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空気が読めません



大人数の人間が接続するMMOにおいて、プレイヤー同士協力することができるパーティー機能は重要な位置にあると言えるのではないだろうか。その基本的な機能は、経験値の分配、メンバーの情報表示、パーティーチャット、そしてBuff、つまり強化魔法等をパーティー全体にかける魔法効果の拡大である。


これ、実はかなり有用な代物なのではないかと思う。

というのは、この世界においてパーティー全体効果などという魔法は存在しないのである。

強化の魔法などは基本的に自分対象であり、他人を対象とするにはその人に直接魔法陣を描き込む必要があるのだ。

魔法陣は基本的に手や杖で描くことになるので離れた場所に効果を及ぼすのは難しい。

もちろん例外はあるのだが。


私の″窓″にはそのパーティー機能がある。

昨日、エステレアをパーティーに入れて補助魔法を使ったところゲームのように二人に効果を及ぼすことができたのである。



「すごい魔法だね。こんなの見たことない」



それにパーティーチャットを駆使すれば離れていてもメンバーがお互いに通信する事ができるはずだ。



「通信するのに魔導具を持ち歩く必要がないなんて軍で引く手数多じゃない?」

「詳しい情報が欲しいですわね。今パーティーに入ってるエステレアさんと通信できるの? 見せて貰ってもいいかしら?」



私はエステレアを見た。



「お嬢様、準備OKでございます」



……どうすれば?

パーティーチャットにオンオフ切り替えなどはない。とりあえず私は文字を書き込もうと念じる。



『聞こえる?』



チャット枠に文字が出た。

しかしエステレアが″窓″から離れたら見えなくなるだろう。これでは通信できない。

普通はここに書いた事が相手の″窓″に伝わるはずなのだ。



「……″窓″、出せる?」

「無理です。こんな複雑な魔法陣、お嬢様しか使えません」



一番理解してそうなエステレアが使えないなら誰もできないだろう。

なにしろ私もどうやって使ってるのかわからないのだ。



「だめかも…… 」

「で、でも、その、身体強化を皆にかけるようにできるんだよね!そっちの方がすごいよトモシビちゃん!」

「そ、そうね、わたくしも一度試してみたいですわ。連携も考えたいですし」



落ち込んでると思われたのだろう。慰められてしまった。

気を取り直して全員をパーティーに入れ、強化を試してみたところ、ちゃんと全員に効果が行き渡った。他のメンバーも試してみたが私以外でもちゃんと全体化できるようだ。



「なんか見えない糸で繋がってる感じだね」

「でも疲れますわね」

「これだと使った後戦えなくなるかもね」



そこはゲームと同じだ。一気に人数分魔法をかけるので消耗が激しいのである。



「一人が後方支援に専念するのは如何がでしょうか?」



エステレアが提案した。チームで役割分担するわけだ。



「恐れながらお嬢様が適任かと」

「まあ、そうだよね」

「うん……」



皆が一斉に私を見た。たしかに、体格的に劣る私がbufferをやるべきだろう。しかし……。



「お嬢様は人を直接殴れないのがご不満なのです」

「ええっ!?」



不満が顔に出たらしい。エステレアの人聞きの悪すぎる説明に驚くフェリス。

別にそういうわけでは……あるのか? ただ、なにか他人任せみたいで嫌な感じがしたのだ。『男なら前衛』そんな言葉が浮かんだ。女だけど。

どうも頭の中がごちゃごちゃしている。



「でもしょうがないからやる」



うん、しょうがないのだ。

役割は決まった。

私は強化をかけて待機。状況を見て攻撃魔法などで支援、とは言え殺傷力の高い魔法は撃てない。法律上、殆どの炎の魔法はその殺傷力の高さから無許可の使用を禁じられている。街中での使用は即お縄である。

校内では監督役の許可がある限り使用可能なのだが、そもそも私達は入学初日、

魔法の防御法すら習っていないのだ。

初歩のファイアボールですらまともに食らえば大火傷する可能性がある。

ここは殺傷力の低い風の魔術などが良いだろう。



「もうそんなに色々使えるの? トモシビちゃんってすごいんだね!」

「ずっと家で魔導書、読んでたから」

「お嬢様なら連中程度造作もなく消し炭にするでしょう」



そんなことしたら私の人生も消し炭になるであろう。なんとなく強力だという理由で炎の系統ばかり練習していたが、強力すぎるのも困りものである。







放課後になった。

私達はアナスタシアグループの男子も交えてしばし作戦会議をしてから体育館へ向かう。

女子6名、男子3名で総勢9名。

クラスの約三分の一である。タイマンさえしなければわりといけるような気がしてくる。


体育館の中ほどに円状の人垣ができているのが見えた。

どうやらこの中でタイマンゲームが行われてるらしい。

人をかき分けて前に出る。

バルザックが色黒の男子生徒と戦っているようだ。



「死ねや!」

「お前が死ね!」



バルザックが殴りかかり、色黒もカウンター気味に拳を突き出す。

だが次の瞬間、色黒は崩れ落ちた。



「それまで! バルザックの勝ちじゃ!カウンターにさらにカウンターを合わせたんじゃな、やりおるのう」



ヤコ先生が審判をしているらしい。教師が率先してこんなことして良いのだろうか?



「さっさとてめえが来いよ。雑魚で弱らせてからじゃないとこえーのか?」



どうやら既にバルザックは数人に勝利してるらしい。



「……お前ごときに出るまでもねえと思ったんだがな」



グレンが重い腰を上げた。

……あれ? なんかもう決勝戦のような雰囲気になってる。私達はこそこそ話し合う。



「……わたくし達は眼中になさそうですわね」

「うん」

「男の戦いって感じだね」

「でも彼らで勝手に盛り上がってくれたらこっちに関わって来ないかもしれないね」

「それならそれで良いのだけれど……」



今まさに二人は最強を決める戦いを始めようとしていた。笑っている。

相手を憎んでるのではない、認め合っているようだ。

″俺″は……。



「まって!」

「あ?」

「ん?」



私の出した大声に全員の動きが止まった。

やってしまった。

もう言うしかない。



「私も参加する」

「ちょ、ちょっとトモシビ」

「おぬし……」



空気読め、とばかりの視線が私を貫く。アナスタシアもヤコ先生までも呆れている。

当然だ。作戦も空気も全部ぶち壊してしまった。手が震える。でも私には止めることはできなかった。



「つまり、三つ巴で戦いたいということか?この決着がついてからではいかんのか?」

「弱ったのとじゃ意味ない」

「ほう」

「ひゃはははは!誰かさんよりあのちびっ子の方が男らしいじゃねえか!」



グレンは感心し、バルザックは楽しそうに笑った。思ったより好感触なようだ。



「やりたいと言うなら止めんが……本当に良いのか?」

「止めてください先生!殺されてしまいます!!」



アナスタシアが血相を変えて叫ぶ。



「トモシビもなにを言うの!?作戦が台無しではないの!」

「なんだよ作戦って」

「貴方達にチーム戦を申しこむつもりだったの!ああ!もう今からでもいいわ!!トモシビと戦うならわたくし達全員が加勢することになります!これは決定です!」



勝手に話を進め出すアナスタシア。

何というか、さすが王女様という感じである。



「何だそりゃ。おい、どうするんだよ先生」

「困ったのう。お主らクラス最強を決めに来たのではないのか?」

「そこの狼男とグレンはクラスの頭を決めるって言っていたではないですか。勝手な殴り合いでそんなこと決められたらたまったものではありません。わたくし達も自衛する権利があります」

「む……なるほど」



そういえばそういう流れだった気がする。

先生も忘れていたようだ。

どうしよう? 膠着状態である。



「あァァァ!めんどくせえな!!」



声を上げたのはバルザックだ。



「もうまとめてかかって来いや!!俺が一人で全員倒せば良いだけだろ?!なあ?!」

「じゃあバトルロイヤルでもするか?俺は構わんぞ」

「わたくしも構いませんわ」

「タイマンがいい」

「うおおおおい!!なんなんだよちびっ子!!てめえはよ!!」

「お嬢様、少々お許しください」



見兼ねたのか、エステレアが私を人垣から下げる。そして私を胸に抱くと、髪の毛を撫でながら語りかける。



「お嬢様。お嬢様のご意向を実現するのがメイドでございます。私もそのように努めておりました」

「……うん」



エステレアは私の手を取る。その手は震えていた。



「ですがいざとなると私、震えが止まりません。お嬢様の綺麗なお体に傷が付くと思うと気が狂いそうになります」



ハッとした。

心配をかけていた。その事に気付かなかった自分が恥ずかしくなった。私は一体何をしていたんだろう。



「お嬢様がご自分を試したいのは構いません……しかしどうか私がお守りできる範囲でお願いいたします。私を、置いていかないでください……」

「……ごめん」



そのまま強めに抱き合う。

……落ち着いた。

ふと人垣を見ると全員がこちらを見ていた。

みんな唖然としている。

私達の仲の良さにカルチャーショックを受けたようだ。気持ちはわかる。



「すげえ……」



グレンがボソッと呟いた。



「ごほん。で、トモシビよ。 バトルロイヤルで良いのか?」

「いい」

「では時間も押しておることじゃ。さっさと始めるぞ。参加しないものは二階の観客席に移動じゃ」



緩慢に移動して行く生徒。

残ったのは私達グループとグレングループ、それにバルザックである。

彼は本当に一人でやるつもりらしい。すごい自信だ。羨望すら覚える。



「本当に一人でやるなんて、馬鹿なのかしら……」

「男のプライドっていうやつなのかな」



みんなには不評なようだ。私がおかしいのだろうか?



「では、準備は良いか?」



作戦通りにやる。それで良い。エステレアのおかげで落ち着いた。私は自分の事ばかり考えてた。



「よし、始め!」



格闘技の試合見た後、とりあえずなんか殴りたくなるのは男性だけらしいってネットで見ました。本当なんでしょうか。

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