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ブレイジングハート

9月9日、誤字修正しました。ご報告ありがとうございました!



覚悟したような衝撃はなかった。



「大丈夫かい?」



目の前にアスラームの顔がある。

どうやら私はお姫様抱っこされているらしい。

助けようとしたら助けられてしまった。

なんか、気まずい。



「……うん」



彼も無傷のようだ。私と違って運動神経が良い。

数メートルは落下しただろうか。

辺り一面の地面が陥没したらしい。

マップを見ると他にも数人が落ちたようだ。意外と少ない。


さっと辺りに影がさして暗くなった。

頭上を見上げる。

……日除け″窓″のせいでよく見えない。少し薄めよう。



「来たぞ!」



私を抱いたまま飛びのくアスラーム。

さっきまで私達がいたところにミミズの頭が落ちてきた。

ミミズは顔を半分に割る裂け目のような口をいっぱいに開いて土を咀嚼した。そしてゆっくりこちらに向き直る。

人間みたいな唇がある。


怖い。

震えが止まらない。

スカイサーペントよりは小さいが戦えるサイズではない。全長50メートルはあるミミズだ。

マンションを絞め壊し、トラックを一飲みにできそうな大怪獣だ。

私たちはまさしく蛇に睨まれたカエルのように動けなくなった。

逃げるか?

でも逃げれられるとは思えない。

他に落ちた生徒はどうする?

私のように飛べる人は少ないはずだ。


……覚悟を決めるときだ。

私とアスラームは目を合わせて頷いた。

ミミズはそんな私たちを嘲笑うように口を窄めた。

目も鼻もないのに口だけはある顔。

ゾッとする。

そう思った、次の瞬間。

私の眼前に何かが迫っていた。

土の塊?

速い。

動けない。

……死ぬ?


私の体をジェットコースターのようなGが襲った。



「しっかり掴まって!」



アスラームに抱えられたまま私の体は宙を舞う。

……避けた。

避けてくれた。

死ぬかと思った。

心臓がうるさいほどに鼓動を刻んでいる。

ミミズの顔がこちらを向く。

口を窄めた。

来る。

今度は見える。口から弾丸のように土塊を飛ばしているのだ。

アスラームは避ける。すごい反射神経だ。

……私も負けてはいられない。



「撃ってみる」

「了解!」



エクスプロージョンだ。

一点集中。5つの炎を同時に飛ばす。

ミミズは口を窄めた。

遅い。

それは首をもたげたミミズの顔面に当たって5連続の爆発を引き起こした。


煙は薄い。地面を巻き込んでいないからだろう。

その煙をかき分けるようにやつの頭が飛び出してきた。

私を抱えて素早く飛びのくアスラーム。

頼りになる。


ミミズの顔面は吹っ飛んでいた。剥き出しの肉は焼け焦げ、穴となって開いたままになった口腔からは土がボトボトと落ちている。

狙い通りだ。

口を破壊すれば土の弾丸は使えなくなるはずだ。

だが、それでも止まらない。動きは衰えない。

アスラームは私を下ろした。



「僕が囮になる。隙を見てもっと撃ち込んでくれ」

「……待って。みんなが来る」



マップのアイコンが集まってきている。

その中でも赤アイコンの私のパーティーは早い。飛んできてるからだ。



「お嬢様!良かったです……!」

「肝を冷やしましたわ」



良かったけど無事を喜んでる暇はない。



「クロエ、フェリス、落ちた人を助けて」

「は、はい」

「わかった!」

「じゃあ残りで包囲して撃ちまくりですわね」

「OK!」



ミミズは地面に頭を擦り付けるような動きをしている。

なんだろう?

……潜ろうとしてる? 頭を破壊されたからうまく掘れないのか。


好都合だ。

その隙に、9人が散会してそれぞれの最大火力を叩き込む。

爆炎がミミズの巨体のあちこちで弾けた。

何人かパーティー以外の人も撃ってくれてるようだ。

落ちたクラスメイトが自主的に攻撃に参加してくれているらしい。


火線が飛び交う。

ファイアボールより強力なファイアボルト、ナパーム、それにエクスプロージョン。

この学年に私以外にもエクスプロージョンを使える人がいたのか。

私は視界の隅のマップをチラリと見る。

撃ったのは……メガネ2?

彼は私と同じで炎の魔術が得意なのか。

ミミズは所構わず頭を叩きつけ、胴体をくねらせ、尾を振り回す。



「危なっ!」

「離れろ!壁際によるんだ!」



のたうち回るミミズ。皆が慌てて飛びのく。この巨体ではそれだけで脅威だ。

どうもナパームやファイアボルトは表面を焦がすだけであまり効果はないらしい。

体が大きい魔物は基本的に魔力も高い。おそらく対魔力が桁違いなのだろう。

エクスプロージョンですら肉を少し吹き飛ばすくらいなのだから、これは骨が折れそうだ。


穴の中で暴れ回る恐怖の縄。当たれば即死だ。

私たちはそれを避けながら隙を見て撃ち込んでいく。

ほとんど効果があるようには見えない。

こいつの急所が分からない。

このままでは私たちの魔力が先に切れるだろう。

延々と続く地獄の大縄跳びをしながら私は考えを巡らせる。


……アレを使うか? 実は私にはまだ切り札がある。

ただこいつには普通の炎より爆発の方が効きそうだし、仕留めきれなかったら魔力切れで今度こそ本当のお荷物になってしまうリスクがある。



「残りのクラスメイトもすぐ来るはずだわ。60人で撃てばこんな虫ケラ……」

「そうですね、大きいだけで動きはただのミミズです」



エクレアとメイの会話が聞こえる。

虫ケラ……?ミミズは虫だろうか?

私としては足のある虫と比べてそんなに気持ち悪くないので虫という認識はなかったのだが、言われてみるとそうかもしれない。

それならいける。私は虫には勝てる。



「お嬢様!」



エステレアの声にハッとする。

巨大な縄が迫って来ていた。のたうち回るミミズの尻尾だ。

緊急避難で飛び上がって避ける。

アナスタシア達の言う通り大きいだけの虫だ。よく見れば動きもそんなに早くない。

私でも避けられる。


上から見るとミミズは身体の中心付近を支点にして身体をくねらせて暴れているようだ。

噴射角を調整して……そこに落ちていく。



「お嬢様、まさか!」



そのまさかだ。聖炎で焼き尽くす。

剣を抜いて精神を集中。

私の中に太陽が生まれる。髪の先が燃えているのがわかる。

……もっと激しく。これじゃこの巨体を焼き尽くせないかもしれない。

私の視界が赤くなった。剣も体も全てが炎に包まれている。


私は火の玉と化してミミズの中心に突っ込んでいく。

ドスッと、柔らかく湿った体を剣が貫いた。

そこから真っ赤な炎が舐めるようにミミズの体を伝っていく、が……止まってしまう。

大きすぎるのか?

まだ足りない。

もっと魔力を燃やせ。

気分が高揚する。

もっと……。



「……もっともっともっと!!」



天まで燃やせとばかりに叫ぶ。

私の全身が一層激しく燃え上がった。

まるで私の心がそのまま具現化してるかのようだ。

今の私ならなんだって焼き尽くせる気がする。

炎が走る。今度は止まらない。

それは数秒でミミズの全身を包んだ。

ミミズは一層激しく暴れた後、ズンと音を立てて地面に横たわり、動きを止めた。

表面からボロボロと灰になって崩れていく。


思った通りだ。私は虫にだけは絶対的な優位がある。最初からこうすればよかった。

なんで虫だけなのかは知らないが……たぶん嫌いだからだろう。



「すげー……」

「トモシビ様!素晴らしいです!せ……さすがです!」



ミミズから飛び降りると皆が駆け寄ってきた。

私のパーティーだけではない。

遅まきながら駆けつけたクラスの人達もだ。

穴の上から、中から、59人が私を見ていた。

壮観だ。


私は剣をしまうと、スカートの端を摘んでカーテシーをした。

シーンとしている。

……調子に乗りすぎたかな?

そう思った瞬間、爆発的な歓声が湧いた。



「キャアアア!!!トモシビ様ァァァー!!!」

「うわっエクレアうっさい」



一際声の大きいエクレアがアンに嗜められている。

そんな歓声を尻目にアスラームが近付いてきた。



「すごい魔法だね……炎の妖精みたいだった」

「……助けてくれてありがと」



アスラームが右手を挙げた。私はその手に自分の手を合わせる。

ハイタッチだ。

彼はあのミミズ相手に怯まず私を守ってくれた。すごい人だ。Bクラスの委員長を務めるだけのことはある。

そんな私にエステレアが心配そうに駆け寄った。



「お嬢様……」

「大丈夫」



べつにアスラームに惹かれたりしてるわけではない。ただ、戦友のように感じた。それだけだ。

エステレアの胸に体を預けて目を瞑る。

……安心したら意識が飛びそうになった。魔力切れだ。久しぶりの感覚。



「お嬢様、無茶しすぎです」

「うん……」

「私に乗って」



フェリスの背中に乗る。せっかく格好付けたのにしまらないが、仕方ない。



「フェリス……魔物がきたら教えて……」

「トモシビちゃん、もう休んでいいよ。死んじゃうよ」

「そうです。お嬢様はずっとご自分だけ危険なことをして……私、生きた心地がしませんでした」



そうかな……そうかも。

思い出すと今になって震えが来る。ミミズの頭が突っ込んできた時、土塊の弾丸が迫った時、尻尾を避けた時……少し遅れたら死んでいた。

あの魔物の質量はトラックなんか目じゃなかった。

一撃でグチャグチャの礫死体になって死んでいた……想像しすると寒気がしてきた。



「ごめん……」



今は良い。勝ったんだから。

でも10回20回同じような死線があれば私は高確率で死ぬだろう。

反省した。

反省したが……あんな化け物相手に人死にが出なかったのは私が頑張った成果でもあると思うのだ。それを思うと複雑である。


……なんで演習でこんな目に合わなきゃいけないのだろう? 先生達は何を考えてるんだ。

文句言ってやろう。

マップに59人全員いることを確認し、私はまた日除け″窓″を厳重に重ねて少し目を瞑った。



中ボス戦です。

トモシビちゃんの殺虫魔法は虫特攻というだけで必殺できるわけではないです。

ミミズを虫って呼ぶかは微妙な線ですけど、ワームっていうと途端に虫っぽくなるような気がしますね。


※総合評価500ptを超えました!本当にありがとうございます!全部皆様のおかげです!

お礼言うタイミングを計ってたんですが丁度良いので今言います!

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