実地訓練
※9月7日誤字修正しました。ご報告あざます!
※10月1日誤字修正しました。すみません助かります。
私達魔法学園の生徒が街の外に出ることができる機会は、何も城外活動部だけの専売特許というわけではない。
ちゃんと授業で実地訓練があるのだ。
私達は今日明日と一泊二日で実地訓練を行い、王都の北東にあるグランディア山でキャンプを張ることになる。ちなみにABクラス合同である。
山まではそれなりに距離があるので馬車で麓まで移動することとなる。私達はアナスタシアの好意で例の10人乗りの馬車を使わせてもらっていた。
「なにこれかわいー!」
「かわいいでしょ」
フェリスの持ってきた人生色々ゲームである。
「メイ、人形になってまでわたくしのお世話しなくてもいいのよ?」
「エステレアさんもしてましたね」
「メイドの本能です」
帰るまでが遠足なら行きも遠足、馬車の中で大いに楽しもうと思って持ち込んだものだが、皆人形の可愛さにやられてしまった。
「小さいあーし何やってんの?」
「イケメン探してるんじゃないの?」
キョロキョロと辺りを見回しているミニトルテ。
この子そこまで男好きなのか、と思いきやミニトルテは剣を振ってるミニエクレアを見つけると楽しそうに邪魔しに行った。
「エクレアちゃんのこと好きなんだね」
「ち、ちげえよ、目障りだから邪魔してんの!」
「ふーん」
エクレアはニヤニヤしている。やっぱり孤児院の3人は仲良しだ。
そういえば以前このゲームをやった時、ミニ私が魔法を使ったように見えた件。あれについてカズトーリさんに尋ねてみたところ興味深い回答を得た。
なんでも私の魔法は全部使えるらしい。この人形は自立して動いてるように見えるが、実はコピー元の深層意識を反映しているだけだそうだ。つまりは私達自身が無意識に動かしているのである。
私の込めた魔力を使って遠隔操作で魔法を行使することも可能なわけだ。
色々と面白い使い方ができそうではあるが、深層意識だけあって自在に動かすのはなかなか難しい。
とりあえず今は眺めて和むだけである。
私たちは持ってきたお菓子を食べながら馬車の数時間を楽しく過ごしたのであった。
今、私の目の前には2クラスが整列している。
私はこの実地訓練に向けて、事前に先生から説明を受けていた。
曰く、私とアスラームがリーダーシップを取ってグランディア山中腹の集合場所にたどり着くべし。
実は今回、先生はいないのである。
先生達は最初からグランディア山の中腹に待機している。
私はクラスを導いて、正しいルートで、魔物を退けながらそこに向かわなければならない。
「僕から説明しようか?」
「お願い」
他の生徒は何も聞かされてない。私とアスラームだけだ。なので、まず皆に説明する必要がある。
とはいえ私がそんなものに向いてないのは……残念ながら明白なのでアスラームの方から説明してほしい。
しかしその前に浮き足立った皆のざわめきを鎮めるくらいはしようと思う。
私は素早くいつもの爆竹を鳴らした。慣れないBクラスは目を白黒させている。
ちなみに音は指向性を持たせているので至近距離でも私は平気だ。
静かになった。
「ありがとう。では……今回の実地訓練の説明をはじめる!」
よく通る声だ。それに聞きやすい。
「まず今回教員はいない。我々だけでルートを踏破し、グランディア山の中腹のキャンプ地に辿り着くのが目的だ」
彼が説明してる間に地図を配っておこう。それから全員いるか確認する。点呼などは取ったりしないので目算である。私とアスラームが並ぶとどうしても私が助手みたいに見えてしまうのがちょっと悔しい。
見回っているとパーティーのみんながこっちを見て笑いかけてくれたり小さく手を振ってくれたりする。
……見回りはやめよう。またアスラームが秩序がどうとか言いそうだ。
「……説明は以上だ。各自、秩序を持って挑んでほしい」
考えてる側から言っていた。
「君からは何かある?」
……ある。こんな時のために考えていたことだ。
「全員フレンド登録してほしい」
私は整列してる2クラスに向かってマップを開いて見せた。
一応それなりの大きさの″窓″なのだが見えるだろうか?
マップの中には私のパーティー9人のアイコンが整列している。
私の″窓″のパーティー機能はどうやら15人が限度らしい。余ってはいるが2クラス分の余地はない。
しかしフレンドの方なら普通は100人くらいはいけるはずだ。
そっちの方にも位置を特定する式は組み込んであるのでマップで表示できるようになっている。
マップは私の踏破したところが自動で描かれていくのだが、今回は先生からもらった地図をスクリーンショットで撮ったものを背景に重ねている。縮尺も合わせておいた。
というわけで、このフレンド機能を使って2クラスを管理していこうと考えているのである。
「みんなの位置がわかる。時間かかるから、歩きながら登録して」
「なるほど、集団行動がずっとやりやすくなるね」
「じゃあ……Aクラス先頭から出発して」
アスラームとアイコンタクトして出発を促す。
素直に私の言うことを聞く皆。ホッとした。
さて、私は歩きながらフレンド登録をしていかねばならない。一応、アスラームと私は通信機を渡されているので何かあれば連絡する手はずになっている。
ちなみに学園の通信機はカード型だ。私の掌より少し大きくてかさ張る。アナスタシアの物より古いタイプである。
「トモシビちゃん、大丈夫? おんぶしてあげようか?」
「大丈夫」
行進する全体を行き来してフレンド登録していく私にフェリスが申し出た。
それはいざとなったら頼もうかと思う。まだ平気だ。
「お嬢様、ご無理なさらないでください。帽子もお被りになった方が」
帽子は熱が篭る。私は汗腺があまりなく、熱を逃せないことが分かったのでこういう時帽子を被るのはやめたのである。
その代わりに私の頭の上には黒塗り背景の″窓″を隙間なく何枚も設置してある。これで日差しを防ごうと目論んでいるのだ。
これによって体感温度は下がったが、UVカット効果がどこまであるのかは不明だ。そのため時折日焼けで赤くなったりしてないか確認しなければならない。
とはいえ、太陽の方向には念のために″窓″を数枚重ねてあるので可視光線は日傘並みに遮断されている。これならまず大丈夫だとは思う。
「日焼けしたらすぐ被るから」
「シミなどお出来にならないか心配です……」
「だ、大丈夫ですよ。トモシビ様はセラムの大元です。シミなんてできるはずありません」
シミというのはメラニン色素の沈着だと聞いたことがある。私はたぶんメラニンがほぼないのでシミはできないだろう。むしろシミより重症になるかもしれない。
皮膚ガンとか……怖いけど、そこは私のセラムの効果に期待である。
そうそう、そういえばこのような″窓″の使い方を思いついたのは研究の成果だ。
″窓″が出現する位置は私を中心にした座標で描き込まれていることが分かったのである。
そこを弄るとこうやって好きな場所と大きさで出すことができるのだ。私からの距離は1メートルくらいが限度だが同時にいくつも出すことが可能である。
現在、私の視界の左下にはマップを常駐させている。その隣にはアイコン番号と名前を対応付けた名簿。
こうやっていると未来的でちょっとカッコいい。
エステレア達から離れ、フレンド登録作業を続ける。
フレンド登録もパーティー登録もやり方は同じだ。相手に触れて登録しようと思えば完了である。
私は効率良く前から登録して回り、次はグレンの番になった。
「おい、あいつに変なことされたら言えよ」
あいつ? アスラームのことかな。今のところは大丈夫である。
頭撫でられそうになったくらいだ。
……私を心配してくれてるのだろうか。
「言ったろ。クラスの頭なら当然だ」
「頭は私」
のはずだ。少なくとも名目上は。グレンは認めてくれてると思ってた。
「……委員長とは別だ。一人で行動するならこれ持ってけ」
と言って彼が渡してきたのは……起動すると音の出るブザー?
子供が持つ防犯用の魔導具である。ピンク色で可愛い。
……なんでこんなの持ってるのだろう?
私の訝しむ目に彼は慌てて言い訳し始めた。
「違う! これはお前に渡そうとわざわざ……と、とにかくあいつには油断するな。持っとけ」
「……ありがと」
まあいいか。わざわざ私のために買ってくれたなら貰わなきゃ失礼かもしれない。
防犯ブザーをしまって次に向かう事にした。
「来ましたね。くくく、ちょこちょこ動いて可愛いですよ」
会長だ。私を屈服させる会の会長。隣にはメガネ2もいる。
ちょうど良い。彼らには言いたいことがある。
「私が一番リーダーに相応しい」
「ほう?」
「幼女には無理だろ」
「私に屈服するなら今のうち」
「これはこれは」
私は構わず登録を済ませていく。
私にとってクラス委員長など通過点に過ぎない。もう彼らが認めようが認めまいがどうでも良い。
私は最高で最かわで最強になるのだ。理想の私は理想のリーダーにだってなれる。それに向かって行けば良いだけだ。
ない知恵絞って難しく考える事なんてなかった。
「……分からせてえなぁ」
「こちらも張り合いがありますね」
去り際に彼らの会話が聞こえる。分からせるのはこちらの方だ。そのうちファンクラブも私に屈服する会に……いやせめてもう少しまともなものに変えてもらいたいと思う。
さて、順番は巡り……バルザックだ。私はあの試合以来彼と話してない。元々ほとんど話すことはなかったが前以上に気まずい。
大体なんと言えば良いのだろう? 謝る? 何もなかったかのように振る舞う? 勝利宣言する? どれも怒りそうである。
「なんだよ、早くしろよ」
「……うん」
あれ? 彼はあまり気にしてなかったのだろうか。私はすぐに登録を済ませた。
これで終わりなら楽だ。
しかし、私は彼に一つ頼み事があった。
「バルザック、索敵、お願い」
「ああん? 何言ってんだお前」
部活でフェリスの耳には大いにお世話になった。獣人の感覚器は動物並みに優れているらしい。
ならばバルザックにも出来るのではないかと思ったのである。
「嗅覚強化するから、匂いで魔物見つけて。できる?」
「勝手に話進めるな、やらねえよ」
「やって、お願い」
「嫌だね」
そんな……私のお願いが効かない。
でもやってもらうととても助かるのだ。フェリスは音、バルザックは匂い。併用すれば完璧な布陣だ。
「やってくれたら……何かしてほしいこと、ある?」
「ねえよ」
にべもない。
彼の望みはなんだろう?
彼が求めるものは強さだ。それは間違い無いと思う。彼に勝った私に興味なさそうなのは、たぶん私がまだ弱いと思ってるからだろう。
それはそうかもしれないが、しかし私が勝ったのはまぐれではない。
「貴方は私より強い……かもしれない」
「殴られてえのか?」
「殴ったら負け」
「ああ?」
「強いならみんなを守って」
バルザックの目には戸惑いがあるように見える。
彼は一人ぼっちで強くなろうとしたかつての私だ。
私が決勝まで進めたのも、強くなれたのも、みんなが私を助けてくれたからだ。その集大成があの勝利だ。
バルザックにも教えてあげたい。
余計なお世話かもしれないけど。
彼は私の目をジッと見て、数秒後目を逸らした。何も言わない。
「……嗅覚強化するから、気が向いたら、やって」
「ちっ……」
私の強化を彼は一応受け入れてくれた。
迷ってるのかな?
でも実質OKのようなものだ。
全員の登録が終わった。
足が痛い。
戻ってきて息を整える私をエステレア達が心配そうに見る。
休憩まではまだ時間がある。ここでへばるわけにはいかない。
何しろ休憩時間もペース配分も私が決めたのだ。
「あの、トモシビ様、私新しい神術覚えたんです。少しは良くなるかもしれません」
神術ってどうやって覚えるんだろう?
ともかくクロエの申し出は有り難く受けることにした。
フェリスの背中に乗せてもらった私の背中にクロエは手を当てると祈りの言葉を呟きはじめる。
「トモシビ様、トモシビ様、私の願いをお聞きください……」
本当に私に祈ってる……。
クロエは私の力を借りて私を直しているのだろうか?
トモシビ様って一体何者?
こわい。
ドクンと、私の数少ない筋肉が動いた。弱い電撃を受けたような感じだが、痛みも不快感もない。相変わらずの危険な快感だけだ。
その手がゆっくりと私のお尻へ移動していく。
それはまずい。
「ん…………!」
「と、トモシビちゃん、大丈夫?」
水揚げした魚みたいにビクビクしてる私にフェリスが声をかける。
身体の中を直接手で揉みほぐされているみたいだ。
クロエの手は私の両太ももを通り、脹脛に滑り落ちていく。
「……どうでしょうか? 疲労回復の術なのですが……」
終わったようだ。たしかに疲労は取れた気がする。肉体的な疲労は。
「ふぅ……クロエの神術は毎回気が気ではありません」
「す、すみません」
「お嬢様のためにしていると分かってはいるのですが……」
エステレアは困り顔である。
フェリスに下ろしてもらう。足が軽い。
大きく伸びをする。
スッキリした。これでしばらくは歩けそうだ。
空は広く晴れ渡り、麓に見える緑は青々として、聳える山脈は雄大だ。
その山脈の中の一つ、グランディア山の中腹までは30キロといったところか。
距離を考えると不安になるが、この素晴らしい景色のおかげでみんなあまり気にならないようだ。
今のところは。
1度目の休憩を経て、警戒が薄れてきた頃、フェリスが耳をピクピクさせて言った。
「トモシビちゃん、何か来るよ」
と、彼女が指し示したのは隊列の右手、3時の方向。
ここは荒野だ。見晴らしは良いはずだが何も見えない。
「何が来るかわかる?」
「……ミミズかな?地面に潜ってる……距離は500メートルくらい。かなり大きい」
フェリスは地面に耳を向けている。
地中から来るのか。
私は通信機を取り出して語りかけた。
「アスラーム、聞いて。魔物が来る。ミミズみたいなやつ……地面の下、3時方向、距離500メートル」
『了解。敵のスピードはわかるかい?』
「あと2分くらいでここに来ると思うよ」
フェリスが直接答えた。
分速250メートルか。つまり時速15キロだ。
地面の下を掘り進んでくるにしてはかなり速いと言える。
「全体ていし! 魔物にそなえて!」
「なに?」
「止まれ!魔物だ!」
私の声は小さいが、伝言ゲームみたいに伝わっていく。後ろではアスラームも同じ事をしているはずだ。
すぐに全体が止まった。
私はバルザックの元に歩いていって声をかける。
「バルザック、フェリスと協力して魔物に対応してほしい」
「ちっ……行くぞフェリス」
「う、うん……」
「私もすぐ行くから」
フェリスは不安そうだ。バルザックと2人はよほど嫌なのだろうか。
「獣人か。君のクラスには色々いるんだね」
アスラームだ。Bクラスには獣人がいないらしい。メンバーの多様性は私のクラスの方が上のようだ。私は少し誇らしくなった。
「トモシビちゃん!来るよ!ほんとに大きい!」
100メートルくらい向こう、ボコボコと地面が陥没していく。まるで地割れのように、曲がりくねりながらこちらに向かってくる。
「どこ見てんだ!もう足元に来るぞ!」
えっ?
……そうか。魔物の居場所が凹んでるのではない。陥没してるのは魔物の通り過ぎた跡だ。
「散開しろ!地面の下から来るぞ!」
「フェリス、バルザック、ゆうどうして!」
すぐに隊列を崩して散開し始める2クラス。
……数人一目散に逃げてる人がいる。マップを見たら丸分かりだ。
しかし構ってはいられない。
フェリス達のお陰で位置が分かるが、魔物は私達の下でウロウロしていつまでも出てこない。
「相当大きいね。地面が崩れないのは魔物の体があるからだ」
「うん……ん?」
ということはつまり……。
地面がボコりと盛り上がった。
そこから魔物……直径3メートルはあるだろうミミズらしき頭がウネウネと出てきた。
「まずい!崩れるぞ!」
緊急避難を使う。
今回は手動だ。ショートカットじゃ全体化できない。足の裏に4つのジェット噴射の魔法陣を描く。
……間に合った。私のパーティーはこれで大丈夫だ。もう全員飛べるけど万が一ということがある。
魔物が地中から這い出したせいで支えるものがなくなった地面がみるみるうちに崩れていく。
これが狙いか。足元を崩して蟻地獄のように一網打尽にするつもりだったのだ。
私はアスラームを掴んで飛び上が……れない。
重過ぎる。
「何をしてるんだ!逃げろ!」
私は声を上げる暇もなくアスラームと共に奈落の底に飲み込まれていった。
わりとピンチです。
ちなみにグランドリア周辺は湿度は低いですが昼夜の寒暖差が大きい所です。季節は初夏ですね。




