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人生色々ゲーム



「あ、待ってたよ〜」

「フェリスー」



家に帰るとフェリスがいた。両手を合わせてハイタッチ。私達の間で最近流行りの挨拶である。

フェリスが勝手に入ってきているのは驚くことではない。私の家の鍵は既にフェリスとエクレアの魔力を登録してある。彼女達には自由に入ることを許可しているのである。

ちなみにエステレアとクロエはメイドなので当然登録済みだ。

ちなみに今日は日曜日なのでクロエがメイド仕事をしている。

エステレアはオフだ。オフなのだが普段と変わりなく私に付いて歩き回ってくれたのである。



「お帰りなさいませ。これフェリスさんが持ってきたんですよ」

「じゃ〜ん! 人生色々ゲ〜ム〜」



といってフェリスが取り出したのはボードゲーム一式。



「家具屋のカズトーリさんがくれたんだよ、魔導具式のやつ」



わざわざオモチャに魔導具技術を使う人はあまりいない。かなり高価なもののはずだ。あの人は本当にフェリスを可愛がっているらしい。

一見普通のボードゲームに見えるが何が違うのだろう?

とにかくみんなでやってみようということになった。



「この人形に魔力を込めるらしいです」



説明書を読むクロエ。

言われた通り、木で作ったチェスのポーンのような人形に魔力を込める。

人形はメキメキと音を立てて変化し始めた。ちょっと怖い。

できたのは3頭身くらいのデフォルメされた髪の長い女の子。色も変わっていく。髪の毛が銀と赤に……これ私だ。



「かっ、かわ……!!」

「かわいいですね。ミニトモシビ様です」

「動いてるよ。トモシビちゃんそっくり」



髪をサラリとしたり、どこからともなく椅子とティーカップを出して何か飲んだりしてる。一体どんな仕組みなんだろう。

というか私、こんなおすましムーブしてるのか……なんか恥ずかしい。


他の三人も同じように魔力を込めてみた。

ミニエステレアはしきりにミニ私に構おうとし、ミニフェリスは眠そうに目を擦っている。ミニクロエはミニ私達を見てニコニコしている。

これはやばい。すごくかわいい。

見てるだけで楽しい。



「かわいいねぇ」

「これだけで売っても良いくらいですね」

「カズトーリ様に入手先をお聞きしましょう。お嬢様だけのお嬢様ランドを作るのです」



私ばかりいてもなんか寂しいし、全部自分が本物だと主張して悲しい結末を辿りそうだからやめてほしい。


さて、いつまでも眺めていたいが、ゲームのコマなのだからちゃんと使ってあげるべきだろう。

人形達はボードを広げると勝手にスタート位置に移動した。

楽しそうなミニフェリス、おっとりしてるミニエステレアとミニクロエ。

ミニ私は手を振り上げて一人で物凄いやる気出してる。

なんだろう……客観的に自分を見せられるのがこれほど居た堪れないものだとは思わなかった。


中央の透明なドーム上の中にサイコロが入ってる。ボタンを押せば中がシャッフルされるらしい。

最初は私からだ。

ガチャガチャコロンとふられるサイコロ。

目は6。悪くないスタートだけど、赤いマスってなんだろ?

ミニ私は張り切ってダッシュで駆けていって……転んだ。



「あっ」

「ドームのとこに文字が出てますよ」

『転んでしまった。過ぎたるは及ばざるが如し。一回休み』



……。

しょんぼりして体育座りしている。



「あああ、胸がキュンキュンします。次は私が」



エステレアのターン。

5だ。青いマス。



「青いのが良いことが起こるマスで赤いのが悪いことが起こるらしいです」

『友達と喧嘩してしまう。一番近いプレイヤーから体力を1奪う』

「なっ……」



ミニエステレアはミニ私の元にツカツカと歩いていくとポコっと殴った。ミニ私は喧嘩どころか頭を抱えて座り込んでいるだけである。

切ない。



「ミニトモシビちゃん……」

「お嬢様、私は……私はなんてことを……」

「大丈夫、ゲームだから……」



クロエの説明によるとパラメータは本人のがある程度反映されるらしい。つまり私のただでさえ低い体力がさらに下がったという事だ。その機能いらなくない?


次はフェリスだ。出た目は6。私と同じである。



「一緒だねトモシビちゃん」

「うん」

『誘拐犯だ! 逃げる? 戦う?』



二人組のポーンが現れる。たぶんこれが誘拐犯のNPCなのだろう。



「戦うよ。私だって魔法戦クラスだもんね」

「さすがフェリスさんですね」



逃げたら私の方を誘拐しそうだ。ミニフェリスは誘拐犯を相手に大立ち回りを演じている。



『君の活躍で誘拐犯は逃げ去った』

「やった〜」



誘拐犯は同じマスで座り込んでる私を蹴って逃げていった。我ながらなんて不憫な子だろうか。

転んでからずっと座り込んで踏んだり蹴ったりのミニ私。

一方、ミニフェリスは同じ赤マスなのに立ち向かって跳ね返した。

第一歩から人生を考えさせてくれるゲームである。

ミニエステレアは勝手に動いてミニ私を撫でて慰めている。基本的にはエステレアと同じで優しいようだ。



「最後は私ですね。最初は就職エリアだそうです。先に就職した方が有利になるらしいですよ」

「お嬢様がいるのにまだメイドになってないなんて私失格ですわ」



エステレアのミニエステレアを見る目は厳しい。

エリアというが、実際は同じマップを使い回すらしい。マップは同じでもイベントの内容が違うのだろう。よくできてる。



「あ、私はイベントマスですよ。たぶんこれが就職です」



3だ。緑のマスはイベントマスなのか。



『働かざるもの食うべからず。あなたは仕事を探すことにした』

「クロエちゃんが一歩リードだね」

「できればトモシビ様のメイドがいいんですけどね」

「良い心がけです」



神官、商人、冒険者……。

説明書によると様々な要因で就ける職業は変わる。今表示されているのは就ける職業だけである。



「メイド、ないね」

「仕方ないですね。神官になりましょう」



クロエは神官選択した。ジャンプして喜んでるミニクロエ。

かわいい。

ランク、『見習いシスター』と表示された。



「……正教会のようですね」

「ち、違います!私の信仰はトモシビ様だけです!私は敬虔なトモシビチャンです!」

「トモシビちゃん?」



クロエは聖火教だったはずだが、いつのまにか個性的な信仰を持っていたようだ。それで普通に神術が使えるのだから、世の中は訳がわからない。





そんなこんなで全員の職業が決まっていく。フェリスは魔物ハンター、そして私は……。



「正義の味方?」

「カッコいい!」

「トモシビ様にぴったりです」



迷わず選んだ。なにしろ正義の味方とフリーターの2択である。

ミニ私は剣を掲げて相変わらずやる気満々だ。


そしてエステレアの番になった。



『悪の組織』

「はっ……?」



それしかない。自動的に決まってしまった。

たぶん、さっきから強奪とか嫌がらせだとか酷い行動ばかりしているからだろう。ほとんどは選択肢がなく勝手になっているのでエステレアのせいではないのだが。



「トモシビちゃんとエステレアさん戦うの?」

「数奇な運命ですね……」

「もう私の望みはお嬢様の手で天に召されることだけです……」



あまりに悲しい台詞を言うエステレア。

ミニエステレアはミニ私とかわいく威嚇しあっている。

そんな殺伐としたゲームではないと思いたい。


それから、私とエステレアは事あるごとに対決イベントをする事となった。そして大体ミニ私が一方的にボコボコにされた。

とはいえ、ミニエステレアはイベント終了後にミニ私を抱きしめたり撫でたりと勝手に動いてフォローしており、それがエステレアの罪悪感で潰れそうな精神をなんとか繋ぎ止めていたようだった。

やってることはまるでDV男のようだが、イベントで強制されている以上、ミニエステレアとしても、これが精一杯なのだろう。

私もだんだん健気で心温まる光景に見えてきた。



「ミニエステレア、いい子だよ」

「この世界はなんて残酷なのでしょう……」



クロエは物件を買いあさり、フェリスは着々とエリアトップを取って褒賞で稼いでいる。

エステレアは既に魔王となって私から奪ったお金やステータスで潤っている。

私は資産もなく運もなくステータスもない。

誰がどう見ても私が最下位であろう。



「勝ち目なさそう」

「でもミニトモシビちゃん頑張ってるよ」

「お嬢様そっくりです」



ミニ私はいくらやられてもやる気満々である。

これが客観的に見た私なんだろうか?

それなら、悪くないかな。







最後のエリアが終わった。私がぶっちぎりで最下位である。



「大丈夫ですよ。こういうのは最後に逆転のチャンスがあるはずです」

「そうじゃないと楽しくないもんね」



仕草がいちいち可愛いので私としては負けてても楽しめた。

しかしミニ私がまだ諦めてないんだから私も諦めるわけにはいかない。せめて最下位からは脱出して終わろうではないか。



『君は全財産を賭けて勝負に出ることができる』



サイコロの目が1なら私の財産が倍になり、それ以外なら0になる。

倍はすごい。

それなら一気に2位になれるはずだ。


運命のサイが振られた。

ミニ私だけではなく、全員が固唾を呑んで見守る。

結果は……。



「……やった」



1だ。ミニ私がカーテシーをした。



「出ちゃったね〜」

「さすがはトモシビ様。持ってますね」

「おめでとうございますお嬢様、これで私が4位ですが……悔いはありません」



そうか、私が最下位脱出したらエステレアが代わりに落ちるのである。

……いや、まだだ。最後までわからない。

次はエステレアが賭けに挑戦する番だ。



「エステレアも勝負して」

「……お嬢様がそう仰るなら」



結果は……1。



「えぇ〜!?」

「持ってますね!」

「おめでと」

「お嬢様……ありがとうございます」



ダブルアップ成功である。エステレアは一気に1位に躍り出た。

これで最下位はクロエ、次はフェリスの番だ。



「せっかくだから私もやるよ」



結果は……1。

なんだこれ。壊れてるんじゃないだろうか。

フェリスが1位である。



「フェリスも持ってた」

「こ、こんなことあるんだね」



こうなるとクロエも勝負せさざるを得ない。

結果は……。



「1しかでませんね」

「おかしいですよこれ」

「……」



結局、やる前と同じだ。フェリス、クロエ、エステレア、私の順位。

まあいいか。

最後のサイコロはおかしな動きしてたけど私は精一杯やったのだ。

……いや、やっぱりよくない。どう見てもおかしい。3人が不正をしているとは思えない。ならばゲーム自体に問題があるのだ。


その時、突然、ドカッという音がした。

ミニ私が凄い勢いで飛んでいってドームに思いっきり蹴りを入れたのである。

衝撃でドームが外れる。

……今、この人形魔法使った?



「びっくりした〜、ミニトモシビちゃんどうしたの?」

「あれ? なんかいます」

「む、虫?」

「これは……」



クマの人形だ。

ドームの裏からクマの人形が出てきた。

これがコンピュータのコアような役割をしていたのだろうか。

よく見るとこれ、カズトーリさん本人の人形だ。

そのクマ人形は倒れたまま数秒後、スッとポーンの人形素体に戻ってしまった。ミニ私達もいつのまにか素体に戻っている。



「彼がお嬢様を陥れていたんでしょうか?」

「フェリスさんの運がやけに良かったのもひょっとして……」



なるほど。道理でフェリスばかり良い目が出るわけだ。

しかし私が冷遇されるのはなんでだろう?

恨まれる筋合いはないはずだ。



「も〜、私贔屓されても楽しくないよ」

「あの老人を問いただす必要がありますね」



でも楽しいゲームだった。

人形素体はいくつもあるし、変な不正さえ直してもらえれば大人数でもプレイできそうだ。

学園に持って行って暇な時に遊ぼう。


この人形、想像すると可愛くて好きなんですが、文章にすると全然伝わらない気がします。

この世界ではゲームといえばボードゲームかカードゲームしかなさそうですね。

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