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晩餐会

※8月15日、文章校正



今日はお城でお泊まり会をする予定だ。

とりあえず用意をするために一旦帰って、馬車の迎えを待つ。

ドキドキである。

なぜって王様や王妃様と夕食を食べるらしいのだ。

それに伴って、寮組は私の部屋で作法の練習をすることになった。孤児院の方はメイが指導しているらしいのでたぶん大丈夫だろう。

そんなわけで私は挨拶の練習をしながら、フェリスがぎこちない姿勢で歩いてるのを眺める。



「どうかな?」

「……緊張しすぎ?」



尻尾が横に伸びてへの字に曲がっている。相当緊張している証である。

フェリスの尻尾には今回リボンを結んである。そういう決まりがあるわけではないが単に可愛いから結んでみたのだ。

ちなみに服装は皆制服だ。ドレスなどと言われなくて良かった。

私はいつものゴスロリ風で、髪の毛はサイドを三つ編みに編み込んで纏めた手の込んだ髪型である。

ちなみにクロエの制服は、エクレア達との出会い事件から、セクシー路線はやめてボタンなど変えただけのシンプルなものになっている。



「……ほんじつ、は……ちが……ただ今ごしょ、ご紹介……」

「トモシビちゃんも緊張しすぎだよ」



ただでさえ喋るのが苦手な私にこれはハードルが高い。一応、文章は考えたのだが長すぎる気がする。

これをカーテシーしながら言うのは辛いかもしれない。王様に対するカーテシーはいつもよりずっと腰や膝を曲げなければならないのである。

長く喋る時って一体どこで息継ぎすれば良いんだろう?



「リラックスですよ皆さん。王様なんて神であるトモシビ様と比較したらただのおっさんです」

「そうですわ。お嬢様にお会いできる相手こそ緊張すべきなのです」



とんでもない事を言い出す二人。

クロエとエステレアは肝が座ってる。クロエは出会ったときはあれだけオドオドしてたのに見違えるようだ。

私もそのくらいの気持ちで行くべきか。

……でもエステレア。



「メイドエプロンはダメ」

「そんな……!」



今日はメイドでなくて級友として行くのだ。もてなされる側である。

メイドカチューシャも外す。

その代わりに耳にあるものを付けてあげた。



「これあげる」

「……イヤリングですか?」

「わ〜綺麗」

「これ高いやつですよ」



銀のイヤリングだ。実は自分のために買ったものだったが一度もつけていない。

エステレアに似合いそうだと思っていたのだ。耳につけてあげるとやっぱりよく似合っていた。



「そ、そのようなもの頂くわけにはまいりません!」

「もらって、お願い」



最近、私もものの頼み方が分かってきた。こうやって目を見てあざとくお願いするとみんな言うこと聞いてくれるのだ。言葉に詰まるエステレア。



「頂いて良いんじゃないですか?」

「貰ってあげた方がトモシビちゃん喜ぶよ〜」

「……もう、しょうがないお嬢様ですね!」



なぜか私がわがままを言ったみたいになっているが、よく見ると口元が綻んでいる。そして思い切り抱きしめられた。



「でもとても嬉しいです。ありがとうございますお嬢様」



喜んでくれて良かった。

緊張が解れたところで練習を再開する私達。



「ただ今、ご紹介に、預かりました……うーん」



もうここ省こう。″俺″の知識で定型文入れてみたけど、友達の家で食事するだけの事と考えると馬鹿馬鹿しい気がする。大体ご紹介なんてしてくれるのだろうか?

それに私にしては優雅さが足りない。



「いち、に、いち、に……」

「上から吊り下げられるような気持ちで、無駄な力を抜くようにしてみてください」



フェリスも優雅さが足りない。私も歩くだけなら自信があるのだが……。

うん。やっぱり型に嵌めようとするから良くないのだ。もっと自分らしくやろう。

私はおもむろにフェリスに近づいくとまだへの字になっている尻尾を解し、その手を取った。



「いつもみたいに歩いてみて」

「う、うん」



いつものように繋いだ手を振りながら歩くとだいぶ自然になった。いい感じだ。こうしていれば私もリラックスできる。歩きながら発声練習する。



「あー、あー、今日はお招きありがとう。わらわは嬉しい」

「あはは!なにそれ!」

「でも似合ってますね」



そんなことをしてると迎えが来た。

いつもの10人くらい乗れる馬車である。エクレア達も既に乗っている。

私達はいつもより少し厳かな態度で登城したのであった。







「いらっしゃい皆さん」

「待ってたよ」



メイに案内され、客間に通されるとアナスタシアとジューンが出迎えた。



「今日はお招きありがとう。わらわは嬉しい」

「え? ええ、どういたしたまして」

「なにその喋り方」



アナスタシア以外にはちょっとだけウケた。

客間は流石に王城というべきか、かなり高価そうな絵がいくつもかけられている。



「これ、アナスタシア?」

「ええ、歴代の王の第一子の絵ね」



みんなどこか似ていると思った。

歴代の王の絵じゃない理由は、ここは王女用の客室だからだそうだ。

王様も王妃様も専用の客室持っているらしい。



「全然使わないから持ち腐れですわね」



使わなくてもずっと掃除はしなければいけないので大変である。うちにも似たような部屋はあるのでちょっと分かる。

しばらく話していると夕食の時間になってしまった。ついに王様とご対面だ。

金の装飾に彩られた豪華な扉をメイが開くと、赤絨毯に純白のテーブルが目に飛び込んでくる。

なんという威圧感。

これは想像以上に豪華だ。緊張がぶり返してきた。

思い出せ。エステレアの温もり、フェリスの尻尾の手触り……よし。

奥に座るのはさすがに見たことがある。王様だ。そしてその横が王妃様。



「ようこそ、アナスタシアの学友達。私が国王ヴィクター・グランドリア、こっちは我が妻シャーロットだ。いつも娘と仲良くしてくれてとても感謝している」

「こちらこそ、すごく仲良くして、もらっています。それにこの度は……こんなに温かな歓迎を、して頂き、ありがとうございます。私、トモシビ・セレストエイムが代表して御礼申し上げます」



最後は一息で言い切った。わりとうまく言えたと思う。案の定、足はプルプルだが。



「あら可愛い。貴女がトモシビさんね。よく聞いてるわ」

「噂通り神聖さすら感じる美貌だな。それに他の子も美人揃いだ。今日は楽しくなるぞ」

「恥ずかしいお父様でごめんなさいね」



これで恥ずかしいのなら、うちのお父様の奇行は悶死級であろう。

メニューはグランドリア伝統のコース料理である。

最初に運ばれてきたのは前菜だ。

給仕はメイを含めた5人。エステレアは彼女達の一挙手一投足を注視している。



「クロエ、動きを目に焼き付けるのです」

「はい!」



これはもうメイド師弟だ。クロエもそろそろ本職を忘れてきたかもしれない。



「フォアグラのカナッペでございます。ブルーベリーソースでお召し上がり下さい」

「フォ、フォアグラだってエクレア。どうする?」

「あーしらとんでもなく場違いね」

「卑屈にならないの、騎士になるんでしょ」



いつも騒がしいトルテやアンが小声でこそこそ会話する。

聞いていた王様の表情が曇った。



「……すまんな、孤児院の経済状況は全て我々の責任だ。君達が遠慮する必要など何もない」

「三人ともとても優秀だと聞いてるわ。胸を張って立派な騎士なってちょうだいね」



孤児院は王家の寄付で成り立ってる。この前、孤児院の先生がアナスタシアにとても慇懃だったのはそういう理由である。



「う、あ……はい」

「私達ずっと王家に感謝しながら育てられて……緊張してるの、です」



騎士になろうと思ったキッカケはそもそもが王家への恩返しという理由だと、3人は語った。

……私に仕えろと言ったのは浅はかだったかな。

でもエクレアは喜んでるし……。

王様も3人もお互い謝っている。

謙虚な王様である。



「それくらいにしましょう。料理が冷めてしまうわ」

「そうだな。とにかく遠慮せず召し上がってくれたまえ」



そろそろとフォアグラを口に入れる3人。一口だ。

私は残念ながら分けて食べなきゃいけない。はしたないので大口を開けられないのだ。

フォアグラの風味を甘酸っぱいソースが引き立てる。

美味しい。

一個しかないのが残念なくらいだ。

全員が食べ終わると同時に次の品が置かれた。



「きのこのポタージュスープでございます」



音を立てないように一口すくって口に運ぶ。濃厚な香りがする。

生クリームが入れてある。

ほんのり甘くて優しい味。

キノコは原型が分からないほど細かく刻まれているが、4、5種類は使っていると思う。



「どれもグランドリアの近郊で採れた食材を使っている。君達が採集依頼で集めたものの一部は王家でも食しているのだよ」

「何のキノコが使われてるか分かるかしら?」



と、アナスタシア。彼女の席は私の隣である。



「舞茸にエリンギでしょう? あとは……」

「トリュフ、マッシュルーム……」

「エクレア様トモシビ様、全部合っております。すごいですね」

「もう一つ重要なのがあるの、ヒントは私達が取ったキノコ」



なんだろう? マタンゴ?そんなわけないか。困っているとエクレアが手を挙げて答えた。



「ひょっとしてタマゴタケ?」

「エクレアさん正解ですわ! 」



この黄色いのはタマゴタケの色だそうだ。知らなかった。そういえばキノコは紛らわしくて色々調べたっけ。


ちょっと話してたらあっという間に食べ終わってしまった。その絶妙なタイミングで次に出てきたのはメインの肉料理。



「丘クジラのソテーでございます」



丘……クジラ?



「これは私が騎士団と仕留めた獲物なのだよ。こいつらは陸の王者だ。君達もいずれ出会うかもしれんぞ」

「クジラが丘にいるの?……ですか?」



敬語を忘れかけていたフェリスが尋ねる。

お皿には付け合わせのポテトや温野菜が乗せてある。それにサラダが別に出てきた。



「そうだ。君たちの想像とは少し違うと思うがな」

「ふふ、丘クジラは足が生えてるのよ。それで歩くの」

「え〜!」



フェリスだけではなくみんな驚きの声を上げた。



「想像するとかわいいわ」

「いやかわいくはないでしょ」

「味もクジラじゃなくて豚肉みたいな味ですね」

「クジラってトモシビちゃん食べことある?」

「うん」



臭みがあって硬くてあまり好きではなかった。



「こっちの方が美味しい」



この丘クジラは牛と豚の中間みたいで美味だ。脂は豚っぽいがトロけるような食感は牛肉の霜降りを思い出す。



「たぶんトモシビ嬢が食べたのは脂の少ない部分ではないかな。尻尾の付け根などは格別に美味いぞ」

「フェリスみたい」

「えっ!? と、トモシビちゃん!」

「あれは東方から入手したものですから、保存用の部位だったのかもしれませんね」

「この人は若い頃、色んなところを旅してたものだから。東方にも行ったことあるのよ」



東方とは、前世で言うところの東洋に近い文化がある地域だ。ここグランドリアはほぼヨーロッパ風の文明であり、東方との中継地に位置するセレストエイムはそれなりに重要な立ち位置にある。

しかしセレストエイムは文化の中継地の割に全然栄えていない田舎だ。全部北の魔王のせいだと思う。

″俺″が日本人だったので、東方にはやっぱりちょっと興味がある。夏休みセレストエイムに帰ったら東方由来のものを探してみようと思っていたところだ。



「お前達も卒業旅行で行ってきたらどうだ?費用は出してやっても良いぞ」

「お父様、気が早すぎます」

「やめなさい。こんなかわいい子達ばかり、襲ってくれと言ってるようなものよ」

「そうか。そうだな……」



卒業したら魔法戦士10人になるとはいえ、外見的にはトラブルホイホイである。こういう時、女の身は不便だ。



「お嬢様、お腹は大丈夫ですか?」

「そうそう、量が多かったら無理しないで残しても良いわよ。トモシビさんは小食だと聞いていたけど、一人だけ量を減らすのは失礼だものね」

「ありがと」

「食べてあげるのはマナー違反でダメなんだよね」



いつもみたいにシェアできないので助かる。

せっかくだからサラダや付け合わせより肉を優先して食べよう。

私がチマチマ食べるのを国王夫妻は妙に温かな目で見つめる。

そういえば最初に出会った時のアナスタシアもこういう目で私が食べるのを見ていた。やっぱり親子である。



「……トモシビ嬢は見た目は母親似だが父親にもよく似ているな。やつも無口なわりに母性本能をくすぐられるタイプであった」



わりと親しい間柄だったのだろうか。

というかその言い方だと王様が母性本能くすぐられてたのか……。



「貴女のお父上とこの人は同級生だったのよ。ちょうど貴女とアナスタシアみたいにね」



私はアナスタシアと顔を見合わせた。アナスタシアも始めて聞いた事らしい。



「私が世界中を旅したと言っただろう? その時一緒に回ったのがやつだ。私の護衛なのに、なぜか私の方が世話を焼かされておった」

「わかる」



容易に想像できる。たぶん王様がお母様のポジションだったのだろう。



「失礼よお父様。それにトモシビが周りに世話焼かせてるような言い方ですわ」

「お嬢様のお世話は私の喜びです。止めろと言われても止めません」

「私なんか無理言ってお世話させて頂いている立場ですから」

「トモシビちゃんはすごく優しいよ〜」



みんなフォローしてくれるのが嬉しい。エステレアなんて散々心配かけてきたのに。



「ははははは!あやつめ!娘に甲斐性で負けておる!」

「ごめんなさいね。姪っ子でも見てる気分なのよ。私もステラとは親しくしてたから」

「いや、しかし、ブライトはとんでもなく腕が立つやつでな。私も私でよく助けられた」



王様は懐かしそうに空中を見ている。色々思い出があるのだろう。



「……長話してしまったな。そろそろデザートを持ってきてくれ」

「かしこまりました」



なんとか丘クジラをお腹に詰め込んだ私だが、相変わらずデザートは入る気がするので不思議なものである。



「スイーツの盛り合わせでございます」

「!?」



中央に置かれた大きな皿には何種類かのスイーツが所狭しと盛られている。

目を輝かせる私達を見てアナスタシアがしてやったりとばかりに微笑んだ。

私の好物であるティラミスやそれにエステレアの好きな苺のショートケーキもある。

覚えてくれていたのか。

気持ち湧き上がる私達を横目に、国王夫妻は席を立った。



「では私達はこれで失礼させてもらうよ。甘味は控えているのでな。今日は若いお嬢さん達と話せて嬉しかった」

「あとは友達同士で楽しんでね。またいつでも来てちょうだい」

「……王様王妃様、今日はありがとう。わらわは嬉しい」

「トモシビちゃんそれ気に入ったの!?」

「はっはっは、どういたしまして」

「本当に可愛い子ねぇ。ご両親によろしくね」



国王夫妻は退室した。

気を使ってくれたのだろう。

アナスタシアに似て気さくで良い人達だった。

私達の間にホッとした空気が流れる。

考えてみると国王夫妻も可哀想である。いるだけで周囲を萎縮させてしまうのだから。

うちの両親みたいにマッサージでもしてあげたら喜ぶだろうか。



タマゴタケって美味しいんでしょうか?

キノコのポタージュなんて粉末スープのやつしか食べた事ないのですが……。


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