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天下統一しました



私がバルザックを倒した、という噂はすぐに広まったらしい。

広まったらしいのだが、校内を歩くと皆が無遠慮に見てくるのは最初からであり、そんな私に噂が一つついたところでその点は特に変わりはしなかった。

しかし教室に入ると変化はあった。



「お嬢様元気か?」

「お嬢様は天使だからすぐ治るよw」



チームメイトだった4人をはじめとする何人かの男子が話しかけてきたのだ。



「お見舞いありがと」

「ええんやで」



元々うちのクラスは男子と女子の間にちょっと溝のようなものがあった。それは私達が最初からグループ化して寄せ付けなかったせいでもあると思うが、以前は遠巻きに見ているだけだったのが話しかけてくれるようになったのは嬉しい事だ。

そしてそれを嬉しい事と考える私や、そんな男子に露骨に敵意の目を向けなくなったエステレアなんかも変化したのだと思う。

ちなみにバルザックは何事もなかったかのような顔で、いつも通り周囲に無駄に威圧感を撒き散らしながら過ごしていた。



「ホームルームの時間じゃオラァ!!」



先生も相変わらずだ。



「怪我は大丈夫かトモシビ」

「大丈夫」

「お主ら健康な時は遅刻してくるのに骨折すると早いんじゃのう。もういっそずっと……冗談じゃ」



ロクでもない冗談を言う。

しかし先生もこの魔法戦クラスの教鞭を取るほどの人だ。あんな戦いを何度も見てきたし、してきたのではないだろうか?

骨折など冗談にできるほど怪我が身近だったということかもしれない。

想像だけど。



「……先生ってすごい」

「な、何がじゃ?」







私にとって魔術理論は楽な授業である。何しろ大体は家で学んだことの復習だからだ。

だがそんな私でもちょっと苦手な魔術がある。

それが今習っている氷の魔術だ。

原理的には他と同じ、魔法陣を描いて魔力を込めるだけなのだが、昔からあまり興味が持てなかった。

何しろ敵にダメージを与えるほど冷やすとなると相手を掴んで魔法陣を描く必要がある。そんな暇があるなら遠くから炎を放つ。

炎はぶつけるだけで引火して大ダメージだが、冷気の塊をぶつけてもせいぜいがしもやけになるくらいだ。

ましてや氷など生成してぶつけるよりスリングで石でも投げた方が強いのは言うまでもない。

実戦では使えない魔法なのである。



「実戦では使えない魔法。そんな顔しとるなトモシビ」

「なぜばれたし」

「あはは、トモシビちゃん顔に出やすいんだよ〜」

「ワシもそろそろお主の表情の変化が分かってきたわい。ほら、ワシらもう親友じゃから」

「そっか」



お酒を飲んだ仲だしね。飲んでたのは先生だけだが。

先生は自分で言っておいて照れ臭そうに視線を逸らした。



「ま、まあ、それで氷の魔法じゃがな。たしかに攻撃に転用はしにくいが、物を冷やせるのはなにかと便利じゃ。夏場の遠征などこれ一つで生死が決まることもあるんじゃぞ」



うちの冷蔵庫にも空調にも氷の魔術が使われている。食べ物の保存などには便利だ。



「最初に言ったじゃろう? 勝利とは生き残ることじゃ。そのために役に立つものは覚えて後悔はせぬぞ」



そういえば昨日エクレアがお風呂でタオルを冷やしたのも氷の魔術系統だ。

高火力の魔術だけ使えても大して役に立たないことを今までの経験で私は知っている。

相手を殺すための魔術などその程度のものでしかない、ということなのかもしれない。







学校が終わり、放課後になった。

教室を出た私達はBクラスへ向かう。

エクレアを誘って家具を見に行こうと思ったのである。

Bクラスはまだホームルームをやってるようだ。

覗いてみると神経質そうなあの先生と、一人の男子生徒が教壇の前に立って皆に向けて何か言っている。

色素の薄い、金髪を通り越して銀髪の髪の毛。部活で見たことある顔だ。

……振り向いた。こちらに気づいたみたいだ。

勘が良いのだろうか。

その動作でBクラス全員が覗いてる私に気づく。

エクレア達が満面の笑みで手を振ってきた。私も負けじと振り返す。

教室の統制が乱れたのを感じ取ったのか、銀髪の男子生徒が私の方に歩いてきてドアを開けた。



「何か用かな? もう少しで終わるから邪魔しないでくれると助かる」

「ごめん」

「分かってくれてありがとう、セレストエイムさん」



いかにも貴族然とした整った容姿をしている、と思った。Aクラスの男子にはあまりいないタイプだ。

というか私の名前知ってるのか。



「怒られちゃったね〜」

「あれがたしか軍総司令の息子のアスラームですよ」

「まだお嬢様に楯突く愚か者が残っていたとは……」



悪の幹部みたいなことを言うエステレア。認めるようになったのは私に友好的な男子だけらしい。

しばらく廊下で話をしてるとエクレアが飛び出してきた。



「やっほー!やっと終わったわ!」



続いてアンとトルテが出てくる。



「エクレア早いよ。起立礼無視したでしょ」

「いいのいいのあんなの。トモシビ様に仕えるんだからトモシビ様に礼したらいいの」



Bクラスって起立礼なんてあるのか。

何事も適当なAクラスとはえらい違いである。



「それは良くないよ。礼節と秩序を学ぶためにやってるんだからね」



と、言ったのは続いて教室から出てきたアスラームだ。



「君もそう思うだろ? セレストエイムさん」

「まあ……」



はっきり言ってどうでもいい。

いや、もちろん礼節だの何だのは良いことなんだろうが、今そんなことどうでもいい。



「ほら、さすがはセレストエイムさんだ。彼女に恥をかかせないためにもちゃんとすべきじゃないのかな」

「もうわかったから。これからちゃんとするわ」

「それが良いと思うよ」



正論だろうけど私をダシに使うのがなんか嫌らしい。私としてはやっぱりヤコ先生くらいゆるいのが合ってる。



「そうそう、僕はアスラーム・バルカ。Bクラスのクラス委員長をしてる」

「トモシビ・セレストエイム。右手を骨折してる」

「面白いジョークだね」



握手はできないという意味で言ったらギャグだと思われてしまったらしい。



「君も委員長なんじゃないのかい? Aクラスが最近天下統一されたって聞いたけど」



天下統一?

彼の話によると、元々グレンやバルザックなど問題児を入学させるに当たって、そこに王女であるアナスタシアを入れることで均衡を図るという天下三分の計なるものが提案されたらしい。



「誰が提案したの〜?」

「ヤコ・クズノハ先生だよ」



いい加減なフリしてそんなこと考えてたのか。

だがアナスタシアの補充戦力として配置された私が逆にアナスタシアを飲み込み、グレンを籠絡し、バルザックを撃破し、Aクラスに覇を唱えたという専らの噂だそうである。



「覇を唱えたってなぁに?」

「トモシビ様が圧倒的な力で従わせたということです」

「元より小賢しい陰謀などお嬢様には通用しません」

「それで君をクラス委員長に任命するって決まったらしいんだけど、クズノハ先生から聞いてないかな?」

「うん」



ヤコ先生のことだからどうせ忘れたんだろう。というか私がいつ力で従わせたというのか。



「力でなんて従わせてない」

「でもバルザック君は力で倒したんじゃないのかい?」

「王道に王道なし」

「……へえ」

「トモシビ様かっこいいです!」

「よく分からないけどすごいねトモシビちゃん」



私もよく分からないが、とにかく私は暴力で他人を従えるのは反対である。一対一では私が一番弱いのだから、やり返されたら私が従わなきゃならなくなる。

いや、そもそもクラスで私に従ってる人なんてメイド2人だけだ。最初から話がおかしい。



「僕もそう思う。君とは気が合いそうだ。これからもよろしく」

「よろしく」



どちらかというと気が合わなそうだが、彼は皮肉で言ってるわけではないようだ。

もし私が委員長になるなら、顔を合わせる機会は多いだろう。仲良くするに越したことはない。

私達は彼と別れて商店街に向かった。







今日のメンバーはいつもの5人にアンとトルテ。

アナスタシア達は公務があって行けないらしい、その代わりに王宮御用達の家具屋を教えてくれた。



「ところで家具って何見たいの?」

「ちょうどいいベッドとかソファベッドがあればと。お嬢様のご要望なのです」

「それってもしかしてエクレアのため? お泊り用でしょ?」

「そうですね。お嬢様のベッドに繋げて拡張するのです」

「みんなで一緒に寝たいから」

「えー!かわいい! 」



どっちかというとメイド2人も一緒に寝るためであるが。



「てか抱き合って寝たってほんと?! エクレア今日めっちゃテンション高かったんだけど」

「うん」

「それは……よく眠れたから……!」

「トモシビちゃんを抱いて寝るとすごく気持ち良いんだよ〜」

「それもう実質アレじゃん」

「もう!トモシビ様の前で下品なのはやめてって言ってるでしょ!」

「アレって抱き枕なんですけどー、エクレア何思い浮かべたのー?」



この2人がいると賑やかだ。

今日はエクレアも私の部屋から登校した。彼女は私が朝食をスムージーだけで済ませてるのに驚いたり、自分しかメイクしないことを嘆いてたりして楽しかった。

ちなみに遅刻しなかった理由もエクレアが焦って急かしていたからである。


教えてもらった家具屋は商店街の中程にある大きな店だ。

中に入った私達を出迎えたのは大小様々な家具の群。一つ一つ手作りなのだろう、どれもこれも一味違う形をしている。



「木の良い匂いがするわ」

「セレストエイムの裏山を思い出しますね、お嬢様」

「うん」

「私もレプタット村を思い出すなぁ」



グランドリア近辺にも森林はあるが全体的に平坦で爽やかな感じの植生であり、故郷のあのむせ返るような山の空気は感じられない。

両親やエステレアに連れられて行った時のことは数少ない外出の思い出である。日光と虫が嫌で二度と行くまいと誓ったものだが、今では不思議な郷愁を感じる。



「お嬢ちゃん、レプタットの子かい?」



奥からそんな声が聞こえた。

店の主人であろう、現れたのは熊の頭をした男だ。



「もしかしてお爺さんも?」

「そうだよ。お嬢ちゃん猫人か。ひょっとしてレオンのとこの?」

「娘です。あはは……」



色々びっくりしたが、まずお爺さんだったことに驚いた。

獣人の女性はヒトに近い顔をしている。フェリスみたいに耳や尻尾以外ほぼ私たちと同じ姿なのだ。しかしバルザックやこの人のように男性の顔はほぼ獣である。

年取っても大して変化しないので、私達から見ると年齢がさっぱり分からない。



「そうかそうか! あの坊主にこんなかわいい娘がいるなんてなぁ!」

「お父さんの知り合いなんですか?」

「そうじゃな。まあ近所の悪ガキと口うるさい頑固親父といったところか」



クマの老人は遠い目をして言った。

彼は元々村でも家具職人だったらしいが、50歳くらいの頃アイデアに行き詰まり、見聞を広めるためにこちらに店を構えたとのことだ。

よくそんな歳でそんな冒険心が出るものだ。しかもこの店は王家御用達である。



「50歳から挑戦してこんなに大成功するなんてすごいですね」

「はっはっは。やろうと思えば何歳でもやれるもんじゃよ。お前さんたちだって今からでもできる。心配なんかせずにとにかく挑戦あるのみじゃ」

「へ〜」



ちょっといい話だったが、それを機に本格的に語り始めてしまった。彼は話すと長いタイプだったらしい。フェリスの父親に椅子をぶっ壊されたとか、机をぶっ壊されたとか、でも狩りの腕は天才的だったとか。

フェリスは笑顔で聞いていたが途中から苦笑いになっていた。



「あの」

「フェリスちゃんはあいつと違って素直な子じゃのう」

「ベッド、買いたい」

「きっと母親似なんじゃろうな。あいつ誰と結婚したんじゃ? それはさっき聞いたかのう」



ダメだ。私の声が小さすぎるのだろうか? そんなことないと思うのだが。

そんな様子を見てトルテが一歩進み出た。



「もしもーし!!!」

「うわ!なんじゃ!」

「お客さんの話聞けし!!この方を誰だと思ってんの?!」

「……誰じゃ?」

「学園の誇るキレたお嬢、血塗られた銀髪、百合園の女王、爆炎の覇王、トモシビ・セレストエイム様よ!」

「ほえほえ、そんなすごい嬢ちゃんなのか」



全部初めて聞いた。

さらにエステレアが追撃をかける。



「お嬢様はこの度、天下統一を果たし、もはや王家すら無視できない存在となられました。まさか貴方様ほどの職人がご存じないと?」

「い、いや、セレストエイムは知っておるぞ。最近そこの領主が来てな」



お父様が?

なんで私に知らせてくれないのだろう。



「ベッドを買っていきおったんじゃ。これがまた乙女チックなベッドでのう」



なんだ。あのベッドか。

私の引っ越しのとき、お父様はここで買ったのだ。



「……ひょっとしてお嬢ちゃんへのプレゼントか? よく似合いそうじゃ。お嬢ちゃんに使って貰えるならベッドも本望じゃろう」

「え……ありがと」



一瞬にしてこの老人への好感度が上昇した。

……よく見るとクマのぬいぐるみみたいでかわいい顔をしているし、かわいい家具を作っても違和感ない。

私は事情を話してみた。



「今時の子は進んどるのう……」



そんなことを言いながら老人が持って来たのは四角い椅子のような物体。

老人が魔力を込めると、それはみるみるうちに膨らみ、ベッドの形になった。



「こんなのはどうじゃ? 使いたい時だけ膨らむ魔導具ベッドじゃ」

「へーこんなのあるのね」

「お嬢様、これは……」



エステレアが深刻な顔をする。

私は頷いた。

彼女の言う通りだ。

これは……私を見くびっているらしい。



「がっかり」

「お嬢様は大変ご立腹です」

「な、なんじゃと」



これは間に合わせの量産品だ。

せっかくみんなで楽しい一夜を過ごそうというのに、冒険者が野宿に使うような安物の簡易ベッドでは台無しである。

ここにお金をかけずして一体どこにお金をかけろというのか?



「みんなと寝るのに相応しくない」

「ぱねぇ。セレストエイム様まじぱねぇわ」

「ぬう……百合園の女王を名乗るだけのことはあるということか」



名乗ってないけど。

もっと寝心地が良くてかわいくて豪華なのが良い。



「お嬢様は、お金に糸目はつけないから相応しいものを持ってこいと仰っております」

「ぇ」

「……そこまで言われてはワシも王国一の家具職人カズトーリの名にかけて選ばねばならんな」



糸目はつけたい。家具って高い物は何千万もするらしいのだ。とてもじゃないが私が買える金額ではない。



「これならお気に召すかのう」



老人が示したのは大きめのベッドサイドベッドだ。



「これをあのベッドに合うように少し改造してやろう。それを両側に付けるんじゃ」



悪くない。色と意匠を合わせれば自然になるだろう。もっと高級そうなのが出てくると思ったが丁度良い。



「これはな、レプタットの最高級ヒノキを使っておるんじゃ」

「ほんとだ、懐かしい匂いがするよ」

「カバーシーツはセレストエイムの絹織物。それらをグランドリア風のベッドに仕上げる」

「なるほど、気が利いてます」

「これにする」



全て私達の出身だ。言いたいことは分かった。



「ほっほっほ、末永く仲良くの。フェリスちゃんを幸せにしてやってくれ」

「わかった」

「? 私もう幸せだよ」

「そうかそうか!ほっほっほ!」



なんかものすごい勘違いされている気がする。

……あながち勘違いでもないのか?

それにしてもこのお爺さん、初対面なのにまるで孫のような目でフェリスを見ている。きっと寂しいんだろうな。

これからフェリスと一緒に商店街来た時は立ち寄ろうか。話長いのがアレだけど。

ベッドサイドベッドは一週間後くらいに宅配してくれるらしい。

お値段は宅配料込みで40万円。お給料一ヶ月分である。

ちょっと、いやかなり痛いが、あんな啖呵を切った以上このくらいは良いだろう。



「いやー……セレストエイム様やべえわ。40万ってどうよエクレア。あれってエクレア達のために用意するんでしょ?」

「トモシビ様は美意識高いの。そこに痺れて憧れたの」

「私にもそういう人いないかなぁ。顔はアスラームで……」

「そのアスラームもセレストエイム様狙ってそうだったじゃん」

「そうなんだよねえ」

「あんなのがいいの? トモシビ様が男に興味なくて本当に良かったわ」



アンやトルテはアスラームのような容姿が好みらしい。たしかに見た目は秀麗だったが……うーん。

ともあれ男関係の話はあまり好きじゃない。

私はフェリスと手を繋いで考える。

フェリスを幸せにしてくれという言葉、あれはどういう意味で言っているのだろうか。

フェリスはかわいくて元気で大好きだ。

でも私は本格的に皆とそういう関係になりたいのか?

というか、皆と?

……まあいいか、先のことは。なるようになるだろう。



ここから第2章ということになります。

第1章はクラス内のお話でしたが、ちょっとずつ世界が広がっていく予定です。


※前のお話の文章おかしいところとか修正してたんですけど内容は全く変わってないです。すみません。これから修正したら記載するようにします。

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