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崖の上の海産物

※9月11日誤字修正しました。ありがとうございます、助かります!



2度目の休憩に入った。

私は魔力はもう回復したので自分の足で歩いているが、体力の方は消耗する一方である。

クロエの神術も筋肉疲労は解せても体力の回復はあまり望めない。

いつもは休憩といえばゆったりとティータイムを楽しむところだが、休憩時間は10分しかないのでそれもできない。短時間で疲れを取るにはお茶を入れてる暇はないのである。

もっと正しい姿勢で疲労回復に努める必要がある。

でも……やっぱりお茶が飲みたいな。



「なんだこれ、ベッドか?」



グレンだ。

何か用だろうか?

今現在、私はベッドに寝転んで体力回復に努めている真っ最中だ。

前に家具屋で見せてもらった魔力で膨らむベッドである。

縮んだ状態では椅子として使えるので、アイテムボックスに入っている椅子をいくつかこれと交換して持ってきたのだ。



「うわっ!何やってんだお前ら!」



グレンは近場で私達の姿を見て、慌てて目を逸らした。



「また貴方ですか……」



私の横で寝ていたエステレアが立ち上がって、彼の視線から私を守った。

何って、胸元やベルトなどを緩めて寝てるだけである。

下着が見えているわけじゃないし、何もおかしなことはしていない。



「お嬢様のあられもない姿を覗きにきたのですね」

「ちげえよ!こんなとこであられもない姿になってんじゃねえ!」



なってない。

私はフェリスの尻尾を撫でていた手を離してスカートの裾と胸元を直すと、起き上がった。



「何かあった?」

「あ、ああ……あれだ。お前は前線に出るな」



そういう提案か。

でも、さっきは好きで前線に出たわけではない。成り行きである。



「編成を変えろ。索敵の二人と俺たちが最前列にして、お前は真ん中で指揮を取れ。危なっかしくて仕方ねえ」



私達が移動している以上、進行方向にいる魔物と遭遇する可能性が高い。なので前方を警戒するのは分からなくはない。ちなみにあのミミズは例外だ。

ただ、私としてはそうも言っていられない事情がある。



「前線にいないと、声届かない」



それどころか戦闘の喧騒の中では前線にいても聞こえるのか怪しい。

フレンドチャットでも使えたらと思うが、皆に受信する手段がない以上こればかりはどうしようもないだろう。



「大丈夫だ。お前に渡したブザーが通信機にもなってる。俺のこれと通信できる」



え……?

そう言ってグレンは私のとお揃いの青いブザーを見せつけてきた。

思わず私が取り出したピンクのブザーをエステレア達が訝しげに見る。

なんか……。



「なんか、気持ち悪いですね……」

「なにっ……?!」



クロエの言葉に内心頷く。

グレンはショックを受けているようだ。

こっそり私と秘密の連絡手段を持とうとしていたなんて……。

そんな高機能で高価なものポンと渡してくるのも気味が悪い。しかもお揃いの。



「お嬢様、知らない人から物をもらってはいけません」

「捨てましょうトモシビ様」

「捨てんな!それで指示を出せば俺が前線指揮してやる。お前は後方にいろ」



彼の言うことにも一理ある。

さっきの戦闘では穴の中の私達以外何もしていなかった。

意外にもバルザックのおかげで穴に落ちた人は少なかったらしいが、その後、皆が駆けつけるのが遅かったのは何をして良いか分からなかったからだ。

私もアスラームも巻き込まれたので誰も指揮を取らなかったのである。


思えばグレンは出会った時から同じこと言っていた気がするが、今なら受け入れるのもそんなに苦ではない。

決めた。最前列は彼らに任せよう。



「……わかった、バルザックと最前列に来て」

「おう」

「トモシビちゃん、私は?」

「フェリスは私の隣」

「よかった〜」



フェリスは渡さない。

私の近くにも索敵がいた方が良いし、何より一人でバルザックとグレン中に放り込むのは可哀想だ。それにいざという時私をおんぶしてくれるし……。

いや、理屈は後付けだ。とにかくフェリスは側にいてほしい。それだけである。







そんなわけで私達は先頭からAクラス最後尾に移動して出発した。

考えてみると私のパーティーはブースト移動に習熟してるおかげで機動力が高い。単純な前衛より遊撃とか強襲に向いているのかもしれない。

エクレアはBクラスなのであちらにいるが、アスラームはこういう編成とか考えてるんだろうか?


荒野を超え、山の麓に差し掛かる私達。

ここからだ。辛くなるのは。

完全に道がないのである。

指定されたルートによると、原生林を突っ切り、岩肌を登り、崖にへばりついてさらに登る、といった感じで踏破していくようだ。

ただでさえ急な坂が多いのにこれはきつい。

私はマップを見てルートミスがないか確認しながら歩を進めていく。

それは大変な作業だった。


足元が不安定で滑りそうになるし、坂の傾斜も急だ。

剥き出しの岩肌は足元が悪く、滑落すれば何十メートル下に真っ逆さまだ。

舗装された登山道ではないのである。

飛んで楽をしたかったが、風でゴミを飛ばして周囲に迷惑かけそうなので我慢した。

エステレアやフェリスに手を引いてもらったり、クロエの疲労回復をかけてもらったり散々だ。もういちいち落ち込んだりはしないが、不甲斐ない限りである。







岩場も終盤に差し掛かった頃、突然マップ上の先頭の二人が立ち止まった。すぐに全体が停止してしまう。

……なんだろう?

ブザーを取り出してグレンに話しかける。



「グレン、何かあった?」

『バルザックのやつがな、嫌な臭いがするんだと』

『あのクソ教師の臭いだ。たぶん正規ルートは罠だ』



罠……? なんで罠? 先生の匂いがしたからと言って罠とは限らない。



「罠って?」

『知らねえが、何か企んでんのはわかる。別の道に行け』




なるほど、私も模擬戦などで相手からそういう雰囲気を感じることはある。バルザックは匂いでもそれが分かるのかもしれない。

しかし困った。 言われたルートで来いと言われている。罠があるとしても、その罠を含めての訓練である可能性が高い。

私は皆に相談することにした。

ついでにアスラームへの通信も開いておく。



『罠か……クズノハ先生はやりそうだね』

「そうねえ、フェリスは何か聞こえるかしら?」

「たぶん……崖の方に人型がいたからそれかな?」



崖に罠って……嫌な想像しかできない。

ちなみに、フェリスによると魔物は沢山いるらしいのだが、ほとんどは私達を察知すると逃げていくとのことである。キリがないので逃げないものやはっきり近付いてくるものだけ報告してもらっている。

それでも山に入ってから何度か魔物と遭遇したが、グレンとバルザックを前衛にして楽に殲滅できた。彼らもしっかり協力して働いてくれて何よりである。


私は大きくしたマップと睨めっこする。

正規ルート以外で行ける道はあるだろうか?

どれも崖に阻まれてしまう。

……頂上付近まで登ってから下るか、もしくは下山して大きく迂回するしかない。

ダメだ。



「他に道がない」

『そう……みたいだね。時間内に辿り着くにはここしかないか』



じゃあもう行くしかない。決定だ。

慎重に探りながら行こう。私達はそう結論を出した。



『ねえトモシビ様、私達が先行したらどう?』



エクレアの声だ。アスラームの通信機から聞こえる。



『私達ならブースターで飛べるから危険が減るんじゃない? 』

『ブースターというのはあの風の魔術のことかな』



私はジェット噴射する風の魔術をそのままジェット噴射と呼んでいる。で、それを背中につけて高速で移動したりするのがブースター、足の裏につけて飛び上がるのが緊急避難だ。

しかしながら私がつけたそのような定義は伝わらず、みんなは区別なく全部ブースターとかブースト移動とか呼んでいるのである。

私としても名称に拘りはないのでもうブースターで定着してしまった。

私のパーティーなら全員そのブースターで短時間は飛行可能だ。



「……いいかも」

「お嬢様……」

「トモシビちゃん、危ないよ」



私が乗り気になると、エステレアとフェリスが悲しそうな顔をした。

たしかに無茶するなと言われたばかりだ。

しかし誰かが危険に飛び込む必要があるなら、客観的に判断して私のパーティーが適任だろう。それで私自身だけ安全な場所にいるのは……。



『じゃあそちらにばかり負担をかけてるから、ここはBクラスが受け持つよ。エクレアさん達と双子、できるかい?』

『……そうね、トモシビ様はずっと働いてるんだから休んでいて』

「お言葉に甘えていいんじゃなくて?トモシビ」

『あーしらなら大丈夫よ。任せておいて』

「……わかった」



そう返事をすると同時にエステレアに抱きしめられた。

いつもより勢いはないくせに力強い。無言でも彼女の気持ちが伝わってくる。

私の前に出たがり癖は治ってきたと思ったのだが……そうでもなかったのかな。だって、こんなに心配をかけてる。

私はエステレアを抱きしめ返すと、グレンに連絡を取ることにした。



「グレン、聞こえる?」

『……全部聞こえてる。その崖の手前まで行くぞ』

『しょうがねえな』



どうやらこのブザーはオンオフがないらしい。込めた魔力で一定時間動作するタイプだ。

覚えておかないと危ない。うっかり盗聴されるかもしれない。







これがその崖か。

山の片側が全て岩肌剥き出しの崖になっている。

その中に細い通路のような道が一筋。そこが正規ルートだ。


私が辿り着くと、大人しく待っていたグレンとバルザックが話しかけてきた。



「お前が思い止まって良かったぜ」

「へっ、他のやつはいいのかよ」

「……お疲れ様」



心配してくれるのは嬉しいけど、どうもグレンの場合はちょっとやりすぎていて困る。

委員長として認めてくれているのかもしれないが……。

なんとも反応しにくいのでとりあえず労って誤魔化しておく。

そんな会話をしているとすぐにBクラスも到着し始めた。



「すぐ行って帰って来るわ」

「……失礼しますトモシビ様」



エクレア達が私たちに声をかけて崖に向かって行く。

見慣れない男女を連れている。双子というのはこの二人だろう。双子は丁寧な口調で私に頭を下げた。よく似た顔立ちだが、男子が黒髪で女子が金髪というちょっと不思議な双子である。


双子は崖の手間まで来ると手を繋ぎ、互いに目配せした。

そして次の瞬間、2人の足がフワリと浮いた。

……フワリと?

私たちのやり方とは違って風を噴射していない。それに魔法陣も見えなかった。なんだろう?


エクレア達は岩肌を調べながら慎重に進んで行く。双子はフワフワ浮きながら道の下や上を調べる。



「先生がいた場所、わかる?」

「もうちょっと奥だと思うよ」

「直接行かねえとわからねえな」



私の問いに、フェリスとバルザックがそれぞれ答えた。

音は位置まで特定しやすいけど、匂いは遠くからでは詳しい位置が分からない、ということかな。

思った通り、二人で補い合うと索敵効果が増しそうだ。

エクレアを見守ってる私達の下へアスラームが歩いて来た。



「いくらクズノハ先生でも崖を崩すまではしないんじゃないかな」

「あの先生ならやりかねませんわ」

「やったなら何か細工をした、あるいは設置したってところだね」



ジューンの言葉に全員が同意する。

そうすると、私達が来る直前にやった意味は何だろう?

時限式の魔導具やあるいは時間で効果が薄れる魔導具か?

例えば毒ガス……まではやらないか。催眠ガスとか?



「……飛んでると危ないかも」

「そうだね、警告しよう」



キーホルダー型の通信機を取り出して語りかけるアスラーム。



「……エクレアさん達を先行させて少し距離をとって付いていってくれ」

『了解です』



距離を取る双子。彼らの飛行時間は異様に長い。並みの魔法使いではないようだ。

そのまま崖の中程に差し掛かるエクレア達。

バルザックが顔を顰めて鼻を鳴らし、口を開いた。



「臭えな。下がらせろ。変な臭いがしてきやがった」

「……一時撤退だ。何か臭いがするらしい」

『了解』



アスラームは直ちに通信で伝える。判断が早い。



「どんな臭い?」

「生物の臭いだ。崖の方からな」

「トモシビちゃん!魔物!空から!」



フェリスの言葉に全員が空を見上げる。

……見えない。

フェリスの指す方向にはただ青空が広がっているだけだ。

遠すぎるのだろうか?



「いや、いるぜ。見えないだけだ」

「……また見えない襲撃か。君たちがいなかったらと思うとゾッとするね」

「今度は空飛ぶカメレオンかしら」

「イカかもしれませんね姫様」

「エクレアちゃん達の方に向かってるよ、今あの辺」

「撤退は間に合いそうですね。良かったです」



ミミズを経験したせいかみんな肝が座ってきた。

しかしどこにいるか分からないというのは脅威だ。

いそうな場所に撃ってみようか?

いや……今はミミズ戦とは違う。60人が待ち構えているのだ。囲んで一斉に撃つべきだ。



「一斉射撃しよ。 フェリス、合図お願い」

「おっけ〜」

「それがいいね。エクレアさん達に引きつけてもらおう……聞いての通りだ。今は歩きで来て、合図したら飛行して全速力でこちらに逃げてほしい」

『了解』

『簡単に言ってくれるわ』



すぐにグレンが隊列を整えてくれた。

ABクラス混合でキルゾーンを作り、そこに誘い込む陣形だ。



「飛んで!」



フェリスが言葉少なに告げる。

すぐにエクレアチームが飛行を開始した。

私もエクスプロージョンの用意をしよう。

エクレアチームがキルゾーンを超えかかる。フェリスがカウントを開始する。



「3……2……1……」

「よし、撃て!!」



アスラームの合図で空に爆炎の花が咲いた。ほとんどは下位の魔術だが60人分の火線だ。

大爆発である。

ちなみに私もエクスプロージョン5連発で参加した。

見たところ、私を超える火力はいないようだ。ちょっと嬉しい。


煙の中から何かが落ちてきた。ベチャッという湿った音。

片面が焦げて見えるようになったそれは透明なビニール袋みたいな形をしていた。

なにこれ。

細長いのは触手?



「クラゲかな?」

「私にはイカに見えます」



なんでメイはイカに拘るのだろう。

間をとってイカクラゲと名付けよう。

まだ動いてる。呼吸をするように胴体を上下させている。

体長7、8メートル。触手を合わせると20メートルくらいある。

近寄ったら触手で攻撃されそうだ。放っておけば死ぬかな、と考えた、その時だった。



「トモシビちゃん、また来たよ」



……また? 同じのが?

フェリスによると、またこのイカクラゲが同じような軌道で来るらしい。

もうエクレア達の囮はいないのだが、何かに吸い寄せられてるようだ。



「崖の中間からくせえ臭いがする。こいつらをおびき寄せる臭いなんだろ」



なるほど、それが罠か。

二体目を排除したらすぐに向かおう。


崖をウロウロしてた二体目は牽制のファイアボールを撃つとこちらに向かって来た。

それを一斉射撃で撃ち落とす。

同じ作業である。苦戦はない。

こうなってくるともう面倒なだけでつまらない罠だ。


本来ならイカクラゲも相当に厄介な魔物だったはずだ。ステルスから触手で襲われたら数人はやられるかもしれない。5人チームなら全滅もあり得る。

だが、私のクラスがそれぞれの特性を活かして一丸となればこんなものだ。

私は自分自身があまり活躍してないにも関わらず、なんだか誇らしい気持ちになったのであった。



魔物は知能低いのが多いですが、もともと知能が高かった生物は頭良いです。

クラゲは脳みそないので良くない方ですね。

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