある。

最初は取り巻きを剥がして落とそうと思ったが、警戒されるだけで無意味なのでもうやめた。

しかしアスラームのチームメイトは彼女のチームを気に入ってしまったようで、積極的にアプローチしようとする。彼としては恨まれたくないのでやめてほしいと思ってるのである。


彼女に限らず女性はとにかく褒めろというのが彼の知る恋愛マニュアルだ。

しかし実はアスラームは彼女の容姿を褒めた事がない。他の女子にはさして意識せず可愛いとか綺麗だとか言えるアスラームだが、トモシビに対しては照れてしまって口に出来ないのである。



『アスラーム様、グレンが現れました』

「……排除だ。やり方は任せる」

『御意』



なんでグレンが出てくるんだ、とアスラームは訝しんだ。

彼はプールに行くようなガラではない。どう考えてもトモシビを狙って来ている。アスラームはグレンに対して良い印象はなかった。



『男子更衣室に清掃中の札をかけました。トモシビ様が帰る頃に外します』

「よし、うまく入れ違いにしてくれよ」

『御意』



グレンは没落貴族のチンピラである。トモシビとはまるで釣り合わない存在だと思っている。アスラームとしては彼女が朱に交わって赤くなられては困るのである。

しかしグレンはアスラームをライバル視しているらしく、何かにつけて彼を遠ざけようとするのだ。

アスラームの方もグレンを近付けないように排除しているのでやってる事は同じなのだが、彼らは2人ともそれがトモシビのためと信じて疑ってはいない。


トモシビはそんな彼らの考えなどつゆ知らず、自分の魅力を広めるべく無邪気に水着を見せびらかすのであった。







「どうだったよ?」



プールから戻ってきたグレンにライは声をかけた。

舎弟がたまたま街でトモシビを見かけ、プールに向かったと彼らに知らせたのだ。それを聞いてグレンはすっ飛んで行った。

この男はトモシビを他の男から守る必要があると思っているようだ。ライとしては呆れるばかりである。



(こいつもう隠さなくなってきたな)



隠す余裕がなくなってきたと思うべきか。初恋だからといってこの気色悪い行動は目に余る。



「いなかった、ガセだな」

「そうか、まあ食えよ」



フレンチフライを差し出すとグレンはモソモソ食べ始めた。

ここのところグレンは商店街や学園の周りなどトモシビのいそうな場所を練り歩いているのだが、その遭遇率はゼロである。



「レフティの野郎、適当なこと言いやがって」

「そんなに水着姿のお嬢が見たかったのか?」

「ちげえよ、変な男が近寄って来たらまずいだろ」

「何がまずいんだよ」

「……委員長だからな、色々あんだよ」



これはダメだ、とライは思った。

完全にやられてしまっている。あの実地訓練からグレンは一段とトモシビに入れ込み始めた。

アスラームの存在で危機感を持ったのだろうか。それとも巨大ミミズの件で失う怖さを感じたのか。

それにしてもやりすぎだ。一度ガツンと言ってやろう。ライは決意した。



「変な男はお前だろ。ロリコン変態ストーカー野郎が。逮捕されちまえ」

「……下の者を守るのは頭の義務だ」

「ならせめて普通に守れよ。コソコソ付け回しやがって、お前には普通の距離感ってもんはねえのかよ」

「距離感だと?」

「あっちが求めた時に助けてやれば良いだろうが。それ以外は余計なお世話ってもんだぜ。あのメイド達もいるんだしよ」



グレンは黙った。なんで自分がこいつの恋愛相談をしてやらねばならないのか。

疑問には思うが、グレンを倒すのが目標のライとしても彼が腑抜けたままでは困る。勝っても嬉しくないのだ。



「お嬢が連休にジェノバに行くって情報がある」

「何っ!?」

「行きたければ行って来い。ストーカーじゃなくて普通に会え。そんで勢いで告って玉砕して来い」

「……行くならお前らもだ。一人でバカンスに行けるかよ」



一人じゃ不安だから付いて来て欲しいと言っているのか。なんて情けないやつだとライは嘆息した。

ジェノバまでは馬車を手配しなければならない。旅費はそれなりにかかるだろう。比較的金のあるランドとレフティは付いて来るかもしれない。



(ビーチでテントでも貼りゃいけるかな……)



トモシビ達は豪華なホテルで組んず解れつで過ごすだろう。彼女はとにかく羽振りが良い。何から何までお嬢様だ。

それに比べてこちらは何から何まで貧民のチンピラである。

ビーチに狭いテントを張って男4人で強制的に組んず解れつで過ごすことになるだろう。ライは死にたくなった。


しかしジェノバでバカンスなんて初めての経験ではある。彼自身はトモシビ達と仲が悪いわけでもない。行ってみれば案外楽しめるかもしれない。なんだかんだでグレンを見捨てられないライも行く事にしたのだった。


そんな彼らの会話を物陰で聞いている少女がいる事に2人は気付かなかった。







「バカンスか。やはりトモシビさん達も行くんだね」

『そのようです』



アスラームの密偵、シェヘラザードである。プールの一件があった後、念のためグレンの後をつけさせていたのだ。それが功を奏した。



(なら僕も行かなくてはね)



貴族がバカンスに行くのは何もおかしくない。日程が被っているのも同じ学園で休日も同じなのだから当たり前である。適当な理由を付けてホテルも同じにすれば良い。



(今年のバカンスは楽しくなりそうだ)



アスラームはほくそ笑んだ。



3人のロリコン(?)のお話です。

思考が全員変質者なので書きやすいですね。

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