逆襲のメイド
※9月20日、誤字修正。ご報告ありがとうございます!!
※9月24日誤字修正しました。
今日は5人でプールへ行く。
主に私の泳ぎの練習のためである。
商店街からエクレア達の住む孤児院の方へ歩くと、一際大きな建物が見えてくる。
それが税金で運営する市民プールだ。と言っても私もエクレアに案内されてる身なのだが。
公共施設なので安く使えるが、人が多いのが玉に瑕だそうだ。
王都はセレストエイムと比べてもずっと涼しい。湿気が少なくて不快感もない。
過ごしやすいところだ。
道には枯れた街路樹が目立って、とても初夏には見えない。せいぜい小春日和といったところか。
「すごいですわお嬢様!もう一人でお浮きになられるなんて!」
「て……天才です!さすがはトモシビ様ですね!」
「……」
なぜ浮いてるだけでそこまで褒められるのか。私に求められたハードルはあまりにも低かった。
キャーキャー騒ぐうら若き乙女達を周りの人が何事かと見ている。
とりあえず着替えてプールに入った私は、手始めに仰向けになって力を抜いてみた。そうしたら特に苦労もなく普通に浮いたのである。
たぶん筋肉がないから比重が軽いのだろう。
このままバタ足をすれば前に進めるはずだ。
ゆっくりと足を動かす。
良い感じだ。
泳ぐのなんて簡単だ。私の体は浮くようにできている。
一息ついて立ち上がろうとして……足が奈落を掻いた。
床が……。
足がつかない。
またか。
「エステ……!」
「はいお嬢様」
すぐ側で待機していたエステレアに引き上げられる。
早い。
溺れてから私の顔が沈む前に引き上げるとは。
「お嬢様はすぐこういうお可愛い行動を取られるので、予想しておりました」
「最初から助けてあげた方がいいんじゃない?」
「それではお嬢様の助けを求めるお声が聞けません」
エクレアの疑問に当然のように答えるエステレア。
とんでもないメイドだ。
私は普通に練習することにした。
だめだ。
息継ぎができない。
フォームはできてると思う。
だが息継ぎのときに十分な息を吸えない。
泳げる距離はせいぜい5メートルといったところか。
「トモシビちゃん。こうやって泳げば溺れないよ」
水面から顔だけ出して、手と足をバタバタさせて泳ぐフェリス。
犬掻き……猫掻き?
たしかにこれなら水に頭をつけなくてすむ。
試しにやってみた。
「ガボ……ガボボボボ」
「トモシビちゃん!」
10秒ほどで沈んだ。
これも無理だ。持久力が足りない。
足がつくところなので大丈夫だが、やっぱり効率が悪いし前に進まない。
フェリス専用の泳法だ。
「し、身体強化を使えば大丈夫なんじゃないですか? トモシビ様の魔力は宇宙最強です」
「残念ですが今使われているのがその身体強化なのです」
「そんな……」
「つかれたから休む……」
プールから上がってベンチに向かう。
たぶん体力と筋力の問題だと思う。
バカンスまでにまともに泳げるようになるのは難しいかもしれない。
最初みたいに仰向けでプカプカ浮かぶか、浮き輪を使うしかないだろう。
魔術でジェット水流でも噴射したらどうかと思ったが、私は水系には詳しくないし、水の魔術は風よりも魔力の消費が激しい。泳ぐのにいちいち魔術を使っていたらいざという時困るだろう。
そんなことを考えながらベンチに座る。
「ねえ、君泳ぐ練習してるの?」
「俺らが教えてあげるよー」
座ったら一瞬でナンパされた。チャラそうな男2人組である。
無理もない。ただでさえ絶世の美少女である私が水着になっているのだから。
とはいえ、スイミングキャップを被ってるのにも関わらず、この私の魅力を見抜くとはなかなか良い目をしているのではないだろうか。
私はキャップを取り、銀と赤の目立つ髪の毛を解き放った。
「お、お嬢様じゃん!」
「お嬢様? 知り合いか?」
「知らねえのかよ!一年の」
「お嬢様になにか?」
怒気を孕んだ声。無論エステレアである。
後ろにはフェリスとクロエとエクレアもいる。
ナンパ男は慌てて言い訳を始めた。
「待って、知らなかったんだ。アスラームには言わないでくれ」
「アスラーム?」
何を言ってるんだろう?
ナンパ男はいまいち理解してなさそうな友人を伴って逃げて行った。
あの言い方だとまるで……。
「油断も隙もないわね」
「変な人達だね〜」
「失礼な。なぜお嬢様がいちいちアスラームなどに報告しなければならないのでしょう?」
腹が立ってきた。
まるで私が彼の恋人か何かと思われてるみたいではないか。
いや、それ自体はまだいい。
誤解なんて解けばいいのだ。
本当に腹立たしいのはそのせいで、未来の私のファンが減りそうだということである。
ナンパしてきたということは私の魅力がわかる理解者ということだ。
エステレア監視の上で握手くらいはしようと思ったのに。
「まったく、猫も杓子も私のお嬢様に……」
「あの、あっちに売店がありますよ。行ってみませんか?」
「何か食べる? トモシビちゃん」
「……ホットドッグ、食べたい」
「それなら辛いのがあるわ。おすすめよ」
今食べて夕飯入るかな?
少しくらいはいいか。
私は売店で熱々のチリドッグを注文した。
美味しいけど思ったより大きい。
皆で分けて食べてると、また男がやってきた。
「お姉さん達、5人で来てるの? 俺らも5人なんだけど一緒に遊ばない?」
今度はナンパグループだ。エクレアがうるさそうに手を振って答える。
「悪いけどそういうのお断りだから」
「なんで? いいじゃん。他の子はどう?」
「申し訳ありませんが興味がありません」
「君何歳? めっちゃ可愛いね」
男のうちの一人が私に目を付けた。そのせいで私に注目が集まる。
悪い気分ではない。
「私かわいい?」
「え、可愛いよ。いやまじで……近くで見ると……本当に可愛いな……」
だんだん男の声が遊びのトーンじゃなくなってきた。
若干怖いけど、同時にゾクゾクするものが私のお腹のあたりから這い上がってくる。
私は彼に水着を見せつけるようにポーズをとってみた。
「水着は? 足のやつかわいい?」
「可愛い……てかエロい……」
やっぱり私のセンスは最高だ。良かった。
息が荒くなって太ももに顔を近づけてくる男。
……ガーターリングが好きなのかな?
左足を少し上げてスルスルと外してみる。
その小さな布を男の目の前にぶら下げる。
「欲しいの?」
「あ……ほ、ほしい、です……」
手を伸ばしてくる。あげるなんて言ってないのに。
です、ってなんで敬語になっているんだろう? なんか楽しい。
仲間のナンパ男も固唾を飲んで見守っている。雰囲気に飲まれているようだ。
私は逃げるようにガーターリングを引くと、代わりに手を握ってあげた。
「はい、握手」
「え……あ……」
男は夢の中にいるようなトロンとした表情をしている。エクレアが時折見せる表情だ。
「ふぅ……お嬢様、お戯れが過ぎますわ」
他の4人がぼーっとしている男の肩背中を叩く。
「な……何やってんのお前、ドMだったのか?」
「いや……」
「ははは、ロリコンでドMとか終わってんな」
「そ、その方はセレストエイムのご令嬢ですよ。手を出したら死罪です」
「……と、いうことですのでお引き取り下さい」
最初に話しかけてきたリーダー格が引きつった笑いを浮かべた。
「わ、わかったよ。行こうぜ」
「あ……君のな、名前を……」
「トモシビ・セレストエイム」
ドMの問いに答える私。彼はそれをブツブツ反芻しながら仲間に連れられて去って行った。
……あれは私のファンになったと思う。
なんと言っても、私は前世のおかげで彼らの気持ちが手に取るようにわかるのだ。たぶん。
「び、びっくりしちゃったよトモシビちゃん」
「なんか……ドキドキしたわ……」
ちなみにナンパはその後もされた。
気を良くした私はアスラームのことなどどうでもよくなって帰ったのであった。
帰宅し、なんとか夕食を詰め込んだ私はお風呂に入る事にした。
今日のお風呂は久し振りにエステレアと二人きりだ。ここのところ毎日フェリスやクロエやエクレアを交えて楽しんでいたのだが、今日はエステレアの強い要望でこうなったのである。
私はいつも通りエステレアに洗ってもらうために座ろうとする。
だが、その前にエステレアは私の手をガシリと掴んで自分の方を向かせた。
「エステレア……?」
「……」
無言で見つめるエステレア。
その迫力に私はたじろいでしまう。
今日の彼女は一味違う。
「……お嬢様はいつからこんなに小悪魔になったのでしょう?」
エステレアは嗜虐的に笑った。
「私に男に気をつけろと言っておいて、ご自分はあんなことをして……」
エステレアは私の手を持ってやや乱暴にグイッと引き寄せた。
彼女の目は据わっている。
たしかに今日のプールでは、ちょっと調子に乗りすぎていた気もする。
エステレアがここまで私に強くでるのは初めてだ。
「アスラームやクラスの者達にだってそうです。私の心を掻き乱して楽しんでいるのでしょう? 堕天して小悪魔ちゃんになってしまわれたのですか?」
「ご、ごめ」
「謝ることなどございません。今からしっかり地上の穢れを浄化して差し上げますからね」
エステレアはそう言うと私の耳に舌を這わせた。すっかり弱点になってしまった私の耳をねっとりと丁寧に舐める。
「ん……ぁ……」
「あら? やっぱり穢れはここに溜まっているようですわ」
頭の中がどんどん熱くなっていく。足がガクガクとして立っていられない。
エステレアはへたり込もうとする私を抱き止めて無理やり立たせる。
「ああ……お嬢様。ご自分の……悪い心と戦っていらっしゃるのですね。頑張って……耐えて……穢れを追い出しましょうね」
私が戦ってるのは体の奥から湧き上がる別のものだ。耳元で囁くエステレアの猫撫で声は私の脳神経に全弾クリティカルヒットする。
「純白で清純なフリして……挑発的で……お嬢様は、本当に……私を翻弄する小悪魔ちゃんですね」
そして、ついに彼女はその熱く蕩けた舌を穴に侵入させてきた。
湿った音が頭の中に反響する。頭の芯から背骨、下半身まで熱い痺れが支配していく。
涙が出て来た。
ダメだ。これ以上は、本当に。
「やめて……エステレア……」
その瞬間、全ての刺激がピタリと止まった。
私はエステレアの腕の中で荒い呼吸をつく。どこにも力が入らない。
エステレアは一度ギューっと力強く私を抱きしめ、そして涙目になっている私の顔を正面から楽しそうに見つめて、口の端を吊り上げた。
「あぁん……そのようなお顔をされてはますますしたくなってしまいます。お嬢様も本当はやめて欲しくないのでしょう? 小悪魔ちゃんの心に言わされているだけなのですよね?」
「エステレアぁ……」
彼女は止めてくれないみたいだ。
私は、ここで……初めてを迎えるのか。
愛するメイドの手によって。
それも……いいか。
アスラームとかグレンとか見知らぬナンパ男にやられるよりは……。
私は覚悟を決めて目を閉じた。
…………。
……来ない。
目を開ける。
彼女はまだ私の顔をじっと見ていた。
「やっと天使のお嬢様にお戻りになられましたね」
「……許して、くれるの?」
「許すなどと……お嬢様の行動に私ごときが口出しできるはずがありません。私はただお嬢様の悪い心を追い出しただけでございます」
それは口出しよりさらにひどい、洗脳というやつではないだろうか。
「また穢れが溜まりましたら、私が何度でも落として差し上げますのでご安心ください」
「ん……」
彼女はそう言って私にシャワーを浴びせていく。
私が調子に乗って小悪魔ムーブをしだしたらまたやるということだろうか。
でもアスラームやクラスの男子には普通に接しているだけである。男子との交流を断つのは不可能だ。
委員長だし、わざわざ嫌われたくもないのでそれなりに仲良くしなければならない。
どうすれば良いのだろう?
「お嬢様は御心のままになされば良いのです。何も遠慮される事などございません。小悪魔お嬢様もお可愛いので、たまに変身して頂きたいくらいです」
「いいの?」
「心掻き乱されるのも、こうしてお仕置……穢れを落とさせて頂くのもまた一興です。たまりません」
エステレアは思ったより上級者だった。それなら……今まで通りでいいのだろうか?
「あら? また小悪魔ちゃんのお顔をしておりますわ。もう少し穢れを落としておきましょう」
「待って、もうダメ」
「ふふふ、ご安心ください。今度は優しくスーパーお嬢様タイムですわ」
……エステレアは私に欲望に晒される怖さを教えてくれたのだろうか?
ただこの顔を見てるとただ欲求不満だっただけかもしれないとも思える。
久しぶりに肉欲の宴を楽しんだ彼女はその後、数日は機嫌が良かった。
エステレアさんはSもMもいける人ですね。
ちなみにやってることは耳舐めてるだけで特にやらしいことはないです。




