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エステレアの不覚



……猫耳だ。

猫耳があったので触ってみた。猫耳はピクピク動いた。かわいい。

噛んでみようか。

そう思ったが体が動かない。

何かがしがみ付いていて離れない。

またエステレアにホールドされてるのかな?

いや、違う。



「エクレア……」



この赤毛はエクレアだ。エステレアより力強い。

思い出した。実地訓練でテントで寝たんだった。



「おはようございますお嬢様」

「おはよ」



既に起きているエステレアと挨拶をする。

エステレアは荷物から水筒を取り出して中身をコップに注いだ。

私が毎朝飲んでるスムージーだ。用意が良い。



「さあどうぞ、真空保存で新鮮ですよ」

「……動けない」

「あらあら」



エステレアはエクレアの頭をガクガク揺さぶりはじめた。



「んが……あ、お、おはよう」

「おはよ」

「おはようございますエクレア。お嬢様がお困りです」

「ええっごめん!」



慌てて起き上がるエクレア。

解放された私も起き上がってスムージーを飲む。

その騒ぎでフェリスも起きてきた。

いい朝だ。

寝心地は家のベッドやアナスタシアのベッドより当然劣るものの、ベッドで寝られるだけマシというものだ。

それにやっぱり空気が良い。



「おはようございます皆さん。外すごいですよ」



外からテントを覗き込むクロエの言葉に釣られて外に出てみる私達。

……すごい。



「わぁ〜綺麗だね〜」

「絶景だわ」



目の前には雲。眼下には見渡す限りに広がるグランドリアの平原だ。

城塞が模型のように小さい。

あんなとこからよく来たものである。

あの地平線の向こうに海があって、そのずっと向こうにアルグレオの大陸があるのだ。想像するだけで夢が広がる。


朝日に照らされてたまに光ってるのはもしかしてイカクラゲだろうか?

いつからグランドリアの空は水族館になったのか。

絶景を眺めているとエクレアがブルリと身体を震わせた。



「ちょっと寒いわ」

「何か上に着た方が良いですよ」



たしかに少し気温が低い。15度程度といったところか。

私としてはこのくらいで丁度良いくらいなのだが、寝間着姿では皆肌寒いようだ。

上着を取りに行くエクレア。

一方、エステレアは私に抱きついて温まった。



「こういう時はお嬢様で暖をとるのが一番ですのに。エクレアはまだお嬢様初心者ですね」

「ほんとだ。トモシビちゃん寒くないの?」

「うん」

「すごいですねトモシビ様。熱いくらいです」



全然寒くない。 フェリスとクロエは私の手を抱え込みその熱さに驚いている。

私は暑さには弱いが寒さには比較的強いのである。

あくまで比較的、だ。

冬山で遭難でもしたら、たぶん持ち前の体力のなさで一番に低体温症になると思われる。私は自分でも自覚できるほどか弱い生き物なのだ。

……そういえばアルグレオが熱帯とかだったらどうしよう。毎日熱中症になりそうだ。



「相変わらずですわね、貴方達」

「おはようございます皆様」



隣のテントからアナスタシア達も出てきた。

山の爽やかな朝は挨拶を交わすだけでなんだか楽しい気分になる。

辺りを見ると、他のテントからもクラスメイトが次々と出てきていた。



「やはりお着替え致しましょう。また変態がお嬢様の寝間着姿に興奮して覗きにくるかもしれません」

「そうですね。念のため入り口に布でもかけておきましょう」



女子の中でグレンの好感度は下がる一方である。親しみやすさは上がってると思うのだが、いかんせん昨日のが酷すぎた。

今はまだグレンはいないようだが既にちらほら視線を感じる。さっさと着替えてしまおう。







今日の予定はここから別ルートで下山するだけである。

帰りは罠がないので楽だ。

ちなみに先頭はBクラスが受け持ってくれた。

彼らは索敵能力に不安はあるものの、統制が取れた動きで有象無象の魔物を蹴散らしているようだ。

槍とか盾も使っており、剣一辺倒の私達より役割分担がしっかりしている。

見えない魔物が来たら私がすぐ知らせることになっているのだが今のところ襲撃はない。

後ろのAクラスは平和なものである。


私は歩きながら思考に没頭していた。

このマップは登録した魔力の位置を表示できるシステムだ。

このように相手から情報を得て表示することはできるが、こちらから情報を送ることはできない。

それは偏に相手が情報を受け取ることのできるインターフェースがないからであると思われる。

だからチャットも機能しないのだ。


しかし、こちらから送信する手段なら私は一応持ってはいるのである。

パーティーの魔法全体化だ。

以前、これを使って図鑑のスクリーンショットを全体化しようとしたことがある。

結果は失敗。

なぜだろう?

スクリーンショットの表示だって魔法陣によって動いているのに。

おそらくこれは私による魔法行使ではないからだと考えられる。私はどこかに保存されている魔法陣を呼び出しているだけなのだ。

魔導具の使用と同じだ。


ならば一歩進めて、私の魔法行使で呼び出すようにすればどうだろう?

例えばこの日除け″窓″は私が作ったものだ。これを呼び出すのはアイコンに埋め込んだリンカー魔法式である。

これを励起させれば保存した日除けが現れるわけだ。

では、このリンカーだけを手動で描いて全体化すれば良いのでは?

実際にやってみた。


……私の頭上に若干の濃い日除けが現れた。それだけだ。

ダメか。

″窓″の出現位置の指定があくまで私中心の座標だからだろう。

やっぱり受信端末になるような魔導具が必要か。

上手くいかないものだ。

でもこのリンカーを手動で使うという発想はなかなか悪くない。

もっと別のことに使えそうだ。

例えば、普通の魔術にリンカーを……。



「トモシビちゃん、そろそろ休憩だよ」

「……ほんとだ」



フェリスが私の目の前で手をブンブン振る。

ちょっと考え込みすぎてたらしい。

いつのまにかもうお昼になっていた。

マップを見る。

休憩を取るにしてもある程度開けた場所が必要だ。

こんな狭い場所ではお昼ご飯を食べられない。

……あった、丁度良さそうな場所だ。



「アスラーム、休憩場所がある。2時方向に、500メートルくらい……ご飯食べよ」

『了解。助かるよ』



お昼の休憩は45分。

昼食は昨日の残りのカレーだ。







カレーを温めるのは各班で行う。

炎の魔術で魔力を調整すれば火を付けずに高温を発生させることができる。薄く伸ばしたパン……いわゆるナンとかチャパティに似たものをこれに付けて食べる。

それから育ち盛りにこれだけじゃ寂しいということで先生達から干し肉も配られた。

私はスムージーを飲んだからまだしも他の人は野菜が不足しているのではないだろうか。

野菜といえばスライムはどうしてるだろう? アスカがちゃんと世話してると良いのだが。

……あ、思い出した。



「お嬢様、アスカのことですね?」

「う、うん」



まだ何も言ってないのになんでわかるのだろう。



「干し肉を見ていらしたので……お嬢様のことで私が分からないことなどございません」

「アスカって?」

「スライムを研究する子。アスラームのこと好きみたい」

「え〜!」

「いっぱいいるアスラームのファンね」

「でも面白そうな話じゃん」



皆が興味を示してきた。聞かれるままに全部話す私とエステレア。



「というわけでお嬢様は今、アスラームにそれを伝えに行こうとお考えになったのです」

「トモシビ様も一緒なのは不安だけど、その二人がくっつけば全部OKなわけね」

「いや、というか、なんで考えてるだけの事までわかるのさ」

「さすがはエステレアさんですね」



エステレアだからとしか言えない。

お昼休憩はまだ残ってる。

私は忘れないうちにアスラームにアスカの件を話すべく、彼の元へ移動したのだった。







「やあ、トモシビさん。どうしたの?」

「アスカと共同研究してほしい」



私は挨拶もそこそこに繰り出した。



「……共同研究? アスカって誰かな? ああ汚い所だけどまずは座って」



アスラームは一瞬困惑したようだが、すぐに落ち着いて席を勧めてきた。

彼らは皆丸太に座っている。私が勧められたのはアスラームの隣だ。

近くの人がそこに何かの毛皮を敷いた。



「どうぞ……お飲み物です」

「ありがと」

「お付きの方もどうぞ。ここにお座りください」

「……ありがとうございます」

「こんな美しい方々が来てくれるなんて光栄だね」

「一気に場が華やかになったな」



アスラームの友達……側近と言うべきだろうか? 彼らは全員イケメンだ。

なんだろう、このホストクラブにでも来たような歓待は。そんなの行ったことないけど。

エステレアも困惑半分警戒半分である。



「さて、アスカだったかな? 知り合いかい?」

「魔法理論クラスのアスカ。貴方に褒められて、喜んでた」

「……すまないが記憶にないね。それでその共同研究って?」



覚えてないのか。

アスラームはちょっと関わっただけの女の子にも可愛いとか言ってそうな人種だ。無理もないかもしれない。

ちょっと偏見が入ってるだろうか? ただ他人を褒めるのは悪いことではないとは思うのでそれに対して悪感情はない。

そういえば私には可愛いって言ったことないな……べつに良いけど。


私はスライムのスクリーンショットを見せて説明していく。

スライムが新種であること、知能が高そうな事、大人しくて飼いやすいこと、あと仕草がキモ可愛いこと。



「興味深い生き物だね」



アスラームは興味なさそうに言った。

これはダメかな。

そもそも私としても研究にかこつけて飼いたいだけである。真面目に生態を調べるとかはアスカにお任せする予定だ。

諦めて退散しようか。そう考えてエステレアに視線を向ける。

……あれ、エステレア?

彼女は男4人に囲まれ、しどろもどろになっていた。

これはいけない。いくらエステレアでも多勢に無勢である。

私はエステレアを引っ張り出すと、話を切り上げにかかった。



「私達と一緒に研究したくなったら、また言って」

「ん? 君もやるの?」

「うん」

「……後日改めて話を聞こうか。明日の昼休みはどうかな?」

「大丈夫」

「じゃあ楽しみにしてるよ」



この反応……私目当てっぽいと思うのは自意識過剰だろうか。



「エステレアさんも是非。トモシビ様のお話をまた聞かせて下さい」

「え、ええ」



ホスト軍団の一人がエステレアに声をかけた。

私の機嫌が少し下がった。







彼らの姿が見えないところまで歩いてから、私は足を止めた。



「エステレア」

「お、お嬢様、申し訳ありません……」



エステレアを責めているのではない。彼女は何も悪くない。私は背伸びをして、ビクビクしているエステレアの首に両腕を回す。

……ホスト軍団の香水の匂いが微かに残ってる。私はその匂いをかき消すように頬や体を擦り付けた。



「彼らに気をつけて」

「はい……このエステレア一生の不覚です」



彼らは私とアスラームが話してる隙をつき、あろうことか私の話題でエステレアの気を引いていた。

どうも私とエステレアを引き剥がそうとしていたような……そんな意図を感じるのである。

だいたいなぜ彼らは私に様付けするんだろう?

辺境伯の娘とは言え、それなりの家柄はありそうな彼らにかしずかれるようなものではない。

昨日の双子なんて、アナスタシアを差し置いて私に頭を下げていた。

やっぱりおかしい。警戒に値する。

次、彼らがいたら孤児院組を連れてこようか。こういうのはあの3人がいた方が心強い。



楽な下山です。

急な斜面とかだと下山もかなりきつかったりしますが、帰り道は比較的ゆるいコースですね。崖もありません。

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