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トモシビの夢



″俺″の世界には誰もいなかった。

誰にも心を開かなかった。

他人は全部NPCだった。

誰も認めないのに認めて欲しくて、そして認めてもらえないのが怖かった。

何も挑戦もせず、何も成せず、何かを待っていた。

勇気が欲しかった。

この真っ暗で空っぽの世界で前に踏み出すための。灯火のような勇気が。







目を開ける。

いつもの私の部屋のベッドの上だ。

天蓋付きの乙女チックなベッド。

……試合は? バルザックはどうなった?



「お嬢様!」



すぐ側にエステレアがいた。いつ起きるか分からない私を見守ってくれていたのか。

起き上がろうとして、隣に何かあることに気づいた。



「トモシビちゃん、起きたの? 今クロエちゃん呼んでくるからね」



布団の中にフェリスがいた。彼女は俊敏な動きで布団から出ると台所に消えていった。

うん、彼女の怪我はなんともないらしい。

……怪我。

そういえば私の右手は?

ギプスの感触がある。やっぱり折れたのか。意識した途端、ズクズクと痛み始めた。右手だけではない。脇腹も頭も痛い。



「もう夜の10時ですわ。お嬢様はあれからずっと寝ていらしたのです」

「トモシビ様。ご無理なさらないでください。肋骨もヒビが入っているんです」

「……フェリスの怪我は? 」

「私のは全然平気だよ〜。クロエちゃんの治療ですぐ治っちゃった」



話を聞くと、私の細かい怪我もクロエと学園の保険医の神術で治ったそうだ。ただ骨折はそう簡単には治らない。ちゃんとした診療所に通院して治さなきゃダメとのことだ。



「クロエに診てほしい」

「わ、私がですか? でも変な風に骨がくっついたりしたら……」

「もう一回折る」

「滅茶苦茶だよトモシビちゃん」

「ではクロエの治療の後、保険医に確かめてもらいましょう。何度かやって問題なければクロエが治療を続けるということで」

「エステレアさん……」



エステレアはクロエを信用、いや信頼するようになった。始めはあんなにツンツンしてたのに。



「お願い」

「……はい!」



そしてクロエも自信が出てきたと思う。

診療所というのは基本的に正教会が運営している。クロエは聖火教の信者なので、正教会はあまり好きではないはずだ。

それにクロエだって経験が積める。せっかく骨折したのだから有効活用しないと。



「トモシビ様。大丈夫?」



と、顔を出したのはエクレアだ。

彼女は台所から土鍋を持って出て来た。

うちに土鍋なんてあったのか。

食事は寮のラウンジで食べるグランドリア料理ばかりなので、うちの台所はお菓子作りくらいにしか使用しないのだ。

実はエステレア達よりエクレアの方が料理がうまい。お菓子作りも専らエクレアが教えてるのである。



「お粥よ。卵とかネギが入ってるけど食べれる?」

「うん」



エクレアが漆塗りのレンゲに綺麗な黄金色をしたお粥をすくって差し出す。

私はそれをパクリと食べる。



「美味しい」

「良かった!これ孤児院で風邪引いたときに食べるのよ。でも庶民的なものだから……」

「ほんとに美味しい」



ヒヨコみたいに催促する私にどんどん食べさせるエクレア。

懐かしい味がする。

濃すぎず薄すぎず、コクがあっていくらでも食べられる。卵とネギだけではこうはならないはずだ。

しかも丁度良い温度に冷ましてある。その気遣いがとてもありがたい。



「トモシビちゃんすごく気に入ったみたいだね」

「鶏ガラのスープと味噌を入れたのよ」

「味噌ですか。この辺では売ってないですね」

「前に行商人が売ってたのよ。孤児院でそれ入れて作ったらすごく美味しくて」

「お嬢様はこういう味がお好きなのですね。後で教えて頂いても」

「喜んで!」



美味しかった。

もう土鍋が空っぽだ。私は小食だったはずだが、体が求めるままに平らげてしまった。

……そういえば、試合はどうなったのだろう?

バルザックは? 全身大火傷のはずだ。今考えると恐ろしいことをしてしまった。



「バルザックは生きてる?」

「ピンピンしてたよ、神術で大体治ったみたい」

「あの者は元気に歩いて帰りました。お嬢様によろしく、と」



火傷は治りやすいのだろうか。見た目はきつかったのに私より軽傷だったようだ。



「ねえ、トモシビ様あの狼男に勝ったんでしょ? 」

「うん、すごかったんだよ」

「トモシビ様に相応しい神話の戦いでした……!」

「聞きたいわ!詳しく教えて!」



なんだか美化されてる戦いを私が補足しながら話していく。我ながら無茶をしたものだと思う。

あの後、私とバルザックは両者敗退。隅っこにいた眼鏡2人を生き残っていたツリ目がなんとか倒して決着となったそうだ。



「みんなトモシビちゃんを応援してたんだよ。男の子もみんな」

「お嬢様が殴られた時は心臓が止まるかと思いました」



赤くなったり青くなったり過呼吸になったりしたエステレアをみんなで介抱してたらしい。私も逆の立場なら冷静でいられる自信がない。

倒れた私とバルザックはすぐに医務室に運ばれて治療が施された。

Aクラスはほとんど皆、医務室に詰めかけたらしいが、私の服を脱がせる必要があったので男子は追い出されたそうだ。



「……でもお嬢様のチームの4人は何度もお見舞いに来ました。ついでにグレンも」



意外、ではなかった。

言動がアレなだけで根は良いやつらなのだ。名前くらい覚えてあげようとふと思う。

だがそれより何度も来たことを知っているエステレアは本当にずっと付いていてくれたのだろう。

また彼女に心配をかけてしまった……。

あ、そういえば忘れてた。



「お風呂入りたい」

「お嬢様、今日は」

「みんなで入りたい」



エステレアとクロエは困ったように顔を見合わせた。安静にした方が良いと言うのだろう。わかってる。

でも私の場合、そっちの方が調子が良くなると思うのだ。

エステレアは私からお嬢様セラムとかいうのが出てると言うけど、不思議なことに私もみんなと接触してた方が調子が良い。

今日の魔力回復で確信した。エステレアとクロエに抱かれているだけでみるみるうちに回復したのである。

私がそう力説すると渋々承諾してくれた。



「私達も?」

「うん」

「恥ずかしいなぁ」



湯船は小さいけど洗い場を合わせれば5人はいけると思う。交代で湯船に入ろう。







「で、では失礼します……ハァ……ハァ……」



クロエの鼻息が荒い。人の服を脱がせているからだ。

脱がされてるのは私である。

今の私の服装はキャミソールにブラウス、下はショートパンツだ。

私としては普段は脱衣までメイドにやってもらう必要はないのだが、エステレアが世界の終わりのような顔をするので任せている。

とはいえ、今は右手が使えないので素直に助かる。怪我の功名とも言えるだろうか。

主人の怪我で功名を得るメイドってどうなのだろう? まあいいか。



「遅すぎます。ボタン一つにつき2秒以上かかっているではありませんか」

「は、はい」



気づかぬうちに全裸に剥いてくるエステレアがおかしいだけだと思う。

しかしここまで息荒くじっくり脱がされるのも気になって仕方ない。

ボタンを全て外し終わってブラウスを脱がされ、さらに右手に気をつけながらキャミソールを脱がされる。



「さ、桜色……」



さっと手で胸を隠す。流石にそんな目で見られるのは恥ずかしい。エステレアがクロエに凍てつくような目を向けた。



「クロエ、これ以上お嬢様を辱めるなら退場ですよ」

「す、すみません! あまりにお綺麗でつい……」

「ほんと綺麗……」



自分のことを棚に上げて言うエステレア。なんかエクレアまで妖しい眼つきになってきた。

そもそも私1人だけ衆人環視の中脱いでるのがおかしいのだ。



「みんなも脱いでて……」

「う、うん」



私はその間に右手にカバーをつけてもらう。濡らさないようにするためだ。

そろそろと脱ぎにかかるが一向に進まないフェリス。

対照的にエクレアは思い切りよくキビキビと脱ぐ。



「孤児院は共同浴場しかないからね。裸見られるなんて普通よ」

「そうですわ。早くしないと夜が明けてしまいます」



エステレアはいつのまにか全裸で仁王立ちしている。男らしい。



「あ、では下を」



クロエがショートパンツを脱がせにかかる。

そして次はショーツなのだが……クロエはそこで固まってしまった。



「……自分で脱ぐね」

「は、はい」



左手だけでも脱ごうと思えば脱げるのだ。

後ろを向いてそそくさと脱ぐと、クロエとまだもたもたしてるフェリスに向かって先に行くと一声かけて浴室に入る。


……考えてみると今日はクロエに洗ってもらうのだから先に行く意味なかった。

エクレアとエステレアが体を洗っている。

……2人とも私よりだいぶ女らしい体つきをしている。

私は自分のスレンダーな体が好きなので、べつにそれに関して羨ましいとか思うわけではないのだけど、ただ自分と別のベクトルの美しさを持ってる彼女らに素直に見惚れてしまう。

柔らかな肉に包まれてるエステレアに対して、エクレアはけっこう筋肉質なことに気づいた。

……このシックスパックときたらどうだ。先ほどの考えを翻してちょっと羨ましくなってしまった。



「エクレア、腹筋すごい」

「ふふ、この筋肉でトモシビ様を守るからね。私がいたら怪我なんてさせないんだから」

「あの4人も頑張ってはいましたが……あれではトモシビ様をお任せできませんね」



あの4人は、まあ、相手が悪かった。だがエステレアが男に頑張っていたと言うのはかなりの高評価だ。

しかしながら、やっぱり前衛を任せるならエクレアの方が良い。

せっかくなので、私はこのわりと逞しい背中を触ってみたくなった。



「背中洗ってあげる」

「え? で、でも骨折してるし、主に洗わせるなんてダメじゃない?」

「私がいいならいい」

「お嬢様の意のままに、が正解ですわ」

「そうなの?じゃあ……」



エクレアの背中はエステレアより硬い筋肉があるとはいえ、肌は普通の女の子だ。

手に直接ボディソープをつけて肌を傷つけないように……。



「あ……」



エクレアが変な声を出した。

気持ち良いのかな?

おまけでマッサージをしてあげることにする。とはいえ私の握力では表面をフニフニするのが精一杯である。

筋肉はほぐせないが両親やエステレアには不思議と好評だ。



「気持ちい?」

「ん……気持ち……いい……ぼーっとする……」

「もっとやってあげる」



肩、背中、腰、こんなとき左手しか使えないのは辛い。



「お嬢様、申し訳ありませんが、後がつかえております」



後ろを見る。全裸のクロエとフェリスが気まずそうにしていた。

そうだった、洗い終わった者から入らないとスペースが空かないのだ。

虚空を見つめているエクレアに終わりを告げる。



「いかがですか? 頭が蕩けるようでしょう?」

「うん……トモシビ様……すごい優しい手付き……」

「これがお嬢様エステです」



エステレアがドヤ顔をしている。

またそんな名前付けて……。

エクレアは催眠術をかけられたかのような目で浴槽に入った。

さて、次は私が洗ってもらう番だ。

それはクロエに任せるとして、恥ずかしそうにしてるフェリスは私の隣に座ってもらう。



「えへへ、私の身体汚いでしょ?」



皆息を飲んだ。

フェリスのお腹から脇腹にかけて黒く変色したケロイド状の痕がある。ひどい。他にも切り傷の後などが沢山ある。



「……大したことじゃないわ。私だってゴツゴツしてるし、傷跡だってたくさんあるんだから」

「足とか綺麗で羨ましいです」

「手足とかにももっとあったんだけど、最近消えてきたんだよ〜」



最近消えた……みんな察したらしい。

手足は私と絡ませたりしてるし顔もくっ付けたりしてる。そして胴体は服を着てる……。

私から変な美容成分が出てるならそういうこともあるかもしれない。

フェリスも分かってる。

分かってるが自分では頼めないだろう。



「立ってみて」

「う、うん」



よし。

私は覚悟を決めると、所在無さげに立つフェリスに正面から抱きついた。



「ひゃっ」

「大丈夫」

「トモシビちゃん……」

「あぁ……もうだめです。尊い……」



足に何か……尻尾が巻きついてきた。受け入れてくれたらしい。

クロエが鼻血でも吹きそうな顔になっている。全裸で密着するのは流石の私も恥ずかしいけど、相手がフェリスなら悪い気分ではない。

どっちもわりと平坦なので密着率が高く、うまい具合にお腹とお腹が当たった。

跡があるのはお腹から右脇腹にかけてだ。手で弄ると凸凹していていて感触も違う。



「火傷?」

「オーガは酸を吐くから……それで……」

「分かった」



痛かっただろう。

そう考えてゾッとした。火傷も酸も同じだ。

私もバルザックにこんな怪我を負わせていたのだ。

もう二度と対人では使うまい。

バルザックの火傷は神術で治ったらしいが、もう既に治癒した傷痕はどうなのだろう。クロエを見ると残念そうに首を振って応えた。無理らしい。

手でそっと撫でるとフェリスの息遣いが上ずった。

傷痕に変化はない。私のセラムとやらがあるならもっとドバッと出ないものだろうか。



「お嬢様、大変なご無礼を承知で申し上げますと……」

「うん」

「お嬢様セラムにおいて最も高濃度なのは唾液であると、私、本日確信いたしました」

「えっそれって……」



エクレアの顔が赤く染まってきたのはお風呂のせいだけではないはずだ。

エステレアとはキスしただけだから、いわば経口摂取である。それで昨日の今日で確信するほど効果が出るなら、直接塗りつければ……。

ナチュラルに自分の唾液を塗り付けようと考えてる私は一体何なんだろう。

でもやって損はないはずだ。

私はしゃがみこむとケロイド状になったそこに口を当てた。



「……舐めるね」

「と、トモシビちゃん、ダメだよ、汚いよ」

「汚くないよ」



毎日洗ってるのだ、汚いわけがない。でもフェリスにとってはそうではないのだろう。私達にも見せるのを躊躇するほどに。

こんなもの私が消してやる。

周りが固唾を飲んで見守る中、私は丁寧に舐める。

……これくらいで良いだろうか? それなりの面積があるので舌が疲れた。

上からスンスンと鼻を鳴らす音が聞こえる。

泣いちゃったみたいだ。

もう一度抱きしめて背中をさすってあげる。

いつも元気なフェリスが泣いているのを見るのは本当に辛い。私も涙ぐんでしまった。たぶんみんなも。



「毎日やるから、明日も来て」



私がそう言うとフェリスは泣きながら頷いた。



「あの、ところで」

「?」

「体洗っても大丈夫なんですか? その、流れてしまうんじゃ」



……そうだった。洗えないしお風呂も入れないではないか。

いやしかし冷静に考えると、唾液をつけたままの方がよほど汚いような。



「大丈夫です。私の経験によると、お嬢様セラムは洗おうが流そうが関係ありません。おそらく一瞬で骨の髄まで浸透するものと……」



怖い。

人間の出して良い物質ではない。いやそれなら私が分泌する側から私の体に吸収されたりしないのだろうか? 私の体は既に飽和状態で溢れて漏れだしてるとか……?



「じゃあやっぱり一緒にお風呂入るだけでもいいの?」

「もちろんです」



エクレアが何か言いたそうな顔をした。このままでは私達3人が入るとき交代でエステレアとエクレアが出ることになる。



「……詰めれば5人いける?」

「頑張ればなんとかいけますね……」

「お嬢様は私の膝の上で」

「ずるいわ……」







意外と入れるものだな、と思う。

足を伸ばす事もできる。当然お互いに接触する事は避けられないが、どうせ気心の知れた仲だ。それもキャイキャイと楽しんでる。

ちなみに私はエステレアに抱かれてのぼせそうになっている。体温が高いせいか、私はお風呂に1分も入っていると暑くて死にそうになるのだ。お風呂に入れる柚子みたいな扱いなのは良いのだが、こればかりは辛いものがある。



「あつい」

「もう少し……もう少し、お願いいたします」

「むぅ……」

「ねえトモシビ様、こっちに来ない? 冷やしてあげるから」

「? うん……」

「あ、お嬢様」



私は名残惜しそうな声を上げるエステレアを置いてエクレアの上に移動した。



「ちょっと待ってね」



エクレアはそう言って、湯船から身を乗り出し、私の体を洗っていたタオルを絞ると魔法陣を描いた。

みるみるうちにタオルから冷気が立ち上る。そしてそのタオルを私の頭にあてがった。



「ぉー……」



頭が急速に冷めていくのがわかる。意識と視界がクリアになっていく感覚。

私はエクレアに体を預けて、心地よさに身を任せた。



「ほっぺもちもちで超可愛い。格好良いトモシビ様も良いけど、可愛いのもいいわ」

「くっ……そんな手が……」



これなら何十分でもいけそうだ。

私がお風呂に弱いのは頭がオーバーヒートしてたのか。

リラックスして足を伸ばす。つま先がクロエとフェリスに触れた。

何気なく足の指でこねこねする。



「トモシビちゃん足の指可愛いね」

「うへへ……お返しにお揉みしますね」

「じゃあ私も〜」



くすぐったい。



「ふふ……あははは」

「こんなにお笑いになるお嬢様は久しぶりです」

「あはは、みんなでお風呂入ると楽しいね」

「ほんとですねえ」

「あーあ、私もAクラスが良かったわ」



エクレアは合同演習や城外活動部の日以外はあまり会えないことが多い。家が1人だけ離れてるというのも難点だ。



「Bクラスってどんな感じなんですか?」

「うーん、真面目な子が多いわね。あの狼みたいなのはいないわ」

「平和なんだね」

「平和といえば平和なんだけどね。軍総司令の息子がいるのよね。そいつが全部仕切ってて、先生もそいつに頭が上がらないみたい」

「え〜! ヤコ先生なんてアナスタシア様にも平気でお酒飲んで絡むのに」



はたしてそれは良いことなんだろうか。私は嫌いじゃないが。



「Bクラスも嫌な事はないんだけど……そっちはトモシビ様もみんなもいるし楽しそう」

「アンさんとトルテさんは?」

「あの2人は姉妹みたいなもんだから」



その気持ちは私にとってはよくわからない。私にとって姉妹に近いのはエステレアだと思うが、いつも一緒にいる彼女と離れるなど考えた事もない。


何にせよこればかりはどうしようもないことだ。うちはいつ泊まってくれても大歓迎だが、エクレアはそう頻繁には来られないのである。

来年に期待するしか……この学園クラス替えってあるのかな?



「うん、なんかごめんね。変な空気にしちゃったわ」

「全然いい」

「気にすることはありません」

「私に比べたら大したことないよ〜」



そうだ、定期的にお泊まり会をしよう。アナスタシア達も呼んで……は流石に無理か。

アナスタシアに呼んでもらうしかない。

そういえば今度の金曜日はお城でお泊まり会の予定である。楽しみだ。







お風呂から上がると、クロエが診察したいと申し出た。よく動いていたのでギプスがズレてる可能性があるらしい。



「痛くはないんですか?」

「……ちょっとだけ」



さっきまで全然痛くなかったのだが、意識したとたんちょっと痛んできた。

クロエが神術を発動する。

これで身体の内部が分かるらしい。

右手の痛みが消えて快感に変わる。私は声を上げないように必死で抑える。



「大丈夫だと思います。むしろちょっと組織が出来てきてるような……うーん、気のせいかもですけど」



やっぱりみんなと楽しんだお陰かもしれない。病は気からと言うし。



「肋骨の方は……今は痛みはないんですよね?」

「うん」

「くしゃみしたり深く息を吸うと痛いかもしれません」



肋骨が動きますから、と手で肋骨の動きを表現するクロエ。ちょっとコミカルだ。

そういうものなのかな。まだ折れたてだからどんな時痛むのかよく分からない。

とにかく問題はなさそうだ。

それから洗えなかった右手を拭いてもらい、寝間着に着替える。



「わぁい!」

「わぁ」



ベッドルームに入るとフェリスが抱きついてきた。それを見てエクレアが苦笑する。



「骨折のとこ触ったらダメよ」

「は〜い」



私のベッドは三人くらいは寝れる大きさなのでフェリスとエクレアと一緒に寝ることになった。

まあメイド2人は隣の部屋だしね。

とはいえしばらくは寝ない。せっかくのパジャマパーティーである。



「これほんと私の想像してたお姫様のベッドそのものだわ」

「お姫様だもんね!」

「これはお父様の趣味」



淡いピンクの天蓋とカーテンのついたベッドは父からのプレゼントだ。

まあ、何だかんだで私も嫌いではない。



「私が寝ても似合わないから憧れるわぁ」

「え〜そうかな〜」



寝間着のせいかな?

ちなみにエクレアは丈の長いビッグTシャツ一枚だ。いやさすがに下も履いてると思うが。

ちなみにフェリスはこの前買った私とお揃いのやつである。手触りがよくて光沢のあるちょっと良い生地なのだ。



「だって私気をぬくと全然女の子らしくなくなるし、今だってこんなTシャツだし」

「今度買いに行こうよ〜」

「ダメなの。見られないからいいやって思っちゃうの」



そういえばエクレアは下着も無地の白いやつだった。私の場合は下着選びなんかも楽しんでるが、そもそも見えないところではなく、エステレア達に見られるからというのもあるかもしれない。

とはいえ私は元々ファッションは好きで、ずっと家にいたくせに色んな服を持っていた。何がきっかけかは忘れたが、可愛いとか綺麗とか言われて嬉しかったからだと思う。

私がそんな発言をするとフェリスが同意した。



「私も村では全然気にしなかったよ。トモシビちゃん達と一緒に服とか選んで、可愛いって言ってくれて楽しくなってきたの」

「でも可愛いのって高くない?迷ってるうちに結局全部買わないでいいかって……お金ないし」



分からなくはない。私の場合はお金があるとはいえ最終的に買ってしまうけど。

エクレアはしっかり者なのだろう。本当に必要かじっくり吟味してお金を使うタイプだ。

でも私としてはもっとオシャレを楽しんでもらいたいと思う。



「まずエステレアの寝間着貸してあげる」

「え、ええ?」

「エクレア改造計画」

「わぁ!面白そう!」



エステレアとクロエは今家事をしてるはずだ。お風呂の後始末したり食器を洗ったり洗濯したり何だかんだ大変なのだ。



「エステレア、エステレア」

「ちょ、トモシビ様」

「どうなさいました?」



エステレアの部屋へ続くドアの前で呼びかけると1秒で出てきた。どうなってるんだろう。



「エクレアにエステレアの寝間着貸してあげてもいい?」

「寝間着ですか? 構いませんが……」

「エクレアにお洒落してもらう」



エステレアはなるほど、と頷いてこの前買った寝間着を持ってきた。

これだ。このフワフワしたやつ。



「か、かわいいけど」

「それからこれを」



セットのフワフワしたヘアバンド。頭の上でリボンになってるかわいいやつだ。



「うええ? 私絶対似合わないわ。メイクも落としちゃったし……」

「大丈夫」



口で言ってるわりに、無抵抗で素直に着ていくエクレア。

ヘアバンドを付けて……前髪はもうちょっと出した方が良さそうだ。

髪をいじってるとエクレアの目がトロンとしてきた。



「こう、かな」

「うあ、ありがとう……ございます……」



なんかスイッチが入っちゃったみたいだ。こうなるとエクレアは従順である。

できた。こんな感じだろうか。

うん、やっぱり似合う。

……ほっぺたに少しそばかすがあるみたいだ。メイクで隠してたのか。

私がそこを見てることに気付いて不安そうに目が揺れた。

私はそばかすをゆっくりと撫でた。



「ここ?」

「は、はい……」



顔を近づけ、頬と頬をくっつける。



「わぁ……」



声を漏らしたのは隣で見ているフェリスだ。エクレアは無言で荒い息をついている。



「エクレア」

「はい……」

「アルバイトして」

「えっ?」



あ、エクレアが素に戻ってしまった。

いや私の言い方が悪かった。

つまり私の研究を手伝ってほしいのだ。その代わりとしてアルバイト代を払う。これならエクレアもお金を稼げるし私も助かる。お風呂でも見たが彼女の魔術の腕はちょっとしたものだ。

私はその辺を付け加えて説明した。



「私なんかで役に立つのかしら」

「うん」



迷ってるようだ。

私も不安なのだ。前世的な記憶があるとしても、″俺″にはそんな経験も頭もなかったので手探りでやるしかない 。ならみんなに助けてもらおうという算段である。

ただ、忙しいエクレアを無理に誘うことはできない。

ちなみにメイド二人は全面的にサポートしてくれる。

……フェリスはどうかな?

尻尾が揺れてるのは不安な時、だったかな。



「フェリスはやる?」

「でも私……」

「フェリスに、手伝ってほしい」

「……わかった。手伝うよ!」



フェリスと両手を繋いで喜んでいるとエクレアが決心した顔を向けた。



「私もやるわ。置いていかれたら嫌だもん」

「良かった」



アルバイトは週に1〜2回くらいでいいだろうか。エクレアは遅くなると帰れないから、その後はお泊まり会に移行することもできる。

……せっかくだから5人で寝たいな。

このベッドに接続できるような来客用のベッドを用意しようか。

それとももっと大きなソファ……ベッドに変形するようなやつを買うとか。

考えてるとウトウトしてきた。



「トモシビ様、眠たいの?」

「うん……」

「もう寝よっか」



布団に潜り込んで灯りを消すと、フェリスが寄り添ってきた。その反対側ではエクレアがそろそろと潜り込む。

みんなで家具を見に行こうか。

みんなといたら何でも楽しいだろうな。

私はまだ見ぬ明日を夢見ながら眠ってしまったのだった。



ここまでで第1部完結になります。

見てくださった方、ブックマークや評価してくださった方、感想くださった方、誤字報告してくださった方、本当に本当にありがとうございます!


再開は来週の日曜日くらいになります。そこからは週2くらいでの更新を予定してます。

もしお暇なら見てあげてくれると嬉しいです!

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