クラス最弱脱出しました
寝ぼけて予約日時違えて、昨日更新してしまいました……すみません。
今週から月水金で更新していきたいと思います。
※9月2日誤字修正しました。ご報告ありがとうございます!!
翌朝、早起きしてラッピングしたクッキーを教室まで運んでいく。
いつものように数分遅れで教室に入る私達。
遅刻に関してはもはや何も言わなくなったヤコ先生であるが、教壇にクッキーの袋をドサドサ置く私たちを見てさすがに眉をしかめた。
「……何の真似じゃ?」
「骨折の快気祝い」
「心配してくださった皆様にお嬢様がどうしてもお礼がしたいと」
「ほう、良い心がけではないか」
先生は感心したようだ。
「エステレア」
「はい、先生にはこちらを」
エステレアが取り出したのは少しだけ多く入った袋。
ちゃんと先生の分も用意してあるのだ。私が受け取って手渡しをする。
「お主もマメな女じゃのう。わしの教え子とは思えん」
まだ半年も教わってないけどね。
それから3人の手も借りて教室全員に配っていく。
「味わって食べて」
「お、おお……前のうまかったぞ」
「当然」
グレンだ。
前にグレンにあげたのはエクレアとエステレアが作ったやつなので、美味しいに決まっている。
さらに私のチームメイトだった4人。
「一生ついていきますw」
「ワイはお嬢様の号令好きやで」
全員に配り終わって、私は壇上に立って見回した。
既にみんな食べ始めている。
甘い物苦手な人とかいるかもしれないと思ったが、常に不貞腐れ感出してるバルザック以外には歓迎されているようだ。
「お見舞いとか……心配してくれて、ありがと」
昨日よりずっと拍手が増えた。
席に戻ると例によってエステレアが頭を撫でてきた。
私の発案でみんなに喜んでもらえたのだ。すごく嬉しい。
やっぱりやって良かった。
……こうやって好感度を上げていけば私をリーダーとして認めてくれるようになるかな。
その考えは私の胸にチクリとした違和感を残した。
休み時間になり、私はBクラスの教室の前に来ていた。エクレア達にもクッキーを渡すためだ。
覗き込むともう授業は終わってるらしい、しかし他のクラスの教室というのはなんとなく入り辛いものである。
私が教室のドアのところで覗き込んでいると、どういうわけか全く関係ないアスラームが気がついた。
相変わらず勘が良い人だ。
「何か用かな?」
「これ、エクレア達に渡したい」
綺麗にラッピングした袋を見せる。
「これ君が作ったのかい?」
「うん、骨折してるとき、みんなに優しくしてもらったから」
「へえ……」
エクレアなんて、家に帰れなくなるのを承知でお粥を作って私が目覚めるまで待っていてくれたのだ。
クッキーくらいじゃお返しにもならないかもしれない。
アスラームは事情を説明してもエクレアを呼ぶでもなくただ私を見ている。
なんだろう?
……まさか、欲しいのだろうか?
一応多めに作っておいたので在庫はある。余った分をあげることはできる。
彼には特にお世話になってないとはいえ、同じ部活の仲間だし、委員長同士としてこれからお世話になるかもしれない。
私はエステレアから袋を受け取ると、彼に差し出した。
「あげる」
「……ありがとう。君は本当に優しい子だね」
意外と食い意地の張った人だ……。
彼の手が自然な感じで私の頭に伸びてくる。
「何をなさるのですか?」
エステレアが私を守るように引き寄せる。彼の手がピタリと止まった。
この人、今、私の頭を撫でようとしたのか。
「レディの頭を触ろうとするなんて無礼ですよ」
「すまない。その通りだね」
エステレアが言うとまるで説得力がなく聞こえてしまうが、よく知らない男性がやるのと親しい女性がやるのは全く違うので筋は通っているのである。
アスラームは大人しく引き下がると、エクレア達を呼びにいってくれた。
その姿が十分に離れたのを見てエステレアが囁く。
「お嬢様お気をつけください。あの男、痴漢です」
「痴漢」
「間違いありません」
たしか前の世界では、許可なく突然触れるのは頭であろうとセクハラ案件だったような気がする。痴漢と言われるとたしかに痴漢かもしれない。
「セレストエイム様クッキー作ったって? 」
「アスラームが見せびらかしてたわ」
エクレア達だ。やっぱり彼より先にこの3人に渡すべきだったかな。
用意しておいたクッキーをそれぞれに渡すと喜んでお礼を言ってきた。
そんなエクレア達にエステレアが声を潜めて注意を呼びかける。
「あのアスラームは要注意です。お嬢様に良からぬ感情を抱いていると思われます」
「やっぱり!なんてやつなの!」
「うん……知ってた」
「エクレア、お嬢様に虫がつかないよう彼の動向を監視するのです」
「わかったわ!」
「あいつに渡さない方が良かったんじゃない? クッキー。変な噂立つかもよ」
「物欲しそうだったから」
たしかに、Bクラス男子で彼だけもらってたら何事かと思われるかもしれない。失敗したかな。
……他の誰かにもあげて誤魔化すというのはどうだろうか?
Bクラス男子に知り合いはアスラームしかいないが、名前を知ってる人はいる。
たしか、クロエの協力者で……。
「フレデリック……っている?」
「え? いるけどどうして?」
「カモフラージュする」
「クロエのお知り合いの方ですね。さすがはお嬢様、智謀湧くが如しですわ」
「なるほどね、呼んでくるわ」
アンが呼んできたのは浅黒い肌の貴族っぽいイケメンだった。Bクラスはそんなのばかりなのだろうか。
むさ苦しいチンピラと変人ばかりのAクラスとはすごい違いである。
私は彼に袋を差し出した。
「これ、クロエが」
「ちょ、ちょっと!……まずいですよ。内緒なんですから、怪しまれます」
彼は私の話を遮って辺りを見回す。その動きの方がよほど怪しい。精悍な貴公子風の容貌のくせになんだか小心な感じだ。
「私の正体、皆さんご存知なんですね?」
「ええ、しかし私達のグループは皆、信用のおける方々ですのでご安心下さい」
「あーしら口固いから大丈夫よ」
「不安だなぁ……彼女とはあれ以来接触禁止です。私と彼女は何の関係もないということでお願いします」
「わかった」
しかし、とにかくクッキーは受け取ってもらわなければ困る。私としてはBクラスでお世話になってる人ということでアスラームやフレデリックに渡したことにしたいのだ。
私がそう説明すると彼は困ったように頭をかいた。
「……それならアンさんかトルテさんと私的な付き合いがあることにしましょう。その繋がりで頂くということでどうでしょうか?」
「あ、それならあーしで!」
「……ま、いいんじゃない?」
トルテが勢いよく立候補するのを生暖かい目で見守るアン。下心見え見えである。
気の多い彼女の気持ちはわからないが、フレデリックがイケメンなのはわかる。
トルテが狙ってるなら応援してあげようか。
ともあれ、そういうことなのでトルテがお世話になってるという体でクッキーを渡す。
彼はお礼を言うと、急に改まった口調になった。
「ではトモシビ様、今後はご用がありましたらトルテを通じてお申し付けください。我々はいつでも貴方様をお待ちしております」
「ん……でも私、そういうのじゃない」
彼らは私の身体的特徴だけで聖火神と決めているようだが、私は聖火教に行くつもりは全くない。
クロエは大事なメイドであり友人だが、教団とはまた別だ。
彼は意味ありげに笑って去って行った。
その背中を見てトルテも意味ありげにニンマリと笑う。
「イケメンゲットだぜ」
「その調子でトモシビ様に近づく男全員ゲットしていってよね」
「贅沢な悩みね」
よく考えると彼は王都で活動するスパイみたいなものだ。トルテとくっつけて大丈夫なのだろうか?
……本人が良いなら良いか。
私は気にしないことにした。
今日の4限目は模擬戦だ。
実はこの模擬戦というのはわりと重要な位置付けにある学科だ。
というのは、この世界において一個人の武力というのは戦争の結果すら左右するほど重要な要素だからである。
一年生のエクレア達ですら魔物クマを容易く屠ることができるのだ。騎士にもなれば石を投げるだけで弾丸のような威力が出るし、エクスプロージョンより強力な魔術もたくさんある。
火薬兵器が発達していないのは、たぶん下手な銃火器より魔法の方が強いからだろう。修練を積んだ魔法使いはまさしく一騎当千なのである。
私はバルザックとの一戦以来、骨折を理由に模擬戦は全て見学させられていた。
それまでクラス最弱を欲しいままにしてきた私だが……いや欲しくないのに甘んじてきたのだが、とにかくまだ自分は最弱だとばかり思っていた。
しかし、今、それは覆った。
「勝った……」
メガネ2に勝った。閃光弾からのブースター突撃で剣を合わせ、すかさず電撃で決着だ。
「お嬢様!素晴らしい戦いぶりです!」
「エステレアさん、横の試合ばかり見ないで……」
エステレアの対戦相手であるイキリの嘆きが聞こえる。
バルザックとの戦いは無駄ではなかった。電撃を凌いでも接近戦で使えるパイルバンカーがある。
極悪コンボだ。
私って実は強いのかも。
私の足元で倒れ臥すメガネ2、その目線が何かを注視している。
私は後退りした。
今、この人スカート覗き込んでた……。
「く、くそっ、このメスガキ色気付きやがって」
そしてこれが覗いた感想である。
悪態を吐くメガネ2に私はしゃがみ込んで勝ち誇った顔を向けた。
バルザックには萎縮してたくせに私にはこの態度。ちょっとからかってあげてもバチは当たるまい。
「どんまい」
「……なんでお前ばっかり贔屓されるんだよ」
「え?」
「俺と変わらない雑魚のくせに……」
贔屓されてる? 私が……?
そんな事ない、と思う。私はちゃんと結果を出した。弱くてもやれる事を証明した。それだけは否定されたくない。
その時、背後から声がかかった。
「やめなさいイトゥー、見苦しい」
「……くそ」
「次は私がお相手しましょう」
「なにもの……?」
「私も決勝で戦ったでしょう」
彼はメガネ3と私が名付けた人物だ。
メガネ2と一緒にバルザックの後ろで震えてたのを覚えている。
メガネ2は私に次いで弱かったので復帰戦で挑んでみたのだが……瞬殺してしまった。彼もこのパターンでいけると思う。
よし、気持ちを切り替えよう。
「私に挑む勇気は認める」
「その大口がいつまで続くか見ものですね」
試合開始だ。
まずは閃光弾。さっきのを見ていたなら警戒しているかもしれない。
なので時間差で2発撃つ。
「読めてますよ!」
2発目からも目を守った。
ならば突撃だ。空中で剣を振り下ろす……が、受け止められる。すかさず電撃をエンチャント。
必殺コンボである。
「!?」
勝ちを確信したその瞬間、体に痺れが走った。私の筋肉が勝手に動く。剣を取り落とし、地面に突っ伏してしまう。
これは、電撃が逆流した?
「それはもう見ました」
彼の立っていた地面が凹み、私のいるところが盛り上がっている。土の魔術か。私の足が地に触れたせいで私に電気が流れたのだ。そんな簡単に破られるとは……。
彼は手にはめた白っぽい手袋を見せつける。
「電気を遮断する透魚の皮です。魔法戦クラスで同じ技は二度も通用しません」
「ぐぬぬ……」
「……ふふ、いい格好ですねえ。貴女の事は嫌いではないですが、イトゥーの気持ちもわかります。こうして這いつくばらせると気分がいい」
彼は倒れた私を見下ろしてニヤニヤしている。
私の委員長就任に良い顔をしないのはこういう人たちか。
「そうそう申し遅れました、私、『お嬢様を屈服させる会』会長、テレンスと申します。一応貴女のファンクラブですのでお見知り置きを」
なんだその歪みきったファンクラブは。
全く嬉しくない。
いや、やっぱりちょっとは嬉しい。ファンクラブだし。
しかし強い。メガネ3だと思って舐めていた。そもそもメガネ3などという呼び名が舐めていた証拠だ。
これからは会長と呼ぶことにする。
魔法戦クラスにいる以上彼も戦いのエリート候補なのだ。
私が成長したなら皆も成長する。
私が必殺コンボを開発したなら対策するのは当たり前だ。
このやり方はもう通用しないと思った方が良いだろう。もっとパターンを増やしたりすべきか。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫」
威力を抑えた電撃なので全然問題はない。
エステレアは私を助け起こすと会長を睨んだ。
「ひっ」
「お嬢様の仇は私がとらせて頂きます」
「い、いや、遠慮します」
エステレアは問答無用で襲いかかった。普通に剣技で圧倒している。会長は防戦一方だ。この人は私と同じ小細工を弄するタイプらしい。単純な力で来られると弱いようだ。
エステレアは隙を見て、彼のがら空きの腹部に爆弾の魔術を叩き込んだ。
「ゲホッ……」
「これはお嬢様の分です。お嬢様が貴方を罰したと思いなさい……はっ、お嬢様から罰を!?なんて羨ましい!」
一人で勝手に怒りのボルテージを上げていくエステレア。爆弾もかなり威力を抑えていたようだが、このままでは彼女を殺人犯にしてしまう。
私はエステレアを後ろから抱きしめた。
「それまで」
「……ふう、そうですね。慈悲深きお嬢様に感謝しなさい。そしてこれからは心入れ替え、世のためお嬢様のための組織を作りなさい」
「ひ、ひいい」
会長は逃げていった。私がやられた相手もエステレアにかかればこの通りだ。しかもエステレアは私たちのグループでもそこまで強い方ではない。
……結局、私は低レベルな争いをしていただけなのだろうか。
私は気分転換にエステレアと試合したくなった。
「次は私とやろ」
「まあ、願ってもない事ですわ。うふふ……お覚悟を」
案の定まともな試合にならなかった。
エステレアとやるといつもこうである。二人とも真面目に攻撃しようとしないから当たり前だ。
しかしそれはそれで楽しい。
そのエステレアとの試合も結局最後は私が負けたわけだが、今日は一勝できただけでも成果は大きいと考えるべきだ。
やっぱり雷の魔術は絶縁体で対策されてしまったか。
今のところは会長以外になら効くかもしれないが雷は基本魔術の一つだ。授業で習った瞬間に私の優位は完全に消えてしまう。
閃光弾もバレたら通用しない。
つまり……私の戦法は初見殺しなのだ。地力で勝てないなら奥の手を多く隠し持つしかない。もっと考えて多様な勝ち筋を持たなければならない。
一応、国中から才能ある子を集めてる学園なのでクラスメイト全員優秀です。
ちなみにまともな人間はBクラスに集められています。




