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心の持ちよう



昼休みとなり、私はエステレアと生物室に向かった。キョウカ先生紹介の共同研究者と顔合わせするためだ。

昼間でも薄暗い北側校舎を抜け生物室へ向かう私達。中に入ると相変わらずのガラスケースの山が出迎えた。



「……このトカゲ浮いてる」

「本当ですね。魔物でしょうか」



積まれたケースの一つ。そのちょっとカラフルなトカゲは、なんと空中を歩いていた。

そういえばスカイサーペントも浮いていた。彼らは一体どうやって浮いてるんだろう?

おそらく霊術だと思うが霊術だって魔法の一形態であり、ちゃんと理屈は存在するのだ。例えば、風とか磁力とか、あるいは……なんだろう?



「それはヤモリよ」



奥から出てきたのはキョウカ先生……ではなかった。

彼女とよく似た徹夜明けみたいな眼差しの女の子だ。白衣を着ているところを見ると飼育係だろうか。



「話は聞いてる。セレストエイムさん」

「では貴女が共同研究者の方ですか?」

「そう、アスカ。よろしく」

「よろしく」

「ふーん……」



彼女は私の服装を品定めするように見始めた。なんだろう、嫌な目線だ。

そしてそっぽを向いて吐き捨てるように言った。



「だっさ」



……?

私のこのゴスロリ風制服に言ってるのだろうか。

そんなはずはない。聞き間違いかもしれない。



「……今何かおかしな事を口走りませんでしたか?」

「お上りさん丸出しでちょっと見てて恥ずかしくなっちゃっただけ」

「なんですって?」



エステレアが剣呑な声を出した。



「どうやら美について何も理解してないご様子。不憫な」

「そこのお嬢様よりは全然理解してるし」



私に何か恨みでもあるのだろうか?

この子の言い草には私怨を感じる。突然の罵倒に面食らったが、だんだん腹が立ってきた。



「私のセンスは学園一」

「田舎者のセンスだし」

「私は最新。みんな感心。私がいない場所が後進。貴女に願うもっと精進」

「な、なんで韻踏んでんの?」

「お嬢様の美は学園中に轟いております。ファンクラブすらできるほどお嬢様の人気は絶大です。貴女は何の裏付けが?」

「……白衣とか……拘ってるし」



私達のディスにアスカは全く対応できていない。徐々に勢いがなくなってきた。もう一息だ。



「私だって……可愛いって言われたし……分かる人には分かるし……」

「誰に?」

「あ、アスラーム様とか……」

「そのアスラームはお嬢様にご執心なようですが」



ご執心ってほどではないと思う。



「アスラーム様は誰にでも優しいし……」



だんだん泣きそうになってきた彼女。

″様″って……もしかして、そういうことだろうか?

私は誤解を解くことにした。



「私アスラームに興味ない」

「あ、アピールしてるくせに」

「お嬢様は息をするだけで全方位にアピールしてしまうのです。アスラームなど有象無象と同じです」

「そんなの……それはそれでむかつく……」



どうすれば良いんだろう?

この子はどうやらアスラームが好きみたいだ。

服を貶されたのは腹が立つが、ただの嫉妬なら仲直りの余地はある。


ファッションセンスに絶対的な基準などないというのが私の考えだ。そんなのは時代や流行次第でいくらでも変化する。

私は今ではもう可愛さに関しては異常なファンクラブができるほど認められてると思ってるが、ダサいと思う人がいてもおかしくはない。

しかし人々の大半が私のセンスを認めてくれるならそれは擬似的にでも基準となり得る。

いわゆるファッションリーダーというものだろうか?

できればそこに居座りたいと考える私としては、もし仮に彼女の言葉が嫉妬から出た嫌味でなく、彼女の美意識から出たものであったなら……色々と面倒臭いことになったかもしれない。

美は力であり、可愛いは正義なのだ。



「じゃあ、アスラームと仲を取り持ってあげる」

「え?」

「お嬢様の承認欲求を満たす邪魔をしないならば、貴女の恋愛を応援すると仰っているのです」



承認欲求って……いや、そうだけど。



「な、なんで?」

「仲良くしたいから」

「……ほんとにー?」



まだ半信半疑な様子だ。

ただ面白生物を飼育しようというだけなのに、なんで私はこんな面倒臭い子に絡まれているのだろうか。全ては私が可愛いすぎるのがいけないのか。

ではこうしよう。



「アスラームも研究に引き込むから」

「どういうこと?」



つまりアスラームを入れた3人の共同研究にして会う機会を作ってあげようというのだ。

私が時折二人きりの時間を作ってあげるので、適当に良い雰囲気になってほしい。

もちろん彼が受けてくれたらの話だが。

私がそう説明すると彼女は半目になって睨め付けるように私を見た。



「そ、そんなこと言ってあんたがアスラーム様とくっ付くつもりなんでしょ……そうなんでしょ」

「……もういい、スライム返して」



もう付き合っていられない。私にも我慢の限界がある。

キョウカ先生に言って他の人に変えてもらおう。

彼女は慌てて私に縋り付いた。



「まって! ほんとに……私とアスラーム様の仲を応援してくれんの?」

「……うん」

「なんで? なんで貴女を馬鹿にした私にそんなことしてくれんの?」



彼女のためだけではない。

私はたかが馬鹿にされただけだ。言い返したし、もう誤解を解けば解決する問題ではないか。

そんなのにこだわって敵を増やすより味方を増やした方がずっと賢明だ。

私はもう一度彼女の目を見て言った。



「貴女と、仲良くしたいから」

「……わかった、信じる」



ようやく彼女の心は氷解したようだ。長かった。前途多難である。

それから彼女は目を逸らしてボソッと付け加えた。



「あとその服カッコいいと思う」

「あ、ありがと……」



私の心も氷解した。

苦労したが、これなら仲良くできそうだ。

アスカは大体昼休みはいつもここにいるらしい。首尾良くアスラームを誘えたらまた会いに来よう。

断られても、彼を連れてくるくらいはしてあげたい。

私は机の一角で大人しくしていたスライムを持って生物室を出たのであった。







家に帰った私は変な疲労感を覚えていた。私は体力は全くないが回復力は高いらしく、こんなにどんよりとした疲れを感じることは今までなかった。


……たぶんこれは精神的な疲れだ。

今日は大変だった。

クッキーでクラスに気を使っても、模擬戦では恨み言言われるし、他人の恋愛に巻き込まれるし……。


そもそもが快気祝いからしてちょっと違和感があった。

私は人から優しいなんて言われるが、そういうのは大抵、私が思い付きでやっている些細な行動である。そういう時、私は相手からの好意やお返しなど全く期待していない。


しかしながら、今日やっていたことはどうだろうか? 見返りを期待して頭を働かせた結果だ。いわば人気取りである。

悪い事ではないはずだ。相手が喜び、私に感謝する。そして私も嬉しくなる。

しかしその行為に私はほんの少し抵抗を感じていた。


委員長になった以上、皆に認めて貰わなきゃいけない。色んなことに気を回す必要があるし、人気取りだって必要かもしれない。

でも……とても不自由だ。

私は自由でいたいと思っている。

私の理想の私、理想の生き方は自由であるはずだ。

ならばこれはなんだ?



「私を屈服させたい人がいるんだって」



私はスライムに話しかけた。スライムが波打つ。

それは覚悟していたことだ。上に立とうとすれば敵視される。

あんなおかしなファンクラブができるとは思わなかったけど、要は生意気だから屈服させたいというのだろう。

クッキーなんか配っても彼らは認めてくれそうにない。

それでも私は彼らとすら上手くやっていく必要がある。



「お嬢様、お疲れですか?」



エステレアがお茶を持ってきた。ハーブティーのようだ。そして私の隣に座る。



「エステレア、膝枕して」

「もちろんですわ」



私はスライムの入った袋をテーブルに置くと、エプロンを解いた彼女の膝に頭を乗せて目を閉じた。

エステレアは私の髪をゆっくり撫で、指で梳いていく。



「これはヒプレカムのハーブティーです。ストレスを軽減する効果があるそうです」



ストレス……そうか、これはストレスか。

エステレアは私がストレスを感じている事などとっくにお見通しだったようだ。



「……お嬢様は純粋なのです。騙しているようでお嫌だったのでしょう?」

「そう……かも」



私の違和感の正体はそれだ。快気祝いと言うものの、私は皆からの支持を期待していた。

私は承認欲求を満たすことが目的になっていた。

私の理想はあくまで自分がやりたい事をやるのが前提だ。承認は副産物でなければならない。それを目的とすることは他人に判断基準を委ねる行為だ。

自分を曲げて承認されてもどんどん曲がっていくだけだ。


快気祝いが自分を曲げた行為だという事ではない。それ自体は良い事だった。私の感謝の気持ちを伝えるものだ。

だがそこに別な動機が含まれていたことを私は知っている。全てが成功したように見えても自分は誤魔化せない。それがトゲのように刺さるのだ。



「私、間違ってた」

「……お嬢様がそう仰るならそうなのかもしれません。お嬢様が素直に喜ぶ事のできない道はきっと進むべきではないのでしょう」

「うん……」



要は心の持ちようである。

それは正攻法で承認されるのが難しいと考える私の自信のなさの表れだ。

私はまだ他人の目を気にしてコソコソと保身に走っていた。

思えばフレデリックの件も保身のために彼を利用したに過ぎない。


小賢しい。

そうだ。私は間違っていた。

声が幼女とかフィジカルが弱いとか生意気だとか、そんなもの吹き飛ばすほど私がリーダーに相応しければ良いだけだ。他人の決めた基準に惑わされすぎた。

基準は私が決める。


……そういうところが屈服させたいとか言われる理由なのかもしれない。

しかしそこはそれ、こちらが逆に屈服させるくらいの気持ちで行くべきだ。


私は起き上がって、ハーブティーを飲む。爽やかな苦味とハチミツの甘みが口に広がった。

うん。とりあえずそういう方針で行こう。我が心に一片の曇りなしである。

アスカの件は……約束は守らねばならないが、彼女にもアスラームにも誠実にやっていこうと思う。



「もう大丈夫」

「さすがはお嬢様」



もう少ししたら夕食の時間である。

その前にスライムは返しに行かなければならない。私は机から袋ごとずり落ちそうになっているスライムを拾い上げて立ち上がった。



けっこう悩み多い子ですけど、あまり引きずらない感じですね。大体30分もすれば立ち直ります。羨ましいですね。

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