現地調査に行きました
学校が終わった後、私はキョウカ先生の特製馬車でスライムの現地調査に赴くことになった。
メンバーはいつもの寮組と孤児院組にアスカ、それにアスラームチーム5人である。
馬車は一台だ。まさか王家より豪華な馬車を出して来るとは思わなかった。
「みんな可愛いなあ、来てよかった」
「類は友を呼ぶと言いますか、トモシビ様の周りには自然に綺麗な方が集まって来るのでしょうね」
ホスト軍団は歯の浮くような台詞を並べ立てる。
この2人はショタ、執事と名付けよう。
執事は実地訓練の時に毛皮を敷いたり飲み物をくれたりした人だ。
彼らは、言った通りエステレアにはちょっかいかけてないが、それ以外にはかけまくっている。ほとんど合コン状態である。
「君、索敵してた子だよね? 僕はクロム。実地訓練では助かったよ」
「フェリス、です……」
「おいクロム、お前なに他の子に声かけてんのよ。私と喋ろうぜ」
「あ、アンさん、いや僕は」
フェリスと絡もうとするショタをアンがブロックした。
向こうではクロエの対面にいるちょっと悪そうな男子……ワル男と呼ぼう、しきりにクロエに話しかける彼にトルテが無理矢理入っていく。
心強い。
さすがは騎士志望だ。
私の大切なメイドと親友がホストに絡まれてヤキモキするがこちらもこちらで大変だ。
私の対面には当然のように彼らのボスが鎮座しているからである。
「聞けば聞くほど不思議な生物だね。大人しい魔物はいるが、自分から捕まりに来る魔物なんて聞いたことがない」
「そ、そうですよね!普通にペットとして飼える魔物です」
私の隣に座っているアスカが必死でアスラームと話そうとする。
「人間と、共生できるようにしたい」
「あんたもまともなこと考えてたんだ」
私の膝の上でスライムが少し動いた。この生物は一見ナメクジみたいにネトネトしてそうだが、粘液を出すわけではないので私の服を汚す心配はない。
「君は魔物にも好かれるんだね。君以外なら攻撃されていたかもしれないよ」
「それはあるわね。魔物だってほとんどはこちらが攻撃しない限り攻撃してこないのよ?」
御者席からキョウカ先生が顔を出した。
「貴方達仕事よ、前方に魔物の群れ。この魔物達は攻撃してくる方みたいね」
「わかりました。みんな、戦闘準備してくれ」
「いつでも」
アスラームの言葉に執事が言葉短く答える。さっきまでふざけていた者達も途端に戦闘モードに変わっている。
この歳にして既にプロみたいだ。
しかしそれはこちらも同じである。
6人の顔を見渡す。皆気合い十分だ。私はスライムをアスカに預けて立ち上がる。
「行こ」
「はい、お嬢様」
「あ……」
何でもないことのように出て行く私達をアスカは寂しそうな顔で見送った。
狼の群れだ。
100匹くらいいると思う。
一匹一匹がゴールデンレトリバーくらいだろうか。私一人くらいなら背に乗せて運べるくらい大きい。
先頭の狼は一際巨大だ。体高だけでも馬以上ある、そして頭が3つ付いていた。
まるでケルベロスだ。
「魔物なのはあれだけだよ。他は普通」
と、フェリス。
つまり魔物に率いられた群れか。
群れは距離を取り、馬車を半円状に包囲して唸り声を上げている。
どうしたものだろう?
できれば戦う事なく退いてくれたら一番なのだが。
「威嚇攻撃してみる」
「威嚇? 先制攻撃じゃないのかい?」
「可哀想」
「……仰せのままに、お姫様」
……そんな台詞、素面で言う人初めて見た。
容姿に恵まれない中年が言えば事案だが、イケメンが言えば許される台詞というのは多々ある。
私の全身に魔法陣が浮かび上がる。ファイアボールのマシンガンだ。
狙いはワンコの手前の地面。
着弾するとケルベロス以外はキャインキャインと鳴きながら後退りした。
「犬じゃん」
「遺伝的には狼も犬も同じらしいですよ」
なんか罪悪感がある。私は猫好きだが犬も嫌いではないのだ。
ケルベロスの3つの頭が吠えた。
呼応して他のワンコも吠える。
そして次々に突撃を敢行して来た。
「斉射するぞ! いいね?」
「わかった」
こうなっては是非もない。
私は矢継ぎ早にナパームとエクスプロージョンを連発して参加する。
この場合、近付かれる前に最大火力で殲滅するのが私の役目だ。
私と皆の火線が乱れ飛びワンコ……いや、敵を火達磨にしていく。
その中をチロチロ進んでいく小さな炎、エクスプロージョンだ。ケルベロスはそれをヒョイと避けて私に向かってきた。
見る見るうちに近付いてくる巨大な狼。
よし……逃げよう。
「みんなお願い」
「わかった、いくよ〜!」
「トモシビ様は下がって!」
だって仕方ないのだ。
私の″窓″にはステータス表示がある。
それによると私の力も体力も入学当初から1ポイントも伸びていない。その代わり魔力だけはぐんぐん伸びる。誰かに勝手に魔力全振りされているような気さえしてくる。
だから接近戦はみんなに任せる。私の仕事は支援と雑魚狼の殲滅だ。
最後にナパームの雨を降らせて私は後退した。
「アイン!」
「おお!」
サイみたいな体格をしたケルベロスの突進をワル男が大型の盾で受け止めた。
ズズッと足が地面を削る。
すごい。
やっぱり戦いは筋肉だ。
狂化したフェリスの蹴りがケルベロスの顎を破壊し、エクレアの剣が目を貫く。
この頭は無力化したと思って良いだろう。
狼の武器というのは、基本的に噛み付きだけだ。ネコ科と違ってあまり爪が鋭くないらしい。
攻撃するのに急所である顔を突き出してくるのだから対処は容易だ。
いや、かく言う私には容易ではないけど。
炎を抜けてきた雑魚狼が私に飛びかかる。
すかさずエステレアの剣が飛び出し、口から脳髄を一直線に貫いた。
……なんかいつのまにか皆すごく強くなってきた気がする。
「お嬢様、私の後ろへ」
私の側にはいつも通りエステレアとクロエがいる。最終防衛ラインだ。
狼達は私を狙ってくる。一番与し易いと思われているのだろう。
正解だ。切ない。
「クロム、テルル、ここはいい。トモシビさんの守りを」
「了解!」
ショタとロン毛の人がアスラームの命令を受けて私に向かってくる狼を刺し貫き、切り飛ばし、焼き殺していく。強い。
彼らとメイドの二重の守りの前に、私はもう棒立ちだ。
応援する以外することがない。
がんばれ、がんばれ。
ケルベロスは周囲を飛び回りながら攻撃を繰り出す人間達に全く歯が立たない。
噛みつこうとすればそこを狙われ、体当たりは防がれる。
頭を二つ潰され、全身をなます斬りにされて動きが鈍りはじめた。
もう時間の問題だろう。
最後の首が吠える。
トルテがとどめを刺しに踏み込んだ。
その瞬間。
ケルベロスの口元に魔法陣が浮かび上がった。
「え?」
トルテは避けられない。攻撃する瞬間を狙われた。
ファイアボルトだ。
魔物が? なぜ今になって?
ゴブリンの焼死体にフェリスの傷痕、一瞬のうちに想起されたそれらがトルテと重なる。
やらせるか。
時間がスローモーションになっていく感覚。私の意識が何か思う前に、体はもう魔法陣を描いている。
ケルベロスの胎動する魔力を感じる。
この距離でも。
……ならいける。
特大のファイアボルトが至近距離でトルテを飲み込んだ。
「ぎゃああああ!!!」
「トルテっ!!」
炎が晴れていく。
トルテの前には透明な壁が出現していた。
「あああああ!!! あ、あ……あれ?」
「これトモシビちゃんの?」
「トモシビ様が? なんという……」
執事が驚いて私を振り返る。
成功した。
間一髪だった。
この距離で障壁が成功するなんて私ってすごい。
思わずエステレアを見る。
彼女はニッコリ笑って頷いた。
ずっと練習してきた成果がやっと実ったのだ。
「エクセレント!君は本当にすごい子だ!」
至近距離で炎の余波を食らってたじろぐケルベロス。その首を間髪入れず上から襲いかかったアスラームが切断する。
切断面から血飛沫が吹き出す。
一瞬後、その巨体から全ての力が抜けて横たわった。
完勝だ。
残りの狼も全滅したらしい。
私はへたり込んでるトルテの元に歩いていく。
「大丈夫?」
「せ、セレストエイム様!神!マジ神!これから信仰する!」
「クロエ、出番です」
「はい、トモシビ様信仰については私が」
トルテに、前線で戦っていたフェリス、エクレア、アン……皆無事なようだ。
とりあえず剣などについた血をどうにかしよう。
運動部のマネージャーみたいに紙を配っていく私。
ホスト軍団にも一応声をかける。
「いる?」
「ああ、いやこちらも持ってきたんだ。前に君がくれた教訓でね」
「じゃ、洗剤あげる」
「……敵わないね。ごめん、頂くよ」
「さ、さすがはトモシビ様ですね」
頑固な血糊はちゃんと中性洗剤で落とした方が良い。私たちのミスリルの剣は錆びることはないが汚いし鞘が臭くなる。
「僕ら良い連携だったねえ。トモシビ様のチームと相性ぴったりじゃない?」
「クラスの連中と組むより断然楽だったな」
ショタとロン毛が爽やかに言う。
私もこうして共に戦うとなんだか仲間意識が芽生えてくる。
警戒心が薄れてくるのである。それが良い事か悪い事かは分からない。
「じっとしていてください」
「うおっ、なんだこれ。うっ…………ふう」
クロエが唯一怪我したワル男を回復している。盾役をやってくれた彼には感謝しなければならない。彼がいなければ他の誰かが傷付いていたかもしれない。
「クロム、セレストエイム様のハーレムに手ぇ出すなっつってんでしょ」
「け、健闘を讃えるくらいいいじゃん……」
「私も攻撃に集中できてやりやすかったよ〜」
「お、そうだろ。タンクやってて良かったぜ」
「しかし本当に素晴らしいパーティーですね。トモシビ様の魔法には感服いたしました。それにシスターや索敵役までおられるのですから」
「俺達の穴にずっぽりハマるわけだ。逆の方が良いけどな。ははは」
「テルル……トモシビさんの前でそういうのはやめろ」
品のないジョークを飛ばすロン毛をアスラームが嗜める。
私のチームは回復役に後衛、中衛、前衛、索敵と一通り揃ってる。
前衛の数を補ってくれるなら、彼らでもアナスタシア達でもグレンやバルザックでも相性は良い。
「終わったの? 悪いんだけどその狼、解体するの少し手伝ってくれない?」
キョウカ先生だ。アスカもいる。
アスカは先生の影に隠れるようにしている。
「何取るの?」
「毛皮と肉ね。狼の肉もちゃんと調理すれば食べられるのよ? 」
「あ、アスラーム様達が倒したんだからアスラーム様達のものですよ」
そういう事になるのか。私はアスラームと視線を交わした。
「君達に譲るよ」
と、アスラーム。彼は常に紳士的だ。
こちらとしてはあまり借りを作りたくないので譲られても困るのだが……。
とはいえ彼は貴族の男としてそう言うしかないのだ。仮に相手が私じゃなくてアスカなどでも同じだろう。不自由なものである。
「火吐いたんだからそういう魔導具の素材になるんじゃない?あーし欲しいな」
「あれはたぶん学習しただけよ」
「学習? 魔物がですか?」
「魔物は学習能力高いのよ? 簡単な魔術なら一度見ただけで使えるようになったりするのよ。魔力の波動に敏感なんでしょうね」
それは注意すべき情報だ。仕留め切れなければ同じ魔術で反撃されるかもしれない。障壁が使える私が読んで防ぐ必要がある。
肉や毛皮は結局キョウカ先生に買い取ってもらって、お金は2チームで山分けとなった。手早く解体を済ませると私たちは先を急いだ。
犬って猫と違って爪を出し入れできないらしいですね。だから外走り回る狼なんかは磨耗して猫みたいに爪が鋭くならないんだとか。ネットで見ました。




